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第93話 鎮魂祭最終日 ①

 ずん、という地響きで目が覚めた。


「ンジ、地震!?」「あう~?」


 一瞬で覚醒し、体を起こす。

その反動で、胸の上にいたアカが飛んでいった。

あああ!ヤバい……大丈夫だった、寝ぼけつつもホバリングしてる。


「――多方面への襲撃と予想されます!皆様ご用心を!!」


 ナハコさんだろう黒子さんが、普段にはない焦った声色で虚空から出現。

それを聞いた時には、もう全員が武器を片手に立ち上がっていた。


『アカ!ラクサコさんの扉の前に飛んでて!』


『ふみゅ……あいっ!』


 念話がよかったのか、完全に起きたアカが素早く扉の前まで飛んでいく。

トモさん!外の様子ってわかる!?


『【北街】の色々な場所から噴煙が上がっています!何らかの手段で爆破されたようです!』


 マージで!?

それってもしかしなくても例の影無しとかいう連中!?

ゲニーチロさんたちが全員とっ捕まえてるから入れないハズじゃないの!?


『それは私にもわかりません……が、とにかく敵襲ですよ!備えてください!』


 了解!

といってもボクらが今できることはない。

油断せず、この扉を守るんだ!


 ラクサコさんが祈っているであろう扉の前に、アカ。

そしてナイフを持ったマーヤと、チャクラムのミーヤ。

さらに、槍の穂先をナイフみたいに持ったロロン。

ボクとターロはその前に出る。


 廊下へ出る扉の前には、4人の黒子さん。

ええっと、ナハコさんはボクの前にいるから……あの中のどれかがイセコさんだな!


「畜生、寝てるだけで給金が貰えると思ったんだが……そんなに甘くねえか、はは」


「ダネェ、世ノ中ウマクイカナイモンダ」


 ターロと並び、黒棍棒を握る。

うん、頼もしきひんやり感……頼むよ、相棒くん。


「屋根の上から確認しましたが、ダミーの部屋を有する建物がいくつか吹き飛んでいます。かなり大規模な襲撃のようです」


 えらいこっちゃだよ、ソレ。

最終日なのに……いや、最終日だからこそ……か?


「だども、いづのまに【北街】ば、潜り込まれたのすか?昨日までに侵入ば、されてねえハズでは?」


「不明です。ですが、昨日までは全ての侵入者を排除できていたハズなのですが……南街の衛兵隊留置所に拘束していますので、そこを脱走したわけではないと思われます」


 どっから湧いてきたんだろう、敵。

あ、でも……


「元カラ潜ンデイタ、トカ?」


「いえ、それもありません。巫女行列が到着するよりも以前に確認された虫人は、ムーク様だけですので」


 ……あぁ!?

じゃあじゃあ、あの時宿にゲニーチロさんが訪ねてきたのってまさかそういうことォ!?


『まさか今まで気づいていなかったのですか……?』


そのまさかですよ!

ラーガリで虫人がいるなんて珍しいから来たもんだとばっかり思ってた!!


『まあ、お気楽虫!』


ぬううん……ぐうの音も出ない!



 ――どおん、とまた轟音。



 ふわわわ!?今度は近いぞ!?


「第七鉄工所かと思われます!」


 扉越しに、廊下から黒子さんらしき声。


「どうなっている……どこから侵入された!」


「封鎖は完璧だったはずだ!まさか……内通者が!?」


 少し不安そうな黒子さん達。

ボクには全員が女の人ってことしかわかんない!


「――憶測でものを言うな。我らは我らの責務を果たす……お頭の信頼に応えるのだ!」


「「「ハッ!!」」」


 おおう、ナハコさんの一括で全員ビシっとした!

やっぱすごいなあ、リーダーは……!


「こんなこともあろうかと思って用意していましたが……無駄にならず喜んでいいのか悪いのか、弱りますね」


 黒子さんの1人がマジッグバッグらしきものから包みを取り出す。


「皆様、立ったままで結構ですのでお腹に入れておいてください」


「そうだな、イセコ」


 ああ、イセコさんか。

彼女は包みからなんというか……カロリーバー的なものを取り出してみんなに配っている。 

へえ、この世界にもあるんだねえ。


「ムーク様、皆様の分です。急ごしらえですが、味にはいささか自信があります」


 黒子さんとナハコさんにそれを配った後、ボクの方に来るイセコさん。


「ターロ、チョット棍棒持ッテテ」


「おう、任せ……うぐおおお、なんだこれ!?お前こんな重いもんブン回してたんか!?」


 軽く片手で受け取ったはずのターロが、目の色を変えて両手で棍棒を支えている。


 ええ?そんなに重い?

