第71話 全ての慈悲なき者に、死を。
「貴様……虫の分際で回復魔法をォウ!?!?」
胴体に衝撃波命中!
この期に及んでベラッベラよく喋る!存分に油断してて!
「貴様ァ!!」「グギ!?」
飛ぶ斬撃!
防御したけど、棍棒からはみ出た部分が切れた!
これ厄介だね!?
「許さんぞ……虫けらァ!!」
「ダッタラドウスンノサ、糞人間!!」
なんか怒ってるけど、ボクの方が……何倍も!何十倍も怒ってるんだ!!
この、失礼の塊みたいな男にね!!
アカを寄越せだのロロンを攫うだの、好き勝手に!言ってくれちゃってさァ!!
魔力を!ありったけの!魔力を!!
全身に回して――強化!!
「ぬぅっ……!」
金髪が剣を構えて――斬撃を飛ばす!
いでで、肩がちょっと切れたけど……なんてこと、ない!!
もっとだ、もっと魔力を――お、おおお!?
な、なに!?
魔力が、右腕に集まって……いや違う!?
――棍棒が、棍棒が勝手に魔力を吸い込んでるんだ!
まるで、掃除機みたいに!!
「オオオオッ!!」
金髪が跳んできて、ボクに大剣を振り下ろす!
だけどスローモーションみたいに、時間が遅くなっていく……う、あ、なに、これ!?
視界が、歪む!?
『むっくん!?これは、魔力干渉!?むっく――』
・・☆・・
――焼かれる村を見た。
――焼かれる森を見た。
――理不尽に焼かれる、万物を見た。
『我が剣は、牙なきもののため』
――泣く子供を見た。
――泣く妻を見た。
――理不尽に泣く、悲しい人たちを見た。
『我が鎧は、寄る辺なきもののため』
――怒る男を見た。
――怒る女を見た。
――理不尽に怒る、悲しい人たちを見た。
『我が魂は――儚く愛しき、命のため』
――誰かの背中を見た。
――血に塗れた鎧の、背中を見た。
――真紅のマントを風になびかせる、戦士の背中を見た。
『されば、こそ』
――誰かが振り返った。
――戦い抜いた、戦士がこちらを見た。
――燃えるような金色の、綺麗な瞳だけが見えた。
『――全ての慈悲なき者に、死を』
・・☆・・
「――死ねェッ!!」
意識が、戻る。
目の前に、金髪。
「オ」
体が、無意識に動いた。
「オオ、オ!」
誰かが教えてくれたように、下段から上空へ。
振り下ろされる、大剣へ向かう軌道へ。
「雄オオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!」
誰かが、ボクの喉を借りて叫んでいるような。
そんな気が、少しした。
「っな、あ!?」
表面に浮かぶ、全ての文字を蒼く、蒼く輝かせた棍棒。
それが――大剣を『破砕』した。
接触した瞬間に、立派な大剣が鉄くずの破片に変わる。
「――ご、おぁ!?」
大剣を砕き、棍棒がめり込む。
金髪の胴体へと。
鎧と、肉、そして内臓と骨。
それら全てを一緒くたにへし折る感触。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」
手の内にその感触を残しながら、ボクは棍棒を振り抜いた。
金髪は、また背中から結界に激突。
結界を火花を散らして砕きながら、いまだに戦闘が続く通常空間へと吹き飛んでいった。
『むっくん、大丈夫ですか!?今、妙な魔力干渉がありました。どうですか、何か不調はありませんか!?』
あ、大丈夫です。
なんか変な夢を見た気がするけど……まあ、大丈夫でしょ。
それよりもトモさん、大変なんです。
指一本動かせないんですが……マジで。
心は大丈夫なんだけど、コレヤバくない?
「ドルク殿ォ!?おのれ汚らわしき虫めが!!」
ホラ!今まさに切れた新手がボクに斬りかかろうとしてr――
「――どっせぇえい!!」「ぎゃっあぁ!?」
ロロンの槍で、美味しくなさそうなおでんにクラスチェンジしました。
わあ……ロロン、返り血が凄いね。
後でしっかり洗わないと大変そうだね。
なんとまあ、頼もしい。
「おやびん!おやびーん!これ、これぇ!!」「ムガグググ」
涙目で飛んできたアカが、緊急用に持たせておいた魔石を口にねじ込んできた。
すまないねえ……ばきばき、ごくん。
……ふおおおお!急速チャージ!頭がクラクラするゥ!!
