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第130話 それはちょっと許容できないかなーって!!

「ライラちゃんがいない時に来るなんてね、ついてないねえ」


「仕方ねえだろ、鎮魂祭に駆り出されてたんだからよ」


「おお、なんか今年はちょいとあったみてえだな。倅が衛兵隊にいるんだが大怪我して療養中だ」


「グレッグちゃんがかい?子供が産まれたばっかりだってのに可哀そうだねえ」


「ハッハ!個室で嫁さんに四六時中看護されてるってよ、こいつは3人目の孫に会える日も遠くねえかな!」


「アンタんとこはいいねえ、ウチの娘なんか全然……」


「あの子はどえらい美人だからなあ。選び放題だから心配いらねえだろ」


「ウチのひ孫の嫁っ子にどうだい?」


「馬鹿言うんじゃないよ、アンタんとこのはまだ9つじゃないか」


 井戸端会議ならぬ、見張り台会議が行われてる。

ご老人連中はそんなことを言いながら、散発的に突撃してくるオークをコロコロしている。

結構緊迫してそうな状況なのに、なんという平常心。

これが数々の戦場を潜り抜けた老兵ってやつなのカモ!


「あんた、ムークちゃんだったねぇ」


「ア、ハイ」


 ネーラさん、どうしたんだろう。


「すまないけどね、頼みごとがあるんだよ」


 頼み事?なんだろ……あ、ひょっとして加勢のこと?

勿論やりますとも、そのために来たんだからさ!


「ナンデショウ?」


「この村にゃあ今、5人の妊婦と7人の嫁さん、それに10人の子供がいるんだよ」


 え、結構いるんだね。

アカと一緒に遊んだ2人しかいないんだと思ってた。



「――私らが脱出口を開くから、連れて逃げてくれないかねえ。倅たちの準備ができしだい、さ」



 ……は?


「ちょいとキツそうだからねえ。この勢いだと矢が足りなくなるかもしれないんだ……ガラハリ方面に半日ほど行けば、援軍に合流できるはずだからさ」


「ッギィイ!?」


 ボクの方を見ずに、オークを射殺して。

ネーラさんはそう言った。

まるで『今日はいい天気ね』とでも言うように。


「じゃじゃじゃ!?何をおっしゃるのす!?そげなわげにはいかねェのす!!」


 ロロンもこの提案は予想外なのか、目を吊り上げて食って掛かっている。


「おーそうだな!そりゃいい!」


「カマラちゃんが選んだ護衛なら心配いらないねぇ」


 ほかのご老人たちも、ニコニコしつつそう言った。

ちょ、ちょっと!?

皆さん何を言ってるんですか!


「虫のにいさんよ」


 後ろから声をかけられたので振り向くと……肩を揉んだおじいさんがいた。

他にも4人のおじいさんがいる。

……全員、完全武装だ。

揃いの革と金属で構成された鎧を着込み、鋭く研がれた槍と斧が合体したような武器を持っている。


「救援の伝令は出したが、間に合うかどうかわからん。俺達が突っ込んで注意を引き付けるから、戦いが始まったら反対側の門から外に出て、山沿いの道を逃げてくんな……道は倅とその嫁が知ってる。今準備してるから、そろそろ来るはずだ」


「イヤ、皆サンハ!?」


 なんだってこう、そんなに簡単に死地へ飛び込もうとするのさ!

喧嘩っ早いとはまた別ジャンルの思い切りの良さだよ!?


「あんだけ減らしてんのに退かねえってことは、奴らの後ろには『長』がいやがる。統率されたオークは手強いからな、この村の結界術師はガラハリにいて留守だから、籠ることは出来ねえ」


 おじいさんはそう言って、ガハハと笑った。


「安心しな、せめて半日は死なねぇからよ。それだけありゃあ、大丈夫さ」


「イヤイヤ、何言ッテルンデスカ!一緒ニ逃ゲテクダサイヨ!!」


 そう言うと……おじいさんたちは揃ってまた笑った。


「いいってことよ、順番さ、順番」


「年寄りから先にくたばるもんだ」


「孫やひ孫の方が大事だからよ、当然さ」


 そして、肩を揉んだおじいさんも。


「ひ孫まで出来たんだからよ、これがいい引き際だろ?そりゃあ進んで死にたかねえけどよ、若い連中が死ぬよりかはずうっといいのさ、ずうっとな」


 そう言って笑ったおじいさんには、何の気負いもなかった。

……これが、この世界の戦士なのかな。

命の取捨選択が、驚くほどしっかりしてる。


「よォし!てめえらァ!最後のひと暴れだ!騒げ!喚け!吠えろ!1匹でも多く、ひきつけろ!!」


「「「オオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」」」


 おじいさんは、持った武器を天に突きあげた。

それに続いて、他のおじいさんも同じようにしつつ、雄たけびを上げた。


 ……この人たちは、死ぬんだろう。

子供たちを守るために、最後の最後まで戦って……死ぬんだろう。


 ――それなら、ボクにできることは一つだけだ。


『あらまあ、主人公虫ですね』


 おっと、トモさんにはお見通しか。


「ムーク様?」


 マントの留め金を外し、脱ぐ。

同時に、腹巻に魔力を流す。

ひんやりとした液体金属がお腹を包み込む。


「お、おいにいちゃん!アンタまさか……」


 慌てた様子のお爺さんに向かって、ボクは――


「絶対ニ!嫌ドス!!」


 ……嚙んじゃった。


『締まりませんねえ』


 ううう……トモさん、敵のナビよろしくね!


