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第91話 本番前日は、何事もなく。

「ムークはん、そしたら……よろしゅう、お頼もうしますえ?」


「ハイ、任セテクダサイ」


 前日でも大きかった外からの歓声は、今日になって2倍くらいになったような気がする。


「ひめさま、がんばって!」


「はいな。きばりますえ~?」


 そう、今日は祭11日目。

豪華な扉の前で、ボクらはラクサコさんとお別れをしている。

今はアカが頬ずりしている所……物怖じしない子だよ、今更だけどね。

まあ、ラクサコさんも嬉しそうだけどね。


「ナハコはん、ほな」


「ハッ!憂いなく、お勤めくださりませ!」


 最後にアカの頭を撫で、ラクサコさんは扉の中へ消えていった。

ボク、てっきり最終日にお祈りを始めると思ってたんだけど……実は前日から1人になって精神統一?をする必要があるみたいね。

1人で丸2日間瞑想かあ……ボクなら絶対寝ちゃうね!


「では皆さま、少しお下がりを」


 ナハコさんの声に従って、皆で下がる。

すると、彼女はローブからお札を取り出した。


「ふぅ……『邪を祓い、魔を退け給え』」


 そのお札を閉じた扉を塞ぐように貼り付け。


「オーム・ダーバ・ザラ・ウーム……スヴァーハ!」


 貼っお札に両手をぱあんと打ち付けた。

その瞬間、なんかこう……綺麗な空気がぶわっと広がった気がする。


「っく……ぅ、う」


「ナハコサン!?」


 ぐら、と体を揺らしたナハコさんを慌てて支える。

うわ、体から力が抜けてる……今の魔法?むっちゃ疲れるんだね。


「こ、これは、申し訳ありませ……」


「イイデスカラ!誰カ!ナハコサンヲ!」


 ウワーッ!?虚空から黒子さんが3人出てきた!?


「こちらへ」「ハ、ハイ……」


 推定イセコさんにナハコさんを渡すと、彼女らは音もなく担いで部屋の隅にあるソファへと運んでいった。


「今のは恐らく『清浄結界』という魔法でやんす。生者であるワダスたちはなんともなりませんが、アンデッド系の魔物は触れるだけで消し飛びまっす」


 おー、そうなんだ。

ロロンは物知りだなあ。


「さぁて、いよいよ残すところあと2日だなぁ。アレだな、給金的にはあと1月でもいいんだけどよ痛ェ!?」


「罰当たりにはこうニャ!!」


 現金なことを言うターロの脳天に、ミーヤのネコチョップが突き刺さった。

うんまあ、言葉には気を付けようね?


「例の虫人集団もいるし、なにが起こるかわからない。気を引き締めないと、ね」


「んだなっす」


 マーヤとロロンは真面目だなあ。

ボクも見習わないといけないねぇ。


「おやびん、がんばろ!ひめさま、まもる、まもるぅ!」


「ガンバロウネエ、ヤル気満々ダネエ」


 アカも気合を入れるような謎ダンス。

うーむ、気迫が凄いや。

とりあえず撫でとこ。


「んへへぇ、へへへぇ」


 アカは撫でられて嬉しそうだけど……この反応でボクも元気になるからねぇ。

これが永久機関ってやつかもしんない!


『どちらかというと無限ループかと……さ、いつでも持てるように黒棍棒さんを表に出しておきなさい』


 はーい。

咄嗟に取り出すのは難しいしね。

さ、気を抜かずに頑張るぞ~!



・・☆・・



「本日のメニューはパンと根菜のスープ、それに草原アホウドリのソテーになります」


「ゥワォ!」


 意気込んではみたものの、何も起こらずに昼食の時間になった。

今日も今日とて美味しそうな料理がテーブルへ並べられていく。


「運動はしてるけど、この生活してたらちょっとふっくらするかも……」


「腹以外に付けばいいのにニャア、肉」


「んだなっす~……」


 どうやら、世界は変わっても女性の悩みってのは似たようなモンかもしんない。

だけど!概念でしかソレを知らないボクにもわかるぞ……これに対する対応は!

答えは沈黙!

決して『そんなに太ってないよ』とか!『もっと肉付いてる方がいいじゃん』とか!

言っちゃ駄目だってこと!


「その分動きゃいいじゃねえかよ。お前らも食った分だけ乳にでも行けばいいのになぁ、ホント……俺が悪かったです、ゆるして、おねがい」


 考えうる限りで最悪の対応をしたターロの喉元にはチャクラム、胸元にはナイフが突きつけられた。

そしてロロンが……ヒィ!虫の死骸でも見る顔をしている!!

さすがに地球ならアレよりは優しい対応だろうけど……ターロ、藪蛇には違いないでしょ。


「おやびん、あれなぁに?」


「ナンダロウネエ、ワカンナイネエ……ホラ大キイ茸ダヨ、イル?」


 根菜スープに大きいマッシュルーム的なのがあった!


