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第79話 それにつけても世間は狭い。

「ソコデ武蔵ハ言ッタンダ、『小次郎、敗レタリ!……勝ツ気ナラ、何故鞘ヲ捨テタ!』ッテネ」


「はぁああ……!!」


 食堂の椅子に腰かけたロロンの目が輝いている。


 今は、色々あったお祭り一日目が終わり……宿に帰った、夕食後。

腹ごなしのついでに、一つ地球の豪傑の話でもしてあげようかなって思ったんだけど……ボクの予想をはるかに超える食いつきっぷりですよ。


 あ、ちなみに森で暮らしてる時に聞いたって体で話しています。

いつかはロロンにも地球の出身だって言ってもいいけど……説明が本当に難しいし、それはゆくゆくかなあ。


「小次郎ハソノ愛刀ヲ下段ニ構エ、武蔵ハ船ノ櫂ヲ削ッタ巨大ナ木刀ヲ……大上段ニ構エタ!」


 ばん、とテーブルを叩く。

それに合わせて、ロロンが体を震わせた。

ふふふ、いい聞き役だよ!


「はわぁあ……!!」


 そうそう、アカはまたカマラさんのタリスマン作成のお手伝いです。

今日結構売れたから、また追加を作るんだって。


 しかし……ボクの活舌訓練になっていいかも、こういうの。

ともかく、物語は佳境だ!


「ゴクリ……!」


 何故か厨房から身を乗り出して聞き入っているクラッサさんも、いいお客さんだ。

ふふふ、夕食の謎肉ステーキのお礼に聞いていってくださいよ!


「漣ノ音ダケガヒビク中……小次郎ガ先ンジテ動ク!下段カラ一瞬デ翻ル長尺刀!コレゾ、巌流秘伝【燕返シ】!!」


 ロロンの目がまん丸すぎてこぼれそう!

カワイイね!


「武蔵ハ、同ジクシテ跳ンダ!ソノ額ヲ切ッ先ガ掠メ――鉢巻キダケガ、斬レタ!!」


「オオオ……!」


 クラッサさん、フライパンの持ち手歪んでない!?


「――ソノ鉢巻キガ地ニ落チルヨリモ早ク、武蔵ガ空中デ振リ降ロシタ木刀ガ……小次郎ノ脳天ヲ、砕イテイタ……!!」


 こうだったよね?たしか。

諸説あるらしいことはなんとなくわかるけど、コレが一番格好いいと思う。


「小次郎ハ死ニ、武蔵ハコノ後モ武芸者トシテ数々ノ戦イニ身ヲ投ジルコトトナル……ソシテ、ソノ島ハ小次郎ノ流派ニ因ンデ【巌流島】ト呼バレルコトニナリマシタ、トサ」


「おお~!!」「おおお~!!!」


 ロロンとクラッサさんが、顔を赤くしながら拍手してくれた。

えへへ、ご清聴ありがとうございました。


「下手クソデゴメンネ、ロロン」


「じゃじゃじゃあ!そげなごどはながんすぅ!」


「ムワッワワワ」


 ロロン!テンションが上がったのはわかるけどボクを揺らし過ぎでござるよ!

晩御飯が全部里帰りしちゃう!!


「そうですよムークさん!凄い臨場感でしたよ……ムサシ、コジロー……初めて聞きましたが、まだまだ世界には強者の話があるんですね……!!」


 クラッサさんまで寄ってきて褒めてくれた!

嬉しいけど……フライパンの持ち手がよく曲がる歯ブラシみたいになってますが!?

それ戻るのかな……?


「ムークは話とか歌が上手い、それで商売したら?」


 あらら、マーヤじゃん。

今までどこにいたん?ぬるっと廊下から出てきたけども。


「ソレモイイネエ、吟遊詩人虫ヲ目指スカナア」


 そういえばこの世界で楽器見たことないぞ?

このお祭りに楽団が来るらしいし、異世界楽器がどんなのか気になるな~?

楽しみ!


「途中から聞いたけど楽しかった……もっとない?」


 マーヤが向かいに腰かける。

ふふんいいですとも……あれ。


「ソウイエバ、ターロタチハ?」


 お祭り本番までは稼ぐって、朝から冒険者稼業してたんじゃ?


「ミーヤは酒場巡り、ターロは……『男の社交場』に行った。あいつの稼ぎ分、全部使いそうで怖い……」


 この表情から察するにターロが行ったのは……いやらしい店かな?

ボクは目下性別不詳虫だし、アカもいるからそういうとこに行ったことはないけど…ガラッドにもラバンシにも、その、『そういうお店』はあるみたいだしね。

こういうところは世界が変わっても一緒かなあ。


『世界最古の職業とは娼婦である、という話もあるくらいですし』


 そうなんだ!?


『この世界では性感染症も魔法で予防できますし、意外とポピュラーな職業ですよ……興味が?』


 ない!と言い切る程達観してないけど……今はいいかな。

さっきも考えてたけど、アカいるし。


「サテ……次ハドンナ話ニシヨウカナ……ムーン……」


 豪傑・英雄話はみんな食いつきがいいみたいだし。

トモさんペディアもあるから、補足や誤魔化しは楽だしねえ。


『女神を超巨大百科事典扱いとは……まあ、似たようなものですが』


 感謝してますよ!毎日毎晩!

トモさんいないとボクは生きていけませんのでね!!


