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第94話 鎮魂祭最終日 ②


 ぐらり、と視界が傾く。

お腹だけが、燃えるように熱い。


『むっくん!寿命を使いますねっ!!』


 トモさんの切羽詰まったような声が響く中、状況がすぐさま動く。

ボクが倒れ込むまでの間に――3人の黒子さんが一斉に飛び掛かった。

腕の所の布が破れ、両腕の手首を支点にして刃が展開されているのが見えた。

ああ、アレ……カマキリの、手みたいだ。


「っふ」


 それに対してイセコさんが笑い……残像が見えるほどの速度で、回った。


「っが」「おっ」「っぎ」


 飛び掛かった3人とも、とんでもない音を立てて壁にめり込んだ。


 ……なんとか見えた、今の。

全員のお腹を、殴ったんだ。

マシンガンみたいな速さで、何回も殴ってた。


 ボクは、床に倒れ込んで動けない。

体全体が痺れて、自由にならないんだ。


「ふむ?」


 3人を吹き飛ばした顔面目掛けて、ナイフが3本殺到する。


「ほう」


 それを、イセコさんは素手で弾いた。


「シャーッ!!」


 弾いた所に、ミーヤの跳び蹴り。


「ふふ」


 恐ろしい勢いの蹴りは、イセコさんのお腹に突き刺さった。

突き刺さったん、だけど――


「みっぎゃぁ!?」


 まるでゴムに弾き飛ばされたみたいに、そのままの格好でミーヤが吹き飛んだ。

なにあれ!?質量保存の法則無視してる!!


「――んの、野郎ォ!!」


 ターロの手斧が一本飛ぶ。

喉に向けて放たれたそれを、イセコさんは素手でまた弾く。


「っじゃぁああ!!」


 その隙に低く、低く走り込んだターロ。

床に擦れるほどの超低空から、もう一本の手斧が振り上げられた。


「はは」


 がぎん、と手斧の刃が素手で止められた。


「なんっだ、でめっ――!?」


 軽く足を上げただけみたいな、イセコさんの蹴り。

それがターロの肘に激突した瞬間、彼の肘は曲がっちゃいけない方向に曲がった。

そのまま、ターロも吹き飛ぶ。


「――みゃあっ!!」


 マーヤの声。

少なくとも3本以上のナイフが、イセコさんの顔や首、腹に向かって飛ぶ。


「おっと、お?」


 がぎぎぎ、とナイフは弾かれた。

けれど、ナイフよりも遅く放たれたナイフ……じゃない、槍の穂先が彼女のお腹に突き刺さった。

ロロンの、槍だ。


 ぽぽしゅ、と音。

槍が刺さったイセコさんに、アカのミサイルも殺到した。


「――喝!」


 妙なイセコさんの気合で、ミサイルが空中で破裂して消える。


「――ぐ、ぅ」


 そして、黒い影。

ミサイルが破裂したと思った瞬間には、黒子さんがイセコさんの胸に掌をねじ込んでいた。

あれは、ナハコさんか。


 ――どん、と音。


 イセコさんはとんでもない勢いで、3人の黒子さんがめり込んだ壁の近くまで吹き飛んだ。


「おやびん!おやびんっ!!」


 と、顔の横に影。

アカが、ボクの顔に縋り付いてきた。


「おやびん!おやびーん!!」


『大丈夫、大丈夫。おやびんは無敵なので大丈夫~』


 指は一本も動かないし、お腹はマグマみたいに熱い。

でも、ボクはおやびんなので楽勝です。


「『絶天の鎖よ、我が名によりて』――」


 片手で印を結び、ナハコさんが何かを詠唱している。

その手に、虚空から半透明の鎖が巻き付き始めた。


「『絶・封牢・閉』」


 だけど、壁の方から声が響いたと思ったら……動きを止めちゃった。

驚愕したように、目を見開いている。


「が、あぁ、あ……」


 アカに続いてボクに駆け寄ってきたロロンが、涙目のまま横倒しになった。

顔中に汗が浮いている。

喋れないようで、目だけがせわしなく動いている。


『んぎいぃ!おやびん!うごけない!なぁにこれ、これぇ!?』


 アカも動けなくなったみたいで、ボクの顔に張り付いたまま念話が送られて来た。

トモさん、なにこれ!?


『凄まじく強力な指向性の結界です。むっくん以外は指一本も動かせていないようです』


 ボク以外?


『むっくんは度外視されていますね。あなたに使用された毒は極めて強力な麻痺毒なので、その必要もないと思ったのでしょう』


 でも実際現状動けない!

なんとかなりませんか!?

なにが起こってるか全然わかんないけど、とにかく動かなくちゃ!!


