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第81話 お姫様の、お願い事。

「あらぁ、綺麗にないなったわぁ……嬉しおす」


 推定ホットケーキを平らげると……ラクサコさんは手を合わせて嬉しそうに微笑んだ。

いやあ、美味しさの洪水に押し流されてしまった。

なんとか気絶しなかった自分を自分でスタンディングオベーションしたいね。

こんなに甘いお菓子なんて、転生して初だよ。

前世の記憶はないけど、たぶん地球のお菓子と殴り合っても勝てると思う。


『お菓子の殴り合い……ふふ!』


 なんかツボにはまったんですか、トモさん。


「まだ食べはりますか?ぎょーさんありますよって、ご遠慮なさらんと」


「ア、イヤ……」


 これ、アカとロロンにも食べさせてあげたいなあ。

ボクだけ楽しむのは惜しいよ、惜しい。

具体的には2人のリアクションが見たい。


「大変、大変厚カマシイオ願イナンデスガ……ソノ、宿ニ持ッテ帰リタインデス……」


 頭を下げる。


「じい?」


「ムーク殿のお仲間の分でしょうな。短い付き合いですが、そんな拙者が見てもわかるほど……皆様とても仲が睦まじいのであります」


 えへへ、照れるなあ。

だから、ボクだけ独り占めするのはちょっと勿体ないよね。

本当に美味しいし。

物質転送機能とあったら、トモさんにも送ってあげたいくらいだよ。


『まあ!トモさんポイントを稼ぎますね、むっくん……お上手虫!』


 稼ぎ目的ではないけど、嬉しそうなのでまあ……いいか!


「それやったらぎょーさん包ませますわ。お仲間思いなんやねえ、ムークはん……うち、お仲間さんのことも聞きたいわあ」


「ア、ハイ……妖精ト、アルマードノ女ノ子デス。2人トモ、トッテモイイ子ナンデスヨ」


 ボクの経歴は嘘まみれだけど、ここだけは胸を張って真実だと言えるね。


「あらぁ、それやったら一緒にお招きするべきやったわぁ。かんにんえ?」


「ト、トンデモナイ……!」


 ラクサコさん、笑顔がよく似合うなあ。

初めは面食らったけど、雰囲気も柔らかいし声も綺麗。

おひいさまもそうだったけど、これがにじみ出る気品というやーつでしょうか?

ボクが逆立ちしても出てこない物質だね!


「ムークはんの旅のお話、聞きたいわぁ。【帰らずの森】いうんは、どないな場所なんやろか?」


「エ、エエト――」


 もうちょっとよく回る舌が欲しい今日この頃。


『ありませんよ、そもそも舌が』


 ……そうでした!



・・☆・・



「はぁ、波乱万丈やなあ。まるで物語でも聞いとるような心地、しましたえ?」


「喜ンデ頂ケテ、幸イデス」


 出自をボカしつつ、この街に来るまでのことを語った。

改めて自分でも波乱万丈だとは、思う。

よく生きてたね……ボク、ほんとに。


「じい、やっぱりムークはんにお願いしたいんやけど……お話聞かせてもろて、得心しましたえ。このお人なら大丈夫ですやろ」


「御意」


 ラクサコさんがさっきまでの笑顔を消した真剣な顔で、ゲニーチロさんにそう言った。

お願いしたいって……なんじゃろ?


「ムーク殿、貴殿に折り入って頼みたいことがある」


「ナ、ナンデショウ?」


 ボクみたいな虫にできることなんて……なんにもないと思うんだけどな?


「その前に言っておくことが一つ、あるのである」


 ……なんだろうか。

急に空気が重くなったような……?


 ゲニーチロさんはボクをまっすぐ見つめて口を開いた。



「――このお方は、ラクサコ・ジーグンシ様といって……鎮魂の巫女様である」



 はえ~……鎮魂の巫女様なんだあ。

確かにそう言われてもスッと信じられるくらいの気品が……巫女様ァ!?!?


み、巫女様って……あの!?


「デ、デモマダ街ニ到着シテイナインジャ……!?」


 6日目に到着して、パレード入場するんでしょ!?

なんで初日にここにいるの!?


「それは配下が化けた影武者である。姫様は我らと共に前もって到着しているのである」


 へ、へぇえ……

影武者なんて、なんか戦国時代みたいだね!

でも……


「ッテコトハ……影武者ガ必要ナ状況、ナンデスネ?」


 安全なら、そもそもそんなことしなくてもいいもんね。


「察しがいいのである……姫様」


 ゲニーチロさんが目配せすると、ラクサコさんは頷いた。


「任せますえ。じいのお眼鏡に叶ったお人やし、うちが止めることはあらしまへん」


「御意」


 そして、再びボクに向く視線。


「まず、ムーク殿には姫様の護衛をお願いしたいのである」


「……護衛、デスカ?ナンデマタ? ゲニーチロサンタチガ、イラッシャルデショウニ」


 ボクを恐らく小指で殺せるような人がいるのに、何故護衛?


「ふむ、それも含めて説明するのである」


 ぐい、とケマを煽るゲニーチロさん。

しばし黙った後、ゆっくりと口を開いた。



「――姫様は、狙われておる。それも、我らが同族に」



 ……同族、だって?

ということは……虫人に?

鎮魂の巫女様が、なんでまた?


