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第101話 お祭り終わって、ネタバラシ。

「目が覚めたと聞いたのである、元気であるか?」


「ソレハボクノ台詞デスヨ!?」


 目を覚ましてからしばらくして。

ゲニーチロさんがお見舞いに来てくれた……んだけど!


「大丈夫ナンデスカソレェ!?」


 お見舞いに来てくれた彼には……左腕が無かった!

それに、あの立派な角は根元からへし折れてるし……体中傷まみれじゃないか!?

ボクの傷はもうほぼ塞がってるから、どう見てもそっちの方が重傷では!?


「おじーちゃ!だいじょぶ!?だいじょぶぅ!?」


 ギャン泣きからの兜張り付き状態をやっと解除したアカが、血相を変えて飛んでいく。

衛兵隊から差し入れのリンゴを剥いていたロロンも、目を丸くしている。


「おっと……はっはっは、大丈夫であるよ」


 飛んできたアカを片手で受け止め、ゲニーチロさんは笑いながら椅子に腰かけた。


「見た目は派手だが、角も腕も生えるのである」


 生えるゥ!?

ゲニーチロさんも寿命消費で再生できる畑の虫なの!?


『残念ながらその畑から獲れる虫はむっくんだけですね』


 孤独!!


「コレを見るのである」


 ……むん?

あ、ゲニーチロさんの左手の付け根に……なんか、お札が貼ってある。

ボクの体に巻かれている護符にちょっと似てるね。


「【再生符】という魔法具である。コレを張り付けておけば、二月ほどで腕が生えるのであるよ」


 ……便利ィ!

ボクもちょっとほしいな!


『むっくんは寿命消費の回復がありますし……何よりお高いですよ、アレ』


 あ、やっぱりそう?

上級ポーションよりも高いの?


『上級ポーションはさらに桁が違います。アレは『即座に』腕を生やしますので……そうですね、ザックリとした相場ですがあの護符は10万ガル以上、上級ポーションは最低50万ガル以上です』


 ……命が、高い!!


『しかも両方ともお金があれば即買えるというモノでもありません。伝手も運もいるのですよ』


 ……欲しい!運も伝手も欲しーい!!


「はえる~?」


「そうである、角の方は何もしなくても一月もすれば綺麗に生えるのであるよ」


 ……そうなんだ。

トカゲのしっぽみたいなもんか……


『地球のトカゲの尻尾は再生しないものが殆どですね。この世界では生えますが』


 そうなんだ!?

もう二度と戻らない故郷の豆知識を得てしまった……


「【大角】閣下、ケマでやんす」


「おお、かたじけないのである」


 ロロンがケマを淹れて戻って来た。

いつの間に……!!


「さて……」


 カップを受け取り、ゲニーチロさんはボクの向かいのベッドに腰を下ろす。


「丁度いい、目が覚めたばかりで色々と疑問に思うことがあろう?拙者も外に出してもらえぬし……今回の顛末を説明するのである」


「ア、ハイ。アリガタイデス」


 ボクは気絶しちゃったけど、最後にトキーチロがなんかこう……清々しかったのが気になる。

今回の襲撃、普通の案件じゃなかったと思う。

 あと、外に出してもらえないのは当たり前だと思う。

ボクよりも見た感じ大怪我だもん。


「うむ、ムーク殿たちは当事者である故知っておく権利がある。ターロ殿たちにはもう説明も済んでおるしな」


 ゲニーチロさんはケマを煽り、一息つく。

ボクはベッドにしっかり座り直した。

アカは……兜の上か。

ロロンは横で神妙な顔をしている。


「――まず、影無しだが……今回の襲撃で、鎮魂の儀を失敗させるつもりはなかったようである」


 ……はあぁ!?

嘘でしょ!?

なんかあの【種】とかいう激ヤバ魔法まで使ったり、そこら中でドッカンドッカンさせてたのに!?


「……なら、此度の争乱ば、どのような魂胆で起こしたのす?」


 ボクの疑問を代弁してくれるロロン。


「……前に話したであろう?サジョンジの現当主とその娘のことを」


 えーと……たしか……


「馬鹿殿ト、能力ノ足リナイ馬鹿娘デシタッケ?」


「うむ」


 正解だった。

察するに結構大きなお家なのに、当主がアレっていうのは大変だと思う。


「此度の騒動、全て……トキーチロの計略である」


 ……うん、まあそれはわかる。

あの人、影無しのリーダーなんだから当然だよね。


「トキーチロは、わざと、大掛かりに……この街を攻めたのである。我らに、妨害されることを見越して」


 ……なんでそんな面倒臭いお芝居を……あ、あぁ!?まさか!?


