第82話 えらいことですよ!えらいこと!!
「ダ、ダダダ大丈夫ダッテ言ッタジャナイデスカ!?」
「うむ、邪竜の解放だけはないのである」
そ、そりゃあクソデカドラゴンヘッド大暴れは避けられるだろうけど……!
なんでスタンピードが発生するのさ!
「ムークはん、こん街に封じられとる邪竜の首はまだ生きてるんどす。生きとる以上、うちらと同じように息してはるんや」
こ、呼吸してるんだ……
生首なのに!!
生きてるのは知ってたけど、なんかこう……仮死状態的なアレかと!!
「そんで、その息っちゅうのはな……大気に含まれとる魔力を吸い込んで……不浄に染まった残りカスを吐き出しとるんよ。その残りカスが、魔物にとっては無上のご馳走なんどす……それを目当てに、寄ってきはるんや」
「ゴ馳走……」
なんか、体にとっても悪そうなご馳走だね……
二酸化炭素的なアレ。
「うちら巫女の仕事にはな、1年かけて封印結界内に充満した……その残りカスを浄化することも含まれとるんや」
ふへえ……浄化。
そんな簡単にできるんだ。
『できませんよ。大気中に放出された魔力を浄化して正常に戻すなんて……むっくんなら100回程度は餓死する魔力が必要です。魔力量以外にも、極めて高度な魔力操作や知識が求められますし……』
あの、前から思ってたけど例えの度にボクを殺し過ぎではないでしょうか?
っていうかこのお姫様、魔術師じゃなくて魔法使いってこと?
『そうですね。ただ、恐らくほぼ全てのステータスを結界・封印魔法に使っているので……攻撃は不得手でしょうね。あ!といっても一般的な攻撃魔法をあくびついでに乱射できる程度の『不得手』でしょうが』
むううん……周囲に強い人がいっぱいいるよう。
ボクの護衛必要ないんじゃ……あ、でも鎮魂の儀の最中は何もできないか。
「というわけで、ムーク殿にお願いしたいのである……ああ、勿論報酬はしっかり支払うし、護衛期間中の衣食住はこちらで賄うのである」
それは、願ったりかなったりだ。
うーん、どうしよっかなあ……危険なこともあるかもしれないしなあ。
『そうは言いつつ、八割方は引き受けるおつもりでしょうに』
……や、やっぱりわかっちゃった?
『ゲニーチロさんのこと、気に入ってなさるでしょう?それに……失敗すればこの街に危険が及ぶと聞いたら、優しいむっくんは放っては置けませんしね』
……だってさあ、この街で知り合った人っていい人ばっかりなんだもん。
スタンピードなんて聞いちゃったらさあ、無視できないよ。
でも、アカとロロンに付き合ってもらうわけにはいかないよね、危ないし。
この依頼はボクだけで――
『むっくんを誇らしく思った自分を自分でぶん殴りたいですね』
ナンデ!?
『なんで!?本気で言っていますか!?むっくんの鈍感虫!!』
ヒッ!?
『あの2人がむっくんだけを戦わせてヨシ!とするものですか!怒りますよ私は!とってもとっても怒りますよ!!』
も、もう怒ってる定期……
『さあ!どうしますか!むっくん!!』
さ、ささ……3人一緒に頑張って巫女様をお守りいたしますぅ……
『よろしい!殊勝な態度に免じてトモさんポイント剥奪は勘弁してあげます』
わ、わぁ~い……
「ムーク殿、どうであるか?やはり急な話であったか……」
うおっと!ゲニーチロさんが心配そうにしている!?
これはすぐにご返答せねば!
「――ヤリマス!ヤラセテクダサイ!!」
「お、おお!?そ、そうであるか!やってくれるか!!」
思わず身を乗り出してしまった。
「アノ、ソレデ申シ訳ナインデスガ……仲間モ一緒ニ依頼ヲ受ケタインデス」
これをしっかり言わないとトモさんに殺されてしまう!
『まあ、無慈悲扱いは悲しいですね』
スイマセン!
「アカ殿とロロン殿であるか、それはもう……こちらからもお願いしたい所であったよ。彼女らの戦力も頼りにさせてもらうのである」
「まぁ、さっき言っとられた、かいらしいお仲間はんやね。うち、アルマードはんも妖精はんも初めてやぁ、嬉しおすえ」
ラクサコさんはぱん、と手を打って嬉しそうだ。
……そうだね、同性の護衛がいた方がいいと思う。
アカは……どっちだろうか。
まあ、カワイイからいいや!
「それでは、明日迎えを寄越すのである」
ゲニーチロさんにガッシ!と握手された。
「すまぬ、このゲニーチロ……恩に着るのである!」
「イエイエ、コノ街モ危ナクナルナラ……ボクトシテハ放ッテオケマセンカラネ」
無慈悲なヒトばっかりな街なら放り出して逃げるところだけど……ここがいい国なのが悪い!いや全然悪くない!むしろベスト!!
「ムークはん、ほんにおおきにどした。ナハコはん、お土産、お土産」
「ハッ!こちらに!!」
ウワーッ!?
ナハコさんがクソデカ風呂敷包みを持ってらっしゃる!?
