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第67話 修羅場に備えてしっかり食べて、しっかり寝よう!!

「けぷり」


「アカちゃん、よく食べるね」


 いつものようにお腹をぽんぽこにしたアカが、ボクの膝で仰向けになっている。

マーヤが言うようによく食べるよホント……ボクと同じくらい食べてるもん。

胃袋の容量どうなってんのかな……あ、魔力に変えて吸収するんだったか。


「寝ル子ハ育ツ、イイコト」


「んだなっす、んだなっす~♪ムーク様、どんぞ!」


 調理道具を背嚢に収めたロロンが渡してくるので、受け取ってマジックバッグにイン。

いやあ、本当に便利ですわコレ。

おひいさまには足を向けて眠れないねえ、実際寝る前に方角を毎日確かめてるんだよ。


「兵隊は大変だねえ……ま、モノがモノだけに仕方ねえか」


 パイプから煙をくゆらせ、ターロが作業中の皆さんを見る。

バレリアさんの指示の元、兵隊の皆さんは一心不乱に岩壁を掘って……削っている!

嘘でしょ!ボクらがご飯食べてる間に岩肌が半分くらい消滅してるんですけお!?


『掘って、魔力で岩盤内をサーチしてまた掘ってを繰り返していますね。【セヴァー】を爪の先すら見落とさないように虱潰しに……私に開示されている情報では多くはわかりませんが、間違いなく宝石の中では最上級の扱いです』


 売るとしたら、やっぱお高いかな?


『値段が付けられない、という代物かと』


 ですよね~?

ターロの話からして、売ろうとした瞬間にお縄になりそうだし。

小市民虫は欲をかかずに地道にやるよ。

なんか、謝礼も出るらしいし。

アカやロロンに迷惑かかっちゃうかもしんないしね。


『よい心がけです、仲間のこともしっかり考えていますね』


 そりゃね~?

ボク単独ならともかくさ、一応ボク、『おやびん』だもん。

既にしっかりしているロロンはともかく、名実ともに赤ちゃんなアカを立派に育てないとねえ。

ボクも実年齢(異世界換算)あんま離れてないけども!!


『むっくんが日々立派になって、私としても鼻高々です……ふふふ』


 無限に褒めてくれるじゃん、トモさん。

でもボクってばすぐ調子に乗るからなあ~?

適度に引き締めてくださいね!


『サド虫かと思えばマゾ虫……変幻自在ですか』


 勝手に人をR指定虫にしないでいただけまいか!!



「落ち着いたかね?いや、全員初めから落ち着いているか……よいことだ」


 作業中の兵隊さんを眺めていたら、こちらへバレリアさんが寄ってきた。


「進捗は、どうでがんしょ?」


「地上部分はほぼ終了したと思っていいだろう。これから地下を最低5デラシルほど調べる、【セヴァー】の性質からして2デラシルよりも深い部分には埋まっていないハズだが……念には念を入れんとな」


 深さの単位がわかんないけど、まだまだかかりそうなことだけはわかった。

こちらはゆっくり待たせてもらおう。

あ、でも……


「襲撃、来マスカ?」


「――来る、必ずな。勿論我々も警戒するが……そちらも気を付けてくれ」


 人間さん達、かなりのご執心ぶりだね。

自分とこの国では採れない貴重で、しかも強力な触媒だもん……まあ、当然か。


「任しといてくんな、こちとら腐った人族風情に遅れはとらねえよ」


「ん、お任せ」


 ターロたちは頼もしいなあ。

ボクも頑張らないと。


「なに、なぁに?」


 お腹が若干しぼみ始めたアカを見ると、起きて頬へ寄って来る。

こしょばい。


「ウンニャ、ナンデモナイヨ~?」「あはぁ、あはは!きゃーっ!」


 そのほっぺたをツンツンつつくと、アカは鈴が鳴るように笑った。

……うん、守らないとね。

最近むっちゃ飛ぶの上手いし、ミサイルまで撃てるようになったけど……アカは、アカ。

大事な大事な、ボクの子分だもん。

人間だろうが魔物だろうが、かかってこいってなもんですよ!!


「おやびんもつんつん!つんつん!」「アヒャヒャヒャヒャ!」


 こやつ、的確にくすぐったい場所を見極めて……我が子分ながらやりおるわい!!

将来が楽しみじゃ!!


『どんな将来ですか、どんな』


 ……わかんない!!



・・☆・・



「――隊長、お願いします!」


「うむ」


 あれからどれくらい経ったのか。

すっかり日が暮れて、空の端の方には星がチラついている。


 兵隊さんたちはツルハシを振り回し続け……岩肌はごっそりと抉れ、地面は半径10メートルほどを目測で5メートルくらいは掘り下げていた。

たった数時間であれだけ掘るなんて……あの兵隊さんがいっぱいいたら、〇ンボとかの機械はいらないと思う。

土木建築がはかどりそう。


 ボクらはそれを見ながら軽く晩御飯を食べた。


「ふぅう……っふ!!」


 そして、穴の底でバレリアさんが手を地面につけて……うわぉ!魔力を放出!

黒曜ゴーレムがやってたみたいに、波っていうかソナーみたいに!