「――察しの通りである。トキーチロは……ぐうの音も出ぬ失態を演じることで、当主をその座から引きずり下ろそうとしたのであるよ。今回の失態を、自らと当主でひっかぶることによって、のう」


 ……ゲニーチロさん。

むしんちゅだから表情は変わらないし、声色もいつも通りだ。

だけど……なんとなく、とっても悲しそうに見える。

なんとなく、だけど。

……ひょっとして、トキーチロと仲が良かったんだろうか。


「アノ、ゲニーチロサンッテ……トキーチロト、知リ合イダッタンデスカ?」


 そう聞くと、ゲニーチロさんはもう一度ケマを煽った。


「……若い時分は、轡を並べて戦ったこともある。アレは、拙者の義理の兄故な」


 ……お兄さん、だったのか。


「トキーチロは我が姉の、夫であった。姉は20年ほど前に流行り病で亡くなったがのう」


「それは……なんとも、ご愁傷様でやんす」


 流石にこの答えは予想外だったのか、ロロンは悲しそうに目を伏せた。


「なに、もう済んだことよ……拙者は、あ奴の真意に最後まで気付けなんだ……昔からあ奴には、戦駒で勝てた例がなかったのう」


『トルゴーン周辺で流行している盤上遊戯ですね。地球の将棋と似たようなものです』


 ……トモさんペディア、助かる。


「エット……ツマリ、トキーチロ……サンハ、今回ワザト失敗スルコトデ、駄目ナ当主ヲ挿ゲ替エルコトニシタッテコト、デスカ?」


「うむ、概ねその通りである。今回の妨害が仮に成功しておれば、お家は断絶であろうが……ラーガリの民には悪いが、『この程度』の不祥事ならば……家だけは、残るのである」


 家……家ね。

なんか、戦国時代みたいな感じだなあ。


「あ奴は、否影無しは『お家の為に動く』……これが、ことの顛末なのである」


 ロロンが立ち上がった。


「し、しがしいくら何でもこの被害は……!ムーク様はもとより、街や民にも被害が出ている以上……!」


「――この騒動で北街のいくつかの施設は破壊され、衛兵隊や封印術師には怪我人も出た……が、死者はおらぬ」


「……じゃじゃじゃ!?あの大掛かりな襲撃で!?」


 マジで!?誰も死んでないの!?


「そして、影無のカルコ……トキーチロの孫が、十分な量のポーションと……災害の補填に足りる慰謝料を持参していたのである。事が済んだ後、すぐに対応できるように」


「なんと、はぁ……」


 アフターサービスまで、完璧とは……


「おっと、ムーク殿にもコレを言付かっておるのである」


 懐に手を入れ、ゲニーチロさんが取り出したのは……なんだろ、巾着袋?

中に入ってるのはなんだろう?


「中身は魔石である。イセコの荷物に入っておった……コレを、『使う』がいい」


 ……えっ。

なんでボクが魔石モグモグで回復する虫だってバレてるの!?


「ムーク殿が『魔素転換者』であったとは……珍しい体質なのであるな」


 初耳な情報!?トモさん、ナニソレ!?


『少々お待ちを……ふむ、なるほど。『魔素転換者』とは魔石を取り込んで生命力に転換できる特異体質のことですね……魔物とは違い、突然変異のようなものらしいです』


 なんと。

そんな丁度いい特異体質があるなんて!!

魔物認定は避けられたね!


『ですが、非常に稀な体質です。研究者に見つかればウッキウキで調べられますよ』


 ……はい!引き続き隠しますゥ!!

標本虫は勘弁でございます!!


「ア……アリガトウゴザイマス。昔エルフサンニ『内緒ニシロ』ッテ言ワレマシテ……」


「さもありなん、である。これからも隠した方がよいな……トルゴーンでは違うが、【ジェマ】などの研究者が見れば目の色を変えるのである」


 やっぱりぃ!!

隠す隠す!隠しますゥ!!


 手を伸ばして巾着を受け取る……中身は、おお?なんじゃろ? 

むっちゃ……色が濃い魔石が入ってる!

いつもの魔石よりも格段に色が濃い!

……光の加減かな?


「そこそこの等級の魔石である。今回の報酬とは違うモノゆえ、遠慮なく使用するがよいのである」


 ほーん、そこそこね。

色の濃さは気になるけど、大きさはビー玉からゴルフボールくらいだし……そんなもんか。

今回減った寿命の補填くらいにはなるかなあ。


「じゃじゃじゃ!?」


 ボクの手元を覗き込んだロロンが急に振動した!?

どうしたのォ!?


「お、おおお【大角】様!こ、こりは……!?」


「拙者も魔石にさほど詳しくはないので種別まではよくわからぬが……まあ、恐らく【ディナ・ロータス】くらいであろう。トルゴーンの北部ではたまに出る魔物ゆえな」


「――じゃじゃじゃァ!?」


 ロロン!?削岩機くらいになってるけど!?


『ディナ・ロータス……寒い地域に生息する亀に似た魔物ですね』


 ほほう、カメさん。

カメさんか……なんか強そうな印象ないけど、そんなに珍しいの?


『――平均全長10メートル超、土石流に似たブレスを吐く……歩く山崩れのような存在ですね。魔法を弾く表皮と、反射する甲羅を持ちます』


 大怪獣じゃん!?!?

デカくて土石流吐いて、魔法が通用しない10メートルのカメさん!?

とんでもないバケモンじゃん!?


「エエット……イイン、デスカ?」


「さほど高価でも、貴重でもござらん。遠慮なく使うといいのである」


『ちなみに、先程魔石の色が濃かったのは高密度に圧縮されたモノだからです。ある一定以上の強力な魔物はそういった魔石を有していますね』


 ……これあれか!

ゲニーチロさん基準で『大したことない』魔石ってことか!!


「イ、イタダキマス……」


 振動するロロンを尻目に、とりあえず受け取ることにした。

……あ、静かだと思ったらアカが寝てる!

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― 新着の感想 ―
もう普通に魔石が食べられてます。 ムッくん魔石は、あんまり美味しく無い 食べ物カテゴリ? 魔石は食べ物だった!?
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