第97話
夜が明けて…と言っても正確な時刻は判らないのだが…自発的に起きる者、パールが淹れたコーヒーの香りで起きる者、誰かに起こされるまでひたすら眠る者、全員が揃うにはかなりの時間を要した。
「今日は地下6階の攻略だよな」
「セーフティエリアに帰還用の魔方陣が無いのを考えると、この先に大きな戦いや長い通路が有るとは考え難いわ」
「可能性が有るとすれば大きなスケルトンクラスが単体で待ち構えているくらいでしょうか」
「3匹くらいまでなら連戦出来るけど、MPを回復させるアイテムが無くなりそうだよね」
ルビー、パール、アイテム、レシルが現状を確認する。そして練られた戦法はこうだ。
大スケルトン、大鎌のスケルトン、片手棍と盾を持っているスケルトンが1匹の場合はそのまま撃破。3匹同時ないし連続の場合はアイテムが無くなる可能性が高い為、迷わず撤退する。
スライムが居た場合は魔法中心の攻撃で撃破する。
問題なのがワイバーンだ。フレイムブレス、ディスペルウィング、ドレッドシュリークといった厄介なスキルを連発されると一気に瓦解し全滅の可能性もあり得る。とにかく麻痺を治せるサファイアを守りつつ戦い、総崩れしそうになったら撤退する事になった。
だが、地下6階に降りたら退路が塞がれる可能性も捨てきれない。そうなってしまうと最後の1人になるまで戦い続けるしか無い。
「とりあえず朝飯食ったら早速降りてみようぜ」
心なしか重くなった空気を吹き飛ばす様にルビーは努めて明るく振る舞う。
◇◆◇◆◇
「いい加減にしろよっ!」
ルビーは怒りを露わにする。
地下6階は幅およそ5メートル、奥行きおよそ30メートルほどの通路でその奥に部屋があった。しかし部屋と言うには広すぎる。ビッグエッグが4つも入りそうな広さと高さなのだ。天井全体が仄かに光りを放っていて松明が無くともモンスターの姿は確認出来る。
ルビーが怒っていたのは広場を埋め尽くしたゾンビとスケルトンだ。その数不明。中ボスクラスの登場を想定していただけに見事に肩透かしを食らった状態だ。今のところひときわ背の高いスケルトン達はもちろん、ワイバーンの姿も見えない。
広場で見えるのはゾンビとスケルトンのみだ。これまでの経験で数よりも個体の強さが問題となるこの戦いは誰がアタッカーになるかで戦術が関わってくる。
まずはメテオストライクを使うアイリス。問題なく倒せるのであれば次にサファイアのシューティングスターの出番だ。これでも余裕なら次はアイリスから予備の片手棍を借りたレシルが殴る。まだ余裕がある様ならペリドット、アルミナ、セリアが攻撃を加え十分倒せそうならば全員で撲殺ショーの始まりだ。
しかし広場に入って囲まれるのもまずい。とにかく数が多いのだ、通路へ誘き寄せて各個撃破が必勝だろう。リザが物理アタッカー枠に入って無いのはアンデッドが苦手で殴れないからだ。
しかしリザが得意な魔法は広範囲のモンスターを一気に焼き払う。彼女には後方からその大火力を活かした支援が決定した。
ともかく、通路を押し寄せてくるおよそ20匹程度のアンデッドをどう捌くかがこの広場の肝となる。レシルの閃光で通路に入ってきたアンデッドを一気に引き寄せる、これでレシルのHPの減り具合をみてパールでも耐えられそうならば円陣剣でモンスターの半分を引き受ける事が話し合いで決定した。
「それじゃ皆、準備は良いかしら?」
パールが自分に掛かっている強化を確認しながら問う。モンスターを釣る為に部屋の入口方向に居るルビーからはサムズアップのハンドサインが返ってくる。サファイアとアイリスは肩を回し早くモンスターを寄越せと無言の圧を掛けてくる。他のメンバーも頷きを返した所でレシルがGOサインを出す。
「それじゃっ、1匹目!」
ルビーの投げたクナイは通路に1番近くに居たゾンビの眉間にヒットした! それを確認しルビーは後方へ急いで下がる。
だがここで誰もが想像しなかった事態が起こった。クナイを受けたゾンビが塵になったのだ。
「ほへ? どういう事?」
アップを続けていたサファイアも何が起こったのか理解出来てない。
「………。アメちゃん、シルバーブレットで釣ってくれるかしら?」
「ヤですヨ、そんな事したらミーが襲われるですヨ」
「良いからやる!」
有無を言わせないパールの語気にアメジストはブツブツ文句を言いながら銃をスケルトンへ向けて構える。
「ゴミ箱の『燃えるゴミ』を『萌えるゴミ』に書き替えた罪により銃殺刑!」
「萌えたらゴミじゃないだろ…」
ルビーのツッコミはさておきアメジストの銃弾はスケルトンの頭部へ命中し、それを砕かれたスケルトンは塵となった。
「ひょっとして、とんでもなく弱い?」
アルミナが首をかしげながら言う。
「このバットマウンドで出会ったモンスターで最弱クラスでしょうね」
「それじゃ全員で叩きましょうか」
「私はイヤよ!」
アイリスの言葉にリザは食いぎみに反論する。仕方ないのでリザは後方支援のまま他のメンバーでモンスターを殴り倒す事に。
「どんどんおいでませ~、閃煌!」
レシルは部屋の入口で高ヘイト広範囲の魔法を放ちモンスターを集める。広場全体がリンクした状態でそのまま通路へ引き込むと待ち構えているのは鈍器を初めとした獲物を手にした処刑人達だ。迂闊にもぞろぞろと通路に入ってきたモンスターは片っ端から塵へと変えられていく。
「うわ~めちゃくちゃ楽しい! サファイアちゃんもアイリスさんもいつもこんな気持ち良い事してたんだ? ずるい!」
スケルトンを砕きながらアルミナが言う。他の後衛組も楽しそうにモンスターを殴る。すると入口付近で大爆発が起こった!