『お待ちを、常人ならば半年は動けなくなる毒です。死ぬことはありませんが、解毒には多少の時間がかかります!』


 むうぐぐ、それなら仕方ない!なるはやでお願いします!!


『お任せを。気取られないように注意してください……イセコさんは何かがおかしいです!』


 それは見ればわかるけど!


『いえ、妙な魔力振動数が……とにかく、解毒に全力を注ぎます!』


 はい!


「ふ、不動、結界陣……!?い、イセコ……貴様いつから裏切って……」


 ナハコさんだけが喋れるようで、震えながらなんとか口を開いた。


「――い、や」


 壁にめり込んでいたイセコさんが、ぼこりと抜け出して、着地。

お腹に刺さっていた槍の穂先を引き抜いて、地面に放り捨てた。

……血が出てない、どうなってるんだ。

その姿に、ナハコさんが続けて言った。


「――お前は、誰だ」


 ……?誰って、イセコさんでしょ?


「誰が『中』にいる?」


 え、ええ?



「……ほうほう、ゲニーチロめが目をかけるだけあって、目端は最低限効くようじゃな」



 イセコさんの声色なのに、あきらかに老人っぽい口調。

まるで、誰かが彼女の声を使って喋ってるみたいだ。


「……【種】を、植え込んだな、イセコに!いつからだ!?」


「――無論、本国を出る前にのう」


 かかか、と。

イセコさんは楽しそうに笑った。

た、種?植え込む?

どういうことだろう……


『――解毒完了。ですが喋らせましょう、むっくんはこのまま死んだふり虫でお願いします』


 まだお腹むっちゃ熱いんですけど!?


『それは突き刺さったままですから、ナイフが。見た目は通常のナイフですが、刺さった瞬間に細かく砕けるように細工されています……恐らく暗殺用の特殊ナイフでしょうね』


 破片まみれなのか、ボクのお腹。

そりゃ熱いっていうか痛いわけですよ。

だけど、了解。

しばらくこのままでいよう。


「不動結界陣を行使し、【種】まで使えるとは……貴様、影無し首領……ノキ・トキーチロ!!」


「小娘、お主の10倍は生きておるのじゃ。敬語くらい使わぬか」


 え?え?

イセコさんを操ってる?のって今回攻めてきた人たちの大ボスってこと!?

っていうか種ってなにさ!?


『はい、お待たせいたしました。アレは【種】もしくは【枝】と隠語で呼称される禁忌魔法の一種ですね……ものすごーく簡単に言えば、狙った対象に疑似人格を植え付ける、洗脳系では最上位に位置する魔法です』


 疑似、人格?


『術者の人格を模したAIのようなものです。時が来るまでは被害者の脳に潜み休眠していて……合図があれば一時的に脳を『上書き』して乗っ取ります』


 合図……ああ!さっきの爆発音ってこと!?

そうか……発想の転換だ!


 敵は『外から入り込んだ』わけじゃなくって……『最初から内側にいた』のか!

じゃあ、攻めてきて捕まったのって……まさか、ブラフ!?


『でしょうね。むっくん……悪いお知らせと悪いお知らせがあります』


 ……じゃあ、悪い方からで。

どっちもだけどォ!!


『まず、今回の治療でむっくんの寿命がまた一年未満になりました』


 ……うん、まあ、うん。

なんとなく覚悟はしてた。

嫌だけど死ぬよりかはマシです!!


『そして……イセコさんを乗っ取った相手ですが……かなりの格上です。平たく言えば、ボス級の強敵です』


 うん、それもわかる。

さっき聞いた魔法が使えるくらい魔力があって、しかも体術も抜群。

これで弱いわけ、ないもんね……


『それでも、あなたは戦いますか?』


 ……本音を言えば、言えばね?

今すぐ全員を抱えてここから逃げたいって気持ちがないわけじゃない。


 でも、でもさぁ。

あのトキーチロ?っての、このままだと儀式を台無しにするよね?

それされるとさ、起こっちゃうんでしょスタンピード。

……じゃあさ、嫌だけど……やるしかないよねえ。


 アリッサさん姉妹、カマラさん、それから街の人たち。

例のクソ人間以外は、この街で会ったのはいい人ばっかりだもん。

そんな人たちがさ、死んじゃうかもしれないんなら。

ボク……やるよ、トモさん。


『ふふ、それでこそ私のむっくんです』


 おほめにあずかりキョーエツシゴク……ってやつ!


『無理しなくていいですよ、意味を知っていますか?』


 あふん……締まらない。

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― 新着の感想 ―
種を植え込む。コブラを思い出す、ジェーンを操って妹を殺させた植物人間。
お家至上主義でクズみたいな外法も平気で使う トキーチロは立場に酔ってるだけのクソ野郎だなあ 強さは本物なのがタチ悪い
むっくん、いったれー!やったれー!
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