第121話 たまには地味なお仕事も、大事!!
「ヨッコイショ」
背負ったものを、どさりと下ろす。
ふいい……これで20個目、と。
「終ワリマシタヨ~!」
「なんだ?そんなに急がなくてもいいのによ……どらどら」
声をかけると、体格のいいタヌキさん……ブンブクさんがのそりと出てきた。
「おう、たしかに!ムークさん、力強いなあ」
「成長期ナノデ」
「がっはっは!そりゃいいや!」
お腹をポンと叩き、手元の帳面に何かを書きつけるブンブクさん。
「……よし、と。確かにしっかり確認したぜ、依頼ご苦労さん!」
そして、帳面を千切ってボクに。
それにはサインと……ハンコ的なものが押されていた。
「ドウモドウモ」
「しっかし街中の依頼なんざやってんのな。ビックリしたぜ」
「ナニゴトモ経験デスカラ」
今日のボクは、冒険者ギルドで街中の依頼を受けて消化している最中だ。
現在の依頼は『荷物搬入』
いろんな所に運ぶ荷物のうち、ここへは金属の板。
それを、荷車から下ろして店の倉庫まで運んだ。
依頼受けてきたら一発目の先がブンブクさんのお店だったからびっくりしちゃった。
ちなみにロロンはマーヤたちと組んで街の外。
でっかい猪?を狙うらしい。
ボクは、ピーちゃんが街を見たいと言ったから引率兼アルバイトってわーけ。
……ターロは、大人の遊園地でミイラみたいになって帰って来たので宿で寝ているようだ。
さて、貰った紙片をバッグに入れる。
これで、冒険者ギルドから受けた依頼一軒目完了!
最後はこのサインを持って行ってお金を受け取るだけってね!
「それで……あの子たちはここで面倒見とくからな、ゆっくりさせといていいっていうか……もうちょっと、ゆっくりさせてやってくれや」
「アア、ハイ。御迷惑ヲ……」
ちらりと見えた店内の様子。
そこには、山盛りになったお菓子をアカとピーちゃんにふるまう笑顔のポコさんの姿が!
……山盛りだ、ホントの山盛りだよ。
「いいんだよ、妖精を2人ももてなせる機会なんざ滅多に……というかほぼねえからな」
ブンブクさんはそう言ってガハハと笑うのだった。
いい人すぎる……いい人の限界突破じゃんか。
「さあ、入っていきな。見ての通りハニーが山ほど菓子を焼いちまったからよ……ロロンに持って帰っても余るぐれえだ」
「アッハイ、オ邪魔シマス」
一仕事終えたから、ケマで喉を潤そうかな!
この仕事、時間指定はされてないしね!
・・☆・・
この街にいる間に、街中の依頼も受けてみることにした。
お給金は外の依頼と比べたら雲泥の差があるけど、人と触れ合って対人スキルも磨いておいた方がいいんじゃないかって思ってね!
殴れば大体解決するお外の依頼と違って、こういうのにも慣れておかないと。
「つぎは~?つぎは~?」
「ンット……コノ先ノオ店ダネ」
『荷車を引くなんて……さっちゃんと働いたのを思い出すわ!懐かしい!』
ブンブクさんのお店での依頼を終え、長いこと休憩して……無茶苦茶引き止められつつも次の依頼へ向かう。
『泊まっていけ』って言われるとは思わなかったよ。
それはさすがにクレーム来ちゃう!
今ボクが曳いてる荷車は、冒険者ギルドで借りたモノなんだ。
これで大きな倉庫から、依頼人の所まで荷物を届けるってわーけ。
ちなみに倉庫なんだけど、案の定ロドリンド商会だった。
でっかい会社だねえ……ラーガリならどこの街に行ってもそれなりの規模のがあるらしいし、すごいや。
あ、お店が見えてきた。
ええと……あのお店も前にも行ったところだ。
「コンニチワ~」
店先で掃き掃除をしていた獣人さんに声をかける。
「あら、あなたは前にいらした……今日は配達なのですね、ご苦労様です。荷物はこちらに」
「ハイ~」
看板には【ダムアの店】とある。
そう、前に毛皮を買いに来たところです!
……対人関係を鍛えようと思ってるのに、顔見知りのお店にしか来ないという矛盾!
まあ、ボクが運ぶお店を選んだわけじゃないし。
ボクは無罪です!です!
「こにちわ!こにちわ~!」「チュチュン!」
「まあ!今日はかわいらしいお友達もいらっしゃいますね……倉庫はあちらです、手前の木箱の上にそのまま積んでくださいな」
今回の荷物は……よくわかんない毛皮の束がいっぱい!
ロロンが獲物から剥ぎ取ったホヤホヤみたいな感じじゃなくて、もう鞣された感じだ。
価値も皆目見当がつかないけど、運ぶだけでいいので気が楽!
「てつだう!てつだう~!」
「ワワワ」
アカが念動力で毛皮を浮かせてくれたけど……見た目が児童の違法労働!
