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第123話 ヤマダさんは思った10倍くらい凄かった。

「お~、【好色王ヤマダ】な。知ってる知ってる」


「ソンナ異名ダッタッケ……?」


 ターロと並んで座り、川辺で釣り糸を垂れている。

ここは、ガラッドから南にちょっと行ったところにある広めの川のほとり。

そこで、男2人?で釣りの最中だ。


「【融和王】ってのだろ?そりゃ一般的な呼び方で……こっちはまあ、ちょいとこう……下世話な呼び方だよ」


「成程」


 今日は女性陣はみんなで南街でお買い物。

特に用事もないボクは宿で寝ようかなって思ってると……ターロが釣りでもしようって呼びに来たんだよね。

この世界で釣りなんて初めてだから、とっても楽しい!

地球だとでは概念しか知りませんけども!


「んで……何が知りてえの?」


 餌……なんか攻撃力の高そうなミミズを針に刺し、放り投げるターロ。


「イヤ、ドンナ人ナノカナッテ。ダッテ1カラ国ヲ作ルナンテスゴイジャン」


「だよな~。しかも嫁さんが30人以上!男の夢ってやつだよな~」


 ……それはどうかな?

ボクが男だったとして、国も大量の奥さんもいらないかなって。


「まあ、何百年も前の人間だからわかってねえことも多いんだが……まず、無茶苦茶強かったらしい」


「ホーン……」


 腕っぷしが強かったんだ、山田さん。

コッチへ来てからこう……チートとか貰ったんかな?


「なんてったっけかな……ううむ、ああ!そうそう!【アイキド】だ【アイキド】!そんな名前の武術の使い手だったらしいぜ」


 ……合気道のことかな?

警察とか自衛隊の人だったんだろうか?


「んで、その腕っぷしでまず冒険者として活躍して……凄かったらしいぜ?魔物やら盗賊やらバッタバッタなぎ倒してよ」


 ……合気道の達人って、魔物とか倒せるのかな?

武術はなんでも極めたら強いって聞くけど、流石に素手じゃあ……

なんかすごい武器でも持ってたんだろうか。


「魔法を受け流したり、自分の魔力を上乗せして相手に叩き返したりしたんだってよ。街を襲った水晶竜のブレスを跳ね返して、怯んだところを拳で脳天ぶち抜いて殺したりな」


 ――ボクの知ってる合気道と違う!?

え?山田一郎さんって名前だから勝手に日本人だと思ってたけど……ひょっとしてまた別の異世界から呼ばれた的な人なんかも?

こう、パラレル地球とか、アースほにゃらら的な平行世界。


「ス、凄イネエ……」


「だよなあ……おおっ!きたきた!これはでかい――なんだよコレ……」


 ターロが釣り上げたのは、狼っぽい形状の頭蓋骨だった。

逆によく釣れたねえ、それ。


「ったくよ……ええと、それで冒険者として名を上げて……なんだっけな。あ、そうそう、【ラーグ・ギガント】っていうでっけえ巨人の魔物を殴り殺して……それで、オルクラディの騎士身分になったんだったかな」


 色々ツッコミどころがあるけど、魔物倒して貴族になれるんだね……

冒険者から貴族なんて、立身出世じゃん。

すごいな~。


『そこら辺の魔物ではそうはいきませんよ?今ターロさんがおっしゃった魔物は小高い丘程の大きさのかなり強力な魔物です、町や村が滅びるくらいの脅威ですよ』


 ……やっぱり合気道って名前の別のトンデモ武術なんじゃないかな、山田さんのって。


『ロストラッドで今でも盛んなようですね【アイキド】は。卓越した魔力制御と強靭な肉体が最低条件で、習得の段階で大怪我をすることもよくあるようです』


 やっぱり合気道じゃない!それ絶対合気道じゃない!!


『ちなみに奥義は体内で高速循環した魔力を両手から放つ技だそうです』


 〇動拳か〇めはめ波じゃん、それもう……


「おいムーク、お前引いてるぞソレ」


「エ!?ワワワワ……!」


 気付けば竿先がピクピク動いてる!?

