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第84話 色々と予想外です、ハイ。


「らっしゃせ、らしゃーせ~!」


 アカが、往来に向かって愛想を振りまいている。

すると何人かが足を止め、こちらへ向かってきた。


「おうおう、可愛らしい店番じゃねえか。ここは何の店だい、お嬢ちゃん」


 先頭のミニチュアじゃないシュナウザーみたいな獣人のおじいさんが、目を細めた。


「たりすまん!おまもり!ごりやくある、あるぅ!」


「今なら期間限定で妖精の加護もあるよ、お兄さん」


 あやふやなセールスポイントを加えるのはカマラさん。

またそんな不確かなことを……


「へぇえ、そいつはいいや!おいみんな、ちょいと見ていくかい」


 おや、この人たちはみんなお仲間なんだね。


「イラッシャイマセ、向カッテ右側ガ日常用……左側ガ旅用デス。戦闘用・護身用ハ別箱ニナッテイマスヨ」


「あんた用心棒じゃなくて店員かよ……ご丁寧にどうも」


 ボクも仕事しなきゃね。

何度か手伝ったから、なんとなく配置はわかる。


「アルマードの嬢ちゃん、こっちのナイフはなんだい?」


「ワダスが作った解体用のナイフでやんす!これが地竜の骨、こっちが大地竜の牙、そんでこれがオオムシクイドリの骨と牙でやす!」


「なんだって?おお……こいつはモノがいいやな。どれ、倅への土産にしようかね……見せてもらうよ」


「どんぞ!」


 そして、タリスマン売り場の一角にはロロン製骨ナイフの販売所が。

……ずっと夜なべしてコツコツ作ってたもんねえ。


 そして……


「いい匂いだなあ。お嬢ちゃん、コイツはなんだい?」


 タリスマン、骨ナイフときて……その横の露店。

そこには、周囲にいい匂いを拡散する焼き菓子の山が!


「トルゴーン式の焼き菓子どす。中にクルムの実が入っとって美味しおすえ?」


「ほ~……孫娘の土産にすっかな。長持ちするかい?」


 秋田犬っぽいモフモフ獣人さんと、ニコニコしながら談笑している虫人のおねえさん。


「せやねぇ……こっちの山やったら、一月はもちますわ。こっちの方は二月ちゅうところやろねえ」


そこの店主は……黒いローブを羽織って目元を隠す仮面を付けた……ラクサコさんである。

そう、このお祭りのメインゲストである、鎮魂の巫女さんである。

鎮魂の!!巫女さんである!!


「長持ちすんなあ!それじゃ、コレとコレを2袋くんな」


「毎度おおきに~!」


 その声に、左右に控えた同じような格好の2人が動く。

1人はお菓子を袋詰めし、もう1人は会計の手続き。


「2つで20ガルになります……はい、確かに。80ガルのお釣りです」


 ……どっちかがナハコさんで、どっちかがイセコさんだ。


「いらはいいらはい~!湿地蜥蜴の尻尾焼きニャ~!」


「ランダイ伝統のタレが病みつきになるよ~!今なら1本10ガルでのご奉仕だ!」


「あとひく美味しさ、とってもおいしい」


 カマラさんの露店の右がラクサコさんの店。

そして左が……ターロたちの店だ。

ミーヤとマーヤが元気よく客引きをし、頭に異世界ねじり鉢巻きをしたターロが、ごうごうと火を上げる焼き台の上で真っ黒になったトカゲの尻尾を焼いている。

……異世界ねじり鉢巻きってなんだろう?


『私に聞かれましても……』


 苦笑いするトモさんの声。


 今日は、祭4日目。

時刻は昼過ぎ。

ここは、【東街】の露店通りだ。


「ナンデコンナ状況ニ、ナッタンダッケ……」


 脇に置いた果実水のボトルを持ち、柑橘系の匂いがする中身をゴクゴク。

ええと……アレは朝だったな。



・・☆・・



「おやびん、おやび~ん」


「ハイハイ、ナンデショ」


 護衛が始まって2日目。

初日は石像の化身みたいになってたロロンも、ほんの少しラクサコさんに慣れてきた。

ちなみにアカは初めから慣れていた。


 豪華なソファに腰を下ろしていると、ラクサコさんの部屋の扉が開いてアカが飛んできた。


「ね、あのね?おばーちゃ、だいじょぶかな?」


「オバアチャン?……アア、カマラサンネ」


 大丈夫って、何が大丈夫なんだろうか。


「おみせ、おみせ!ひと、いっぱい!」


「アー……ナルホド」


 カマラさんの露店手伝いのことか。

祭り中はできるだけ手伝うつもりだったけど、この護衛が始まったから無しになっちゃったんだよね……

もちろんカマラさん本人にはキチンと説明したよ?

そしたら『構わないよ、いつも一人でこじんまりやってたから心配しなくてもいいさね。そんなにあくせく稼ぐつもりもないし、適当にやるよ』って言ってくれたんだよね……


「大丈夫ダト思ウヨ?」


「ほんと、ほんとぉ?」


 アカは心配そうだ。


「優シイネエ、イイ子イイ子」


「むいむいむい……んへへへぇ」


 優しい子に育ったよねえ……ボクとそんなに年齢変わんないけど。


「お店、どすか?」「ウオオ!?」


 いつの間にお部屋から出てきたの!?ラクサコさん。

ゲニーチロさんのお弟子さんか何かですか!?


