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蒼と紅  作者: 久村悠輝
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第99話

「そんな事があったのか。帰りが遅いから心配になってたけど…、まさか中級ダンジョンでも最難関と言われるクラフトマウンテンを攻略してたとはね」

「へ?」

「クラフト…」

「マウンテン、ですカ?」


 サファイア、ルビー、アメジストのメガテン…もとい、目が点になった。


「アイリス、出立する前に言ったよね、同じような入口だから気を付けるようにって」

「え? あ…ああっ!」


 どうやらアイリスは事前にクラフトマウンテンのダンジョンの事をジュピターに教えられていたらしい。それをすっかり失念し最後まで思い出さなかった様だ。もしかしてドジっ子なのかな?


「すみませんすみません、私が忘れていたばかりに皆さんへ迷惑を掛けてしまい…」

「大変だったけど楽しかったから良いんじゃないかな?」


 ペコペコと頭を下げるアイリスにサファイアはあっけらかんと言う。大きな崩れは無く何とか切り抜けられたし、ジュエルボックスは全員に新しい武器が手に入ったので結果オーライだ。


「バットマウンドのダンジョンは地下5階構造で一本道、罠は毒ガスが1箇所だけだよ」

「アタシらが潜ったダンジョンとは雲泥の差だな」

「毒ガスじゃったらウチの解毒剤かサファイアさんの範囲化したキュアの出番じゃね」

「そんなに恐くないトラップだし楽勝だよね~」


 本来のバットマウンドの詳細な情報を聞きセリアもサファイアも余裕の表情を示す。


「でもクラフトマウンテンじゃないとダンジョンの本当の恐さを知らなかっただろうね」


 レシルは口元へ指を寄せ考える。


「ともあれこれは約束のエーテル代だよ」

「ありがとうございます。確かに受け取りま…ジュピターさん、約束の額より多いです!」


 ジュピターから手渡されたケロを数えたパールは当初より増額されている事に気付く。


「バットマウンドじゃなくクラフトマウンテンへ行かせてしまったお詫びだよ。霊薬(エリクサー)も使ったんだろ? それでも少ないくらいだよ」


 霊薬を使った事まで見抜かれてはパールは断る事も出来ず諦めて全額を受け取った。そしてしばらく談笑しているとサーバントが入って来てジュピターへ耳打ちをする。


「夕食の準備が出来たから食べようか」


 そう言ってジュピターは立ち上がる。パールは慌てて辞退しようとしたが、用意されてしまっては断るのは失礼になる。さらにジュピターは言い出したら頑として退かないのをこれまでの付き合いで身にしみているので厚意を受け取る事にした。


     ◇◆◇◆◇


「モンク系のスキルにあるのは知っとるけど実際に使う気にはなれへんからなぁ」

「僕からはコメントし辛いね」

「私は何度か見た事はあるけれど獣人相手だったからそれはもう酷い苦しみ方をしていたよ」


 夕食が終わると自然にダンジョンでの話題になる。話題の中心はデスの詠唱を止めたシトリンの金的だ。モンク系のジョブを上げているガリウムには恐くて使えないスキル、ジュズマルは苦笑しながら受け流す。シャチョウは野良パーティで何度か見たらしいが口にするのもおぞましいと言った表情だ。そして男性陣揃って腰が引けている。やはりその威力を想像し自分が受けた時の事を考えてしまったのだろうか。

 あとの話題は宝箱を開け地下に落下し大量のゾンビやスケルトンに絡まれた事、小部屋にスケルトンが密集していてサファイアとアイリスで片付けてしまった事、他にも色々話題は尽きない。


「でもメテオストライクを手に入れたのは凄く幸運だね。確か入手条件が“隠し通路を除く全てのモンスターを倒した、尚且つ宝箱の出現率2%”だったかな。奇襲戦(レイドバトル)の方がドロップ率10%だからそっちほ方が割に合ってるんだよね」

