第128話 のどかなままでいさせておくれ~
「カマラちゃん、いつもありがとうねえ。アンタのタリスマンが一番よく効くよ」
「なんだい、嬉しいこと言ってくれるねえ。そいじゃ、冷え性に効くポプリもおまけしとくよ」
モフモフの狐っぽいお婆ちゃんに、カマラさんがタリスマンを渡した。
カマラさんをちゃん付しているんだから結構なお年なんだろうなあ。
言及しないけど、命が惜しいので。
「ドデスカ」
「あ~、そこ、そこじゃよ。兄ちゃん、アンタ肩もみが上手いねえ……虫人なのに」
ボクといえば、モフモフの……牛っぽいお爺ちゃんの肩を揉んでいる。
いや~、こってますねえお客さん!
「そうそう、そこを返すの。そしたら……うん、上手よ!手際がいいわねえ」
「じゃじゃじゃ……針仕事は大の得意でがんす!」
そして、ボクのちょっと向こうではロロンがネコっぽいお婆ちゃんと針仕事。
なんか、特殊な縫い方を教わってるんだって。
「むいむい……むいむいむい」
「どうだい?ワシの畑で獲れたテテトはうめえだろ?」
『おいしいわ!とってもおいしいわ!』
「おいし!ほくほく、おいし!」
んでんで、アカとピーちゃんは……ふかしたお芋みたいなのを狼っぽいお爺さんにふるまわれている。
よく食べるねえ、2人とも。
今日の朝ご飯でもお腹ぽんぽこにしてたのにさ。
ここは、【オオラン】って名前の街……いや村。
ガラハリを出発してから、初の居住地だ。
昼前に到着したんだけど、どうやらカマラさんはここに定期的に来ていたらしい。
あれよあれよという間に村人が集まってきて……こうなった。
みんなフレンドリーでとってもいい村だと思うな。
アカもピーちゃんもおとなしいってことは、変な人もいないんだろうしね。
ボクも肩もみ虫として大活躍してるよ。
顔なじみっぽいカマラさんの紹介だから、村人さんの方も特に問題なく接してくれたし。
『ずいぶん、お年寄りの多い村ですね』
ねー、ボクもそう思う。
今は村に入ってすぐの広場的な場所にいるけど……ご老人しかいないもん。
村の周囲には3メートルくらいの頑丈そうな木の外壁があったけどさ、こんなんで大丈夫なんじゃろか。
ガラハリみたいに衛兵もいないし、草原とか森も近いのに……
若い人っていないんかな。
「アノ、オジイサン」
「お、なんだい?」
なので、手近なお爺さんに聞いてみよう。
ちょうど肩揉んでるし。
「ココッテ、若イ人イナインデスカ?」
「おお、何人かはいるが今の時間は森に狩りと……畑仕事だな。それも少ねぇぞ、大体の男はみいんなガラハリやらラガランやらへ出稼ぎに行ってるからな……ここにいるのは老人と女子供ばっかりだ」
やっぱりそうか。
むうん、日本の過疎化地域的な感じかな。
あ、でも出稼ぎだから家自体はここにあるのか。
「うわー!虫人だ!」
……お?
あ、若い男……といっても若すぎる獣人の男の子だ。
小学校低学年って感じかな。
ケモ度40%くらいのワンちゃんだ。
「コンニチハ」
「こ、こんにちは!」「こんにちわ~!」
あ、影にもう一人いるね。
コッチは女の子だ。
黒猫……マーヤを思い出すねえ。
「どら、ちょいと畑を見て来るかい……虫人さんよ、ありがとうな。よかったらひ孫と遊んでやってくれ」
肩をぐりぐり回して、おじいさんが立ち上がった。
ひ孫さんか……この世界って結婚早いのかな?結構若そうに見えるけど、おじいさん。
いや、ご老人はご老人なんだけど……ひ孫がいるようなむっちゃお年寄りって感じじゃないっていうか。
「ア、ハイ。イイデスヨ」
向こうがいいなら、だけどね。
「ねえねえ、お兄ちゃん……なんだよね?」
さっそく男の子が尋ねてきた。
ムムム、いい質問ですねえ!
「ソウダヨ」
実際は不明です!未だに!
ラクサコさんとかイセコさんを見たから、多分男よりの外見だとは思うけどね!
ボク、色んな意味でむしんちゅじゃないから……謎は深まるばかりだけど!
「そっか!冒険者なの?どこまで行くの?」
「冒険者ダネ。トルゴーンノ……【ジェストマ】マデ行クンダヨ」
「トルゴーン!とおいねえ!」
おっと、女の子も参戦。
お客さんっていうか虫人が珍しいのかな。
「おにいさん、あそこにいるのって……妖精さん?」
女の子はアカたちが気になるのか、チラチラ様子を窺っている。
そりゃあ気になるよね。
ボクよりよっぽど希少だもんね。
『アカ、お芋持ったままでいいからこっちに来れない?』
『あい~』
念話を飛ばすと、アカはホクホクのお芋を抱えながら飛んできた。
あ、ピーちゃんも。
「コノ子ハ、アカ、ソシテコッチガピーチャン」
「こにちわ、こにちわ~」『よろしくね!よろしくね!』
予想をはるかに超えるフレンドリーさに、女の子は面食らったのか目を白黒。
ふふ、どっちもカワイイや。
「わたし、イリーカ!」「僕、アラン!」
元気よく自己紹介する子供たち。
お行儀がいいねえ、親御さんの教育のたまものだねえ。
「妖精さんたちも冒険者なの~?」
「ぼうけんしゃ……?んゆ~?」
あ、アカが困ってる。
ううむ……冒険者でいいんじゃないのかな?
