表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

187/321

第122話 真面目に、お勉強虫。

「オオ……凄イ」


 宿の食堂、そこのテーブルに……地図が広がっている。


「ワダスのものより、大分詳しいでがんす!」


 ボクの隣に座ったロロンが言うように、その地図はかなり精巧なものだった。


「イインデスカ?コンナモノ見セテモラッテ……」


 振り向いてそう言うと……クラッサさんはニコリと笑った。


「ラーガリとトルゴーン間のモノですしね。この二国間は有史以来、敵対関係になったことはありませんし……ムークさんも攻め込むつもりはないでしょう?」


「ソリャ、ソウデスケド……細カイ地図ナンテ貴重デスヨネ?」


 お昼ご飯を食べ終わった後、ロロンの地図でこの先の道程を確認してたんだ。

そしたら、クラッサさんがどこからかこの地図を持ってきてくれたってわけ。

いくらカマラさんが道を知ってるって言っても、ボクらが何にも勉強しなくてもいいってわけじゃないもんね。


「衛兵隊時代のものですよ。街道の警備や魔物の討伐で、何度もトルゴーンに行きましたし」


 ああ、なるほど。


「私も、休憩ついでにご説明いたしましょう……よろしいですか?」


 ボクらの反対側に腰かけるクラッサさん。

いやいやいや、いいなんてもんじゃないよ。


「ソウシテモラエタラ、アリガタインデスケド……」


「んだなっす!えがんすか?」


「問題ありません。皆さんにはお世話になっていますしね」


 お世話……お世話?

むしろボクがお世話になりっぱなしなんですが?


『アカちゃんとピーちゃんのお陰ですね』


 そうでした!

今は宿の上空で遊んでいるであろう、あの2人のお陰でした!

トモさん、2人は大丈夫?


『モニタリングしているので問題ありません。今は……野良キャットと一緒に屋根の上でお昼寝していますね』


 何故野良猫と言わないのか……まあ、平和そうでよかった。


「ではまず、ここがガラッドです」


 クラッサさんが指を差す。

うん、これはロロンの地図でも見慣れたところだ。


「トルゴーンへは、街道を真っ直ぐ西へ……」


 つつ、と指が動く。

小さな街らしき記号を何個か通過し、止まる。


「ここからトルゴーンまでにある大きな街は1つ、国境の街【ラガラン】ですね。この街よりも規模は小さいですが、一通りのモノは揃っています」


 ふむふむ……


「ここを越えると、すぐに【ミレドン山脈】に入ります。ラーガリ南端からは、長く緩やかな登りになっていて……」


 また指が動く。


「登り切った所に、峠の詰所があります。ここにはラーガリとトルゴーン双方の兵が駐屯していて、ちょっとした宿場町になっています」


 山小屋って感じじゃないね。

地図に書いてあるのは、城塞みたいな絵だし。


「この後はまた緩やかな下りが続きます。それを降り切った所に所にあるのが守門の街【ガドラシャ】です」


 トルゴーンは、東西を山脈に挟まれた盆地みたいな空間にあるみたい。

でも、標高はラーガリよりもちょっと高いみたいだね……

というかアレだ、【ミレドン山脈】の真ん中に国がある感じ?

でっかいでっかい火山の火口みたいだねえ、この立地。

スケールが大きいや。


「ここから、大きな街道が2つに分かれます。1つは北西に向かう【首都街道】、もう1つは南端を通ってマデラインに続く【南端街道】です」


 ふむふむ、ふむ。


「ムークさんたちはカマラさんの護衛で【ジェストマ】に向かわれるんですよね?それでしたら【首都街道】に入って……」


 指が街道をなぞる。


「途中にある三叉の街【ルアンキ】、ここで西の街道に入るといいです。ここは3つの街道が合流する要所ですから」


 なるほどねえ。

今までの旅は田舎道ばっかりだったけど、今度は結構大きい街道を行くことになりそうだ。


「それで……到着です。首都【ラグレス】に向かうにはいったん戻るか、それとも【ジェストマ】から北上して……鉱山の街【フルット】を経由してもいいですね」


 2ルートあるってことね。

むーん……その時になったらまた考えるけど、来た道を戻るよりも北上した方が楽しそう!


