第120話 とにかく、旅の仲間追加1名入りま~す!!
『嘘ォ!?トウキョウタワーよりも高いの、建ったの!?』
『うん、スカイツリーっていうのがあるらしいよ。ボクも見たことないけどね』
ピーちゃんと会話、もとい念話をしている。
彼女はボクの知ってる日本の話を聞きたがったんだ。
声に出してないので、誰かがこの部屋を見たらベッドのピーちゃんをガン見して黙っているむしんちゅが見えることだろう……ホラーかな?
『ムークさんはかなり未来から来たみたいね……じゃあじゃあ、もう車は空を飛んでるの!?』
『それは、法律の関係でまだみたい。でも、自動運転の車とかはそろそろ走り出す……んじゃないのかな?』
『まーっ!すごいわ!さっちゃんと一緒にテレビで見た未来世界みたい!』
概念だけしか知らないとはいえ、日本の話ができる存在と出会えるとはね……
あ、イルゼもいたか。
でもあの人とはこんな話ができるような間柄じゃないしね……
『むっくんたちの話の最中にこちらで調べました。【ミカーモ】初代当主の名は【サチ・ミカーモ】……戦災孤児を多数引き取り、自分の子供のように慈しんだという逸話が残っていますね、その孤児院も残っていますよ』
完全にさっちゃんさんじゃん、その人。
『あのね、ピーちゃん。今思い出したんだけど……トルゴーンに【ミカーモ】って家が残ってるんだって、それに、そこの孤児院もまだあるらしいよ?』
トモさんのことは説明し辛いので、困ったらゲニーチロさんから聞いたって言おうかな。
『まーっ!それよ!きっとそれだわ!』
興奮したピーちゃんが、ベッドの上でカッ!!と光った。
目が!目が~!!
『遠くからでもいいから見てみたいわ!ムークさんのお陰ね!』
『いや別にそんな……ボクは何もしてな……そうだ、ピーちゃん。ピーちゃんって街の結界を破れるくらい強いのに、なんであそこで捕まってたの?』
保有魔力は上位魔物くらい……ってトモさん言ってたし。
たしかにあそこの鎧たちはそこそこ強かったけど、それでも苦戦するとは思えない。
『それが覚えてないの!あそこの近くで木の実を食べて、お昼寝して……気が付いたらもうあそこにいたのよ!慌てて結界を張ったけど、あのままだとジリジリ消耗しちゃってたわ!』
『謎は深まるばかりってわけか……』
新種の夢遊病かな?
『それにね!わたしは結構長生きだから魔力は多いと思うけど……戦ったことなんて全然ないの!飛んで逃げるのは大得意だけど、あそこは暗くてじめっとしてたから……』
ああ、ゾンビ的な魔物って暗かったり夜だったりすると強くなるとか聞いたね、そういえば。
『よく覚えていましたね。妖精はいわば『陽』の存在です、『陰』の存在に囲まれていると力を発揮できないことがあるのですよ』
はえ~……地形とか環境に影響を受けるってわけか。
『街の結界についても、そもそも妖精のような存在を排除する目的で張られているものではないのです。だから、『陰』の魔物よりも比較的簡単に破れる……ということでしょうね』
ちなみにラーヤだと?
『陰陽とか関係なしにバリンバリン割れます、たぶん。彼女は別格の存在です』
……なるほど、なるほど。
遥か雲の上って感じか~……世界って広いなあ。
『ムークさんに話してよかったわ!素敵な出会いに感謝ね!ラーヤルーラ様にもお礼を言わなきゃ!』
そういえば様付けだ……やっぱりお偉いさんなんだなあ。
『あ、ラーヤは元気?』
『元気だと思うけど、あの方はお忙しい……というのも違うわね?色んな所にフラフラいらっしゃるから!』
ああ、そういう感じなんだ。
お偉いさんでも、妖精は妖精なんだね……
『まあ、とにかく……トルゴーンまでよろしくね。なにかいるものとかあったら買うから教えてね、お給料もらってるから』
『よろしくね!人間さんとお出かけするなんて、さっちゃんと一緒の時みたいで嬉しいわ!嬉しいわ!』
本当にうれしいのか、ピーちゃんは寝ころんだままチュンと鳴いたのだった。
……まあ、ボクはむしんちゅなのですけども。
見た目だけは。
・・☆・・
「おやまあ、珍しいこともあるもんだよ。まさか妖精をまた見るなんてねえ」
『よろしくね!わたしはピーちゃん!』
「あら、かわいらしいお名前だこと……よろしくね、アタシはカマラさ」
ピーちゃんと地球の話なんかをしているうちに、グッスリ眠って……翌朝。
朝ご飯を食べにみんなで下に降りたら、食堂でカマラさんに会った。
彼女はピーちゃんを見るなり、妖精だって見抜いたんだ。
あ、ちなみにロロンのお腹はぺったんこに戻っています。
アルマード恐るべし……!
「妖精ダッテ、ワカルンデス?」
「そりゃあわかるよ、ただの小鳥がこんなに魔力を持ってるもんか。それに薄く発光してるしねえ」
……そういえばそうだった。
「ムークちゃんといると退屈しないねえ。この歳になって、妖精と話すどころか一緒に飯を食うなんてさ」
カマラさんはそう言って、面白そうに笑った。
すごい余裕だ……アリッサさん姉妹なんて一夜明けた今でも挙動不審なのにさ。
……いや、アレは妖精大好きだからか。
ボクらはカマラさんのテーブルに一緒に座ることにした。
「おなかすいた、すいたぁ!」
『空いたわ!空いたわ!』
……昨日あんなに食べたのに?
