第117話 慣れてきた&お久しぶり!
「ガアアアアアッ!!」
涎を撒き散らして、草原狼が大きく口を開けて飛ぶ。
「ムウウゥ……!」
左腕を溜めて――突き出すッ!!
「オウリャアッ!!」「ガバ!?!?!?」
立派な牙をへし折りながら、左拳が喉に侵入……!
――パイル、三連オンッ!!
「ベビャアッ!?」
パイルが炸裂した瞬間……草原狼の頭部が爆散。
かわいそうなその破片が、ボクに降り注いだ。
ぺっぺ!むわ、口に入った……ああ、食べなれたお味……
「おやびん、しゅごい!ばーんってなった!なったぁ!」
「棘の威力ば、ぐうんと上がりやんしたね!……タオルをば」
アカは嬉しそうに、ロロンは心配そうに寄って来た。
「アリガト……ダイジョブ」
ボクらの周囲には、焦げたり貫かれたりした草原狼の死体が転がっている。
……結構いたなあ。
進化してからしばらく。
ボクは、テントの周辺でおニューの体に慣れるために色々やっていた。
衝撃波の威力も上がっているから、前と同じ感じで使ったらものすごい勢いで飛ぶし。
ボクを地面にめり込ませた補助翼も、イメージしたら動くんだけどむっちゃピーキーだし。
ボクは飛行機じゃないので空力的にアレなのですぐに墜落というか激突しちゃう。
まあそんなわけで、アカやロロンに見守られつつ飛んだろ落ちたり、落ちたり落ちたりしてたんだけど……なんか、音が大きかったみたいでむっさ草原狼が寄って来た。
なので、今の今まで戦ってたってわーけ。
「臨時収入でやんす~♪」
草原狼の成れの果てを、ロロンがウキウキで皮を剥いでいる。
もう全部剥いだの……?
相変わらず手際がとってもいいね!
「たべゆ?たべゆ~?」
……なんでも美味しく食べられるアカには悪いけど、ボクは移動式動物園こと草原狼くんはもう食べたくない。
口が肥えてしまったので!
動物園はもうこりごりなのだ!
なので~……!バッグに手をイン!!
「アカ、干シタ何カノ果物ヲドウゾ」
「わはーい!あむあむ……おいし、おいし!」
ふふふ、市場で買った謎のドライフルーツ詰め合わせをお出しするという寸法だ!
「おやびんも~!」
「モムモム……甘クテオイシイ!!」
アカが有無を言わせずねじ込んできた謎フルーツ……ドライマンゴーの味がする!
地球産と比べれば甘さ控えめなんだけど、それでも美味しい!
移動式動物園とはわけが違うね!!
「ロロンも~!」
「ふみゅむ……んぐ、んめめなっす!」
作業が一段落したロロンにも大好評だ。
「ジャア、穴埋メチャウネ~」
草原に掘った穴には、皮を剥がれたグロイ狼たちがみっちり詰まっている。
このまま放置しておくと腐ったりゾンビになったりゴブリンが寄ってきたりするらしい。
恐ろしいし、迷惑がかかるのでしっかり埋めておこう。
ちなみに穴は進化で獲得した能力を使って楽勝で掘れました!
……って言えればいいんだけどね。
どれもこれも癖が強すぎる能力なので、おとなしくお手手で堀りましたぞ。
電磁投射砲なんか使ったら大災害クラスの大穴になっちゃうからね。
『体には慣れましたか?』
狼くんたちのお陰様でね。
結論としては……一般貧弱魔物くん相手には素手でぶん殴るか黒棍棒くんでぶん殴ればいいということになったよ、トモさん。
それ以外だと威力が高すぎるんよ……速射衝撃波以外だと基本的にオーバーキルになるんよ。
隠形刃腕だと切れすぎるし、パイルだとさっきみたいに粉々になっちゃう。
腕のチェーンソーなんか、斬れながら燃えちゃったしね。
『むっくんも強くなりましたね……感無量です、私は』
へへーん。
ボクだってそこそこやれるようになったんですよ!
最強虫になる日も遠くないね!
『対人戦という課題は残っていますが』
むううん……それは言わないお約束でしょ?