「何か、気を付けることはありやんすか?」


 ロロンの質問に、クラッサさんがしばし考える。


「ふむ……やはり山脈の登山道でしょうか。特に登りは魔物も多いですし、緩やかとはいえ途中から雪山になりますから」


「出る魔物は、どげなもんでやんしょ?」


「私が行軍した時は……そうですね、【ヒリュウモドキ】と【イワモドキ】がよく出ました」


 モドキ!モドキがまた出た!!

やだもうこの世界の命名法!!


「じゃじゃじゃ……まだ見たことのねえ魔物でやんす」


 ロロンも砂漠の出だからねえ。


「【ヒリュウモドキ】は、簡単に言うと羽の生えた地竜です。空を自由に飛ぶほどの能力はありませんが、滑空して襲い掛かってきます。中には氷系の魔法を行使する個体もいますので、思わぬ手傷を負う可能性があります」


 ひえっ。

地竜かあ……倒せるけど、群れでくるから面倒なんだよね。


「【イワドモキ】は見た感じは大岩に見える虫の魔物です。外皮が硬いムカデ型で……普段は岩に見える体節を1つだけ地面に露出しています。獲物が近付くと、地中から這い出して襲って来ます」


「じゃじゃじゃ、砂漠にいる【ガンセキモドキ】によぐ似ておりやんす!」


 またまた出た!!


「ああ、それとほぼ同じと思えばいいでしょうね。隊の仲間に魔物学に詳しいものがいて……彼女曰く、近縁種だと思われているようです」


 ……この世界、無茶苦茶な生態の魔物とか多いだろうし図鑑作る人は大変だなあ。


「対処法もさほど変わりはありませんよ。背中の甲殻をハンマーなどで叩き割るか、ひっくり返して柔らかい腹を突くといいでしょう……あ、ですが中には毒を飛ばしてくる個体もいますので、注意が必要です」


 中々に修羅場だねえ、登山道も。


「一応お耳に入れておきます、10年ほど前には【ヘカトンクロプス】が確認されていたという情報もありますが……まあ、無視してもいいでしょう」


「じゃじゃじゃ!?」


 ロロンが驚愕している。


「アノ、ソレッテ強イ魔物デスカ?」


 なんにも知らんからね、ボク。

トモさんペディアに頼ってもいいけど、現地の人に聞けるなら聞いておいた方がいいと思う。


『むう……誇らしいような、残念なような……二律背反ですね、これは』


 さいですか。


「ムークさんが倒した黒曜ゴーレムの……およそ二倍ほどの身長の巨人です。強靭な手足に加え……背中に少なくとも4対の附属肢を持ちます。膂力もさることながら、手足を使って縦横無尽に素早く移動しますし、なにより知能が高い厄介な魔物です」


「ヒェ……」


 なんだその化け物!?

物騒な千手観音ですね!?


「加えて魔法にも長けていて、土系・氷系を熟練魔術師クラスに使いこなします。今はもういないとは思いますが……接敵した場合はとにかく逃げることを第一にお考え下さい。ムークさんやロロンさんの力量がどうこう、という話ではなく……通常は軍隊が討伐する魔物ですので」


 きっとしよう、そうしよう。

もし出会ったら……ロロンとカマラさんを抱えて魔力が尽きるまで飛んで逃げちゃる!


「ワカリマシタ」


「引き際をわきまえるのは戦士の鉄則ですよ。さて……主だった脅威はこのあたりでしょうか」


 クラッサさんはそう言うと立ち上がり、謎の魔法具の上に乗せていたポットを持って帰って来た。

あ、湯気が見えるってことは……アレってコンロみたいな感じなんかな?