「そもそも鎮魂の巫女とは、家柄や生まれによって決まるようなものではないのである。それよりも重視されるのは、日々の鍛錬とそれによって培われた魔力、それに封印魔法の技量である」


「フ、フムフム」


 なんかいきなり巫女さんの選定基準話が始まったけど、横槍はやめておこう。


「だが、そうとは思わぬ輩もおるのであるよ、嘆かわしいことに」


 ……あ、なんかわかってきたかも。


「ツマリ、巫女様ニ成リ代ワリタイ人ガイル……ッテコトデスカ」


「――然り」


 ああ、よくない予想が当たっちゃった。


「トルゴーンに【サジョンジ】、という家があってな。かの家は、かつて代々鎮魂の巫女を輩出した封印術師の名家……であった」


「デアッタ」


 ああ、鈍いボクもここまで言われるとさすがにわかる。

つまり……そのサジョンジ?ってお偉いさんがいて……それが、ラクサコさんを追い落そうとしてるってことかしら?


「先代、先々代と素晴らしいご当主様であったのだが……当代が、な」


 言いにくそうにしているゲニーチロさんの横で、ラクサコさんも困ったように頬に手を当てている。


「ほんに、なんであないにご立派な方から……あんな、あかんたれが産まれはったんやろ」


 ……結構言いますね、ラクサコさん。


「当代当主は見栄と栄達のことしか頭にない……平たく言えば馬鹿殿である」


 平たく言いますね、ゲニーチロさんも。


「その当主には娘がおってな、封印魔法にも長けておった。長けておったが……12人の巫女、【十二巫女】に選ばれるには……少し、技量が足らんかったのである」


「リルコはんはねぇ、持って生まれたモンに胡坐をかきすぎたんやわ」


 ふむふむ。

さすが12か国を回ってクソデカドラゴンヘッドを封印する大事なお役目。

さぞ、選抜試験的なのも苛烈なんだろうね。

ラクサコさんの言葉から察するに……元々ちょっと勉強ができたからって試験勉強をおろそかにして、試験日にエライことになる高校生みたいな感じなんじゃろか。


『一気にしょうもないスケールになりましたね』


 ボクもそう思う。


「ソレデ、ラクサコ様ヲナントカシテ……後釜ニスワリタイ、ト?」


「で、ある。巫女を功名の道具としか見ておらぬ……嘆かわしいことである」


 いやいやいや、そんなことして……しょうもない巫女が封印に失敗したら大惨事じゃないですか。

怪獣映画みたいな大惨事になるよ?


「それで、ムーク殿への依頼となるのである」


 ふむ……ゴタゴタの理由はわかったけど、結局ボクが選ばれた理由はまるでわからんのだが?


「此度の鎮魂の儀に際し、かの家は儀式を中断もしくは失敗させるように動くと見ているのである」


「ダ、ダイジョウブナンデスカソレ?」


 やっぱり大惨事じゃないか!?


「ムークはん、邪竜の封印は代々の巫女が1000年以上もの時をかけて補強してきはった呪法や。今回失敗したいうても、それが即解放とはならんのどすえ?1000年の呪法を無しにするには、やっぱり1000年の積み重ねが必要なんどす」


 そんなボクに、ラクサコさんが丁寧に説明してくれた。


「ホッ……ヨ、ヨカッタ」


 まさかボクがいる時に怪獣大復活!とかになるかと。


「ふふふ……ムークはんは見てて楽しおすなぁ」


 へへへ、喜んでもらえてなによりです。

表情がないのに行動がわかりやすすぎるボクでーす。


「せやから、あのお家は今回の儀式を失敗させて……うちの顔に泥を塗りたいんでっしゃろ。それを責めて、巫女の交代を【神前会議】に訴える気ぃやろね」


 ははあ、なんちゃら会議以外のことはよくわかったね。


「故に、サジョンジ配下の【影無し】と言われる部隊が動くと踏んでいるのである。拙者を始め、我が配下はその阻止と排除に全力を注ぐのである……その際の姫様の護衛を、ムーク殿に頼みたいのであるよ」


「ナ、ナルホド」


 ……本当にニンジャの話みたいだ。

外見は人間とかけ離れているのに、なんか戦国時代みたいだね虫の国。


「鎮魂の儀の際、姫様にはここにいてもらうのである。我らは影武者をあたかも正式の巫女のように守護するのである」


 ……儀式してないじゃん!?


「心配せずとも、鎮魂の儀は対外的な見世物のようなものである。実際はこの地ならばどこからでも行えるのであるよ」


「ソウナンデスカ……」


 やっぱりボクの内面はわかりやすすぎるらしい。

しかし、遠隔儀式もできるんだね……!

儀式を楽しみにしている街の人は残念だけど……失敗するよりはずっといいや。


「ジャア、コンナコト言ウノハアレデスケド……最悪、失敗シテモ邪竜?復活ハ無インデスネ?」


 その質問に、ゲニーチロさんは頷いた。


「うむ。精々大規模なスタンピードが発生するくらいである」


 ああ、なんだそんなことか。

そんな……


「――ナンヤテ!?!?」


「あらぁ、綺麗な発音やわぁ。ムークはん、巫女言葉がお上手やねぇ」


 京都弁に聞こえてるのは巫女さん専用言語なん!?

いや、そそ、それどころじゃないよ~~~~~!!!!

 

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なんやて!????
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