第116話 試運転虫、戦慄す。
ボクの綺麗で格好いい胸の装甲板が2つに分割され、脇の下を通って背中側に移動した。
その下には……人間だと胸筋って感じのむき出しの筋肉がある。
そして、その中心には……大きい、白色の宝石みたいなものが埋まっていた。
……ボクの胸の中、こうなってたんか。
始めて見た。
んで……新しい電磁投射砲は、こうやって撃つのか。
『以前よりも充填に必要な魔力が増えています。もしもの時に備えて魔石の用意を……通常のものでいいので』
了解了解っと……あ。
『アカ~!お空の高い所か地面にいなさいね!絶対にボクが体を向けている方向に出てきちゃ駄目だよ!』
『あい~!』
流れ弾でも当たったら大変だ。
ロロンがいる川は方向が違うし……大丈夫だろう!
お腹の下から発生した魔力を、胸の中央へ。
……む、むむ?
ウンともスンとも言わない。
『充填する魔力が少なすぎます。餓死するくらい全力で、思い切り流してください』
今のでも結構流したのに……!
よ、よーし……むん!むんむん!む~ん!!
胸の宝石から、小さな稲妻が発生。
流しまくる魔力に応じて、無反応だった宝石に光がともった。
それと同時に、重低音が響き始める……おお!慣れた感覚……う、ぅうう!?
ま、魔力が、魔力が一瞬で8割は消し飛んだよ!?
『まだです、口に魔石を放り込みながら充填を続行させてください』
こ、こんなに魔力を使うなんて……大分強くなったと思ってたけど、まだまだ道は長いぞぉ。
『1回ではフルチャージできませんか……魔石を噛み砕いてください。魔力の集中は決して切らさないで!暴発すると危険な魔力量ですよ!』
了解……ぼりぼり。
嗚呼、懐かしの無味無臭。
例の高級魔石はしばらく食べたくないや……
『集中!』
――はぁい!!
重低音が高まり、胸の宝石が澄んだ蒼色に輝き始める。
それと同時に、宝石から虚空へ向けて紫電が放出されていく……ここは前のと一緒だね!込める魔力が段違いだけど!
あ……な、なんか撃てそうな感じがする!
っていうか、ボクの意思で抑え込めなくなってきてる、魔力が!
『充填率100%……重心を低くして――撃って!』
了解ッ!
魔素凝縮電磁投射砲……発射ァ!!
胸の宝石が目も眩むほどの輝きを放ち、凝縮させた魔力が一気に放出され――
「おやびん、おやびん……おひるね、おひるねぇ?」
「……ハ?」
青空と、ボクを覗き込むアカが見える。
なんで?
あれ、なんでボク倒れてるの?
「ヨッコイ……エェエエ!?」
とりあえず体を起こしたんだけど……体が土とか草でドロドロだ!
いや、っていうか……
『抑え込めませんでしたね、反動を』
ボクがいるこの場所まで、50メートルくらいに渡って盛大に地面が抉れている。
……撃ってから、ここまで反動で吹き飛ばされたのか……ひ、ヒェエ……
『ですが発射自体は成功ですよ、見てください』
……さっきまで標的にしてた岩が、消し飛んでる。
ちょこっと名残が残ってるくらいに。
……な、なんて威力だ……あとお腹空いた!魔力がほぼゼロになっちょる!?
あわててポーチに手を突っ込んで、市場で買っていたクソ長硬パンをずるっと取り出す。
「アグアグ……アカモ、イル?」「いる!いるう!」
齧り始めるとニコニコ寄って来たアカに、反対側を進呈。
2人で仲良く齧ることにした。
『まあ、こんな隙にアカちゃんと〇ッキーゲームを……』
……長すぎじゃない?
これ2メートル近いのよ?
チューする前にお腹いっぱいになっちゃうじゃん。
「オイシイ?」
「むいむいむい……おいし!ばりばり、おいし!!」
アカはいつでも元気でカワイイなあ……
「じゃじゃじゃ!?こ、これは一体何事でござりやんす!?」
ロロンが洗濯ものを抱えてダッシュしてきた。
心配かけたね……
「チョット、新技……イヤ、『奥義』ヲ練習シテテ……」
この威力はもう奥義以外の何物でもないと思う。
ねえねえトモさん、これなら水晶竜とかコロコロできると思う?
『威力だけで言えば可能です。先程の出力なら、水晶竜や大地竜の装甲を突破できるでしょう』
わぁい!
ありがとう進化さん!