「同じ宿の商人さんの、お手伝いばしてたのす」


 ロロンも部屋から出てきた。

その後ろに続くのは、いつもの黒子さん2人。

どっちかがナハコさんで、イセコさんだと思う!


「まあまあ、面白そうなことしてはるんやなあ」


 ラクサコさんはぽん、と手を打って。


「ほなら、みぃんなでお手伝いに行きましょ!」


 そう言ったのだ。



・・☆・・



「ムーク、どうしたの?お腹すいてるの……はいこれ、切れ端」


「モゴゴゴ」


 朝のことを思い出していたら、不意に口に肉の塊がねじ込まれた。

いきなりはビックリするでしょマーヤ!

あ、でもこれむっちゃ美味しい!

一味みたいな香辛料が効いてる!!


「美味シイ!アリガト!」


「ふふふ、声おっきい……じゃあね、頑張って」


 ボクに手を振りながら、もう一本渡してマーヤが帰っていく。

ムムム、歯触りがむっちゃコリコリしてて食感も楽しい!


「おいし?おいし?」


「ハイアカ、アーン」


 興味津々で寄って来たアカに、串から抜いたお肉を摘まんで持っていく。


「もむ……むぐ、おいし!おいし!こりこり、しゅき!」


 アカは目をキラキラさせながら飛び回っている。


「こおら、美味しいのはわかるけど座って食べな、喉につっかえちまうよ」


「ももぐ……はぁい!」


 アカはボクの肩に着地して、きちんと座って食べだした。

カマラさんの言うことむっちゃ聞くね……こういうの、ボクもしっかりしないとなあ。

でもかわいいし悪いことしないもんなあ、無限に甘やかしちゃう!!


「アノ、ナンカ……イキナリ増エテスイマセン」


「初めは驚いたけどね、賑やかでいいじゃないか。あの虫の旦那の姪っ子ちゃんも、いい客寄せになって万々歳さね」


 ラクサコさんが『お手伝い』発言をしてから状況が一気に動いた。

いや、ボクは皆さんが止める方向で動くと思ってたんだけど……まさかの快諾。

あっという間に衛兵隊の厨房でお菓子が量産され、変装用の衣装も即座に用意された。


 普通止めるでしょ!?

超重要人物が、あんな不特定多数の人がごった返す場所に行くなんてさ!


『本来なら現在この街に巫女がいるはずがないのである。だから大丈夫であるよ』


 なんて言うと思わなかったよ、ゲニーチロさん。


『どちらにせよ、恐らく【影無し】共は偽の巫女行列の方に張り付いて移動中である。この街に別動隊を潜ませるほど、奴らの人員は潤沢ではないのである……むしろ、街にいたとすれば一網打尽にできるいい機会なのであるが……白昼堂々仕掛けてくるほど、連中は阿呆ではないのである』


 って言うけどさあ……いいのかなあ?

まあ、護衛の責任者が言うならいいんだろうけどさ。


 というわけでラクサコさんと黒子さん2人は『祭を見に来たゲニーチロさんの姪っ子たち』という体で露店をすることになった。

場所も、ゲニーチロさんが衛兵隊に掛け合ってすぐに用意されたしね。

ああ、それにボクらの推薦で雇われたターロたちの分もね。

彼らが売っているトカゲの尻尾は、干物にしようと狩っていたものらしい。


 あ、それとボクには一切わかんないけど……周囲にも黒子の方が何人も潜んでいるらしい。

なんでわかったかって?

アカがたまに壁とか屋根の上とか虚空に向かって小さく手を振ってるから!

索敵妖精アカ、大活躍ですよ!


「よくはわからないけど、随分いいとこの子なんだろうねえ」


「……ワカルンデス?」


 カマラさん、色々鋭いから話しててヒヤヒヤするよう。


「所作がね、綺麗なのさ。ああいうふとした所は一朝一夕に身に付くもんじゃないからねえ……あの旦那も、ね」


「ソデスカ~、スゴイナ~」


 カマラさん、本当に鋭いや。

ボクは下手に反応すると絶対にバレると思うので、誠心誠意アホ虫になりきるとしようそうしよう。


「い~い買い物させてもらったぜ。見物に来た仲間にも紹介させてもらうからよ!」


「あいがと、ございましゅた!」


「たまげた!こんなに小せえのにウチの末息子より賢いぜ!ホラ嬢ちゃん、飴やるよ!」


「あいがと~!」


 いつの間にかボクの肩から飛び立って愛想を振りまくアカ。

それを微笑ましく見ながら、ボクはトカゲの尻尾を齧るのだった。



・・☆・・

  


「お頭、動きはありません」


「で、あろうな。拙者の方でも同族すら見ぬ」


「しかし、よろしいのですか?いかに危険が少ないとは言えども、このような……」


「大殿より『護衛の一切を任せる』と言われておる。ぬかりはないのである……それに」


「それに?」


「いつまでも籠の鳥では哀れであろう、姫様が。なかなか本国ではできぬ故、羽を伸ばしていただきたいのである……はっは、見よあのお姿を!まるで年頃の街娘である、よきかなよきかな……」


「そうでありますな……」


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