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第97話 鎮魂祭最終日 ⑤

(三人称)


「ヌウウウウアアアアアッ!!」


 空間が、爆ぜる。

一瞬、銀光が瞬いた後に――それを追って爆炎が走る。

神速の斬撃の後を、爆発が追いかけるのだ。


「ほっほ、三段とはの。この短い間に現役を思い出し始めたか、ゲニーチロ」


 虚空を蹴り付けて、小柄な影が着地する。

傷一つもない、トキーチロが。


「まだ、まだである。現役ならば五段は行けたゆえ」


 剣を振り抜いた姿勢のゲニーチロが答え、その瞬間に剣の刀身が崩れて消えた。

焦げ切った木片が、崩れるように。


 剣の成れの果てを手放し、ゲニーチロが左手首を折る。

すると、腕の内部から新たな剣の柄が飛び出した。


「おうい、年寄りの分際で何度もの『生成』に耐えられるか?少し息が上がっておるのではないか?」


「いらぬ心配であるよ」


 再び、ゲニーチロが攻撃の体勢に入る。

重低音が響き始める中、トキーチロが動く。

手に持った剣を空中へ放り投げ、両掌をスパンと合わせると凄まじい速さで印を結び始めた。


「『集いて落ちよ、天帝の稲妻』」


 きわめて短い詠唱が完了した瞬間、以前に偽黒子が大勢で放ったよりも太く大きな稲妻が上空より飛来。

ゲニーチロに直撃した。


「お頭ァッ!?」


「気を乱すな、余波が――ぐぅうっ!?」


 落雷の衝撃波が、巫女の集団に襲い掛かった。

彼女らは必死で魔力を練り、稲妻の奔流に耐えている。


「――嫌になるわい。頑丈な爺じゃ」


 魔法を放ったトキーチロが、上空から落ちてきた愛刀をキャッチ。

その瞬間、残像すら纏った速度で――ゲニーチロが間合いに飛び込んできた。

魔力を用いぬ、身体能力のみの踏み込みで。

その体からは白煙が上がっているが、大きな傷はない。


「――ぬかったわ」


 トキーチロのぼやきが終わらぬうちに、再び空間に無数の斬撃が走った。

続いて、今までで最大規模の爆炎が辺りを蹂躙した。



 【ハゼタチ】と呼称されるゲニーチロの技。

それは、『体内で』生成した刀身を……魔力で圧縮・加速させて放つ技である。

いわば、変則の超高速居合術だ。

凄まじい圧力を加えられた刀身は、空気との摩擦で燃え盛りながら目標物を両断する。

通常の使い手ならば1回で刀身が劣化し、崩れ去るが……ゲニーチロは強靭な手首でそれを抑え込み、何往復かの続けざまの斬撃を見舞うことができるのだ。



「っか、見事!」


 爆炎がおさまった後、かなり後方に跳び下がったトキーチロ。


「持っていきよったか、ゲニーチロ!」


 その体には、右足が無かった。

先程の三段……三往復を超える、四往復。

翻った剣閃が、見事にトキーチロの足を捕らえたのだ。


「――じゃが、痛みわけじゃな」


「ぬぅ……」


 剣を振り抜いた状態のゲニーチロ。

空中から、その左腕が降ってきた。

肘から先を切断され、切り口から赤黒い魔力煙が出ている。


 先程の一瞬の交錯で、トキーチロの愛刀に斬り飛ばされたのだ。


「それでは、もう【ハゼタチ】は使えぬの……ホレ、解毒せねば毒が回るぞ」


 ゲニーチロの体に残った左腕からも、同じ色の煙が出ている。

尋常のものではない……トキーチロの言ったように、猛毒だろう。


「――仔細、ない!」


 が、ゲニーチロは右手の剣が崩れ落ちる前に逆手に持ち替え。


「ぬんっ!!」


 脇の下から、残った左腕を斬り落とした。

さらに……噴煙を上げる刀身を傷口に押し付け、焼く。

じゅうじゅうと嫌な音を上げて、傷が焦げる。


「無理をするわい」


「この程度、掠り傷であるよ――!!」


 後方の部下たちが絶句する中、痛みをおくびにも出さず……ゲニーチロが跳んだ。


「覚悟せよ!トキーチロぉ!!」


「は、抜かせっ!!」


 2人の虫人が、空中で激突した。



・・☆・・



「ほっ」


「ガッ!?」


 胸を殴られ、後方に吹き飛ぶ。


「ッギ!?」


 壁に激突し、ずるずると床に落ちた。


「頑張るのう、小僧。じゃがそろそろ諦めて欲しいものじゃな」


 くっそ、ピンピンしやがって……!