これでボクは無敵虫に――
『当たると思います、アレ?』
……充填が完了する前に、美味しくいただかれちゃうね。
前の電磁投射砲よりも倍以上チャージしなきゃだし……それ以上に魔力消費もしんどいなあ。
溜めながら魔石齧らないと間に合わないし。
「お、おおお奥義!奥義でやんすか!? も、もしやあの大岩!アレを吹き飛ばした技でやんす!?」
「ウンソウ、ダケドコノママジャ使エナイネ……隙ガ大キスギテサ」
ロロンは興奮してボクに詰め寄りつつ、ほぼ無意識で体を拭き始めた。
な、なんて早業のお世話……!タオルが汚れちゃうからやめなさいよ!?
『これは、あの魔石で一足飛びに進化したのは不味かったですね……スキルの性能に、むっくんの身体能力が追い付いていません』
どゆこと?
『あの魔石の持ち主は、今のむっくんが逆立ちしても……いえ、逆立ちしつつ後方10連宙返りしても狩れる魔物ではありません』
アクロバットすぎない?
なんで言い直したん?
『つまり、分不相応の魔石だと思ってください』
んまあ、それはわかる。
10メーター超の装甲がクソ硬いカメさんなんて勝てる気がしない。
もしも遭遇したら逃げやすいって意味ではいいけどね、相手がカメならは走って逃げれそうだし。
『なので、普通はもっと……ゆるやかにいわゆる経験値を蓄積して進化するものです』
ふんふん。
『スキルは使えば使う分だけ最適化し、体に馴染みます。身体能力とてそうです』
お~……つまり?
あの電磁投射砲を使うには、体の方に問題アリってこと?
撃てるだけの頑丈さとか、経験とかが足りてないってこと?
『正解、よくできました』
ふむん。
『まあ、進化してしまったので仕方ありませんね。頑張って慣れましょう』
ですよねえ。
……とにかく、ニュー電磁投射砲はしばらく封印だね。
どの道、戦闘中にこんなクソ長チャージできないし。
「ワダスも精進ば、するのす!なんとはあ……!!」
ロロン、ロロン?
あの、もういいから、拭かなくて。
もうピカピカだから、体。
「ウン、頑張ラナイトネ」
「じゃじゃじゃ!?」
ロロンの頭を撫で、立ち上がって肩を回す。
さて……おニューついでに左腕の3連パイルも試しておくかな。
それに、補助翼も。
「アカ、ロロン。チョット離レテテネ」
2人に離れてもらい、肩幅に足を広げる。
両足パイル、オン!
いらないと思うけど、補助翼展開!!
さっきの標的はもうないから……あそこの3メートルくらいの岩にしよっと。
狙って狙って……パイル、全弾発射!!
「――ンギャガク!?」
左腕が跳ね上がり、それに引っ張られて体が揺らぐ。
なんの!衝撃波で反動を消してやる!
「ギギギギ!?」
あ、スキルでは(大)のままだったけど衝撃波も強くなってる!
反動は打ち消せたけど体がミシってなった!?
うぐぐぐ……やっぱり試運転は大事だね、大事。
トモさん、棘の再生ヨロです。
「しゅごい!しゅごーい!」
アカが、ボクの横でホバリングしながらテンションを上げている。
かわいい。
発射された3本の棘は、狙った岩に命中して……全て貫通した。
速すぎてしっかりとは見えなかったけど、ドリルが効果的に働いたのかな。
反対側の景色が見える。
それにしても3本同時発射の反動、かなり大きかったなあ。
普段は1本ずつ使った方が効果的だし、扱いやすいだろうね。
「おやびん、はねはえた!アカといっしょ、いっしょ!!」
「アヒャヒャヒャ!」
アカ!補助翼に抱き着くのはおやめなさい!
こしょばい!
神経が通ってるって事実を今知ったよ!
「増えた腕の棘ば、凄い威力でやんす!ムーク様には驚かされでばかりでやんす!」
「フヘヘヘ……」
アカに続いてロロンも基本的に全肯定子分だもんね。
自分を引き締めとかないと無限に調子に乗るね、ボクが!!
『なんという後ろ向きな自信……』
ボクもそう思います!ます!!
さて、新スキルは大体試せて……ない!
チェーンソーを忘れてた!
というわけで、適当な林とかないかしら……?
あ、あった。
「チョット、木ヲ切ッテクルネ」
離れた場所にあるから、衝撃波飛行も試してみよっか。
まずは高くジャンプしてっと。
「――フンッ!!」
……前よりジャンプ力も上がってるね、当たり前か!
目測2倍って感じかな?
よし、補助翼を展開して……後方に、衝撃波!!
ワオ!前より格段にスムーズに滑空できてる!
細かい姿勢制御もできそうだ……ちょっと下降気味に足と背中の補助翼を弄って――
「――フンギャロ!?」
急降下して、頭から地面に突き刺さるボクであった。
「おやびん!おやびーん!?」
慌てて飛んでくるアカの声を聞きながら、何事もいきなり全力で試すのは危険だと思うボクなのでした。
……ピーキーすぎる!