第110話 ほんのちょっと、散財虫。
「では……氷原猪と、リトル・ルクの毛皮になります。あの、もしよろしければ仕立て屋をご紹介しますが……」
「それには及ばねえのす!ワダスが縫いやんす~!」
「まあ、アルマードの方々は本当に手先が器用ですね。承りました」
ダムアさんが、ボクら用の毛皮を軽く縛って渡してくれた。
後でバッグに入れておこう。
「お代は……しめて5000ガルになります」
「はい、こごに」
……高いか安いかわかんないけど、ロロンが普通に払ってるから適正価格なんだろね。
5000ガル……いつぞやの下水道で倒したオオドブネズミモドキを思い出す。
ややっこしい名前なだあ。
ちなみにロロンには、あらかじめ1万ガルほど渡しております。
面倒だから10万ガルにしようかと思ったんだけど、半泣きで断られた。
大金過ぎて怖いから、ボクに持っててほしいんだってさ。
慎み深いねえ、ウチの子分は。
……ボクのバッグ、大金に加えてラーヤの宝石とか高純度の魔石とか入りまくってるんだけど!
ボクも落ち着かないんだけど!!
『小市民虫ですね』
そうだよ!?
「あの、ナイフ鞘用の革もある?コレなんだけど……」
マーヤもここで買い物するんだ。
腰に吊っていた鞘をダムアさんに提示してる。
「ふむ、そうですね……ご要望は?」
「投げナイフを入れるから、引っ掛かりがないのがいい」
「それでしたら……こちらの【岩山蜥蜴】などがよろしいかと。丈夫で長持ちしますよ」
深い茶色の革だねえ。
照りが入っててとっても綺麗。
「にゃにゃ……うん、いいね。これもらおうかな、いくら?」
「この大きさですと、3000ガルになります」
「……安すぎる、大丈夫?」
あ、安いんだアレ。
相場が全然わかんないや。
「コレは私が狩ったものですから」
「ああ、なるほど……もらう」
「毎度ありがとうございます」
……狩った?
へえ、ダムアさんって店長兼猟師さんなんだね。
見た感じ、スレンダーなおねえさんだし……弱い魔物なのかな。
『標高の高い岩山に生息する蜥蜴ですね。全身を硬い革に覆われていて、通常はハンマーなどの質量兵器で討伐する対象です……1匹1匹はそこまででもありませんが、平均20匹前後の群れを形成します』
……強いのでは?
『むっくんにわかりやすく言いますと、皮膚の硬い地竜といったところでしょうか』
……強い!
地竜の時点でそこそこ硬かったのに!
……じゃあ、ダムアさんも強いんだ……この世界、強い人ばっかりだ。
「おやびん、どしたの、どしたのぉ?」
「ナンデモナイ……オナカスイタネ?」
「すいた、すいた~!」
ここを出たら、みんなでご飯にしようかな。
・・☆・・
「ポコちゃんの紹介なら変な客じゃねえな。それで、何をお探しかい?」
ダムアさんの店を出て、露店で肉串と野菜串を食べて……魔法具の店に到着した。
【魔法具の店 アーガン】と書かれた店先には、用途不明の物品がずらっと並んでいる。
ブンブクさんもポコさんも慕われてるというか顔が広いというか……
「山越えばするので、【保温】か【温暖】の魔法具があれば……」
「なるほどね、ミレドンを越えてトルゴーンか?それならこっちの棚だな」
たぶんアーガンさんだろう、チャウチャウっぽいフサフサのおじさんがロロンを案内している。
あっちはロロンに任せて、ボクは他の魔法具を見ようかな。
皆目見当がつかないけど…‥トモさんがいるし!
『他力本願虫……』
適材適所虫とおっしゃっていただきたい!
「いっぱいある、ある~!」
「ん、一緒に見よっか」
アカは、今マーヤの肩に乗っている。
二人とも仲がいいねえ、アカは誰とでも仲良くなれるけど。
さてボクも……さっそくわかんない。
なにこの……フラスコの化け物みたいなの。
ボクが抱えるくらいあるぞ……20リットルくらい入りそうだ。
ええっと、どっかに商品名とかないかな。
「それは【創水】の魔法具。蓋を開けておくと、嵌まった魔石を働かせて……水が溜まる」
「ホホーウ」
マーヤのナビ助かる!
へえ、これが噂に聞く水を作る魔法具か~!
長旅には便利だよね、たしか湿った環境の方が早く溜まるんだっけ。
標高の高い山だとどうなんだろ……
「コレはかなり等級が高い。高いものになると水を創る速度も速くなる」
「フムフム……ジュ、10万ガル……ダト……?」
さ、さすが魔法具……!お値段がダンチだ!?
「この大きさなら普通の値段。私たちはこれよりもだいぶ小さいのを持ってる、便利」
むむむ、水は大事だもんねえ……おや、コレは?