「手負いだ!狩れっえぇえ!?」「だらァ!!」
新手の脳天に、手斧が突き刺さった。
「おのれケダモノぉ!?」「にゃっ」
追加の新手の……股間に、ナイフが3本突き刺さった。
「さあ!さあさあ!かかってきな人間どもォ!!」
「イヤらしい目で見て……その子種から殺してやる……!」
やっぱり返り血まみれのターロとマーヤが、武器を構えてボクの前に!
マーヤがなんか怖い!!
「ムーク様ァ!お加減は!?」
槍に突き刺さった特にかわいそうでもない人間をポイ捨てし、ロロンがボクを支えるように抱き着いてきた。
「大丈夫、モウ治ッタヨ。ボクハ無敵ダカラネ……アンナ三下クライ、軽イモンサ」
「ひゃわわわ!?」
ねぎらうように頭を撫で、首を回す。
よーし……魔力は4割くらい回復した、かな?
味方は……よしよし、こっち見てないね。
追加魔石……ボリボリ、ぼりり。
――フルチャージ!!
「アイツハ……イタ!」
さっき吹き飛ばした金髪男!
わちゃわちゃした乱戦の向こうで、何人かの黒ずくめに群がられている!
杖が見える……回復させてるのか!
「ロロン……アソコニ、突ッ込ムヨ!!」
アイツは、逃がしちゃ駄目な気がする!
あんな人間に、この先も狙われ続けるなんて御免だし……なんか、お偉いさんっぽい!
なら!ここで息の根を止めておかないと!
「合点でやんす!お任せくなんせ!……道ば、空けんかァ!押し通るッ!!」
頭上で槍を回し、ロロンが吠えて走り出す。
気が早い!!
「オイオイ!俺も混ぜろって!」「アイツ、やっぱりあの時の屑……!露払い、任せて!!」
ターロたちも、その背中を追って走り出した。
だから!気が早いって!!
『アカ、行くよ!アイツはここでやっつけなきゃ!!』『あいっ!!』
ボクも、アカを肩に乗せて――3人に続いて走り出す!
「いかん、あの一団を止めるんぎゃっ!?」「行かせるなァアアア!?」
「――死にたぐねば、どけェ!!」
全身を土鎧で固めたロロンがタックル。
「おうらァ!!」
よろけたそいつらを、ターロが器用に二本の手斧で切り裂く。
「にゃっ!にゃあっ!!」
空いた隙間に、マーヤの投げナイフが殺到。
その先にいた黒ずくめたちが、顔周辺に攻撃を喰らって喉を掻きむしって倒れていく!
あ、あのナイフ、真っ黒に濡れてる……毒か!おっかない!!
「跳ブヨ、アカ!!」「あいっ!!」
地面を踏み切り、最大溜め衝撃波を放つ!
体が軋むほどの速度で、ボクの体が斜めに射出される!!
「っく、来るぞ!」「結界!結界を――!!」
金髪男の周囲にいる魔術師が、半透明のシールドを張り始める。
っは!そんなもん――!!
「えい!えい!えぇ~い!!」
アカの思念ミサイルが、雷撃魔法が、飛ぶ!
ミサイルが直撃し、まずシールドが一枚、二枚破損!!
さらに雷撃が直撃!また一枚破損!!
「追加だ!治療を中断して――」
衝撃波ァ!!
今まさに張ろうとしたそいつを、地面に引き倒す!!
その奥に、金髪!
血を吐き、のたうち回りながら腹の傷を押さえて……ボクと、目が合った!
さっきの威勢が全くない、弱々しく……なにかを懇願するような視線。
だけどォ!!
「――残念、ボクハ仏様ジャ、ナインダヨ!顔ノ在庫ハモウ……ナインダ!!」
空中で身を捻り、両手両足をそいつに向ける。
右手以外の棘、フルコースだ!!喰らえッ!!
――十分に魔力を纏わせた三本の棘を、ノータイムで射出した。