これ見かけほど重くないと思うけどな~?


「ムーク様」


 あ、すいませんイセコさん。


「アリガトウゴザイマス、イセコサン」


「いえ、いつも美味しそうに召し上がっていただいて感謝しております」


 人数分の食事を受け取る。

うーん、むっちゃ香ばしくていい匂いだなあ!

これ、お豆とかいっぱい入ってるんだねえ。



 ――ずぐり。



「……ハ?」


 えっと、なんだろう。


「トルゴーンではありふれた保存食なのですよ。味は保証します」


 なんで、イセコさんは。


「ああ、ムーク様。お代わりもありますので遠慮なくお召し上がりくださいね?」


 いつものように話しながら……ボクのお腹に、ナイフを突き刺しているんだろうか。

なんで……?


『こ、れは!?ヒドラ種の劇毒……むっくん!!』


 トモさんの声が響く中、お腹が燃えるように熱くなるのを感じた。



・・☆・・



(三人称)


「お主ほどの男が、何故このような凶行を止めなんだ!」


 ゲニーチロを包囲していた黒子が残らず倒れ込み、呻く中。


「先代の思いを無下にするか!トキーチロよ!!」


 ただ1人立っている小柄な影に向かい、ゲニーチロが吠える。

常にない激高ぶりにも、影……トキーチロは揺るがない。


「――喧しいわい、小僧」「――ぬぅっ!!」


 虚空から火花が散った。

トキーチロが放った何らかの攻撃を、ゲニーチロが迎撃したのだ。

周囲で見ている面々からは、視認すらできぬ速度で。


「お主、何ぞ勘違いをしておるな」


 トキーチロは、いつの間にか黒子装束を脱いでいた。

ゆったりとした仕立てのいい灰色のローブ。

それを纏った彼は……地球で言う所のコガネムシによく似ていた。


「儂は、影よ。家に仕える影」


 まるで隠居の老人のような格好に、そぐわぬ所がひとつ。


「先代、先々代、そして当代……仔細ないわ」


 右手に握った、深紅の刀身を有する反りの深い、両刃の片手剣。

それが、搔き消えた。


「――オオオッ!!」


 吠えるゲニーチロ。


 再び、虚空から散る火花。

その数、無数。


「――ただ、家のために仕える。それが儂よ、儂と【影無し】よ」


「……そうである、か」


 ゲニーチロが、手に持った剣を地面に突き刺し、手放す。

そして――左手を、右手で握った。


 否、左手首から突出した……新たな【剣】の柄を。


「勝負を急くのう、ゲニーチロ。各所に残した部下共が心配か?」


「配下どもはみな一騎当千のつわものよ。拙者はそう信じておる」


 空間に緊張が満ち、背後に控えた黒子たちが息を呑む。


「魔力を密にせよ!【ハゼタチ】が来る!」


「結界の維持を第一に考えよ!我らなど、あれの余波に巻き込まれただけで手足が千切れ飛ぶぞ!」


 金色の結界が輝きを増し、続く攻撃に備えている。



「――拙者は……お主を斬るぞ」


 柄を握り、姿勢を低くし……ゲニーチロが呟いた。

それに対し、トキーチロが構えを変える。

今までのように右手をだらりと下げたものから、左手を突き出して体の影に右手を隠すような構えに。


「貴様にできるかのう、小僧……精々急ぐがいい。儂がばら撒いた【種】がざわめいておるわ」


 その言葉に、少しだけゲニーチロの体が動く。


「……成程、成程。お主、『潜ませて』おったのか……ならば!」


 響き始める重低音。

その元は……ゲニーチロの握る柄の先……左腕の、内部から。


「猶更拙者は斬らねばならぬ!忌むべき邪法に手を出すとは……見下げ果てたわ、トキーチロ!!」


 吹き出るような、殺気。

後方の黒子たちが思わず結界を練る手を止めそうになるほどのそれを正面から叩き付けられても、トキーチロは揺るがない。


「ならば参れ、両断してくれよう」


 トキーチロの持つ剣の輝きが増し、血のような色の魔力が大気中に放出されていく。

重低音がさらに高まり、両者は動かない。


「――轟角流、ザヨイ・ゲニーチロ」「――幻魔流、ノキ・トキーチロ」


 お互いに囁くように、しかし強く名乗った。


「「参る」」


 次の瞬間、空間が爆ぜた。

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