第124 さよならガラハリ!また来る日まで!!
「まだぎでぐだざいね~!ぜっだい、まだぎでぐだざいねぇ~!!」
「むぎゅう」
『ちょっとだけ苦しいわ!』
アリッサさんが、アカとピーちゃんを抱きしめて号泣している。
もうなんて言ってるのかわかんないや。
「こらアリッサ!アカちゃんとピーちゃんが困ってるでしょう!」
クラッサさんが止めているが、彼女もちょっと涙目だ。
「なんだいなんだい、まるで今生の別れじゃないか……いい大人がそんなことで泣くんじゃないよ」
すっかり旅支度を整えたカマラさんが、呆れたように言った。
そう、今日は遂にトルゴーンへ向けて出発する日なんだ。
・・☆・・
ターロと釣りをしたり、みんなで依頼を消化したり、宿で惰眠を貪ったりしていた。
そんな毎日をしていたら、あっという間に出発の日になった。
ロロンが一生懸命作ってたボクたちの防寒着も完成したし、トモさんにクソデカ溜息を脳内でされつつも買い込んだ食料もバッチリ!
体調も万全、天気も上々。
まさに絶好の出発日和ってやーつ!
「お、出発かよ……って、アリッサさんは相変わらずだな」
あ、ターロたちだ。
挨拶するつもりだったけど、向こうから来た。
「お前に関わってると懐あったけえからな……ついて行こうかと思ったんだがよ、いかんせん予定がな」
「ニャー、族長直々のお願いだからニャ~」
「ん、めんどい」
ターロたちはもう半月ほどここに滞在して、それからグロスバルド帝国に行くんだって。
なんでも、向こうにいる遠い親戚?とかの所で用事があるらしい。
「まあでも、それが終わったらトルゴーンには行くつもりだがよ。俺達も大角閣下に招待されてるしな」
あら、そうなの?
ここでお別れかと思ったけど……また会えるかもしれないね、それじゃ。
「ムーク、これあげる」
「ム?」
マーヤが何かを渡してきた……なにこれ、でっかい爪みたいなのが付いたネックレス、かな?
「ウチの部族に伝わるお守り。仲間にしか渡さないから、どこかでランダイの出身者に会った時に見せたら面倒見てくれるよ」
なんじゃとて?
そんなにいいものを……
「イイノ?」
「ムークたちは命の恩人だから。ホラ、付けてあげる……んしょ、っと」
マーヤが首の後ろに手を回して、それを着けてくれた。
くすぐったい!
「ロロンにもニャ~!妖精ちゃんたちの分も渡しとくニャ~!」
「ワダスにも!?お、おもさげながんす……!」
いいもの貰っちゃったなあ。
……じゃあ、こっちも!
「ボクタチカラハ、コレ」
そう言って、バッグから取り出したものを三人に渡す。
「ほ~……洒落てんな、なんだこれ?」
「幸運ノタリスマン。妖精ノ加護付キダヨ」
それは、将棋の駒と同じく五角形の木片に組み紐を通した物体。
表には『猫』の漢字を崩した文様が入っている。
ボクが彫り、ロロンが紐を編み、そしてアカとピーちゃんが妖精パワーを込めた逸品だ。
じんわり幸運になる効果があるとこは、カマラさんが太鼓判を押してくれた。
「かわいい。この文字みたいなの、なに?表と裏にあるね」
「表ノハ『獣人』ッテ意味。裏ハソレゾレノ名前……古代文字ヲ崩シタモノダヨ」
どうせ日本人なんてそうそういないだろうし、嘘をついてしまった。
まあ、もし日本人に見られてもわかんないと思う。
無茶苦茶オリジナルに崩したし。
「ほえ~……食うに困ったら高く売れそ……冗談だからな、だから首筋にナイフ刺すのは止めてくれよ本当によ刺さってる!刺さってるから!」
ターロの首に、マーヤがナイフをチクチクしている。
懲りない奴だよ、本当にさ。
「ウチにまでありがとうございます、ムークさん!この宿が続く限り、家宝にいたします!!」
「ワワワ」
クラッサさんが走ってきて、両手をぎゅっと握ってきた。
うん、無茶苦茶お世話になったからね。
彼女たちは冒険者じゃないから、宿に置けるものをと思って……木の台座の上に駒を乗せた、ちょっと大きいものをあげた。
ちなみに正面には『宿』の文字で、裏には2人の名前だ。
こっちも効果があってほしいなあ。
『この宿、とっても気に入っちゃったわ!仲間にも宣伝しておくから、もしも来た時はよろしくね!』
アリッサさんのハグから解放されたピーちゃんが嬉しそうに言い、それを聞いた姉妹は揃って石像みたいに固まった。
「よ、妖精しゃんが……」「ま、また、来る!?」
『お代はちゃあんと払うように言っておくからね!心配しないでいいわ!』
ピーちゃん……どんな贈り物よりも2人が喜びそうなものを……
やるな、このセキセイインコ!
「トルゴーンできっと会おうね、ムーク」
「ニャ~!そん時暇ならマデラインまで行こうニャ~!」
それはボクも楽しみ!
入れ違いにならないように、ゲニーチロさんのお家とかに伝言を頼んでおかなきゃ!
