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第65話 聞けば聞くほど人間さんへの好感度が減っていく……

「どうもキミとは妙な所で会うな、虫人くん」


「デスネエ、ハハハ」


 結界を張り終え、ケマで一服したおねえさんが笑っている。

こ、この人……物凄い速さで魔力が回復していく!

なにこれすっご!?ロロンが消耗した時は、じわじわ~って感じで回復してたのに!


『特殊な呼吸法とそれに呼応した高速の魔力循環を感じます。やはり彼女、かなりの手練れですね……種族的に魔法が苦手な傾向にある獣人で、よくもまあ……』


 なんか前からちょいちょいそんな気がしてたし聞いてたけど、やっぱそうなんだ。


『厳密に言えば、獣人は外に魔力を放つことが不得手なのです。体内で魔力を練って体内で消費する、いわゆる身体強化魔法は得意なのですが』


 あー……なるほど。

ミーヤの走る速度がやたら速かったのもそういうことかな?

あと、『赤錆』の人にもいたね。


「ア、ボク……ムークトイイマス」


 唐突に、今まで名乗っていなかったことを思い出した。

いつまでもおねえさん呼びじゃいけないしね。


「アカ、でしゅ!」「【跳ね橋】のロロンと申しまっす!」


「おやおや、コレは先を越されてしまったな……【鬼鹿毛】のバレリアだ、よろしく」


 おお!住所っぽくないし、これはなんか格好いい異名……!!

ボクもいつか名乗りたいな!そういうの!!

自称したらただのイタい虫だし、現状では無理だけど!


「【鬼鹿毛】!?嘘だろオイ、アンタ北にいたはずじゃ……」


 ターロが血相を変えている。

有名人なん?ロロンが驚愕してないから、少なくとも砂漠じゃ知られてなかったぽいけど……


「フフフ、給料だけはいいが、人使いが荒い職場でね。北の戦役から古巣へとんぼ返りだ」


 やけにリアルな感想だ……ブラック企業なのかな、兵隊さんって。

北の戦役って、ターロが言ってた人間さんの国との戦争のことかな。


「……そういえば、ミーヤがいない」


 マーヤがポツリと漏らした。

そういえば兵隊さんの中にはいなかったね?

どうしたんじゃろ。


「ああ、彼女なら街の営舎で休んでもらっているよ。魔力が底を尽くほど身体強化を行使していてな、事情を伝えるなり昏倒した……いかに【セヴァー】のためとはいえ、無茶をしたものだ」


 ミーヤ……頑張って走ったんだね。

走れ〇ロスもびっくりだよ。


「隊長ォ!出土しました!!」


 休憩もせずに一心不乱につるはしで壁を掘っていた兵隊さんのウチの1人が、こちらへ走ってきた。

その手には……野球ボールくらいの大きさの、赤い石がある。


「恐らく、コレと同程度の量が分散して埋まっているものと推測されます!」


「たまげたな……それほどの量とは。ここで発見できたのは僥倖だったな、悪くすれば国が割れるほどの代物だ」


 ニコニコしていたバレリアさんだけど、一瞬で真剣な顔になってしまった。

ボクにはピンとこないけど、アレだけの量でもとんでもないみたいだ。


「今は時期が最悪だ。悪いが、速やかに全て掘り出せ……今晩は野営だな」


「ハッ!!」


 時期がってのは、たぶんお祭りのことだろう。

人間さんがウロウロしてるもんね、現状。

この前の金髪マンみたいなのに見つからなくてよかったねえ。


「人間ニ見ツカッタラ、危ナイデスカ」


「危ないなんてもんじゃないさ。奴ら、コレを目当てにすぐ攻め込んでくるぞ」


 ヒエッ……恐ろし。


「可及的速やかに発掘し、すぐさましかるべき場所に安置して封印せねばならん。よかったことといえば、ガラハリ近辺で発見されたことだな……私を始め、封印術式に長けた者が多いからな、ここは」


 封印術師?さんがいっぱい住んでるんよね、ここ。

確かに、その意味ではいいのかもしんない。


「ズウット、封印シテオクンデスカ?」


 結構便利そうなのにな~。

でも、誰でも使える状態にしてるとそれはそれで危険なんだよね~。


「ン、まさか。しかるべき時に使用許可が出るよ」


 しかるべき時?

首を傾げていると、正面に座っているマーヤがボクの方を見てにやりと笑った。


「そ、他国に『攻め込まれた時』ね」


 あ~……なる、ほど。

人間さんたちが強奪しようとするわけだね。

自分たちの戦力強化もそうだし、相手の強さを削ぐことにもなるんだから。


 ケマをぐいっと飲み干し、バレリアさんが頷いた。


「うむ。12か国協定で定められた【セヴァー】唯一の使用許可条件……それが『自国存亡の危機』というわけさ。使われないことを祈るよ、少なくとも私が老衰でくたばる百何年か先までな」


 無茶苦茶長生きするつもりでいらっしゃる……!

そだねえ、これが『抑止力』ってやーつですか。


「人間タチ、ナンデココヤ南ノ帝国、攻メヨウトシテルンデスカネ?国ガ貧シイトカ?」


 詳しく知らないけど、北と東の土地がむっさ痩せててサツマイモしかできないとかなら……まあ、納得は出来ないけど理解はできるね。


「決まってんだろ、そりゃあ奴らが『まっとうな人間』だからさ」


 いつの間にかパイプを咥えていたターロが吐き捨てた。

まっとうとは真逆の位置にいる発想なんですけお?


