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第76話 後顧の憂いも消滅して、お祭り開始!人が多い!人がァ!!

「おやびん!ひと、ひといっぱ~い!!」


「ソウダネエ……イッパイダネエ……」


犬っぽいの、猫っぽいの、狸っぽいのにワニっぽいの……ワニ!?

まあとにかく、獣人さんだ。

パレードかってくらい大勢の獣人さんだ。

それが、道いっぱいにひしめいている。

そんな目の前の光景に、アカが興奮してボクの肩で飛び跳ねている。


「じゃじゃじゃ……初日から、これほどとは……」


 横に座っているロロンも、圧倒されている。


「初日はこんなもんさね、これからどんどん増えるよ」


「ヒェエ……」


 カマラさんだけは、いつものように悠然とパイプをふかした。

そう、今日はいよいよ待ちに待った……【鎮魂祭】の一日目。

場所は、前にカマラさんのお手伝いをした【東街】の露店がいっぱいある所だ。

ボクらはそこで、やっぱりカマラさんのお手伝いをしつつ人ごみを見物している。

これが、人が増えながら12日間も続くのか……



・・☆・・



 人間軍団とのゴタゴタも終わり、衛兵本部での歓待と……それから【セヴァー】を見つけたことへの報奨金もいただいた。

ちなみになんと!1人当たり1万ガル!です!

ということはボクらは3万ガルね!!

正直もっと少ないかと思っていたから、嬉しい誤算だよ!

あ、ボクが歌って踊って稼いだおひねりは総額850ガルでした……地味に多い。


 ゲニーチロさんとも仲良くなって、『また暇な時に遊びに行く』と言われて……ボクらは宿に帰った。

それで、今までの反動で疲れもあったので寝て過ごし……お祭り当日になったというワケ。

いやあ、この数日間の密度が凄かった。


 んで、お祭りを見るのは当然としてどこで見ようかなって考えてたら……また、カマラさんからお手伝いを打診されたんだ。

『祭りの空気を感じてみないか』ってね!

例のクソ人間は全員地獄に行ったと思うので、憂いなく参加することにしました!

正直いきなりでどこに行ったらいいのかわからないからね!!


「ムークちゃんたち、しばらく見かけないと思ったら大変だったんだねえ」


 行き交う人たちを見ながら、カマラさんが煙を吐き出した。


「わるいの!いっぱい!でもおやびん、つよかった、さいきょ!!!」


「そうかいそうかい……【セヴァー】狙いの密偵が出たんだってねえ、くわばらくわばら」


 ……なんで知ってるの、カマラさん。

バレリアさんが『すまんが、祭りが終わるまで他言無用で頼む』って言ってたのに……!?


「エット……ソノォ……」


「『狼は狼だけの道を知っている』……ってね。どんな情報も完全に蓋をすることはできないのさ」


 ……蛇の道は蛇的な異世界ことわざかな?

す、すごいねえ……この人も底が知れないや。


「ふふふ、冗談さね。アタシはたまたまま門前にいてね、ミーヤちゃんが『セヴァーが出たニャああああああ!!』って大騒ぎしながら走ってくるのを見てたんだよ。その後に衛兵隊が大急ぎで出て行って、1日後にボロボロで戻ってくるのを見ちゃあねえ、ドンパチがあったのが自明ってやつさ」


 ……ミーヤさんさあ。


「しかも妙な人族共がウロウロしてたからねえ、たぶん相手はあいつらだろう……ってね、婆にもわかる簡単な理屈さね」


 むむむ……さすがの洞察力だ!

やっぱりこの人、ただものじゃないかも!!


「商売してりゃ、この程度の機微は阿呆でも身につくよ」


 ……何も言ってないのに!?

ボクの行動は本当にわかりやすいらしいね!

こうなったらパントマイム虫にクラスチェンジして稼ぐのもアリかも!?