ボクもまだ永住するつもりないし!色んな所に行きたいし!
「是非ご一緒したいでがんす!楽しみにしておりやんす~!」
ロロンも乗り気のようだ。
この子、いつまでついてきてくれるんだろ……助かるけど。
そしてトモさんに怒られるからこの話題については口に出さないけど!
『素晴らしい思慮深さ。トモさんポイントを差し上げましょう』
『ヴェルママポイントも差し上げましょう、虫よ』
……また遠隔神託ですか、トモさん。
『はい……流石は上級神、一切の防御もジャミングも不可能です、する気もありませんが』
そしてヴェルママポイントってなにさ!?
トモさんポイントだけでも謎なのに!まーた謎ポイントが増えたよう!!
「またね!またねぇ!」
「ンヒーッ!?!?」
アカに頬へキスされ、アリッサさんが直立不動のまま後ろへ倒れ込んだ。
……結局、最後まで慣れなかったなこの人。
クラッサさんは一瞬白目を剥いても気絶はしないようになったのにさ。
「お世話になりやんした~!」
「ばいばい、ばいばーい!」
『また来るわ!きっとまた来るわ~!』
「サヨナラ!ターロ達モ!」
やっと気絶から復帰したアリッサさんとクラッサさん。
それからターロたちにも手を振って、ボクらは【妖精のまどろみ亭】を後にした。
「マダギデグダザイネェエエエ~~~~!!!!!!」
アリッサさんの、号泣ボイスに見送られながら。
別れってのはいつになっても慣れないけど、カマラさんが言うように今生の別れってわけじゃないしね。
最後にもう一度大きく手を振って、ボクは前を向いて歩き出した。
・・☆・・
「よおマーヤ、お前その……ついて行かなくてよかったのかよ?」
「用事を済ませるのが先。その後ついてく、ターロは置いてく」
「なんでだよ!?俺もトルゴーン行きてえし、実入りのいい話にゃありつきてぇよ!!」
「……ひょっとしてそれでマーヤがついてくと思ってたニャ?」
「あ?それ以外に何があるってんだ?」
「ミーヤ、もういい。一生わからないから、この唐変木には」
「それもそうニャ~。さて、今日も稼ぐニャ稼ぐニャ」
「ん、頑張る」
「おい!だからなんだって言ってんだよ?俺にも教えてくれよ~!!」
・・☆・・
「おや、ついに出発かムークくん……もう20年ほど逗留してもいいのだぞ?」
「ソレホボ永住ジャナイデスカ……」
東街の城門を出ようとしたら、門の所でバレリアさんにバッタリ会った。
というか、衛兵さんの一団にいた。
そういえばこの人って隊長なのに、なんでこんな仕事を……?
「フムン、今日もカワイイ子犬はいないな……残念だ」
今、入場の列を見ながら恐ろしいこと言ってる!
なんとなくここにいる理由が分かった気がする!!
「おねーちゃ!さいなら!またね、またね!」
「ンフフ、かわいいキスをありがとう」
『はじめまして!そしてさよなら!』
「……両肩に妖精を乗せた虫人、か。フフ、いつか子ができたら聞かせてやろうか……ホラ吹き扱いされるだろうが」
ピーちゃんの存在にも、バレリアさんは少しだけ眉を上げただけだった。
お、大人だ……!
「バレリア隊長!何時の日か、再戦ばいたしやんしょ!」
「望むところだ、楽しみにしているぞ……おや、そちらのご婦人も一緒かね?」
ロロンと清々しい約束をしながら、カマラさんに目をやるバレリアさん。
「ハイ、護衛依頼ノ依頼主サンデス」
「カマラさ、アンタが噂の【黒鹿毛】かい……なるほどねえ、こりゃあ男どもが放っておかない訳だよ」
カマラさんが軽く頭を下げた。
「ンフフ、かわいい子犬以外にモテても嬉しくありませんなァ」
「はっは、そうかい」
正直すぎる……
「デハ、オ世話ニナリマシタ!」
「世話になったのはこちらだよ。是非また来てくれ、今度はもっと色々ラーガリを教えてやろう」
バレリアさんと握手し、城門を抜ける方向へ歩き出す。
顔見知りになった何人かの衛兵さんにも手を振りつつね。
「どうじょ、どうじょ~!」
「これはなんとも、素敵な贈り物だ。子々孫々に受け継がせよう」
あ、アカがタリスマンを渡している。
バレリアさんに渡すんだ~って張り切ってたからねえ。
「これは暇な時に狩った魔石だ。オヤツにでもしなさい」
「わはーい!!」
結構な量の魔石貰ってるゥ!?
ちょ、ちょっと多すぎでは……?
なにはともあれ、長いようで短かったガラハリ滞在もここで終わりか。
ううう、やっぱりちょっと寂しいけれど……なんの!
新たな冒険の始まりだ~!!
・・☆・・
「隊長、どうされました?何か気にかかることでも?」
「ム、何もないぞ。気にするな」
「ハッ!」
「……あのご婦人、どこかで見たような……?」
☆余談
この後【妖精のまどろみ亭】は、たまに妖精が思い思いの代価を払って逗留する有名な宿となった。
宿を切り盛りする姉妹は、それが始まってから嬉しさで倒れないようになるまで……2年ほど、かかったという。