第127話 ボクの脳内が大渋滞。
「あははは!あはははは~!!」
『すごいわ!上手よアカちゃん!』
晴れ渡った空の下を、アカとピーちゃんが飛び回っている。
声だけ聞けばなんとも仲良くゆっくり飛んでるように思えるけど……実際は違う。
『じゃあ……これにはついてこれるかしら!』
「にゅ!?まてまて~!」
……ここから見ているボクには、ぶっちゃけアレだ。
戦闘機同士の空中戦にしか見えない。
上になったり、下になったり。
きりもみで回転したり、急上昇したり。
本人たちは楽しそうだけども。
『アカちゃんのスキル、『ハイ・マニューバ』ですね。むっくんが虫型ヒーローモドキになったことを考えれば……さながら彼女は妖精の革を被った戦闘機でしょうか』
モドキって言わないでよ!
一気にうさん臭さが増したじゃん!
でも、戦闘機か……アカが名実ともに戦闘妖精になる日も近いのかもしれない。
進化とかさせてあげたいけど……今は護衛任務の最中だからゴメンね。
「飽きもせずによく見るねえ、ムークちゃん」
あ、考え事してたらカマラさんが話しかけてきた。
「カワイイノデ」
「過保護な親分だこと。まあ、悪いことじゃないけどね」
薄く笑いながら、カマラさんがパイプをふかしている。
その向こうでは、ぐつぐつ煮える鍋の前で料理をしていロロンの姿が。
いい匂いがする……今日のお昼はなんだろな~?
「次の街マデ、ドノクライデス?」
「この休憩所からなら、普通に歩いて2日って所かねえ。街って言うよりも村だけど、宿はあるよ」
後ろ髪を引かれながらガラハリを旅立って、もう2日目。
ボクラは、街道沿いにある空き地で昼食休憩をしている。
備え付けみたいなテーブルとベンチがある場所だ。
旅の商人さん達が整備しつつ泊まっているらしい。
「カマラサン、体ハ大丈夫デスカ?」
「年寄り扱いすんじゃないよ。旅暮らしにゃあ慣れてるさね」
歩いて旅をしているわけだけど、カマラさんは本当に健脚だった。
魔法使いみたいな長い杖を持って、しっかりした足取りでボクらと同じようなペースで歩いていた。
「それにホラ、この『健脚』のタリスマンもあるしね。これで足がつったりすることもなくなるのさ」
「ホエ~……」
ローブにいっぱい付いているタリスマンのうち、1つを揺らすカマラさん。
彼女は、杖以外は手ぶらだ。
ローブの内側にマジックバッグを持っていて、必要なものは全部そこに入ってるんだって。
こういうとこ、ファンタジーって感じだよね。
バッグさえあれば手ぶらに近い状態で旅ができるんだもん。
「イッパイアリマスネエ、他ノハナンデスカ?」
「全部旅用さね。こっちは生水にあたりにくくするやつ、これは毒消し、こいつはちょいとした障壁を展開するヤツで――これは魔物避け」
「ホェエ~……」
歩くタリスマン状態じゃないか。
あ!そっか!
歩き出してからそんなに魔物が出て来ないのって、あのタリスマンのお陰なんか!
てっきり整備された街道だからって思ってたけど……なるほど!
流石は1人で旅商人をしているだけはあるねえ!
「おっと忘れてた。どっこいせ……ロロンちゃん、これを使いな」
カマラさんは立ち上がって歩いていき……ロロンに懐から取り出した何かを渡している。
乾燥した葉っぱみたい……なんじゃろ?
「じゃじゃじゃ?これは……なんとはあ!【モロルの葉】でやんすか!?」
「こいつを最後に入れて煮込むと、ぐうんと美味くなるのさ」
「だ、だどもこげな高価なモンを……」
「いいのいいの、アタシも食うんだから。どうせなら美味いもんを食いたいじゃないのさ」
ほほう、中々の高級品みたい。
これはいよいよお昼ご飯が楽しみだなあ……
……あ、そうだ。
トモさんトモさん。
『はい、なんでしょう』
あのね、今ふと思ったんだけどさ……ピーちゃんって転生鳥?なんだよね?
『正確に言えば転移鳥ですね。あの頃はトレンドでしたので』
そ、そっか……前にも聞いたけど壮大過ぎるトレンド……
と、とにかくさ。
転移ってことは……ピーちゃんにも、お付きの神サマっているの?
『ああ、そういうことですか……いませんよ』
いないんだ!
むっちゃハードモードじゃん、それじゃ!
ボク、トモさんいなかったら秒で死んでたと思うよ!?
トモさん様様!!
『ふふ、それは嬉しいですね。ピーちゃんはあくまでさっちゃんさんのペット枠でしたので、専属の神はさっちゃんさんの方についていたんです』
あ、なるほど。
さっちゃんさんの方かあ……
『当時のことはわかりませんが、規定としましては転移・転生者の死をもって専属は解除されますね。ですので、今はいません』
ほむほむ。
じゃあじゃあ、その神様ってわかる?
