第108話 特に戦闘に役立つというものではない……残念!!
『先程のは【読み取り】というスキルですね』
ハンマーの前で昏倒して恥をかき、散々ターロにからかわれた後……人のはけた中庭で、ベンチに座っている。
目の前には、さっき挑戦して駄目だったハンマー。
それで、さっき体験した不思議現象をトモさんに説明したんだ。
ふむ……読み取り?
『そうです。厳密には違いますが、地球では【サイコメトリー】と呼ばれていた現象ですね』
あ、あ~?
なんか、聞いたことがあるかも!
『物品の記憶を読み取り、追体験するスキル……むっくんは、ほとほと妙なスキルに縁がありますね。チェーンソーやら、レールガンやら……』
なんでじゃ!両方格好いいでしょ!?
それにサイコメトリーだって有用じゃん!
追体験できるってことは……ホラ!英雄さんの動きをトレースできたりとかするんじゃないです!?
お手軽最強虫が誕生しちゃうじゃん!!
『トレースですか……ですが、身体能力は貧弱一般虫のむっくんそのままですよ?どうなると思いますか?』
……まずハンマーが持てないです、ハイ。
『加えて、超人的な動きを成功させるには超人的な身体能力が必要なのです。つまり……今のむっくんが仮に【大鍛冶師】の動きを模倣できたとしても……まあ、動いた瞬間に反動で手足が千切れ飛びますね』
【悲報】この世界、甘くない。
じゃあ……ボクのこのスキルは何の役に立つんです?
『まあ、現状何の役にも立たないかと……こちらが確認できるスキル一覧にもありませんし、四六時中発動はしないようですね。以前にむっくんが棍棒を握った時のように』
ああ~!
じゃあアレってそういうことなんだ。
深く考えてなかったけど。
『むしろずっと発動したら大変ですよ?野菜を握れば農家の記憶が、武器を手に取れば鍛冶屋の記憶が蘇ったりして……』
日常生活が送れない!!
お肉持って生前?の記憶とか再生したらご飯がおいしくなくなっちゃう!!
『まあ、現状はどうにもできませんね……黒棍棒についてもしっかり調べてもらわないと。あの妙な現象の時の破壊力は抜群でしたが……』
あ、そうなん?
あの人間、一発で殺せなかったからそうでもないのかって思ってた。
『今更ですが、彼が着ていた鎧は対魔法・耐衝撃に優れた高級品でしたよ。通常の魔法では傷一つつかないほどの……といってもエルフの白い鎧には及びませんがね。彼、結構いい所のお坊ちゃんだったのでしょう』
ほーん……そんなに貴重なら、破片でも拾ってたら高く売れたのかもしんないね。
そこらへんってどうなってるんだろ。
「……ソウイエバ、例ノ人間ッテドウナッタンジャロ」
最近、バタバタに次ぐバタバタですっかり忘れてた。
ここに引き取られたっていうか、ここで尋問されてたんだよね……
この騒動中、どんなってたんだろう。
「――ああ、彼女はもう別の所へ移送されたぞ」
ベンチの反対側にバレリアさんおるぅ!?
全然気付かんかった!!
「……移送?」
「ああ、彼女の希望で【ロストラッド】へな」
山田さんの国!!
たしか、北の端っこだったはずだよね。
「嫌疑は晴れたがな、本人たっての願いで……小競り合いの続く激戦区への、傭兵という形になった。はは、よほど人族が嫌いらしい」
ほへ~……戦争かあ。
あの人、転生者だったらしいけど……内面的にはボクよりもよっぽどハードモードだったねえ。
命の危機的にはボクに軍配が上がるけど!けど!
こっちは仲間や他の人には恵まれたけどねえ。
「人は生まれを選べんというが……あれ程生まれ故郷に憎悪を抱いているとは、人族の貴族階級としては珍しい。奴らは幼少期から洗脳に近い選民教育を受けると聞いているがな」
あ~……中身が一般貴族だったら、みんなそうなるのかな。
人間さんも大変ですねえ……
まあ、攻撃してきたら迷わずハンバーグにしますけどね!!
「大変デスネエ、人族モ」
「はん、隙あらば攻めてくる暇人どもなぞ知ったことかよ。同じ人族ならば【ロストラッド】を見習ってほしいものだ」
山田さんの国!!
「あそこには可愛い子犬が多いので最高の国だよ……ンフフ。遠征するとモテて困る、ハハハ」
バレリアさん、確かにモテそう。
前世でもケモナーって人たちがいたらしいし、地球でもモテモテだろうねえ。
「キミもいつか行ってみるといい。その色男振りだとさぞモテるだろうさ」
「イツカ行キタイデスネ、イツカ」
モテはともかくとして、行ってはみたい。
おそらく同郷の人が王様になって作った国だしね~……あ、そうだ。
「【ロストラッド】ニモ首ノ封印アルンデスヨネ。ナンテ街ナンデスカ?」
「ああ、あるぞ。ロストラッド北端の街……名を【コーヤ】という」
たぶん……高野山、ですかね?
荒野じゃないよね?