「もちろん他にも魔物はいます。今言った箇所以外も油断なさらぬように……この辺りでは盗賊や山賊の話もとんと聞かないので、ならず者については気にせずともよいでしょうが……」


「ラーガリは安定していていい国でがんす! ワダスの在所には人攫いも盗賊もよぐ出ておりやんした!」


 前にも聞いたけど、ロロンの故郷はサツバツとしてるねえ……


「他にも何か、聞きたいことはありますか?」


 ということなので、ボクは前々から気になってたことを聞くことにした。


「アノ、直接ハ関係ナインデスケド……」


 ラーガリの南端より、さらに南方面に指を置く。


「コノ先ッテ、何ガアルンデスカ?」


 ラーガリというか、この小国家群の南側ってずうっと森の表記なんだよね。

この先に行くと海に出るんかな?

ここがどんな大陸なのか、全然わかってないし。


「ああ、ムークさんはご存じないのですね……この深い森は【戻らずの森】と呼ばれています。【帰らずの森】よりも深く、奥へ行くほど強力な魔物が出没し、厳しい自然環境があります」


 はえ~……そんなことになってるんか。

一生近付かないようにしよ。

用事ないし。


「そしてこの森を越えた先に――【南ノ魔国】があります」


 ……なんじゃとて?まこく?


「四方四魔王が1人、【南哮王】が治めている国ですね」


 四魔王!!

転生してすぐのころにトモさんに教えてもらった存在だ!!


「【帰らずの森】の奥にあるエルフの国以上に謎が多く、『ある』という情報以外は私にはわかりかねます。バレリアならもう少し詳しいでしょうが……どちらにせよ、相互不可侵というかそういう状態なので、ほぼ付き合いはありませんね。敵対も今の所しておりませんし」


 ホッ……ならいいや。

魔王なんて物騒なの、この虫生が終わるまで関わりたくないもん!

ボクは明るく楽しく異世界を楽しみたいんだ!!


『あまりそう言っていますと、フラグが乱立しますよ?』


 ……この話題は未来永劫出さないことにしよう!そうしよう!!


「他には何かありますか?」


「しぇば、旅装の相談ばしてえのす。今氷原猪の毛皮ば使って防寒具をこさえておるのでやんすが……」


 旅の準備物について打ち合わせする2人を見ながら、とりあえず暖かいケマを飲むことにした。

クラッサさん、流れるように注いでくれたね……ズズズズ。

うまうま~……


『激突!魔王対謎虫!……とは、なりませんでしたか』


 なりませんですことよ!?

そんなことしてたら寿命が何万年あっても足りない気がする!

そもそも、『グワハハハ!世界は俺のモノじゃ~!!』って感じの魔王さんじゃないっぽいし。

クラッサさんもそんなに脅威だと思ってない感じだったしね!


『そうですね、特に南と西の魔王は穏健派だと言われておりますし』


 ……北と東は?


『人間の国がなにかやらかしたらしくて、現在進行形でバチバチの冷戦状態です。まあ、小国家群と南の帝国は関係ありませんけど』


 ろくなことしないな、人間さんの国。

ちょっとは【ロストラッド】山田さんを見習ってほしいよ。


『あくまで噂ですが、初代イチロウ・ヤマダの妃の一人に魔国関係者がいたらしいですよ?』


 ヤマダさん!?

なんというか……色々すごいね!?

ハーレムキングだ……!!


『胸が大層大きい褐色のエルフ種だったとか、腕が6本ある下半身が蛇の魔人であったとか色々噂がありますね』


 もう何も言うまい。

山田さんは、凄い。

それでいいじゃないか、うん。

ターロあたりに聞いたら逸話とか色々聞けそう。

あいつ、そういうの好きそうだしね。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
>腕が6本ある下半身が蛇の魔人 姦姦蛇螺じゃないですか!? ヤマダさん守備範囲広すぎる……
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