「……反響、ナシ。みんな、ご苦労だった……あとは私がやるから、しばし休め」


 兵隊さんたちはお~……みたいな疲れた声を出して、ツルハシを片付け始めた。

これで、埋まってた【セヴァー】は綺麗に掘り出せたみたいだね。

上から眺めてたけど、量は全部でバスケットボール以下ソフトボール以上って感じ?

ボクはあんまりピンとこないけど、ターロが冷や汗かいてたから凄まじい埋蔵量ってことはわかった。


「『大地の子よ、仮初を砕いて結合せよ』」


 穴の底のバレリアさんがそう詠唱すると、掘り出された岩とか土が勝手に穴に流れ込んであっという間にフラットな地面へ戻った。

埋まるのに合わせて彼女も地上にせり上がって来るオマケつき!


「ロロンノト違ウケド、アレッテ土魔法?」


 オーム!で始まらない詠唱もあるんだねえ。


「んだなっす、北方の魔術言語でやんす。バレリアさんの魔法は凄まじく滑らかでやんす、ワダスも精進ば、せねば!」


 がんばるぞい!って感じで両手をぐっと握るロロン。

……なんとういう上昇志向か、とりあえず頭を撫でておこう。


「じゃじゃじゃ……えへへ……」


 はにかんだ顔は年相応の女の子なんだけどね~……

立派立派、超立派。


「おやびーん、お~や~び~ん!」


 ハイハイ、撫でますよアカも。

別に何もしなくても撫でますよ。

かわいいからね、仕方ないね。

ボクの手が擦り切れてスベスベマンジュウムシになっても撫でますからね!


「えっへえ、えへへぇ」


 あー!かわいいなもう!アカはかわいいな~!!



・・☆・・



「……」


「なんでえ、親離れできねえガキでもあるまいしそんなに見ちまってよぉ。そうだ、羨ましいなら俺からムークに頼んで――待て、ナイフを下ろせナイフを、落ち着けって、ちょっと切れたから、今、皮膚が、すいません、はい、やめて」


「……フン」



・・☆・・



「作業はすべて終了した」


 埋め戻しや食事を済ませ、兵隊さんたちが休んで……いや、野営の準備をしているとバレリアさんが来た。

ここで泊まる感じかな?


「【セヴァー】デス?ソノマジッグバッグニ入ッテルノ」


 バレリアさんは片手に丈夫そうな皮の鞄を持っている。

ここから見える範囲でも、鍵が3つもついてて厳重な感じ!

異世界ジュラルミンケースって感じなんかな。


「ああそうだ、だがこれはただの硬い革の鞄だよ」


「ヘ?」


 いいの、それで?

もっと厳重に管理しとかなくて……


「【セヴァー】は魔力を増幅するのだ。空間圧縮魔法を何倍にも増幅して……盛大に破裂させてしまうんだよ」


「ヒエッ……」


「破裂する際に空間の断裂と圧縮も発生するから、我々ごと結界内が弾けてみんな『混ざる』ぞ」


「ヒエェエエ~!?」


 なんて恐ろしい……!!


「フフフ、キミのような感情豊かな虫人は初めて見るよ」


 バレリアさんが上品に笑う。


「この結界は朝までもつ。今晩は野営をして、朝一番に下山だ……天幕はあるかね?なければ我々のモノを貸すが」


「ア、チョット小サインデ……毛布ミタイナノガアレバ、2ツ貸シテクダサイ」


 あの天幕は女性陣に使ってもらおう。

申し訳ないけどターロには……まあ、夕食に使った焚火の付近でもう寝てるから必要ないかもしんないけど、我慢してもらおうか。

丸まって寝てる……こうして見ると本当に猫みたいだ。


「了解した……おいでバルバス!」「ギャウ!」


 隅っこのほうで固まって寝ていた走竜の中から、バルバスくん(推定)がやってきた。

バレリアさんは鞍についているマジックバッグから毛布を取り出し、渡してくれる。

……なんかいい匂いがする!


「どうぞ」「アリガトウゴザイマス」


 ふわあ……ふかふかだ、ふかふか!


「周辺に魔力を飛ばして探査しているが、奴らの気配はない。恐らく襲って来るなら帰還途中だろう……見張りを立てるので、安心して休むがいい」


「ナニカラナニマデ……」


「旅人と言えど、ラーガリの民はすべからく私が守る民だ。気にするな……それでは、おやすみ」


 素敵なウインクを残し、バレリアさんが歩き去っていく。

……格好いいなあ~!ボクもああいうことをサラッと言えるようになりたいね~!


『未来に期待、ですね。さあ寝ましょう……夜間の警戒は私もしますから、何かあれば叩き起こします』


 トモさんレーダー&モーニングコール助かる~!



「本当にいいの?こんなにいい天幕……」


「イイノイイノ、女性陣ハ天幕デイイノ」


 展開したテントの中から、マーヤが申し訳なさそうに聞いてくる。


「こうなるとムーク様はほんに頑固でやす、諦めなっせ」


 ボクよりもよほど頑固なロロンが何か言ってる!


「おやしみ、おやびん!」


「ハーイ、オヤスミ」


 頬を擦り付けてテントに消えていくアカを見ながら、毛布を持ってターロの方へ歩き出す。

さあ!明日は修羅場になりそうだけど……生きて帰るぞ~!

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