いいんだよ、そうそう悪人さんとは是合わないだろうし。
いざとなったらアウトレンジから衝撃波連発で無力化すればいいんでござるよ。
電磁投射砲は青色の閃光が出るようになったけど、普通の衝撃波は見えないからねえ。
『ゲニーチロさんが相手では?』
そんなもん……初手土下座でしょ、土下座。
ちょっと強キャラが過ぎるんじゃよ、ゲニーチロさんは。
戦ってるところ見たことないけど……あのトキーチロさんを倒したらしいし。
そのコピー体にすら苦戦していたボクにはとてもとても……
「おやびん、もうない?もうない~?」
「ハハハ、何ヲ仰ル……追加~!!」
「わはーい!」
フフハハハ、在庫は大量にあるのだよ!だよ!
『……空間拡張背嚢、おおよそ4割の空間を食料・保存食に費やしていますからね……むっくんの飢餓に対する恐怖心はかなりのものです』
転生したての頃のトラウマがね!
もうあんな思いはしたくありませんのじゃ!
『初心に帰って草を食べればいいじゃないですか』
嫌どす!
ボクはもうグルメ虫になっちゃったので~!
「むいむい……む、む?」
肩に座ってもぐもぐしていたアカが、不意に空を見上げた。
「おやびん、なんかくる、くる!」
「……ナンジャトテ?」
敵か!?味方か!?
いや、空から来る味方に心当たりはないね?
『アカちゃんの感知範囲はかなり広くなりましたからね……こちらでも確認しました。むっくんの正面方向、山の向こうから何かが来ます……』
マジで!?
『マジです、保有魔力がかなり多い……上位の魔物か、それとも……』
た、大変だ!
こんなに見晴らしのいい空間、どこにも逃げられない!
「ロロン!何カ来ルッポイ!戦ウ準備ヲ!!」
「――合点でやす!」
狼の革をくるくる巻いてたロロンも表情を変え、すぐさま槍を拾い上げて構えた。
さて……まだ距離がある、なら!
バッグから魔石を取り出し、口に放り込んで噛む。
そして、胸に意識と魔力を集中――がしゃんと胸の装甲板が左右に開いた。
戦いの最中なら無理でも、遠距離狙撃ならできるってね!
さあ、魔力充填開s――
『――待ってください、この魔力振動の波形は……』
え?なに?
敵じゃないの?
キャンセル!お胸キャノンキャンセル!!
……魔石は再利用しよう、ぺっと。
「あ!」
アカの声に続いて、小高い山の向こうから何かが飛んできた。
「じゃじゃじゃ? アレは……」
ロロンも槍を下げる。
「わはー!」
アカが肩から空に飛び立ち、上空へ。
それを確認したのか、向こうから飛んできた……『発光する玉』がなんというか、ランダムな軌道でこちらへ向かって来る。
まるで、探していた何かを見つけたように。
アレは……
光の玉はこちらへ来るほどに発光を弱め、その『中身』が見えてきた。
ああ、見覚えがある。
とても、見覚えがあるそ!
『――見つけた!見つけた!!』
頭に響く声……念話だ!
そして、この声色、やっぱり……!
「ピーちゃ!ピーちゃ!!」
『アカちゃん!アカちゃーん!!』
ボクらの斜め上の空で、アカと楽しそうに飛び回っている……薄く発光する1羽のセキセイインコ。
もとい……ラーヤと知り合った時に出会った、妖精のピーちゃんだ。
再会を喜び合うようにしばし空中で飛びまわり続けた2人?は……こちらへ戻って来た。
『お久しぶり!ムークさん、ロロンちゃんも!』
「ヤア、コンチハ」
「お久しぶりでやんす!元気そうだなっす!」
ホッ……敵じゃなくてよかった。
でも、なんでこんな所に?
そういえば今しがた『見つけた』って言ってたけど……?
・・☆・・
『おいしいわ!おいしいわ!ヒトの食べ物って本当においしいわ!』
「むいむいむい……おいし!おいし!」
「お代わりはいぐらでもありやんす。どうぞどうぞ」
空からやって来たピーちゃんは、テント前に広げたマットの上で食事に夢中だ。
ちなみにメニューはケマと、なんか超硬いクッキー。
素朴なお味がケマによく合うねえ。
「……マタ会エテ嬉シイケド、何カボクラニ用事?」
食事もひと段落してきたので、質問。
『んぐんぐ……ぷは!』
顔を半分以上カップに水没させていたピーちゃんがこっちを見た。
なんという飲みっぷり……っていくか鳥が飲んでも大丈夫なのかな。
あ、妖精だから関係ないか。
『ムークさんたちに会いたくて、探してたの!』
うんまあ、それはわかる。
知りたいのはその目的ですよ。
『おしごと!おしごと頼みたいの!』
……なんですと?