第133話 喰らえ!ボクの知らない黒棍棒アタック!
「ガアアアッ!!」
「おっと、嫌になるねえ馬鹿力は」
「ゴオオアッ!!」
「こっちに来んじゃねえよ、こちとら最近腰が悪いんだよ」
4人のおじいさんが、入れ代わり立ち代わりオークにちょっかいをかけては躱している。
凄い連携……鎧には傷が付いてないけど、肘とか膝とかの関節部からは血が出てる!
あんなに重そうな斧槍を、ピンポイントでよくもまあ……
『徹底的に消耗を避け、無理をせず、相手に細かな損傷と出血を積み重ねる戦い方ですね。彼らはおそらく、衛兵か近衛兵出身かと思われます』
近衛兵!?
『受け身戦法の極致ですよ、あれは。一朝一夕で身に着く連携ではありません』
な、なるほど……良し!
そんなこと言ってる間に体は全快!魔力も満タン!
『寿命は墓場へ』
それは言わないお約束ですことよ!?
とにかく突撃じゃー!!
『ピーちゃん!新手が出てきたらロロンたちに教えてあげてね!』
『まかせて!わかったわ!』
これ以上の援軍は勘弁だからね!
そっちは魔法と矢で何とかしてもらおう!
『アカ!他のオークが出たら魔法バーン!で!』
『あいっ!ばーん、すりゅ!!』
カワイイ子分にも指示を出して、黒棍棒を握って参戦した。
・・☆・・
「ブゴオオオオオオオオッ!!」
「ヌオウリャ!!」
ローガンさんに武器を振ったオークの後方に回り込み、横薙ぎフルスイングを叩き付ける!
鎧から火花が散って、腰を起点にオークが揺らいだ!
「アラン、喉!」
「人使いが荒いねえ、全く――!」
「ギャッッゴ!?!?」
腰をぶん殴ったボクに振り向こうとしたオーク。
その首元に槍が突き刺さった。
でも、血が……出ない!?
「あ、駄目だ。着込みまで硬ェ、こら抜けな――」
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
首に槍を突き刺されたまま、オークが雄たけびを上げて体を回す。
鎧に槍を取られて一瞬動きを止めちゃったアランさんは、肩口に武器を喰らって――吹き飛んだ。
「メイダン!止めろ!ラダン!アランを!」「「応」」
吹き飛んだアランさんへ追撃を加えようとしたオーク。
その武器に、斧槍が叩き込まれて動きが止まった。
「ぐ、う、うう……オーム・バザン・ヤグン・スヴァーハ!!」
脂汗を滲ませつつ、メイダンさんが魔法を詠唱。
今まで若干余裕がありそうだった鎧が、内側から隆起した筋肉でパンパンになった!
「そんなに持続しねえぞ、これ……おうらァ!!」
「ガアアアアアアアッ!!」
メイダンさんが、ものすごい勢いでオークと武器を打ち鳴らし始めた。
「ラダン!」
「……駄目だ、左肩が粉々になってやがる。メリーエ婆さんが生きてたらすぐに治せるんだがな」
ラダンさんは、倒れ込んだアランさんを診察?してる。
「で、でえじょうぶだ……」
口から血を吐きながら、アランさんは無事な右手に握った小さなポーションを飲んだ。
あれ、傷につけるんじゃないの?
「これで、まあ……半日はなんとか、ならあ。おおい!武器をくれェ!!」
えええ!?アランさん左腕ブラッブラなんだけど!?
『恐らくポーションではなく強力な麻酔と痛み止めですね、あれは。痛みはなくなりますが傷は治りませんよ』
ちょちょ、それって不味いでしょ!?
「死んだ旦那のモンだ!手荒く扱ったらアタシが殺してやるよ!」
外壁からおばあさんの声がして――ロングソードが回転しながら飛んできた!
「おお、こいつはありがてえ」
アランさんはそれを無事な右手で危なげなくキャッチ。
太陽をギラリと反射するロングソードを担ぎ……
「『犬狼の戦神よ。我に力を』」
朗々と呪文を詠唱すると、メイダンさんと同じように筋肉が盛り上がった。
そのまま、一足飛びでオークの元へ。
「遅ェぞ、アラン!」
「すまねえな、時間稼ぎくらいはできるぜ!」
そして、2対1で切り結び始める。
力では対抗できてるっぽいけど……いや駄目だ、鎧に傷が付いてない!
「にいちゃん、気にしねえで魔力をありったけ溜めてな」
首を回し、ローガンさんはメイダンさんとアイコンタクト。
「俺達が盾になってやる。アンタだけが頼りだ」
そう言って、2人とも筋肉を隆起させて飛び込んでいった。
……実を言うと、さっきぶん殴ったので十分以上に魔力は乗せていたんだ。
狼どころか、あの黒曜ゴーレムだってバリンバリンにできるくらいの魔力を。
でも、それじゃ足りない。
……もっとだ。
もっと魔力を乗せないと……ヤツの鎧は破壊できない。
だけど、これ以上は黒棍棒に魔力が『入っていかない』んだ。
ポコさんは、『魔力を乗せるだけ威力が上がる』って教えてくれたけど……なんか、ロックでもかかったみたいに。
いつぞやのクソ人間相手の時みたいにもっと魔力を乗せられれば……!