アカも戦闘で役に立ってるしね。
『そうだよ、アカも冒険者だ。ボクといっしょ』
「あいっ!ぼーけんしゃ!おやびんといっしょ、いっしょ!」
ふふふ、何をしても可愛い最高の子分ですじゃよ。
『わたしは……何かしら?インコ?』
それは種族名というか生物名というか……
・・☆・・
「すひゃあ……」「むにゃ……」「んゆ……」
しばし後、アカと子供2人は遊び疲れて寝てしまった。
いやあ……子供の無尽蔵な体力すっごいや。
普通の子供でも元気だと思うけど、この2人は獣人。
基礎体力からして段違いなんだろうねえ。
『大分上達しましたね、滑空の姿勢制御は』
そうそう、ボクはあの子たちを抱えてアカの念動力からの滑空してたんだ。
『もう1回!もう1回!!』って大人気だったよ。
『ムークさんの飛び方は飛行機みたいでとっても格好いいわ!格好いいわ!』
一緒に並走というか飛んでくれたピーちゃんが褒めてくれた。
でも、ボクもアカみたいに自由自在に飛んでみたいなあ。
ホバリングとかいろいろ。
『あら、アカちゃんは羽で羽ばたいているわけではありませんよ。あの羽は魔力を放出する器官ですので、厳密に言えば魔力によって半重力飛行をしているわけです』
――そうなのォ!?
『地球の物理法則では、あの面積の羽でアカちゃんを浮かせるのは不可能ですからね。ピーちゃんはその気になれば飛べるでしょうが、彼女もまた魔力を放出して飛んでいるわけです』
ほほう……ではボクもそれを会得すればと飛べるかもしらんね!
『むっくんに現在備わっている補助翼では不可能ですね。それはあくまでも滑空のための器官ですので』
ぎゃふん……
『子供はいいわ!さっちゃんの孤児院を思い出すわ!』
眠る三人を、ボクの肩に乗って微笑ましそうに見ているピーちゃん。
そっか、そういえばそうだったね……
『その孤児院ってさ、虫人の子供ばっかりだったの?』
『違うわ!色んな種族の子たちがいたの!その頃、大きな戦争があってね……いろんな国の人が協力して戦ったんだけど、街も、人も……だいぶ大変だったみたい』
せ、戦争かあ……せめてボクが死ぬまで起こらないでほしい……いや違うな!?
アカが立派な妖精になるまで勘弁してください!
1000年くらい平和な世界でいてください!!
『世界平和を願うとは見上げたむっくんですね、ポイントを付与します。それと、その戦争についてもっと詳しく聞いてみてください。ピーちゃんがこちらに来た時期を割り出します』
またお気軽に溜まっていくポイント……
『ねえねえピーちゃん、それってどんな戦争だったかわかる?孤児院ができてるくらいだから、その頃には妖精だったんでしょ?』
『そうね!そうだったわ!ええと……さっちゃんが言ってたんだけど、北の魔王って言うのが攻めてきて、12個の国が軍隊を送って戦ったのよ!近所のパン屋の息子さんも行っちゃって……帰ってこなかったわ、悲しいわ!いつもパンくずをくれるとってもいい子だったのに、悲しいわ!』
徴兵制ってわけじゃないけど、一般市民まで戦いに行ってたのか……それは悲しいね。
『北の……なるほど、恐らくこれでしょうか』
お、トモさん調べるの早いねえ。
『四魔王が1人、【北覇王】が起こした戦争……【バルバルシア戦役】ですね。現在の【北覇王】の二代前のことですね……ざっと500年ほど前でしょうか』
思ったより過去の人だった!ピーちゃん!!
というか、魔王さんの二つ名みたいなのって襲名するんだ……
『特に苛烈な人物だったらしく、領土拡大を狙って西の小国連合をまず併合しようとしたのが原因ですね。各国から集まった軍隊がロストラッドの北に位置する【バルバルシア平原】で激突した、と歴史書にはあります』
近所の魔王さんが穏健派でよかった……
『最終的には魔王に戦いを挑んだ4人の英雄によって魔王が討たれて終戦したようです。ふむ、有名なお話のようで……吟遊詩人の鉄板ネタらしいですよ?』
最後に魔王討伐しとるやん!
どんなとんでもない英雄が集まったんだ……
『あ、その中に初代山田さんの名前もありますね』
山田さんも活躍したんだ、凄いなあ。
『他の3人が魔王を死ぬ気で食い止め、最終的にはアイキドの奥義で山ごと吹き飛ばしたらしいですね』
やっぱりボクの知ってる合気道じゃない!!
山を吹き飛ばすなんて無茶苦茶だよ!!
『ドワーフの【万断】オラーフ、エルフの【赤雷姫】ネーネラ、これに虫人の【滝割り】ソイチロ……そして【融和王】山田……凄い布陣ですね、全員今になっても歌や詩が残る程の武人たちですよ』
『凄そう……』
魔王討伐なんてまるでゲームみたいな感じ。
そんな一大イベントに同じ?日本人が参加してたなんて驚き!
『山田さんが魔王の大規模攻城魔法をアイキドで打ち返した時は山が震えたとか』
……すごいなあ、合気道(学名)・責任放棄。
いい機会だからもっと教えて!もっと!
『しょうがありませんね、ではまず――』
トモさんが息を呑んだ。
『むっくん、黒棍棒の準備を!』
今度はなんだってんだ!?