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第73話 強い人が多すぎてボクの中で強さランキングがバグり始めた。

「腹ごなしに歩いておったら、鉄火場を見つけた故のう。思わず手が出てしまったのである……おお!ムーク殿、先日振りであるな!」


 散歩の途中ですよ~……みたいな感じで、ゲニーチロさんがのしのし歩いてきた。

きょ、強者オーラが凄い……とりあえず手を上げておこう。


「おじーちゃ!おじーちゃ!」


「おうおう、アカ殿も元気そうでなによりである」


 アカが嬉しそうに周囲を旋回している。

懐いたね~……あのクソデカ向日葵の種、よっぽどおいしかったんだろうか。


「これは……【大角】殿!」


 乱入者にフリーズしていた兵隊さんの中で、いち早く我に返ったのはバレリアさんだった。

慌てて槍を置き、ゲニーチロさんに走って行くと……すぐさま跪いた。

え?ゲニーチロさんってひょっとしてお偉いさんかなにか?


「ご助勢、痛み入ります。手前どもの不始末を……」


「こんな爺にそう畏まらんでもよかろう。相変わらずお美しいですなあ【黒鹿毛】殿」


 ゲニーチロさんはいつも通りだけど……バレリアさんは上司にでも会ったように固くなっている。


「おいおいおい……【大角】殿じゃねえかよ。そうか、今回の『護衛』はあのお人ってワケか……」


 お、ターロは何か知ってそう。

ロロンもそうらしかったけど、結局タイミングが合わなくて聞けなかったんだよね。

ちょうどいいから聞いておこう。


「ネエ、ターロ。ゲニーチロサンッテ有名人?」


「はぁ?お前何言って……あ、すまね。森出身じゃそうだよなあ……マーヤ、そんなに睨むなよ」


「睨んでいない」


 ん?マーヤがどうしたって……別に普通の顔じゃないか。


「え、ええとな……あの爺さんはトルゴーンの、まあ、平たく言えば元将軍だ」


「ショーグン!?」


 よ、予想した遥か斜め上を行く答え!!

はへえ……さっきの早業から、絶対に強い人だと思ってたけど……まさか将軍とは……将軍って階級あるんだね、虫の国。


「んだなっす!」


 にゅ、とロロンが顔を出した。

その目はキラキラと輝いている。


「ワダスの里にも伝わっているのす、【ローゾ戦役】での500人斬り、【エンシェントマンティコア】や【はぐれ轟竜】の単独討伐……武人の憧れ、武の極致に近付いたお人でやんす!!」


 ロロンの圧が!強い!!

この子、豪傑の話とか好きそうだもんな……今度時間がある時に三国志の英雄話とかしてあげようかな。

なぜか知ってるし、概念。


「ハヘエ……凄イ人ナンダネエ。ボクナンカ、アノ女ヲドウヤッテ倒シタカモ見エナカッタヨ」


 今は地面に落下してグロい死体になっている女を見る。

うひゃあ……やっぱり鼻から上が綺麗に吹き飛んでるね……何をどうしたらああなるんだ。

ボクの電磁投射砲みたいな魔法かな?

なにが起こったか、本人もわからないみたいな感じで口を開けてるね……南無南無。


「はっはっは、児戯であるよ」「ウワァ!?!?」


 急に!横に!ゲニーチロさんが!?

いつの間に!?


「ひ孫殿……否、ロロン殿であったな。そなたの槍捌き、祖母殿にまっことよく似ておった……その若さで大したものである」


「じゃじゃじゃ!?な、なんど勿体なきお言葉ァ!!」


 ロロンが異世界土下座みたいなポーズを取っている。

ロロンのおばあちゃんも強かったんだねえ……強い人ばっかりだねえ……

……あれ?

見てたって……いつから?

全然気づかなかったぞ?


「それで、先程はコレを使ったのである」


 ゲニーチロさんは手をパーの形にして見せてきた。


「魔法、デスカ?」


 将軍なんだから、さぞ凄い魔法が使えるんだろうねえ。


「否、そんな大層なものではなくただの児戯であるよ。これをこうして――」


 す、と。

ゲニーチロさんが手を引き……


「――こうである」


 ぼ!!って感じに、虚空へ張り手を放つ。

たぶん張り手ね!見えなかったし!手が消えたのしか見えなかったし!


「ヒェ」


 すると――5メートルくらいの所にある、大岩に穴が!……穴がァ!?

えっなに今の!?魔力がほとんど感じられなかったんだけど!?


『……薄く魔力を纏わせた掌を、凄まじい高速で撃ち出し、空気を圧縮して弾丸にしたようですね。理論上は一応可能ですが……魔力もほぼ使わずになんという……』


 トモさんが息をのんでいる気配!

うそでしょ!じゃあ今のってほとんど純粋な体術ってことォ!?

ひ、ヒェエエ……


「しゅごい!しゅごーい!」


「はっはっは、こそばゆいのである」


 アカが目を輝かせて角に抱き着いている。

ちょ、ちょっと!元将軍の角に失礼ですよ!?

……ご本人は孫に抱き着かれた感じでうれしそうだけど!!


「ア、アノ、ソノヨウニ偉イオ方トモ知ラズニ大変ナ失礼ヲ……!」


 おのれェ!不敬罪で打ち首じゃあ!とか勘弁してください!!

ボク、普通に気のいいおじさんみたいな感じで思ってた!!


「はっはっは、今はただの爺である。将軍なぞ……他の者よりも多少敵を殺すのが上手かっただけであるよ」


 それで十分なんではないでしょうかねえ!?