『さて……申し訳ありません、私にはわかりかねまs』
『――ムロシャフトですね、虫よ』
ワーッ!?!?
ヴェルママ!ヴェルママ!?
『こ、これはメイヴェル様、よ、ようこそいらっしゃいました……』
遠隔神託じゃなくって直接来た!?
トモさんが挙動不審になってる!!
『トールグの大馬鹿者の用事が済みましたので、虫の顔を見に来ました。息災なようで何よりです、生存しているだけで偉いのでポイントを差し上げましょう』
わ、わーい!うれしいな!!
どんどんジャンルの違う謎ポイントが溜まっていく……!
あ、あの、今言っていたムロシャフト様っていうのは……?
『私の部下になります。あの鳥の飼い主についていました』
さすがはむしんちゅの神様……部下までいるのか。
『むしんちゅ?むしんちゅとは虫人のことなのですね……ほほほ!なんと可愛らしい呼称か!』
頭が割れるゥウ!?
音量調節バーが欲しい!!
『ムロシャフトもあの頃は未熟ものでしたが、今はまあ、そこそこ使えるようになりました。もっともっと使えるようになって私を楽にしてほしいものです』
……コメントが完全に上司のソレ。
会社とかのソレ。
『秘匿回線で失礼します。ムロシャフト様は慈愛を司る女神の一柱ですね……そこそこどころか、かなりの階位の神です。私などは目すら合わせられませんよ』
トモさんの零細OLっぷりが凄いや。
アレかな?本社の正社員って感じなんかな、ムロシャフト様っていうのは。
『担当しているのが虫ではなかったので、それ以上のことは知りませんが。許しなさい虫よ、次の機会までに締め上げて白状させておきますので』
しなくていい!しなくていいよヴェルママ!!
ボクはそんなことは望んでいませんから!
『まあ、欲のない虫ですね……む、女神トモ、これはなんですか?』
『むっくんの故郷の食物です。お口に合うかどうかわかりませんが……』
トモさんがお茶的なものをお出ししている!
地球のコピー品かな?いったい何を出したんだろう。
『ふむ、興味深い……む、むむ、むむむむ!』
なんかこう、サクサクばりばりって音が聞こえる気がする。
どうなってんの念話なのに。
『――これは!美味です!!』
脳が割れるゥウウウウウウアッ!?!?
さっきよりも声が大きいじゃないですかヤダー!!
『ズズズ……む、これも美味です!!』
アアアアアアアアアアアアアアアアアア!?!?
もうこれ半分くらい頭割れてるかもしれない!!
『なんですかこれらは!』
『お煎餅と玄米茶です』
なんて庶民的なものを……おいしいけどさ。
『虫の故郷……地球ですか。素晴らしい世界ですね……こちらでも模倣しておきましょう、良いものをいただきました』
口調は穏やかだけどずっとサラウンドでボリボリ聞こえるんですけお!?
無茶苦茶気に入ってるじゃないの!?
『そうだ虫よ。あなたは今トルゴーンに向かっていますね?』
あ、はい!
『ゆっくりと来るのですよ。今少し荒れておりますので』
……荒れて?
えっと、なんか穏やかじゃないんですけど……
『あなたと関わりのある虫が、貴族の首を挿げ替えました。それに付随して、すこし虫たちがざわめいております』
……貴族の首ってことは、ゲニーチロさんか!
うわ、じゃあサジョンジの当主交代をやったんだ!
元気なのかな?怪我とかしてないかなあ。
『すこぶる健勝です。亡き友の望みを支える虫……思わずヴェルママポイントを10億ばかり付与しそうになりましたが、部下に総出で止められました』
……そ、そうなんだ。
そんなに止められるってことは結構大事なんだね……ポイント付与。
『かの家は本当に不遜な存在で……何度か神託で怒鳴り散らしていたのですが、嘆かわしいことに信仰心が皆無なので全く届いていなかったのです。それ以上の干渉となると首都全域を襲う天変地異くらいしか打つ手がなく……他の敬虔な虫経由で何とかしろとは伝えていたのですが、今回あの虫がやってくれました』
怒鳴り散らす神託とか、天変地異とか不穏当な単語しか出てこない!
0か1しかないんですか!ヴェルママ!!
『まあとにかく、これで問題は万事……む、今度はなんですか?』
『ココアとチョコレートです、ご賞味ください』
トモさんがメイドみたいになっちょる!?
ま、待って、この流れってもしや――
『 な ん た る 美 味 か ! 』
――きゅう。
・・☆・・
「おやびん、おやび~ん?」
「チョ、チョコレイト……チョコレイト……ッハ!?」
目を開けると、アカがきょとんとしている。
な、なんだ寝ちゃってたのか。
変な夢見たな……
『どっこい現実です、むっくん』
やっぱりぃ?……あれ、なんか静かだ。
トモさん、ヴェルママは?
『大事な仕事があるらしく、何柱もの神々がやってきて担いで連れていかれました。興奮しすぎて申し訳ないと謝っていらっしゃいましたよ……まるで、いやあれこそが神輿ですね』
フリーダム過ぎる……絵面も面白すぎる……