こういう時は……!!


「フィーッシュ!!」


 こう言いつつ、ガツンと合わせる!

ンギギ……結構重い!リールとか存在しないし釣り竿も木の枝みたいなもんだから大変!

むむむむ……オウリャアーッ!!


「――ナンダコノ化ケ物!?」


 思い切りごぼう抜きした釣り糸の先端には……紫色の!ハサミ付きの腕が4つもあるザリガニの化け物がいた!?

ヒャーッ!?バケモノ!!


「おお!いいなあお前!早く上げろ上げろ……よし、オラッ!!」


 なんとか岸に引っ張り上げると、ターロが手斧の峰?でザリガニの頭をぶん殴って潰してくれた。

びび、びっくりした……!


「オイ後で焼いて食おうぜ!美味いんだよな~これ!」


「美味シインダ……」


 まあ、たしかにヤシガニの2倍くらいあるし、食べるところは多そうだね。

とっても美味しくなさそうな色だけど、焼いたら赤くなるのかな。


「うっし!俺も釣るぞ釣るぞ!」


 河原を掘って水を入れた場所にお亡くなりになったクソデカザリガニを入れておく。

ほんと、なんで紫色なんだ……?


「ネエ、貴族ニナッテドウナッタノ?」


 ウキウキで釣り糸を垂らすターロに聞く。


「おお?おう……騎士っつっても一代限りの名誉職だからな。土地もねえし……だから、その後も兼業で冒険者続けてたんだよ。そんで、滅んだ村の生き残りとか冒険者仲間とか、とにかく別嬪さんをどんどん抱え込んで片っ端から嫁さんにしたんだよ!いいよな!男の夢!!」


 無茶苦茶スムーズにお嫁さんが増えていってる!?

凄いな山田さん!


「人族、獣人、亜人までいたってんだからな!しかも全員向こうから『嫁にしてくれ!』って押しかけてきたってんだから……よっぽど強くていい男だったんだろうなあ!」


『補足しますと、攫ったわけではなくあくまで善意の行動の結果、らしいですよ。素晴らしいバイタリティですね……どうでしょう、むっくんもハーレム虫方面を目指されては?』


 だから高校の進路調査みたいな感じで勧めないでよ!

だいたい、目指してホイホイなれるような存在じゃないでしょ!!


「とまあ、それはよかったんだが……お前も知っての通りオルクラディやアーゼリオンなんて国はよ、人族以外はカスだと思ってるクズの集まりだろ?」


 だろ?って言われても……まあ、この前のクソ人間を見てればなんとなくわかるけどさ。


「ヤマダ王の嫁さん、どえらい美人ぞろいだったらしくてな……上位貴族共が寄越せ!って圧かけてきたんだとさ」


「人ヲ物ミタイニ……最悪ダネ」


 聞けば聞くほどオルクラディへの評価が落ちていく。

たぶんアーゼリオンの方もそうだけど。


「それで……ヤダヤダって断りまくってたら、なんか断った中に王族がいたらしくてな。なんやかんやで反逆者認定されて、軍隊差し向けられたんだとよ」


 えええ!?なんやかんやでむっちゃ略されたよ!?


 女の人を奪うために軍隊を!?

……よほどのスケベさんだったんだね、その王族。

ゲニーチロさんとは違う、悪いスケベさんだけど。


『いいスケベさんとは?』


 ……わかんない!!


「ソレデ、オルクラディカラ逃ゲタンダネ」


 なるほどなあ、山田さんは奥さんをとっても大事にしてたみたいだからね……それなら、国からも逃げるか。


「あ?まあ逃げたけど……屋敷を囲った500人の軍隊を皆殺しにしてからだけどな」


「皆殺シ!?」


「おお、凄かったらしいぜ?嫁さん連中もかなりの戦士ぞろいだったらしくてな」


 山田さんと奥さんたちの戦闘力、高すぎ!? 