やっぱり日本人だなあ、田中さんは……
鎮魂っていうか、霊場的な感じで名付けたんだろうか。
「不思議な響きの名前だろう?なんともエキゾチックな場所だよ、かの国は」
「一層、行ッテミタクナリマシタ!」
当の山田さんはとっくにお亡くなりになってるけど……それでも、興味はあるね。
転生してきて、王様にまでなった人なんだから。
伝記とかないのかな?偉人だし。
……っていうか本自体をほとんど見たことがないぞ。
「隊長!こちらにおいででしたか……首都から伝令です!」
柴犬っぱい獣人さんが呼びに来た。
あ!この前アカがくるんとした尻尾に突撃していた人だ!あの時はスイマセン!!
「ム、もうそんな時期か……ああ、仕事がしたくない……カワイイ子犬とイチャつきながら毎日惰眠を貪りたい……ではな、ムークくん」
「アッハイ」
とんでもない劣情を漏らしつつ、尻尾をだらりと下げてバレリアさんは去っていく。
お、大人だ……
『見習ってはメッ!ですよ、むっくん。アダルト虫はまだまだ早いですので!』
見習わないよ……ボクまだ幼児ですよ、幼児。
『あ、でも女心を読む機微は備わって欲しいですね……本当にこの、朴念虫!』
ボクネンムシ!?
ついに新しい言語を作っちゃった!?
なにさー!ボクがそんなにニブニブだって言うんですか~!?
『 は い 』
……物凄い圧が来た。
そ、そんなに……?
『 そ ん な に 』
ひぎい!
なんてこったい!!
や、ヤバい!そんなニブニブだとアカとかロロンに愛想つかされちゃう!
たすけて女神様!!
『あ、それについては大丈夫ですね』
なーんでさ!?
『……私はちょっと、同郷の友人たちと会議を開きます。モニタリングは同時並行するので、ご心配なく……では』
ちょっと!トモさん!?
ちょっと~~~~!?
・・☆・・
「ムムムム……」
「むむむむ~!あはは!あははぁ!!」
ああ、こんなに微妙な気分でもお風呂は最高だ。
真昼間からでも入っちゃうよね!
部屋に戻ったボクは、もうなんか色々面倒だったのでお風呂に入ることにした。
アカは部屋の中で眠っていたんだけど、一緒に入る~!って飛んできたんだ。
この子もお風呂好きだよねえ。
今はミニサイズのタライにお湯を入れて、湯船の中に浮かんでいる。
微笑ましかわいい。
あ、そうだ。
この機にアカとも話し合っておこう……嫌われてないかどうか。
いや、流石に嫌われてはいないとは思うけどね!流石にね!?
でも、なんか細かい不満とかあるかもしんないし……
子分のカウンセリングもまた、親分の仕事かもしれないしさ。
『アカ、今何かこう……その、欲しいものとかある?』
細かいニュアンス違いでバッドコミュニケーションになっても困るので、念話。
『りんご!りんごぉ!』
でしょうね。
それはボクにも流石にわかる。
『わかった、お風呂から出たら食べよっか。じゃあさ……何か、ボクに言いたいこととかある?』
『ん~……む?んん~……あ! おやびん、だいしゅき!!』
……アカン、泣きそう。
涙腺ないけど。
なんちゅうええ子分やこの子は……
「イイコイイコ、空前絶後ノイイコ」
とりあえず、頭を撫でておこう。
「んへへ!えへへぇ~!」
ああ、なんだこの可愛い生き物は。
「ジャア、シタイコトハ?」
「おひるね!ごはん!おさんぽ!おやびんといっしょ、いっしょ!!」
とてもシンプル……!
ああいいともさ、付き合ってやるともさ!
とりあえず、お風呂から出たらお昼寝だね!!
「体、洗ウカ……」
基本的に汚れないけど、綺麗にしておくに越したことはないし!
土足文化だから、お風呂に入る前にはしっかり足を洗ったけどね!
「おせなか、ながしま~!」
アカ……イセコさんのおかげで変な事覚えちゃって……
まあ、子供に背中を流される親の気持ちがわかるからいいけどね!
なんとも、幸せ!!
・・☆・・
「ムーク様、ムーク様ぁ」
「ウニャムム……ウイウイ」
目を開けると、ロロンの顔。
ああ……お風呂から出てそのままアカと寝ちゃったんだ。
「夕飯の刻限でがんす。お起きなっせ」
「ハイ……」
我ながらだらけた生活だけど……ちょっと前まで修羅場の渦中にいたもんね。
今はしっかり体を治さなきゃ。
まあ、自覚症状は全くないんだけどね!魔力の巡りが~、とか言われたけど。
「アカちゃん、ご飯でやんす」
「むいむいむい……ごはん、ごはん!」
ボクの枕で大の字になっていたアカも、目をこすりながら起きてきた。
ご飯に対する食いつきが、凄い。
「ドッコイショ……ア、ソウダ」
体を起こす。
ちょうどいいのでロロンにも聞いておこう。
「ロロン、何カ欲シイモノトカアル?」
「じゃじゃじゃ、欲しいモノでやんすか……むう、防寒着用の毛皮と、厚い鍋、それに……できれば【温熱】の魔法具でやんしょか」
それはロロンが欲しいものじゃなくてこの先に必要なモノでは……?
ま、まあいいか……
外出が許可されたら、早速買いに行こうか!
「おやびん!ごはん、ごはん!」
「ハイハイ」
とにかく、まずは腹ごしらえだね!