『相手の言葉をそのままとらえてはいけませんよ、むっくん。【種】はあらかじめ付与した魔力を使って発動しています……これまでの戦いで、向こうの【残量】もさほど多くはないでしょうから』


 ……え、ほっといたら消えるのあの人格。


『……さっき言いましたよね?『一時的に』脳を上書きすると。これからはむっくんをニワトリ虫と呼称しましょうか』


 なんですかその化け物は。

で、でもいいこと聞いたぞ!

てっきりつかまえて解毒?じゃなくて解呪?しないと元に戻らないのかって思ってたけど……それなら、やりようはある!


「ナニガ!コンナモン準備運動ダロ!」


 盛大に震える両足を叱咤激励しつつ、立ち上がる。

握り込んでいた瓶から栓を抜いて、一気に煽る!

マーヤがくれたポーションと……こっそり握り込んでおいた魔石をばりばり、ゴクン!!


 お腹がじんわり暖かくなった……たぶん中級ポーションだね!

そして、魔石のお陰で魔力も充填完了だ!


「お主……やはり面白い小僧じゃな」


 ……明らかに、ボクが回復したのを見て笑ったぞ、コイツ。

やだやだ、絶対頭もいいし感もいいしその上強いよね。

天は人に二物を与えずとかいうけど、コイツは四物くらい持ってそう。


「コノママ時間切レマデ面白ガッテテヨ」


「はっは、抜かしおるわ……じゃが」


 うおおっ!?

ま、魔力が一気に膨れ上がった!!


「これ以上長引かせても、のう……行くぞ小僧」


 トキーチロの体から放出された魔力が、両腕のブレードに集中していく。

切れ味も、頑丈さも増していくみたい。

そういえば、さっきチャンバラした時の傷も修復されていくね……あれって体扱いなんだ。


『おやびん、がんばて!』


『あー……アカ』『うゆ?』


 念話で話しかけてきたアカ。


『頑張るし、おやびんはむっちゃ強いけど……うん、心配しないでね』


『あい~?』


 そう返し、地面を蹴る。


「ヌウ、ウ!!」


 振り上げた黒棍棒に、全力で魔力を流す!

真っ向から叩き付ける構えだ!

アイツの体は硬い!イセコさんには申し訳ないけど……我慢してもらおう!


「ここへ来て宗旨替えか、じゃが――」


 走り込むボクに向かい、トキーチロが両手を一旦クロスさせて振る。


「グ、ム!?」


 飛ぶ斬撃が、黒棍棒に直撃。

さっきとは段違いの重さに、吹き飛ばされまいと必死で握る。


「――甘いわ」


 握ることに意識を集中させていた一瞬。

その一瞬で、トキーチロはボクの懐に入った。



 ――どず。



 そんな音がして……両腕の刃は、ボクの胴体を貫通した。


「ムーク様!?」「むー、く!?」


 ナハコさんとマーヤの悲鳴。


『おやびん!おやびーん!!』


 脳裏に響いた、アカの悲鳴。


「カ……ハ……」


 ごとん、と黒棍棒が床に落ちる。


「さて、呆気ない幕切れじゃ……ぬ?」



「コレヲ、待ッテイタンダ……!!」



 胴体に刃を突き刺されたまま、トキーチロの体に両腕を回して手首を掴んでロック!

さらに、隠形刃腕を展開して――上下に挟み込む!!

そしてェ……全身に!魔力を流す!!


「抜けん……小僧、お主……!!」


「サア、根競ベダ!ボクガ死ヌノガ先カ、アンタガ、イセコサンノ脳味噌カラ消エルノガ先カ――!!」


 これだけはやりたくなかったけど、ボクにはこれしかない!

正面からは勝ち目がないし、搦め手なんてそれよりも考えつかない!

結局色々考えた結果……これしかなかった!のだ!!


『寿命残量はしっかりカウントしておきます。むっくんは頭部のガードを最優先で行ってください、最悪、貴方は寿命と頭部があれば復活できますので!』


 我ながら化け物――ぐぅううう!?!?


「さすがにこれは予想できなんだ……が、いつまで持つかの?」


 胴体を貫通した刃から、マグマみたいに熱い魔力が流れ込んでくる!?

熱いなんてもんじゃない!なんか、内側から体が溶けてるみたい!!


「【炎極呪詛の陣】という……お主は頑丈なようじゃが、体を内から焼かれては耐えられまいて」


「グ、ガ、アア、アアアアッ!?!?」


 うぐぐ……こ、これくらいどうってこと、ないよ!


「なんとも強情な男じゃの……この娘に惚れておるのか?」


 あきれました、みたいな声色。

そんなんじゃないやい!


「アンタナンカニ、教エテ、ヤルモンカ!!」


 そんなんじゃないけど……ここでやめるつもりはない!

やめるつもりは、ないんだぁっ!!

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― 新着の感想 ―
トキーチロは忍びらしい忍びだな。 むっくんの心根が真っ直ぐで眩しい。
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