山田式合気道コワイ……コワイ……


「軍隊ぶっ殺して、王都の城門ぶっ壊して、追っ手も全員ぶち殺して……なんかついでに王城に嫁さんたちと魔法をぶち込みまくって、大混乱にして逃げたらしいぜ?【暁の脱出行】って有名な詩にもなってるな」


 無茶苦茶ですがな。

伝説上の人物だから盛られてはいるだろうけど……それでも凄いや。


「そんで、【帰らずの森】突っ切って反対側に……ああ、その途中でエルフも嫁さんにしたらしいな」


「エェ……」


 逃げながら奥さんが増えるってなんなの?


『あ、その方は有名ですね。エルフの王族で……恐らく今でもロストラッドで御存命ですよ』


 エルフさんってとっても長生き!!

すごー!生き証人じゃん!会えたら会ってみたいな!!


「それから今のロストラッドがある辺りに腰を落ち着けて、その当時は荒野だったそこに1から街をこさえたらしいぜ?」


「エ?邪竜ノ首ノ街ハ?」


「ああ、そこは元々街があったんだけどな。なんか、領主が邪竜を復活させようとしてたのをぶち殺して併合したとかでな――きたきた!ぬううりゃああああっ!!」


 ざばん、と水音。

ターロの釣り糸には、今度こそ魚がかかっていた。

お~!ニジマスみたいなでっかい魚!


「ヒューッ!【ノボリウオ】だぜ!ご馳走だ!!」


 ウキウキのターロは手早く魚を引き寄せ、針から外して手慣れた様子で捌いた。

内臓を抜き取られた魚さんは、ザリガニの横に沈んでいる。


「よっしゃよっしゃ、まだまだ行くぜ~!」


「ボクモ頑張ロット……ソレデ、ロストラッドガデキタノ?」


 中々の波乱万丈具合だねえ、山田さん。


「おお、そうだなあ。元々あの辺りは土地も痩せてて人も少なかったらしくってよ……それに、アーゼリオンとも近いからな。当時としちゃあ、壁にでもなってくれりゃあいいって考え方だったんかね」


 なるほど、そういう考えもあるんだねえ。

利害が一致したってわけか。


「人族の王なのに異種族の国民の方が多いしな、今でも。毎年アーゼリオンとバチバチやり合ってるぜ……あそこに行きゃあ稼げるんだろうが、死ぬかもしれんしな……俺ァパスだね」


「ラシイネ……ヌッ!オウリャーッ!!」


 アタリ!ごぼう抜き!

――またザリガニの化け物ォ!!


「セイヤーッ!」


 左手でぶん殴って! 頭のあたりにパイルをグサー!!

……よし、死んだ死んだ。


「スゴイ人ダネエ、ヤマダ王ッテ」


「そりゃすげえだろ、死んだ時には子供が玉座の間から溢れるくらいいたって話だしな。こりゃあ下世話な噂話だがよ……下の『剣』もそりゃあとんでもねえお人だったらしいや」


 ……まあ、ねえ。

それだけ子供作れたんだからねえ。

ナニとは言わないけど旺盛だったんだろうねえ。


 さてさて。

ザリガニ釣れたし、竈作って火を起こそうかな。

お話もちょうどいい所だし。

……本当に食べられるの?この紫ザリガニさん……



・・☆・・



「ンマンマ」


「だろぉ?コイツはご馳走なんだぜ」


 ザリガニおいしい!おいしい!

カニっていうよりエビみたいな味がする!おいしい!

……こんがり焼いたらもっと濃い紫色になったけど。

なんでさ!おいしいけど!


「焼くと殻ごと食えるからいいよなあ!」


 そう言いながら、ターロはバリバリと殻ごとザリガニを噛み砕くのだった。

……ソレできるのって獣人さんだけじゃないのかなあ。

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フィーシッユ!! 次元を超えた共通語。 勢いが大事!! 最近リアルで使わせて頂いております。
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