表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

183/322

第118話 ピーちゃんのお話。

「戻リマシタ……」


 がちゃり、と宿屋のドアを開ける。

すると、カウンターにいたアリッサさんがすぐに走ってきた。


「お帰りなさいませ~! あらあら、びしょびしょですねえ!?急に雨が降って来たから……あの、他の皆さまは?」


「ココニ」


 ばさ、と濡れたマントを広げる。


「お、おもさげながんす、ムーク様」


「おやびん、ぬくぬく!ぬくぬく~!」


 その下から、ロロンと彼女の頭に乗ったアカが出てきた。

アカはともかく、ロロンも十分小さいからね……こういう時には便利、便利。 


「おやびん、おふろいこ、おふろ~!」


「あらら、いい親分さんですね! お湯はすぐに沸かしますよう!」


「アリガトウゴザイマス……」


 ぶるる、寒い。

まさか帰る途中に土砂降りになるとは……あ。


「アリッササン、チョットオ願イガアルンデスケド……」


 マントを完全に後ろへ回す。

すると、最後に残ったもう1匹……1人?が出てきた。


「チュチュン!」


 マントの内ポッケに入っていた、ピーちゃんだ。

こうして見ると完全にただのセキセイインコだ。

チュンチュン鳴いてるし。


「あら!かっわいい~!……どうなされたんです、この子?」


「エット……アカノ友達ナンデスヨ、ソレデ……オ金払ウンデ、泊メテアゲテモイイデス?」


 『おしごと』について聞こうと思ってたら、無茶苦茶天気が悪くなったんだよね。

そのままテント泊してもよかったけど、ピーちゃんが『物凄い雨になる』って教えてくれたんだ。

なので、こうして皆をマントで包んで帰って来たってわーけ。

おひいさまのくれたマント、全然水を通さないから助かった。

……ボク?びしょびしょ虫ですよ。


「そういうことでしたら、お代は結構ですよ」


 あ、奥からクラッサさんが出てきた。


「ああ、でも糞の始末とかは必要ですね。後でそれ用の籠をお持ちします」


「エエ? 悪イデスヨ……」


 そもそもピーちゃんは妖精さんなので排泄はしないし。

けど、タダってのは……


『――大丈夫よ!優しいお二人さん!わたし、そういうのしないから!』


「……へ?」「……い、今のは?」


 ピーちゃんの念話に、アリッサさんたちが揃って動きを止めた。

え?正体開示していく感じなの?大丈夫?


 ボクの肩に乗ったピーちゃんは、そのまま薄く発光して……


『初めまして、わたしはピーちゃん! アカちゃんと同じ妖精よ、よろしく!よろしく!』


 そう念話で言いつつ、またチュンと鳴いたのだ。


「「――ッ!?!?!?」」


 それを受けた彼女らは、揃って地面に倒れ込……まなかった!

なんとか踏みとどまっている。

けどすごい……満身創痍だ。

戦いの最中みたい。


「アカちゃんを知らなければ、即死でしたよう……!」


「ええ、命拾いしたわねアリッサ……!!」


 アライグマ姉妹は、肩を組んで立っている。

……突っ込まない方がいいね、彼女たちは真剣なんだし。


「そもそも、私達は部屋代を頂いておりますので……妖精さんが1人増えても何も問題ありませんよう!」


 アリッサさんは、満面の笑みでそう言い。


「何か食べられないものはおありですか?あ、ない……それでは、夕食には腕を振るいますので!」


 クラッサさんは、ピーちゃんに食事の好みを聞いていた。

つ、強い……!!


『何が強いのですか』


 それは!ボクにも!わかりません!

とりあえずお風呂に入りたい!です!!



・・☆・・



「フィイ~……」「ふぃい~……」


 ああ、やっぱりお風呂は最高だ。

冷えた体が芯から温まるなあ……


『お風呂!これがお風呂なのね~!みんなが大好きなのがわかるわ!』


 アカはいつもボクと一緒に入るので、まあいい。

ロロンも女湯に入ってるだろうし。

……ピーちゃん、何故こちらに?

キミ、オスなの?


『あの、なんでこっちに?』


『アカちゃんが来たから!』


 あっそう……考えてみれば、妖精さんに人間のお風呂設備のことなんてわかんないか……


『そういえばムークさん、随分強そうになったわ!これならアカちゃんも安心ね!』


 あ、それ最近です。


「おやびん、さいきょ!つよい!かっこい!」


 基本的にアカは全肯定子分だからねえ……照れる!


 アカと同じタライに入っているピーちゃん。

彼女?は、お湯の中に仰向けになって羽を広げ……顔以外はお湯の中だ。

……今更だけど、鳥ってこうやって水浴びしたっけ?