『はいはい、仰せのままに』


 むーん、頼れる女神様!


「ジャ、ボクガ突撃シテ大暴レシマスンデ、援護ヨロシクデス……ロロン!キミモ魔法デ援護ヨロシク!!」


「お任せくださっしゃい!!」


「おいおい、にいちゃんよ……」


 焦るおじいさんを前に、魔力を溜める。


「嫌デスヨ、戦エルノニ、逃ゲルナンテ」


 あああ、ここが嫌な人だらけの最悪の村だったらなあ。

見捨てて逃げるのもアリなんだけどなあ……ラーガリ、いい人多すぎ問題!

ちくしょう!この村が優しい人ばっかりだからちくしょう!!


「ジャ、ヨロシク」


「おい、ちょっと待――」


 おじいさんの制止を黙殺して――ジャンプ!

ビックリした顔のネーラさんを横目で見つつ、現状跳べる最大高度へ!

塀の高さを跳び越えた頂点で、背面に衝撃波!――補助翼、展開!カッ飛べ謎虫!!


 あっという間に体は加速し――丁度正面に、ボクをビックリした顔で見るオークがいた!

いただきィ!!

背面の衝撃波を調節!脚を前に出ァす!!


「ビヒィ!?」


 喰らえオーク!

進化してごんぶとになった両足と、その棘を余すことなく使った――むっくん・キックをッ!!


 急加速したボクに対応できていないオークの胸に、滑空ドロップキックが炸裂。

ぼきぼきと骨の折れる感触が足裏に伝わった――瞬間に!右足パイル射ァ!出ゥ!!


「ブギャッ!?」


 進化によって強靭になったボクの棘はドリルみたいに螺旋軌道でオークの胸に潜り込んで――周辺の骨と肉を抉って背後へ貫通!!

うわわ!上半身と下半身が千切れた!!

ナイス威力!


 ボク自身は、その反動で体を軋ませながら後方へ!

地面を削りながら、村の南門付近で停止!


「――頼ムヨ、相棒!」


 黒棍棒を強く握って魔力を注ぎ込む。


『すべての慈悲なき者に死を』の文字が、ボクの気持ちに応えるように蒼く輝いた。



・・☆・・



「おやびん!おやびんたたかってる!アカも、アカもいく~!」『私も行くわ、アカちゃん!』


「おやおや、行っちまったかい」


「……ムークちゃんが頑張ってくれるんなら、アタシの『奥の手』にゃ出番がなさそうだねえ」



・・☆・・



「ヌオウリャッ!!」


 空気を切り裂いた黒棍棒が、オークの持っている石斧と激突。

まったく抵抗を感じずに石斧を砕き、そのまま顔面に直撃。

インパクトの瞬間にずん、重くなった黒棍棒。


「ギャバッ!?」


 それは、オークの顔面を破壊してその衝撃で吹き飛ばした。

むわー!口に入った!あ、ちょっと美味しい!!


『サイコパス虫……油断は禁物ですよ……』


 重々承知、ですう!


「ガアアアアアアアアアアアアッ!!」


 草原から現れる新手!

こうして近くで見て初めてわかったけど、なんというか焦って?いるように見える。

いや、焦ってるっていうか……『誰かに急き立てられてる』感じかな。

たぶん、後ろに『長』とやらがいるんだろうねえ!


「――邪魔ァ!!」


 黒棍棒を右手で担ぎ、左腕をソイツへ向けてパイル一番、発射!

手の甲側の一本だけが、轟音と一緒に飛んでいく。


「ッギ!?ギィイ……!!」


 螺旋回転を纏ったボクの棘は、オークが構えた金属製っぽい盾に激突。

盛大に火花を散らしながら表面に『穿孔』して――


「ブギッギャ!?!?」


 盾を持つ手を貫いて、胴体にめり込み……更に貫通!

進化した甲斐があったね!なーんてパワーなんでしょ!!


「ブギャギャ!」「ブギーッ!!」「ギャバギャバ!!」


 おおお!まだまだ来る!新手!

在庫がいっぱいあるなあ、オークさんは!!

ボクもあれだけ大見え切っちゃったんだから、やるしかないけどねッ!!


「カカッテコイヤーッ!!」


 手始めに一番近い所のお前!お前だーッ!!

成仏せーいッ!!

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― 新着の感想 ―
あの最初は芋虫だったムークがねぇ…いまではこんなになって… かっこいいなぁ
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