「いい匂いでやんす……!卵焼きでやんす!」
昨日あんなに食べたのに!?
この子たちの燃費は一体どうなってるんだ……?
『では、むっくんは~……?』
お腹空いた!!
『腹ペコパーティでいいじゃないですか、ふふ。ちなみに妖精は殆ど気分で食事を摂りますよ、アカちゃんにはまだ無理でしょうが……ピーちゃんはいざとなれば大気中の魔素を取り込んで生命の維持ができるでしょう』
……ロロンは?
『前に言っていたでしょう、明日戦争が始まってもいいように食べると』
まさかの根性だった!?
『まあ、それは冗談です。ロロンさんというかアルマードは、背中の装甲に魔力を蓄積し、強靭にするという体構造をしています。お腹が空きやすいのはそれのせいでしょうね』
……獣人さんってすっごいなあ。
『飢餓状態ではその溜めた魔力を生命維持に回すそうですよ……アルマジロさんというより、ラクダさんですかね?』
……背中のこぶが装甲になったラクダが見えた気がする。
スタミナが凄そう。
「おまたせしましたあ~!今朝のメインディッシュはユウガオドリの卵焼きですよう!」
アリッサさんが、大きなオムレツとサラダを運んできた。
うはー!美味しそう!!
「衛兵隊の皆さんが訓練ついでに狩ったものを分けてくれたんですよう!元手ゼロの大盤振る舞いですよう!!」
『ユウガオドリ……全長3メートル前後の肉食性害鳥ですね。ある時期になると大量発生しますが、肉も卵も美味なので発生した瞬間に狩りつくされます』
それ害鳥なのかな……
ボーナスタイムみたいな扱いじゃないか……
「ふわふわ!おやびん!ふわふわ!おいし!!」
さっそくアカが顔面をケチャップ的なソースまみれにしている。
ああもう……美味しいのはわかるんだけどね?
『なにこれ!美味しいわ!とっても美味しいわ!!』
わわわ、ピーちゃんまで。
……アレ、卵食べて大丈夫なんこの子?
『わたしの卵じゃないから関係ないわ!美味しいわ!』
ボクの表情を読んだようだ。
そ、そうですか……じゃあいいや。
よく考えたら鳥をモグモグする鳥もいたしね。
「んめめなぁ~……んめめなぁ~……」
ロロンも舌鼓を打っている。
冷める前にボークも!
うひょひょ、ナイフがスッと入るよ……いただきマース!!
「ンマイ!ンマイ!!」
濃厚な卵の味に、ちょっと酸味のあるソースが絡んで……たまんないや!
地球の卵よりも美味しいんじゃないこれ!?
んほほ、幸せ~!
「なんだいアンタまで。まったく……子分に似た親分だよ、ホレホレ」
「ムワワワ」
カマラさんに口を拭かれてしまった。
とっても恥ずかしい!
「アカちゃんも……誰も取りゃしないんだから、落ち着いて食べな」
「むいむいむい……あいっ!」
アカも同じように顔を拭かれ、元気にお返事。
素直な子分だよ、ホントに。
なお、後ろでは『私が拭きたかったですよう……』みたいな顔をしたアリッサさんが布巾片手にたたずんでいる。
妖精好きすぎでしょ。
まあ、アカはトップクラスにかわいい妖精だからしかたないけど。
『おや、他に人型の妖精をご存じで?』
ラーヤしか知らないけど、アカは一番かわいいに決まってるでしょ!
『今日もとってもいいおやびんなので、トモさんポイントを差し上げます』
わーい!
やっぱり付与のハードルがガバガバなんじゃない?
まあいいけど!貰えるものは貰うけど!!
「へえ、この子もトルゴーンまで一緒に行くのかい?」
「エエ、大丈夫デスカ?」
「構わないさね。妖精が2人もいるんだ、道行もさぞかし楽になるだろうさ」
『ありがと!ありがと!』
朝食後、トルゴーン行きにピーちゃんが加わってもいいかと聞くとカマラさんは快諾してくれた。
左肩にはアカ、右肩にはピーちゃんが乗っているカマラさん……なんか、神々しいな。
ボクがやるとなんか微笑ましくなるんよね、その恰好。
「ムークちゃんは善かれ悪しかれ、面白いさだめに恵まれてるねえ」
「悪ノ方ハ遠慮シタイデス……」
これ以上の面倒ごとはこりごりなんですわよ!
「それで……もう少し作業をしたら出発ってことでいいかい? たぶん、1月はかからないから、また10日前に言うよ」
「アッハイ、大丈夫デス……イイヨネ?」
「あいっ!」「問題ねがんす!」『いいわ!』
我がパーティに異論はないようだ。
「もう取ってきてもらう物もないし、ゆっくりしておきな。ちょいと見ない間にムークちゃんもまたいい男になったようだしね、適当に依頼でも受けときな」
進化したのバレとる!?
……バレるか、そりゃ。
腕と足が一回り大きくなったし、パーツに線が増えたし。
この外出時に成長したってことにしておこう。
そのために街の外に出たんだしね。
「たっだいまニャ~!」
「ただいま、おなかすいた」
「ミーヤさん、マーヤさん!お帰りなさいませ~!……あれ、ターロさんは?」
「娼館に泊まるって朝から走って行ったニャ!アイツの〇〇〇腐ればいいニャ~!」
ミーヤ達も帰ってきたみたい。
また賑やかになるなあ。
まだ先だけど……出発までに、もう少し体に慣れておこうっと!