『ふふ、今日もヨイショ虫ですね』


 どんどんボクの異名が増えていくね……


「ジャア、アノ人ニシヨウ。昔々、トアル国ニ、一人ノ戦士ガオリマシタ……」


 さっきは日本だったから、今度はお隣の大陸にしようかな。

あの国、歴史がめっちゃ長いから英雄が無茶苦茶いて面白いんだよねえ。


「ムークさん、ムークさぁん!お客様ですよう!」


 いざ始めよう、と思ったら……アリッサさんがパタパタ走って来た。

ああ、ロロンが露骨にガッカリした表情を……

大丈夫だって、また話してあげるからさ。


 しかし、お客さん?それって……


「――おや、お邪魔だったかな?」


 アリッサさんに案内されてやってきたのは……バレリアさんだった。

いっつも鎧姿だったけど、今は私服?を着てる!

肩掛けのマントに、その下はシャツとズボン、かな?

はえ~……なんか新鮮。

普通の綺麗なお姉さんみたい!

……今見えた両腰のロングソードをのぞけばね!!


「クラッサ、すまないが何か飲み物を頂けるかな?朝からロクに飲んでいない」


「最近忙しそうね、バレリア。待ってなさい、濃いケマを淹れてあげるから」


 そういえば、この宿を紹介してくれたのはバレリアさんだった。

ここの姉妹とも知り合いっていうか……友達?みたい。

あの話しぶりからして、クラッサさんとは年も近いんだろうか。


「隊長さん、疲れてるね」


 マーヤもちょっと心配そうだね。


「フフフ……毎年この時期はそこそこ忙しいのに、今回はことがことだからな……全く気が滅入る、アーゼリオンのクソどもめ」


 【セヴァー】の件でしっちゃかめっちゃかだからね、大変そう。


「アノ、『石』ハドウナリマシタカ?」


 ぎ、とボクの横に腰かけたバレリアさん。

このテーブル4人掛けだからそこしか空いてないしね。

ロロンとマーヤは向かいだし。


「ああ……ここの姉妹は顛末を知らせているから、濁さずともいいぞ?他の客もおらんしな」


 え、そうなん?


「姉さんは元衛兵隊なんですよう!その縁で今もバレリア隊長にはよくしていただいてるんです……はい、お茶うけにどうぞ」


「すまんな、アリッサ」


 お、クソ硬クッキー盛り合わせだ。

獣人さんは顎が丈夫なのか、パンもお菓子も基本硬いんだよねえ。

とっても美味しいけど、ご老人とか大丈夫なんだろうか。


 それに……クラッサさんが元衛兵隊!?

ああ、なるほど……どうりで体格がいいと思ったよ。


「さて……先日は世話になったな、皆」


 密度の濃い1日でしたねえ……なんか、随分昔の話みたい。


「ああ、ムークくん……【セヴァー】は首都に向けて送ったよ。足が速い走竜隊を使ったから、もう半分ほどの場所にいるんじゃないかな。首都直属の部隊もこちらへ向かっているから、そちらとも合流しているだろうし」


 へえ……この街からどれくらいの距離にあるんだろ、首都って。


『通常の馬車や竜車なら、そうですね……一月といったところでしょうか』


 走竜くん足速いねぇ!?


「ともかく、事は私の手を半分離れた……というわけで、息抜きに友人に会いに来たというわけだ……おっと、ありがとう」


 話の途中で、クラッサさんが人数分のケマを持ってきてくれた。


「大変だったみたいですね、ムークさん。皆さんもお怪我がなくて何よりです」


「ハハハ……」


 お怪我はありましたけど元気です!


「ムークは胸に大剣突き刺さってたけど、何故か元気。自分限定とはいえ凄い回復魔法ね」


 なんでバラすのさ、マーヤ!!

あの戦い、見てたんだ……!?


「えええぇ!?だ、大丈夫ですかぁ!?」


 ホラ!アリッサさんがむっちゃ心配したじゃん!!


「ダ、ダイジョウブデス、鍛エテマスノデ」


 無事をアピールするように胸を張る。

ボクの寿命を犠牲にした甲斐があって、元通りのツルツルピカピカ甲殻ボディです!


「んだなっす!ムーク様は無敵でやんす!」


 いやロロン……普通に死んじゃうから、無敵虫じゃないから……

寿命ストックのおかげだから……


「んく……フゥ、相変わらずいいケマを淹れる。クラッサ、煮炊きだけでも戻ってこんか?」


「御免だわね、衛兵隊のみんなは好きだけど……もう戦は沢山。バレリアについてたら、この国どころか他の国まで連れて行かれちゃうわ」


 クラッサさんは苦笑して厨房へ。

なんか作ってくれるのかな?


「さて……休憩しに来たのも事実だが、ムークくんにはもう一つ話があってな」


 一息でケマを飲み干し、おかわりを自分で注ぎながらバレリアさんが言った。


「エ、ボクニ?」


 なんじゃろ?

セヴァー発見のお礼は貰ったし、宴会も済んだ。

この上何かあるんだろうか?


「今日の、露店の件ではねがんすか?」


 ロロンがくいくいとマントの裾を引っ張ってきた。

ああ、そういう……


「ああ、その通りだ。それに付随する話でな……小休止が済んだら、申し訳ないが私と一緒に本部まで戻ってくれ」


「……ナニカ、マズイコトデモ?」


 あの女……イルゼが大暴れしたとか?

ボクの質問に、バレリアさんは苦笑した。


「いやいや、そうではない……【大角】閣下が、お呼びなんだよ」


 ……ゲニーチロさんが?

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