『仕事のこととか、色々聞きたいけど……とりあえず、それって急ぐ話?』


『全然!こうして会えたからいつでもいいの!』


 ふうん……あんなに探してたみたいだから急ぎの話かと思った。

それならまあ、今はいいか。


『じゃあ、ご飯食べた後に部屋で聞こうかな。アリッサさんたちの許可も取れたから、ゆっくりしていってよ……アカも喜ぶし』


『まあまあ!いいお宿ね!とっても!』


 それはそう。

考えてみたら、今まで外れの宿屋に当たったことないね。

ボク、宿運にも恵まれてるのかな~?



・・☆・・



『おいしかったわ!とっても!』


「おいしかった!かったぁ!」


「んだなっす……うぷ」


 お風呂から上がり、夕飯を済ませて部屋に戻った。

今晩のメニューはキノコのシチュー的な煮物と、硬くて美味しいパン、そして山盛りの瑞々しいサラダだった。

クラッサさんがニッコニコでとんでもない量を持ってきたんだよね……ここの経営大丈夫なんかな。

他のお客さんにも同じぐらい持って行ってたけどさ。


 ちなみにカマラさんはお部屋で作業中らしくって食堂にはいなかった。

その時にクラッサさんに聞いたけど、ターロたちは明日からここに戻ってくるみたい。

賑やかになりそうだね。


 そして部屋に帰った今。

驚くべきことに、ボクら4人中3人がお腹をポンポンにしている。

ピーちゃん、鳥にあるまじきポンポンぶりだけど普通に飛んでたの凄いな……


 ロロンも妊婦さんみたいになってるけど、寝て起きたら元通りのお腹になってるんだよね。

生命の神秘だ。


『じゃあ、落ち着いた所で……ピーちゃん、お話大丈夫?』


 今、ベッドの上でひっくり返ってるけどさ。

絶対に鳥ってこんな格好で寝ないでしょ……やっぱり、ピーちゃんは鳥じゃなくて『鳥型の妖精』さんなんだね……


『ええ!いいわよ!』


 元気のいい念話だけど、翼を広げて毛布に全身を預けている。

このまま寝ちゃわない、これ?


「うぷ……しぇば、お仕事の内容、をば……」


「イイカラ、ボクガ仕切ルカラ!ロロンモ、ゴローン!シテテ!」


「じゃじゃじゃあ!?」


 無理して椅子に座らないの!

もう!真面目なんだから……抱き上げてベッドにそっと!置く!!


『まあ、大胆ですねむっくん』


 そんなんじゃないやい!!

こんな相手に劣情もなにもないでしょうに!


「ごろごろ~!あはは!ごろごろ~!」


 ……同じようにお腹ポンポンなのに、アカは元気だなあ。

まあいいや。

色々遠回りしたけど、やっとお仕事とやらの話ができるぞ。


『そんなにたいした話じゃないのよ? おしごとっていうのはね……わたしを、一緒に連れて行ってほしいの!』


 ……どこに?


『ええと、なんていったかしら……ムークさんみたいな人がいっぱいいる国に!』


『……トルゴーンのこと?』


『そう!そこ!トルゴーン!!』


 ……えぇえ?

今度はなんだろうって思ってたけど、なんとも……簡単な?話じゃないか。

渡りに船が二艘来ちゃった!


『うん、近いうちに行く予定だけど……なんで? トルゴーンに用事でもあるの?』


『わたしねえ、昔そこで暮らしてたのよ!』


 ……なんじゃとて?


『すごーく、すごーく昔にね! それでね、ちょっと行ってみたくなっちゃったの!』


『ほむほむ……いや、ボクらとしては全然OKだけどさ……飛んで行けばいいんじゃない?』


 ピーちゃん空飛べるじゃん。

ボクらを見つけるまで、むっちゃ速い速度で飛んでたしさ。


『そうできたらいいんだけどね! わたしが行きたい街、空からは絶対に入れないの!』


 ……地下にでもある街なのかな?


『ものすごーく頑丈な結界が張られてるの!無理をしたら入れると思うけど、そんなことしたら大騒ぎになっちゃうでしょ?』


『……なるほど、その街が分かりました』


 マジで、トモさん!?


『妖精が苦戦する程の魔導防壁が張られている街は、そう多くはありません……この小国家群では12個ですね』


 ……それって?


『――各国の首都、そこしかありえません』


 あ、なーるほどね。

……そこにも行く予定じゃん!?

渡りに船が到着しまくり!? 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ピーちゃん、実は大妖精? 結界破れるほどに!? 鳥妖精恐ろしい子「ガクガクブルブル」
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