「そうか、ムークは森育ちだから知らないのね。宗教よ、宗教」


「シューキョー」


 思ってもいない答えがお出しされた。

宗教って……どういうこと?


「人族どもの国では、なんと言ったかな……ああ、【ログン教】という宗教が広く信仰されていてね……教義はなんと『優れた人族が他種族を教え、導かなくてはならない』というモノだとさ」


「エェエ……セ、選民思想……」


 なんという清々しいまでの人間至上主義……傲慢を通り越してもう神様じゃん。


『呼びましたか?』


 呼んでいません。

あと、さっきの神様っていうのは決していい意味じゃないです。

優しい女神のトモさんと一緒にしたら罰が当たりますよ。


『あら……ふふ、お上手虫!』


 上機嫌でらっしゃる。

いいこと、いいこと。


「おや、言い得て妙だな。まあ……さすがに全人民がそうではないと思うが、人族はだいたい我々他種族を一様に『下』と見ているというわけだ」


 やれやれ……って感じで肩をすくめるバレリアさん。

絵になるなあ!


「マトモな人族なんて【ロストラッド】出身くらいよ、ううん……マトモ、かな?」


「俺ァマトモだと思うぜ、あすこの出身者に会うとモテてモテてなあ」


 ……ヤマダさんの国!!

ある意味安心感が持たれてる!!

異種族好きすぎでしょ!!


「じゃじゃじゃ……」


 何故かロロンは怯えている。

大丈夫だから、近所にはいないから。


「フフ、あの国は異種族を虐待したら最悪死刑まであるからな。人族ばかりの国なのに、先だっての北との戦では先陣を切って大暴れしていたぞ?」


 ヤマダさんの国!!

勇猛すぎる!そんなに異種族が好きなんですか!

ボクはまだお目にかかったことはないけど、全力で応援するぞ!!


『むっくんと同じ性癖ですからね。同好の士というわけですか』


 そんなことないやい!!


「おやびん、おやびぃん」


 と、ロロンの頭からボクの肩に飛び乗ったアカが頬をつんつんしてきた。


「おなかすいた、すいたぁ」


 おー……そう言えばそろそろお昼時でした。


「マダ動ケナイミタイダシ……ゴ飯ニシヨッカ?」


 マントをめくり、腰に付けたポーチに手を突っ込む……むんむん、煮炊き道具!食材!

念じると、煮炊き道具をまとめた背嚢に手が触れる。

続いて、食材袋にも。


「ロロン、ハイコレ」


「はいっ!」


 2つの背嚢を渡すと、ロロンがすぐさま準備にかかる。

さてボクは……薪を探さないと……あ。


「岩シカナイ!」


 結界の内側には岩と砂と石しかない!

こんなこともあろうかと思って、薪を持ってくるのを……考えてなかった!!

こんなシチュエーションは想定してない!!


「ああ、それなら……バルバス!おいで!」


 バレリアさんが声をかけると、さっき乗って来ていた走竜が小走りで寄ってきた。

おお~……この人はちゃんと名前つけてるんだねえ!


「ギャウ、ギャウ!」


 イケメンの走竜くんの鞍に……あ!マジックバッグ!

そこにバレリアさんが手を突っ込むと、一抱えもある乾いた丸太みたいなものが出てきた。


「これを使いたまえ、ここに拘束するのだからな。燃料くらいは進呈しよう……足りないようなら幾分か食料もあるが……まあ、不要か、用意がいいな」


 食材をザクザク切り始めたロロンを見て、バレリアさんは感心している。

ふふふ……食べるものだけは大量に確保しているのですよ。

森での経験が活きたね!もう二度とひもじい思いは御免なので!!


「やっべェ、そんなに長いことかかるとは思ってなかったから……」


「アア、イッパイアルカラ皆デ食ベヨウ。コノ前奢ッテモラッタシ」


 慌てるターロにそう言う。

準備中のロロンも笑顔で頷いた。

ご飯はみんなで食べた方が美味しいしね!


「いっしょ、いっしょ!」


「ふふ、ありがと、あはは」


 アカがまたマーヤの耳をモフモフしている。

……気に入ったのかな?耳。

ボクにはない器官だからねえ、ちょっと羨ましいかも!

兜ヘッドにケモミミは似合わないと思うけどね。


「ヨケレバ、バレリアサンモドウゾ……ア、マダオ仕事デスカ?」


「フフフ、私の仕事は結界で終了している……だが、気持ちだけいただこう。部下の監督をせねばならんのでね……それでは、ご馳走になった」


 バレリアさんはボクにカップを返すと、立ち上がって歩いて行った。

魔力がもう全快してる……魔力量もたぶん膨大なのに、なんて回復速度だ。


「すまねえムーク、せめて薪割りくらいはするぜ!」


 手斧を振り上げるターロ。

うん……お願いしよっかな、ボクのチェーンソーハンドでもいいけど。

さーて……じゃあボクは……仕事がない!嘘!?

な、何かないか、何か……


 ……うん?


 向こうの岩山のてっぺんで何かが動いたような――



「――敵襲ッ!!警戒態勢!!」



 バレリアさんの鋭い声が飛ぶのと、結界に外から魔法が激突したのはほぼ同時だった。

ヒャーッ!?なんですか、いったい!?

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あのアホ3人組かなぁ…?
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