いつの間に……むっちゃいい匂いする!?とってもあまーい匂いがする!!
・・☆・・
「ムークはん、ええお人どしたなあ」
「は、よき青年かと思われます。かような場所、時で出会えたのは誠に僥倖で御座いましょう」
「ふふ、それにとってもかいらしいお人……うちにもようわかりまへんが、何か大きな物の守護を受けておられる気配もしましたえ?」
「ほう……そこまでは拙者もわかりませなんだ」
「細ぉい細い糸のような、せやけどしっかりとした強いつながり……ふふ、うちの目ぇでも『視えへん』のは初めてや。ほんに、ほんに……世界は広おすなぁ」
「然り、然り」
・・☆・・
「……トイウ、コトニナッタンダ」
「み、みみみ巫女様の!護衛!護衛でやんすか!?」
宿までナハコさんに送ってもらって、食堂でロロンに今回の顛末を告げた。
アリッサさんたちはお風呂だそうだ。
説明すると……テーブルからはみ出るくらいのクッキーやホットケーキ的なお菓子類に目を輝かせていた彼女は、急に振動し始めた。
「や、やはりムーク様は英雄になるべくして世に出だお方……」
「ナイナイ、ナイナイ」
英雄なんて器じゃないし。
オモシロ謎虫枠でいいよ。
「はぐはぐ、もむもむ、ももも、むぐぐぐ」
あ、もう1人の仲間であるアカはハムスターの化身みたいになってます。
美味しいもんね、ラクサコさんのお菓子。
あらあら、ほっぺたにクッキー屑が。
拭いてあげよ。
「オイシイ?」
「むむむい……むんむ……おいし!おいし!!」
ははは、声でっか。
「……デモ、ロロン。ボクガ勝手ニ決メチャッテゴメンネ?」
「じゃじゃじゃ!何の問題もねぇのす!ワダスはムーク様のおっしゃるごとでしたら、なんでも従いまっす!!」
なんでもは駄目でしょ、女の子が軽はずみにそういうこと言っちゃいけません!!
「すんすんすん……むっさいい匂いするニャ」「するね」
あ、腹ペコ猫さんが2人きた。
ターロは……いないね。
たぶん今も娼館で大暴れしてるんだろうね。
「ヨカッタラドウ?見タ通リトンデモナイ量ダシ2人モ――」
「秘蔵のケマ持ってくるニャァ!!」
「ラパラのジャム、持ってくる!!」
……行動が早すぎる。
ま、いいや。
「ロロン、トリアエズ食ベヨ」
「んだなっす!!」
目をキラキラさせながら、クッキーに手を伸ばすロロン。
こういうとこ、年相応の女の子なんだよなあ……あれ、ロロンっていくつなんじゃろ?
「ヤバいニャ、手が止まらんニャ」
「こんなに甘いお菓子、この世にあるんだ……」
戻って来た2人も交えて、夜のお茶会が始まった。
「ふもも……おいっし!おいしい!」
「なんて質のいい砂糖を使ってるんだ……この風味、トルゴーン産の一級品だ……」
あ、追加も2名。
風呂上がりのアリッサさんとクラッサさんもいる。
……男?はボクだけか。
まあいいけども。
あ!このアップルパイみたいなのめっちゃ美味しい!
ラクサコさん、本当にお菓子作りが上手なんだね~。
「しっかし、【大角】に雇われるなんてやるニャア、ムーク。依頼金もガッポガッポニャ?」
「ド、ドウナンダロ」
そういえばお金のこと、すっかり聞いてなかった。
「むぐぐ……私らも雇ってもらえないかな?」
「ド、ドウナンダロ……明日聞イテミヨウカ?」
巫女様の護衛なら、同性が多い方がいいかもしんない。
その……お風呂とか寝室とかさ、ボクは護衛できないもん。
ちなみに仕事内容が巫女の護衛ってのは、ロロン以外にはまだ言っていない。
特に口止めはされてないけど……まだいないハズの巫女がいるって情報は出しちゃ駄目だと思う。
他の人たちを信用してないってワケじゃないけどね。
「ほんと?嬉しい!」
マーヤ、初めて会った時はクール系かと思ったけど……結構表情豊かだよね。
「頼むニャ~ン?一攫千金ニャ~ン?」
「アヒャヒャヒャ!?」
顎をくすぐるのはやめてください!!
……ミーヤはずっとこのまんまだね。
まあ、表情がコロコロ変わって面白いけどさ。
「姉さん、ウチでもこれ出せない?」
「馬鹿言いなさい、クッキー一山で1000ガルは取らないと潰れるわよ。こんなの、首都の一級宿屋でも出るかどうか……」
アリッサさん、美味しく食べるだけじゃなくって商売のことも考えてるんだね。
しかし、このお菓子類ってそんなに高いの!?
……そういえば街で砂糖見かけたことないな?
「おやびん、あーん!あーん!!」
「モググ……ンマイ!!」
とりあえず、今はこの高級らしいお菓子を楽しもうとするか……アカ!アカ!!おやびんの口は特大ポリバケツじゃないからそんなに詰め込まないで!!
味わって食べたいんだよ~!!