同じようなフラスコの化け物だけど……分厚いな、ガラス。
「それは……水をシュワシュワさせる魔法具。これに水を入れておくと、ムークの好きなアレになる」
「ホホーウ!!」
「ふふ、なんで水より食いつきがいいの」
こ、これがあればいつでもどこでも炭酸水が飲める……!
ここに果汁も足せば、異世界炭酸ジュースが飲み放題!!
これは……買うべき、カモ!!
「……30、万、ガル?」
「趣味のモノだし、必要でもないから。使われてるガラスも頑丈でいいものだし、創水の魔法具よりも使う魔石の量も増えるから」
……異世界炭酸水計画、頓挫。
いやまあ……買おうと思えば買えるけど、買えるけどさ。
さすがに炭酸水が飲みたいってだけで買うのは……ナシだ。
いつかもっともっと大金持ち虫になったら、買うとするかね……
「マーヤ、これなに?なあにい?」
「それは……果物の皮をむいてくれる、魔法具? 変なのもあるね……手でやればいいのに」
ピーラーみたいなのか。
たしかに、手でやればいいのに買う人がいるんだろうk……5万ガル、ですと!?
買う人がいるんだろうか!?
「こっちは?こっち~」
「ええと……豆の、殻を割る魔法具……?なにこれ、こっちも手でやればいいのに」
これも5万ガル……
なんだろう、売れるの?これ。
「それはトルゴーンから流れてきた魔法具だな。向こうじゃあ、指が少なかったり、デカすぎたりって種族もいるからよ」
アーガンさん(推定)がロロンと一緒に歩いてきた。
ああ、なるほどね……ボクは普通の人間っぽい指でよかった。
カマキリまんま!みたいな人もいるんだろうか、トルゴーン。
「獣人サンニハ、売レルンデスカ?」
「全然売れねえ。だいたいここらは巡礼の虫人さん相手に売るもんだ、この前までの祭で結構売れたぜ……アンタにゃ必要なさそうだな」
なるほど、なるほど。
観光客用ってわけね。
「ムーク様、こちらでがんす」
ロロンは……なんだろ、地球の電熱線ストーブ?みたいなの持ってる。
「コレガ、【保温】ノ魔法具?」
「【温熱】の魔法具でがんす。コレ1つで天幕を温められまっす……そんで、こっちが【保温】の魔法具でやんす」
そう言ってロロンが追加で取り出したのは……金属製の、ミニサイズ湯たんぽが2つ?
「これば外套に入れておぐと、いつまでも温くなるんでやんす」
「ホウホウ」
つまりカイロか!
テント用の暖房と、人用のカイロってわけね。
「イイジャン、イクラナノ?」
「【温熱】が1万、【保温】は2つで1000ガルでやんす……えがんすか?」
あら、もっとするのかと思ってた……さっきの果物剥き機で麻痺してるのかな。
「イイヨ、ロロンガイイッテ決メタンダカラ文句ハナイネ!」
「じゃじゃじゃ……お、おもさげながんす……えへ、えへへ」
ウチの目利きは!全てロロンにお任せいたします!!
ボクはお金を払う虫になる!それだけでいいのだ!!
『後ろ向きなのか、前向きなのか……まあ、金払いがいいのは親分としてはプラスですが』
でしょでしょ!
ボクは親分なんだからね!カツカツなら節約もするけど……今は懐が火傷するくらいあったかいし。
それに、これから必要になるモノだしね。
お金を惜しんじゃあ、本末転倒だよ。
「即断即決か、いいねえ。その心意気に免じて……コイツはどうだ?」
む、なんですかその……なに?
黒っぽい金属製の、棒?
「【火着け】の魔法具だ。煮炊きの時に便利だぜ?」
つまりはライターですか。
でも……
「ア……エット」
ロロンの方を見ると『いらねっす』みたいな顔をしていた。
うん、別にいいかな。
「魔法、使エルンデ大丈夫デス」
「おお、そうか?こりゃあ儲けそこなっちまったな……ハハハ!」
火着けはロロンが火打石持ってるし、今言ったようにアカが魔法使えるしね。
こう考えると、魔法って無茶苦茶便利ですわ~。
「ア、ソウダ……コノ【創水】ノ魔法具。モウ少シ小サイサイズ……アリマス?」
クソデカフラスコだとちょっと大きいし、魔法瓶くらいのがあればいいんだよね。
「おお、あるぜ。手ごろなのはたしかここに……」
結局、大き目の魔法瓶くらいの大きさのものを買った。
お値段、1万ガル。
ロロンの許可も出たしね!
うーん、今日一日で結構使ってしまった。
まだまだあるけど……これからも定期的にお仕事はしよう!
お金は!あればあるだけ!いいので!!