『ナシだと思います』


 冷静なツッコミ助かるぅ……


「まあ、ここでゆっくり祭りを見物していくといいさね。どうせ今日の所はどこの街でも催しはないし、本番は……6日目からかねえ」


「そうなんでやすか?」


 売り物のタリスマンを磨いていたロロンが聞く。

ちなみに今磨いてるのは『生水に当りにくくなる』お守りなんだって。

効果が限定的過ぎるけど、旅人にはよく売れるんだそうな。

お値段1つ500ガルとお手頃……お手頃?

いや、魔法具に比べれば安いか……


「ああ、半分を過ぎればまず『巫女』がやってくる。北の門から列を組んで入場するんだけど、そりゃあ立派な様子だよ」


 へえ~……あれ?

じゃあ今はまだここにいないんだ、巫女さん。

ゲニーチロさんたちはもういるけど……先ぶれとか言う感じなんかな。

安全を確立させて~……みたいな。


「まあ、それは外から眺めるんだけどね。それからが祭りの本番さ、楽団の芝居やらなんやら……毎年どっと賑やかになるよ」


「い、今でも十分賑やかでやすが……」


「こんなもんじゃないよ、ロロンちゃんは人ごみに攫われないようにしときな。ああそうだ、ムークちゃんに肩車してもらうのがいいさね」


 ロロン、ちっちゃいからねえ。

この世界、ただでさえ男も女も大きい人ばっかりなのに。


「マカセトイテヨ、フフン」


「えうぅ……そ、そりは……おもさげながんすぅう……」


 まだ恥ずかしいみたい。

結構何度もやってるから慣れればいいのに~?

ドラウドさんとこのルーニちゃんなんか毎回大興奮だったよ?


『あのですね……幼児と一緒にしないでください!このデリカシー皆無虫!!』


 ゴメンナサイ!

無茶苦茶怒られた……


「――よお、おかあちゃん。見てってもいいかい?」


「アンタみたいにデカい息子を持った覚えはないけどね……どうぞ、いらっしゃい」


 おっとお客さん!

シェパードっぽい獣人さんのお出ましだ!


「らっしゃい!らっしゃーい!」


 ボクの頭に登ったアカが、愛想を振りまいている。


「おお!?コイツはたまげた、妖精じゃねえか……ガキの時に見て以来だぜ。いいもん見たなあ……」


 やっぱりだいたいの獣人さんにとって、妖精は珍しいけど『捕まえなきゃァ!!』って対象じゃないっぽい。

この国で過ごしているうちになんとなくそう思った。

アリッサさんたちみたいに、好きすぎる人もいるけど。


「さて、何をご所望だい?今なら妖精の加護も上乗せでよく効くよ」


「そ、そいつはありがてえ!実はそろそろ孫が産まれるんだけどよ、それにいいのがありゃあ……」


「それならコイツだ。地母神のタリスマン……聖女の祈りを込めた紙片が入っててね、産前産後の母体を守護する優れものさね」


 ……妖精の加護ってなんなのさ。

カマラさん、商売上手だねえ~!


「ええと……800ガルでやんす!」


 どうやら会計役はロロンがするらしい。

で、出遅れた……けど、適材適所だね。


「よし買った!命にかかわるもんに出し惜しみは罰が当たっちまう!」


 獣人さんが財布を取り出す。

結構なお値段だけど、即断即決だねえ……


「はい、まいど。それからこれはサービスさ……ホレ」


 カマラさんが、別の小さな紙片も渡す。


「なんだい、こりゃあ?」


「赤ん坊が無事に1年を過ごすようにって護符さ。大病にゃあ効き目がないが、軽い風邪程度ならなんとかなるよ」


「おお!ありがてえ!」


 獣人さんが喜色満面で紙片とタリスマンを懐へ入れた。


「まいど、まいど~!」


「ああ、ありがとうな妖精ちゃん!」


 そうして、初のお客さんは去って行った。

ううむ、ボクが役に立っているかは不明だけど……いい滑り出しだね!