「いる、いるぅ!」


 アカの分はもちろん小さくてカワイイお皿があるけど、ボクがあげたら駄目って法律はないもんね!

ナイフで切って……半分こしよっと。

うん、上手く切れた。


「ハイ、アーン」「ももむむ~!」


 アカは顔の半分くらいある茸を豪快に頬張った。

うーん、カワイイ。

しかもこの子、他の人にはいかないんだよね。

誰でも彼でもご飯をもらっちゃ駄目って、ボクとトモさんで教育した甲斐があったね!


『それもありますが、基本的に他から貰う必要がないほどむっくんがあげるからでは?』


……些事だね、些事!

しょうがないじゃんカワイイんだからさぁ!!


「おかわりは如何ですか?」


 ムムム……この人はイセコさん!

なんでかっていうと、『昼食の当番はイセコです』ってナハコさんが言ってたから!!

外見から判別?

無茶言わないでよ……わかんないよ……


「イタダキマス!」「ます、ますぅ!」


 ボクとアカは、揃って皿を出す。

おいしいもんね、仕方ないね。

そしてボクらはどれだけ食べても基本的に太らないからね!

お得!!


『女性陣の前では絶対に言わないようにしましょうね。殺されますよ』


はぁい……そうします……

ボクだって命は惜しいのだ。


「かしこまりました。……皆様そうですが、ムーク様やアカ様は特に美味しそうに召し上がってくれますので……嬉しく思います」


 軽く笑い声を残し、皿を持っていくイセコさん。

アカは表情豊かだし……まあ、ボクはパントマイムが上手な虫ですからね!


『どんどん大道芸虫に近付いていきますね、むっくん』


本当に食うに困ったら目指してもいいかもね。

最近8つに増えたアカのお手玉も凄いしさ……アレ、地球だとギネスとか狙えるんじゃないかな。

手先が器用でいいなあ。


「ア、忘レテタ」


 お昼前のお祈りしてなかった。

食事は中断してるし、今やっとこ。

ポーチに手を入れて……むんむん。


 するりと取り出したのは……全長20センチくらいの木像。

そう!おひいさまのおフィギュアだ!

ここに詰めてる間に完成したんだよね~、結構時間かかっちゃったな。

我ながら可愛く、そしてどこか荘厳にできたと思うんだよ。

アカも『そっくりぃ!』って太鼓判押してくれたし。

隠形刃腕で指を刻んだりした甲斐があったというモノだね。


「ヨッコイセ」


 テーブルにおフィギュアを乗せ、手を合わせる。

それを見て、アカも肩に乗って同じようにした。


「オカゲサマデ、元気ニヤッテマス。アリガトウゴザイマス」


「あいがと、ごじゃます~!」


 ふう、なんか落ち着く。

やっぱり最低1日1回はこうしないとねえ。

ふふふ、心なしかおひいさまの顔も嬉しそうじゃないか!


「……ロロン、アレ、なに?」


「随分可愛らしい神様ニャ、エルフに似た少女神ニャんていたかニャ?」


「ワダスに会う前にお世話になったエルフの方らしいのす。なんでも命の恩人とか」


「ほーん、俺もエルフの美人によろしくされてえなあ」


 なんか、ターロの煩悩だけ聞こえてきた。

いけませんぞ!不敬!不敬!!



・・☆・・



「――れざれくっしょん!?にゃぁ、なんじゃ……寒気が」


「ラザトゥス、医者を」


「御意。最近よく変な咳をされますなあ……」


「待て!待てと言うに!これは違う!なんとなくわかるのじゃ!これはムークのヤツがな……!」



・・☆・・



「おやびん、おやしみ~」


「オヤスミ」


 おひいさまのご利益か、午後も何事もなかった。

バレリアさんが昨日差し入れてくれたデッカイ干し肉をふんだんに使った夕食も終わり、お風呂にも入った。

そして、アカは妖精サイズの布団にくるまって目を閉じている……うわ、もう寝た。


「お先にニャ~……襲うんならロロンにしとくニャ」


「じゃじゃじゃぁ!?」


 襲わないよ……ボクをなんだと思ってるのさ。

ロロンもそんな顔しないでよ。


「はっは!襲うにしてももちっと肉付きのいい女じゃねえと……ハイわかりました、寝ます」


 ターロが笑った瞬間に、枕にマーヤ由来のナイフが突き刺さった。

この人はもう……口は災いの門ってことわざが具現化した存在なんじゃないかしら?


「おやすみ、ムーク」


「オヤスミ~」


 ラクサコさんの部屋が立ち入り禁止になったので、ボクらはみんな同じ部屋で寝ることになった。

黒子さんたちは……たぶんどこかにいるんでしょ。


 まあとにかく……明日に備えて眠るとしよう、そうしよう。

くれぐれも、何事もありませんように!



・・☆・・



「……さて、動くかの」

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― 新着の感想 ―
虫人が太るとどうなるんでしょう? 攻殻の隙間からムチッとはみ出たりしてw おひいさまおフィギュア欲しいです!
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