『ピーちゃん、アカと一緒に見物しててくれる?』
『はーい!……アカちゃん、わたしと一緒にお店を見ましょ!見ましょ!』
『あい~!』
ボクの手に毛皮を下ろし、アカはピーちゃんと仲良く店先に飛んでいった。
「アノ、汚シマセンカラ2人ヲ待タセテアゲテクダサイ」
「大丈夫ですよ。妖精が2人もいらっしゃるなんて縁起がいいですから」
……ボク、ダムアさんにピーちゃんが妖精って言った?
「狩りの途中に鳥の妖精さんをたまに見かけますから。あの方もそうですよね?」
「アッハイ」
そっか、妖精さんって他にもいるもんね。
アカたちみたいに街中で見かけることはあんまりないだけで。
「私の曽祖父が、【帰らずの森】で迷った時に妖精さんが道案内をしてくれたという話があって……『妖精には礼節を持ってあたれ』というのが我が家の家訓です」
あらら、そうなの?
エルフさんとは違うけど、妖精に優しい人が多いなあ。
『ぶっちゃけ一部の犯罪者と人間以外はこんなものですよ。日本で言う所の神道信仰に近いものがありますね……恐れと敬意をもって、自然に帰依するというかなんというか……』
ふむん、ふむふむ。
しみじみ、人間の国に生まれなくてよかったよ。
実際に見たわけじゃないけど、どんどんヘイトがたまっていくでござる。
「お2人様、なにかご覧になりたいものはございますか?そちらの棚などは……」
ダムアさんがニコニコしながら2人に寄って行った。
よし、この間に搬入済ませちゃお!
『おいしいわ!おいしいわ!』
「おいし!おいし!」
「オ供エミタイニナッテル……」
毛皮の搬入を済ませて店先に戻ると、小さなベンチにアカとピーちゃんがいた。
そして、2人の前というか周囲には……お菓子の山が!!
「あら、ご苦労様です。申し訳ありません、ウチの従業員や通りすがりの方々が、その……」
「アア、イイデスイイデス。ムシロ色々ゴ馳走ニナッチャッテ悪イデスネ……」
可愛がられてるねえ、お2人さん。
「おかいり!おかいり~!」
「ハイ、タダイマ……ムゴゴゴ」
アカが自分の顔よりも大きい飴玉?を運んできて、ボクの口にねじ込んだ!
これ、ボクにはいいけど他の人にはやらないように言って聞かせないとね……-具体的に言えばご老人とか。
あ、この飴玉おいし……なんか果物の味がする!
「はい、ありがとうございました……あの、お菓子を包みましたのでこれも、お持ち帰りください」
ダムアさんは依頼完了の紙と一緒に……結構な風呂敷包みを持ってきた。
なにあれ……
「申し訳ありません、ラーガリ南部の住民は特に妖精が好きなもので……森と生きていますから」
ああ、なるほど……でも、これ確実にお仕事で貰うガルで買うよりも多いよね、お菓子。
『まあ、誰も困っていないので受け取っておきましょう。お菓子は日持ちしますし』
そうしようか……毒とかも入ってないだろうし。
「おやびん、おしごとおしまい?おしまい?」
「アト一個カナ~」
『ソレが終わったら別の街にも行ってみたいわ!』
はいはい、妖精のリクエストは断れないね。
なんやかんや言ってボクもしっかり見れてないし……今度は西街に見物にでも行くかな!
ダムアさんにみんなで手を振って、最後の配達先に向かうことにした!
・・☆・・
「たらいま!たらいま~!」
『楽しかったわ!とっても!!』
日が暮れ始めたころ、宿屋に帰って来た。
「おかえりなさいませ~!お風呂はもう沸いてますよう!」
先に飛び込んでいったアカとピーちゃんを、アリッサさんが出迎えている。
庭先からクラッサさんも出てきたね。
薪を割ってたのか……マサカリが無茶苦茶大きい!
「ムークさん、お仕事ご苦労様でした……なんです?その大荷物は?」
「妖精ヘノ貢ギ物、デスカネ……?」
ボクは、背負った風呂敷を軽く振った。
だって、最後の配達先がお菓子屋さんだったんだもん……
店長さんも、お客さんも、それどころか通りがかりの人もむっちゃ奢ってくれたんだよね……
ダムアさんが言うように、ラーガリの人って妖精好きすぎ……
「戻りやんした~!」
「今晩はご馳走ニャ!」
「ん、大物が獲れた……このまま焼いて香辛料で美味しくいただく、じゅるり」
「ウワーッ!?!?」
ロロンを先頭に、マーヤとミーヤが皮を剥がれたとんでもないデカさの猪を担いで帰ってきた!
おっきいけど!グロい!!
「オ、オツカレ……大キイネ」
「んだなっす!うめぇこと罠に嵌めたのす!」
返り血まみれのロロンが、歯を見せて豪快に笑っている。
「……すんすん、すんすんすん」
マーヤ、マーヤさん!?
真顔で匂い嗅ぎすぎですよ!?
「甘い匂い、する。お菓子?それ」
「ほんまニャ!いい匂いニャ~!猪食わせるからお菓子寄越せニャ~!」
「ピギャーッ!?!?」
食べさせるから!食べさせるから猪ごとにじり寄ってこないで!
血が!血がついちゃうから~!!