第68話 新手と新手とそれから新手!!
「諸君、よく眠れたか?」
明けて、翌日。
結界の内側で、完全武装の兵隊さんたちが並んでいる。
「昨晩の偵察には全く反応ナシ。かといってあれ程の連中が逃げ去ったとは思わない……諸君もそう思うだろう?」
その前でバレリアさんが話をしている。
「間違いなく、奴らは来るぞ」
ボクらはそれを遠巻きに眺めている。
ちなみに朝ご飯は、ロロンが昨日多めに作ってくれていたスープとパンでした。
一晩置くと味に深みが出て美味しい……ような気がする!
プロテイン効果ってやーつ!
『プラシーボ効果ですか?』
そうそれ!!
……ともかく、バレリアさんが言う通り十中八九襲撃はあるだろう。
昨日みたいな連中だけ来るなら、ボクらの出番はなさそうだけど……
「まず間違いなぐ、手練れば揃えて襲って来るでやんす」
ロロンが言う通りですなあ。
昨日の人たち、『捨て駒』って言われてたし……偵察的な感じだったんだろうねえ。
ああ、嫌だなあ。
「むいむいむい……」
肩に乗ったアカが、猫みたいに顔をこすっている。
お腹いっぱい食べてさっきまで寝てたんだよね、カワイイ。
「……ヨシヨシ、オヤビン頑張ルカラネ」
「んへへぇ、なに?なぁにぃ?」
頭を撫でると、体ごとボクの手に体当たりしてくる。
こういうとこ、本当に猫みたいだ。
……うん、頑張ろう、いっぱい頑張ろう。
【セヴァー】のこと、人間と戦うこと、北か東の国のこと。
それらは……ノイズだ!
ボクがやること、やらなきゃいけないこと。
――それはアカを守ること!
そしてボクも生き残ること!
……うん、それだけでいいや、とりあえずは。
「ムーク様、どうなさっ……むわわわっ!?」
ロロンもしっかり守らないとねェ。
撫でちゃろ撫でちゃろ。
「勧告に従わぬ場合、それら全ては敵だ。慈悲も情けもいらん、奴ら向けの地獄へ叩き落としてやれ」
おっと、バレリアさんの話が途中だった。
無茶苦茶好戦的なことを言っている……
「邪な人族どもの手に【セヴァー】が渡れば、それはそのまま庇護する民への災禍に繋がるのだ!」
ぐっ、と。
バレリアさんが握りこぶしを作って高く手をかざした。
「ならば!」
それに合わせて、兵隊さんたちが一層背筋を伸ばす。
バレリアさんは大きく息を吸い込み……叫んだ!?
「――愛すべき兵どもよ!我々の仕事はなんだ!?」
「「「殺せ!殺せ!!殺せ!!!」」」
「我々の特技はなんだ!?」
「「「殺せ!殺せ!!殺せ!!!」」」
「それなら!求めるものはなんだ!?」
「「「――勝利をッ!!!!」」」
うわビックリしたァ!?
な、なにこれ、獣人さん的になんか有名なフレーズなの!?
アカがビックリして兜に貼り付いちゃった!
「ダ、ダイジョブ、ダイジョブ」「んゆ~……えへぇ、えへへ」
撫でたら元に戻りました。
よかったよかった。
「ロロン、ボクラモ油断セズニ行コウ」
「合点でやんす!今から腕が鳴りまっす!!」
気合十分のようだね、ロロンも。
「盗賊共は何人も始末してきたがよ……今度のはちいっと噛み応えがありそうだぜ」
「ムーク、これでやっと本当の恩返しができるね」
ごきり、と首を鳴らすターロ。
にっこりと笑って……スローイングナイフを研ぐマーヤ。
うーむ、頼もしいすぎる。
あ、そういえば……
「ロロン、盗賊退治ノ経験ッテ……」
ボクは最近無慈悲疑惑のあるむしんちゅだけど、この子はどうだろうか。
知性ある対象を殺したり、できるんだろうか。
ロロンは優しいからねえ、いざとなればボクがしっかり手伝って――
「部族のみんなと……アルマード狙いの奴隷狩りやら盗賊やら、何人も槍の錆にしてきやんした!生かしておくだけ、後の面倒ごとの種でやす!お任せくなんせ、ムーク様!!」
「……全幅ノ信頼ヲ寄セルヨ、ボク」
「はぁいっ!!」
……そもそもこの世界の人だった、ロロンは。
日本なんかよりもずっとサツバツとしてる、この世界の。
まさに釈迦に説法……ってやーつ!
覚悟の決まってない……とは言わないけど、覚悟がフワフワしてるのはボクだけなんだな、この場では。
殺しがいいことだとはさすがに思わないけど……殺さないと殺されるんじゃ、そう、仕方ない。
仕方ないねぇ。
『覚悟、決まりましたか?』
うん、とっても。
・・☆・・
「左右から来るぞ!」
人間たちは、野営地を出てすぐに襲ってきた。
ゴツゴツした岩の後ろや、尾根の上から。
格好は昨日と同じ黒ずくめで、武器も同じロングソードと丸い盾。
「止まれ!我々は衛兵隊である!!」
バレリアさんがそう言うも、奴らは一切スピードを緩めない。
それを見て、彼女はとっても獰猛な笑みを浮かべた。
「――者共、殺せッ!捕虜はいらん!!」
「「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」」」
周囲の岩山が揺れるほどの雄たけびを上げ、兵隊さんたちは一斉に片手で槍を構えて――片手はパーの形にしてるだけ!?