「隠し通路なんてあったんだ?」


 今からでも行きたいと言いかねない勢いでサファイアが話題に食い付く。


「君達も通っているよ。モンスターが無限に湧く地下通路」

「あ、あ~あれかぁ」


 大量のモンスターに追いかけ回された事を思い出しげんなりするサファイア。そんなサファイアを元気付けようと、


「でもメテオストライクを装備したいからレベル50を目指すんだろ?」

「うん! 絶対装備するんだからっ!」


 ジュピターの言葉にサファイアは両手を握りしめ答える。


「レベル50になったら次は限界突破だね」

「限界突破?」

「そ、ヴァイトインゼルに居るNPCとソロで戦うんだよ。そこで認められるとレベルが51以上に上げられるんだ」

「だったらメテオストライクを使えば楽勝じゃん」

「残念だけど、教皇は相手を倒すんじゃ無くて自分のHP(ヒットポイント)を一定数回復させるのが勝利条件だよ」


 その言葉を聞いてサファイアは両肩を落としガックリと項垂れる。


「シーフのスキルを持つ忍者とアサシン以外は殴り倒せばクリアなんだけどね」

「忍者とアサシンは何が条件なんですか?」


 自分のジョブの事だけにルビーが会話に加わってくる。ジュピターに対しては丁寧な言葉遣いになるね。


「どっちも殴り倒しても良いんだけど、NPCの持つエーテルを盗んでも良いんだ」

「なんだ、楽勝っぽいですね」

「そうでも無いよ。運が良くないと盗めず時間切れなんてザラだからね。それに挑戦資格のアイテムはシーフタイプの獣人モンスターから盗まないといけないしね」

「ルビーちゃんかわいそう…」

「サファイアさん、他のジョブも参加資格のアイテムを獣人を倒して手に入れる必要が有るからね?」

「あの、そのアイテムはどこの獣人を倒せば手に入りますか?」

「ヴァイトインゼルからキューニィで1刻ほど移動した獣人の拠点で手に入るよ。でも、向こうもパーティを組んでるからね。油断は禁物だよ」


 ジュピターのお陰でサファイア達の動向が決まった。まずはヴァイトインゼルを目指しつつレベリングをする。拠点に居る獣人達はレベル45でも勝てない相手では無いとの事だが、念のため1つでも上げてから挑みたいのはパールの考えだ。


「明日は休養日にしてヴァイトインゼルには明後日出発しましょうか」

「ヒルマウンテンからヴァイトインゼルまでどれくらいで行けるの?」

「キューニィで明るい時間に走っても1日じゃ着かないよ。大体1日と半くらいみておいた方が良いかな」

「ほへ~、結構掛かるんだね」

「セントラル王国(キングダム)の中心だもの、地方都市からそんなに簡単に着いてしまっては国防が疎かになってしまうわ」

「ん? どゆ事?」


 パールの言葉にサファイアは頭に「?」マークを浮かべる。


「良い事サファイアさん、例えばキューニィで半日の国と3日の国ではどっちが先に王国へ到着するかしら?」

「それはもちろん半日!」

「そうね、だとしたら王国から半日の国が兵を挙げて王国へ攻めてきた場合、王国の準備期間はどれくらいかしら?」

「えっと……侵攻に半日掛かるから半日?」

「惜しいけど不正解よ。侵攻するのが判って早馬を飛ばしてもせいぜい1刻は掛かるから実際には5刻程度よ」

「わ、だったら準備したらすぐ戦いじゃん!」

「途中にも砦やお城があるから簡単には到達出来ないけれどね」

「あ、グルックベルクのお城とかだね」

「そうよ、よく覚えてたわね。話が逸れちゃったけど、ヴァイトインゼルへは簡単に行けないって事よ」

「リースリビョーナクよりも遠いのか~、イザヨイ大丈夫かな」


 サファイアは大きく伸びをしながら天井を見上げる。


「大丈夫よ、イザヨイもこれまで長い距離を走ってきたもの」


 微笑みながらパールはサファイアを安心させようと言葉を掛ける。


「そっか、そうだよね。サファイアちゃんのキューニィだもん、イザヨイは簡単にはへばらないね」

「サファイアのキューニィだからってのは意味不明だけど、クレナイも同じ距離を走ってるからへばる時は一緒さ」


 ルビーも同調し場を和ませる。


「あまり長居しても迷惑だし私達はそろそろ帰りましょうか」


 頃合いを見てパールは切り出すと立ち上がりジュピターに一礼する。サファイアも椅子から飛び降り手を振る。


「こちらこそいつも引き留めて悪いね」


 そう言ってジュピターはサファイアに手を上げて応える。

 玄関ホールまでユニークスターズの面々とサーバントに見送られサファイア達は豪邸を後にした。帰り道、頭上で光る月を見上げながらサファイアは足を止める。


「どうしたサファイア?」


 隣りを歩いていたルビーが気付き声を掛ける。


「ヴァイトインゼルでもこのお月様が見られるのかな、って思って…」

「そりゃどこに居ても夜空の星は変わらないんだから見れるだろ」

「そう、だよねっ、初めての長距離だからなんだか感傷的になっちゃった」

「センチになるなんてサファイアらしく無いな」

「そうですヨ、サファイアはモンスターを殴る事を考えてるのが1番似合うですヨ」

「ぷ~、アメちゃんそれどういう意味??」

「貴女は何も考えずありのままで十分って事よ」


 パールの一言が1番酷い気がする。しかしジュエルボックスのムードメーカーが沈んでいては全員の士気にか関わる。月明かりが照らす夜道をサファイア達はレンタルハウスへ帰って行った。

 今回も読んで下さってありがとうございます。コメントや評価を貰えるとモチベーションが向上する…かもしれないので気が向いたらお願いします。

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