でも、でもどうしたらいいんだろう……どうにもできないんだ、どうにも!
「ゴオオオッ!!」
「グウアッ!?……コイツ、まだ速くなりやがったか……!」
「おいメイダン!大丈夫か!」
「ふん、肘が折れただけだ」
メイダンさんの左肘が、曲がっちゃいけない方向に曲がってる!?
あんなに筋肉ムキムキになっても無理なんだ!?
他の人たちも、躱しきれなかった反撃で鎧はボロボロ。
体にも血が滲んで……それに、疲れてきたのか動きも鈍くなり始めてる!?
あああ!このままじゃ、このままじゃおじいさんたちが……
あの優しい人たちが、死んじゃう!
ちくしょう!どうにかしろ、ボク!!
なんだかとっても!とっても嫌なんだよう!!
『我が剣は――』
ふと、脳裏にいつか見た夢がリフレインした。
同時に、あの燃えるような金色の瞳も。
ひょっとしたら、アレって……
ガラハリで見た白昼夢のドワーフさん、みたいに……?
バッグに手を突っ込み、魔石をざらっと取り出して口に放り込む。
片っ端から噛み砕いて、魔力を過剰回復!!
そして……口を開いた。
「――『我ガ剣ハ、牙ナキ者ノタメ』」
そう言った瞬間、さっきまで余剰気味だった魔力が一気に消えた。
いや、黒棍棒に吸い込まれた!
魔力欠乏にぶっ倒れそうになりつつ……黒棍棒を見る。
今まで光っていたのは、文字が刻んである所だけ。
でも今は……黒棍棒全体に、蒼い光が!
つるりとしてた表面のはずなのに、幾何学的な筋が棍棒一杯に走っている!
しかも!なんでかわかんないけどこの光る筋……ボクの!右腕まで這ってる!?
手から肘に、黒棍棒から浸食されるように!?
でもここで止まっていられない……追加の魔石を噛み砕き、魔力を復活させる。
よし、次、だ!!
『ストップ!むっくんストップです!!』
なんでさトモさん!この呪文?たぶんまだ続きがあるんだけど!?
いつぞや言った夢の中で聞いたやつなんだって!
これならいけそうなのに!
『その呪文と思われるものは、何節ですか!?』
なんせつ?
なんせつって……なに?
『唱えようとしている呪文は!何行の区切りで構成されていますか!?』
無茶苦茶慌ててる……
ええと、夢で聞いたのは……たしか5行、かな?
『やはり励起呪法の初句……今説明している暇はありませんが、とにかくその先は詠唱してはいけません!』
知らないワードがバンバン出てくるよ!?
『今は時間がないと言ったでしょう!お爺さんたちが全滅しますよ!その状態で大丈夫です、思いっきりぶん殴りなさい!』
ええ、大丈夫なの!?
あのクソ人間の時よりも魔力は持っていかれたけどさ……
『大丈夫です!私の前髪を賭けてもいいです!もし駄目だったら前髪パッツンヘルメットヘアーにします!!』
賭けた対象がよくわかんないけど……なら、やる!
正直全身が爆発しそうなんだよね、この状態って!
黒棍棒から注ぎ込んだ魔力が逆流しそうなんだ、このままだと何もしてないのに体がパーンってなりそう!!
「――行キマス!」
「とんでもねえ魔力だな、思う存分やってくんな!!」
肩のパーツが吹き飛んで大出血したローガンさんが、こっちを見もせずに叫んだ。
また怪我が増えてる……!
これで、決めなきゃ!!
『アカ、合図したらミサイルをアイツの顔面に叩き込んで!!』
『あいっ!!』
上空待機中のアカにそう告げて……補助翼を展開させる!
溜めろ、溜めろ……衝撃波用の魔力を!ありったけ溜めろ!!
一瞬で、アイツの懐に飛び込めるように!!
「ガアアッ!!ゴオオオオラアアアア!!」
「口が臭ェん、だよォ!!」
ありったけの力を込めたであろうローガンさんの一撃が、オークと打ち合って双方の武器を弾く。
それと同時にローガンさんはバックステップ。
オークは上半身を崩されてたたらを踏んだ!
『今だ、アカぁ!!』『みゅみゅみゅ……ええーいッ!!』
念話で指示した瞬間に、衝撃波を解き放つ。
鎧に衝撃と余剰魔力でヒビが入るのを感じながら――ボクは跳んだ。
上空から放たれたアカのミサイルが、最高速に加速したボクをほんの少し追い越す。
ボクとミサイルの接近に気付いたオークがこちらを見るけど、もう遅いよ!
「――ガ」
何かを吠えようとしたその口に――確認できるだけでも8発のミサイルが着弾。
魔力の爆発が起こり、周辺が真っ白に染まる。
「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!」
間合いに入る。
そして無心で、黒棍棒を振り下ろした。