っていうか絶対謙遜でしょ!指揮とかそこらへんの才能も必要でしょ!将軍なら!!


「黒鹿毛殿、こうして近所に寄ったも何かの縁。何事があったのかお聞きしても?」


「ハッ!何なりとお聞きください……こちらへ、将軍!」


「元、将軍である。今はただの爺さんであるよ」


 やっぱりいつの間にか近くにいたバレリアさんに促され、ゲニーチロさんが歩いていく。

あ!他の兵隊さんたちが死体を片付けしてる!

ボクもなにかお手伝いを――


「おっと、ムークくんは何もしなくてもいい。治ったとはいえ手傷を負ったのだからゆっくりしなさい」


「ハイ……」


 お見通しか……さすがの洞察力だね……


『むっくんの考えはすぐ行動に現れますので。精進してポーカーボディ虫になりましょうね』


 ち、ちくしょう~!

あとポーカーボディってなにさ!フェイスじゃないの!?

……あ、ボクに表情筋はなかった……そうか……行動がわかりやすすぎたのか……



・・☆・・



「ターロ、ソウイエバサ。サッキ言ッテタ『護衛』ッテ?」


 特にやることもないので、みんなで座ってケマを飲んでいる。

兵隊さんたちはみんなで死体を集めて身ぐるみを剥いだり、埋めたりしてるねえ。

我ながらこの凄惨な状況でよくティータイムをキメれるもんだと思うけど、ぶっちゃけもう慣れた。

死体があるから何も食べられない!なんて……そんな甘えた根性は森で死にました!!


 んでんで、暇なのでさっき気になったことを聞いてみる。

この感じだとまだまだ長引きそうだし。


「お?おお……そりゃあ、そのまま『巡礼』の『護衛』のこったよ。正確には『巫女様』のな」


 あ~……そういうことか。


「鎮魂の巫女様は、トルゴーンでも重要人物。そこらへんの一般人を護衛につけるわけにはいかないでしょ?」


 結構な猫舌なのか、必死にケマをふうふうしていたマーヤが補足してくれた。


「ヘエ、重要人物ナンダ」


「それはそう。トルゴーンで12人しかいない巫女様なんだから。ラーガリは近いけど、たぶん遠くの国に巡礼に行く巫女様には現役の将軍とかが護衛になってると思うよ……あち、ふうふう」


 まだ熱かったみたいだ。

……そっか、やっぱり12の国にそれぞれ巫女様が派遣されるんだ。


「【鎮魂祭】が12日間なのも、12の国で順番に1日ずつ儀式をするからなんだよ。なんでも、そうすることで封印がより頑丈になるとかなんとか……昔聞いたぜ」


 へえ、そうなんだ!面白いなぁ!

……あれ?じゃあひょっとして。


「……サッキ、ゲニーチロサンガ『散歩』ッテ言ッタノッテ……」


「嘘に決まってんだろ。巫女様に何があるかわかんねえから、たぶん街の周囲を警戒でもしてたんだろうぜ」


 で、ですよねえ。

 

「んく……たぶん、あの人だけじゃないよ。ものすごく薄い気配だけど、何人も周辺にいる……と、思う」


 やっと冷めたケマを一口飲んだマーヤが言った。

え?マジで?


「んだなっす。将軍様が単独で行動するわけはながんす!」


 お茶菓子を出しながら、ロロンが大きく頷いた。

へぇえ……トモさんトモさん、そんなのいそう?


『ええ、ごくごく微弱な気配ですがその通りです。この場所を中心に、円状に囲って潜んでいる者たちがいます……高度な隠蔽スキルですが、ラーヤさんのものよりは劣りますね』


 そりゃあ、何千年も生きてるかもしんない妖精さんと比べちゃねえ……

でも、やっぱりいるのか……ボクは全然わかんないな。


 ……ん?

ボクの肩でクソ硬いクッキーをバリボリ齧っていたアカが、なんか虚空を見つめている。


「アカ、ドシタノ?」


「んぅ~……おやびん、なんかいる、あっこ」


 不思議そうに10メートルほど先を指差すけど……そこには何もない。

雑草が風にそよいでいるばかりだ。


『いますよ、その雑草をよく見て下さい』


 んん~?そう言われましても……お、おぉ?

なんか変……なんか変だな……あぁ!!


 風があるのに、草が動いてない!

いや厳密には動いてるけど、微妙に揺れ方に違和感がある!


『よくできました。アレは光学迷彩のような魔法ですね……実際の景色によく似せた偽物の映像を投影しているのですよ』


 はぇえ~……言われないと全然わからんかった!

アカはすごいなあ、あんなの見つけるなんて。


「ね~?いるでしょ、おやびん」


「ソウカナア?」『うん、いるね。でもたぶんあの人?は大事なお仕事中なんだよ、だからそっとしておこうね~』


 ボクでもわかったんだ。

バレリアさんとかなら絶対に気付いてるだろうし、もしもヤバい敵とかならゲニーチロさんも黙ってないだろう。


『おしごと、はぁい!』『ンフフ、いい子いい子』


 空気を読んで念話で返事をしてきたアカを、とりあえず撫でておいた。


「んへへぇ、えへへ~」



・・☆・・



『……気付かれたな。あの妖精……存外に目がいい』


『かの御仁とて、そうです。我らに害意がないことを悟っているようですね』


『うむ。先程の戦いぶりも大したものであった……お頭が目をかけるわけだ、こらお前!手を振り返すな!』


『んも、申し訳ありませぬ、つ、つい……』



・・☆・・

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