『……むっくんには申し訳ありませんが、そのビジュアルの虫人が座っているだけで用心棒としては百点満点ですよ』


 ……まあ、そうだよね!

ボクの顔って怖いもんね!!

表情筋も存在しないし!目も6つあって青く光ってるし!!


『いったん行動すると、とたんに可愛らしく見えるのですけどね、ギャップ萌えというやつです』


 飴と鞭!

女神サマの飴と鞭が!絶妙!!



 それからしばし。

他にもお店はいっぱいあるし、滅茶苦茶お客さんが来たというわけでもない。

それでも、結構切れ目なくお客さんはやってきた。

どうやら、妖精がいる露店の噂が流れているようだ。


「どーじょ、どーじょ~!」


「ありがとうねえ、孫にいい土産話ができそうだよ」


 今もキツネっぽいおばあさんが、アカにタリスマンを手渡されて嬉しそうにしている。

えーと、なんだっけアレは。

あ、思い出した……『冷え性に効く』やつだ!


「これ、よかったらお食べな」


「ありあと~!」


 あ、またお菓子を貰っている……今度はクッキーか。

前の時といい、妖精に食べ物をお供えするのはデフォルトの行為なんだろうか。


『大体の民話や伝承において、妖精は食べ物が大好きですからね。実際のアカちゃんもそうですが』


 たしかに。

まあ、食べれば食べるだけ魔力になるからいいけどさ。


「おやびん、もらった、もらったぁ!」


「モラッタネエ、ヨカッタネエ。アリガトウゴザイマス」


「いいのよいいのよ……仲がいいのねえ、微笑ましいねえ」


 クッキーを持ってボクの頬に頬を摺り寄せてくるアカを見て、おばあさんがニコニコ笑いながら帰って行った。


「あんぐ、もぐぐ……おいし!おいし!」


「ヨカッタネエ」


 ムムム!?

アカが、あんまりクズをこぼさないようになってる気がする!

この子も日々成長しているということか……

男子三日会わざれば厨房に入るべからず……?


『どこから突っ込めばいいのでしょう?』


 さ、さーて……?


「らっしゃせ、らしゃーせ……!おじーちゃ!」


 む、お爺ちゃん?


「ほほう、コレは可愛らしい店番であるな」


 やっぱり、ゲニーチロさん!

護衛も付けずに歩いてていいんだろうか、この人は。

あ、それともあの黒子さんたちが人知れず護衛についてたりするんだろうか?


「おやまあ、珍しいお客様だこと。ムークちゃん以外にも虫人さんがいるなんてねえ……知り合いかい?まあ、ゆっく見てってくんな」


「お言葉に甘えるのである。それとアカ殿、クムルの実はいかがであるか?」


 おおう……またクソデカ向日葵、じゃない!

クソデカ胡桃だ!でっか!ゴルフボールくらいある!?


「ありあと、ありあと~!はぐ、むぐ、むいむいむい……」


 あああ、ハムスターかリスの化身みたいになっちゃって……


「しかし、何故店番を?」


「祭り見物を兼ねて、でやんす!こちらのカマラさんのご厚意でやんす!」


「しかり、しかり……ほう、コレは……」


 ゲニーチロさんが、並んでいるタリスマンをじっくり見ている。


「ふうむ……ほほう……どれも均一で、綺麗な魔力回路である。在野でこれほどの技師に出会おうとは……カマラさんとおっしゃったな、どこぞ高名な工房で修業を……?」


「まあ、若い頃に少しねえ。今はほとんど自己流さね」


 前にトモさんが言ってたけど、カマラさんのタリスマンはすごいらしいねえ。

じっくり検分するゲニーチロさんを見ながら、ボクは背後の人波を見るともなしに見ていた。


 ……あれ、向こうから近付いてくる人間さん……どこかで見たような……?

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