魔法でも打つのかな。
「――放てッ!」
人間集団の後ろから男の声がして、先に走っている黒ずくめの背中越しに、一斉に燃える火の玉が放たれた。
火炎魔法!詠唱が早い!
やっぱり後ろには手練れがいるんだ!
でも、兵隊さんたちは何の詠唱もして――
「「「『全き盾よ!あれ!!』」」」
飛んできた火球は、兵隊さんたちの手で弾かれ……いや違う!半透明なシールドで弾かれた!!
すっご!手から盾みたいな魔法を使ったんだ!
色んな魔法があるなあ!
「数を、減らすッ!!」
ボクの後ろにいたマーヤが動く気配。
空中に銀色の光がひらめいたと思ったら、走っている黒ずくめが何人も頭を仰け反らせて倒れていく。
うわわわ、今チラッと見えたけど額!額に一本ずつナイフが埋まってる!!
なんて、コントロール!!
「しぇば、ワダスも!オーム!」
横のロロンが、魔力を練る。
「ラーガ・ラーガ・ロムン・レムス・スヴァーハッ!!」
詠唱が終わり、細かい石の破片がドドドドッて感じで連射される。
土ガトリングだ!前にも見たね!
飛んでいった弾丸は、本物の銃弾のように殺到する黒ずくめたちの体に食い込み、貫通していく。
「にゅにゅにゅ……えぇ~いッ!!」
ぽぽぽしゅ、と。
アカがボクの頭上から思念ミサイルを放つ。
相変わらずカワイイ音なのに、カワイくない速度で飛んでいく光の軌跡。
何人かは避けようと体をよじったけど、ホーミングには勝てずに次々と被弾していく黒ずくめたち。
……凄いな、ボクの仲間たち。
なら、ボクだって!!
衝撃波よりも……黒ずくめたちが密集しているのなら、これだ!
魔力充填……!左腕!!
両足パイル展開!狙いは……一番密度がある所!!
――飛んでけ!ボクの棘ェ!!
どぉん、と衝撃があって。
射出された棘は、その瞬間に狙った箇所……先頭を走る黒ずくめのお腹に命中。
円状に周辺の肉を布ごと抉り取って、後ろを走っていた人間の体も抉る。
結局、6人を貫いていった。
……うひゃあ、あいつら鎧とか着てなかったのかな。
しかし、コレが虫生初の殺人案件だけど……驚くほどなんとも思わないね!
ゴブリンとかコボルトをアレした時と一緒!
今は深く考えてる余裕はないけど、まあいいか!
「援護感謝!!――突撃ィ!!」
「「「オオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」」」
結構数は減ったけど、それでも相手方は多い。
それに対して、バレリアさんの号令に続いて兵隊さんが一斉に突撃。
「っが!?」「ごっの!?」「げぎゃっ!?」
……昨日もわかってたけど、兵隊さんたち強すぎ。
奴らの剣をシールドで受け止め、槍でグサリ。
それを、機械みたいに何度も何度も繰り返す。
黒ずくめの方も、続々と新手が斬りかかるけど……どんな角度で斬りつけても防がれ、次の瞬間にはグサリ、だ。
「ぎぃい!い、今、だァ!!」
何人かは、突き刺さった槍を掴んで後ろの仲間に攻撃させようとしたけど……
「ギャッァ!?」
こっちの兵隊さんは何列かで固まっているので、後ろの兵隊さんが槍で攻撃していた。
『狭い場所で隊列を組み、お互いにカバーしながら攻撃と防御を同時に実行していますね。地球の映画で見た光景ですね……正しく、戦場の戦い方です』
あ!ボクもそれ知ってる!
あれでしょ!古代ローマあたりの……トランクス!
『ファランクス、です。トランクスは男性用下着ですよ、もう……』
とっても恥ずかしい。
と、とにかく!
ロングソード持ちの奴らは機械的に続々と処理されている。
なんてグロい流れ作業なのだ……
『むっくん、見とれている場合ではありません!後方――』
「おやびん!うしろ!!」
瞬時に振り返る!
あああ!後ろの岩の影から……新手だ!
ロングソードじゃなくて、長い杖を持ったやっぱり黒ずくめの一団!
いかにも魔法を撃ってきそうな感じ!
「ウシローッ!!」
叫びながら、速射衝撃波!!
6人ほどを吹き飛ばしたけど、まだまだいっぱいいる!
どんだけ潜入してたのさ、人間!!
「魔術師はァ――ッ!!」
ターロが即座に地面を蹴る。
「接近戦に、弱い!」「うぇえ!?」
だけど、そのターロを追い越していく、バレリアさん!?
ボクより前にいたのに!?
ターロもビックリしてる!
指揮官が突撃しないでよォ!?!?