「な、なんだ?!」
ルビーが慌てて原因を調べるとリザが放った魔法だと判った。
「ふん」
いつの間にか前に出ていたリザはそう言うと後方へ下がった。ひょっとして疎外感を感じたのかもしれない。
相性の悪いルビーやアメジストてすら1撃で倒せる事から楽勝ムードが高まり通路へ引き込まれたモンスターはすぐに塵へと変わっていく。
「地下6階でこんな簡単な戦いだなんて何かおかしいわ」
「パールは深く考え過ぎですヨ」
「そうそう、さっさと片付けてクリアしちまおうぜ」
パールの不安をよそにアメジストとルビーはお気楽に言う。
◇◆◇◆◇
それは松明が1本燃え尽きた後だった。
「まだ終わらないの~」
「腕が上がらないよ~」
サファイアとアルミナの愚痴に全員が気付く。簡単に倒せているので交代要員を準備してなかったのだ。パールは歯噛みをする。急いでサファイア、アメジスト、シトリン、アルミナ、ローラー、レシルを下がらせる。
「範囲攻撃で殲滅速度上げるわよ! 威力は最弱で構わないわ!」
お祭りムードが一変し全員が本気になる。とは言っても雑魚中の雑魚だ、レシルの円陣剣と大虬のスコールソーンを放っただけでも半径約10メートルほどの空白地帯が生まれる。ゾンビやスケルトンの侵攻速度は遅いので効率良く倒そうとするには待つって引き付けるしかない。
焦れる時間を耐えつつサファイア達は交代しながらひたすら範囲攻撃でモンスターをねじ伏せていった。
「ヒーリング!」
サファイアが放った癒しの光がゾンビやスケルトンを包む。するとモンスターの体はぐずぐずに崩れ塵となった。アンデッドには回復魔法もダメージソースとなる様だ。
「ふっふん、サファイアちゃん天才」
「これでサファイアも範囲攻撃が出来るようになったな」
「そうだね、ルビーちゃんは何も無いけど」
「一言余計!」
サファイアの後頭部をルビーのハリセンが打ちすえる。
「少し前進して部屋へ入るわよ」
ともあれ攻撃手段が増えたのだ、パールはこの機を逃さず攻勢へ転じる。
◇◆◇◆◇
2本目の松明が燃え尽きる頃、交代要員のペアが決まり阿吽の呼吸で入れ替われる様になってきた。アルミナ達にはまだ霊薬があるがサファイア達は既に使い切ってしまっている。今あるアイテムだけでこの難局を乗り切らなければならない。
「ねぇねぇアメちゃん、極太のビームって撃てないの? 両手にライフル持って大の字でグルグル回転するとか無理?」
MPを回復しながらサファイアはアメジストに問う。ドラグーンは武器の特性上、1対多は苦手とするシチュエーションだ。
「無茶言うなですヨ、そんな事やったらミーが廃人になるですヨ」
「仕方ないわね、アメちゃん、通用するか判らないけれどスラッグ弾を使ってみる?」
「確かに広範囲へ攻撃可能ですガ散弾ではなぁ! 威力が落ちるですヨ?」
通常の弾丸とは違いスラッグ弾は小さな弾が詰め込まれている弾丸だ。発射後に拡散するため命中率は高いが貫通力が犠牲になり殺傷能力は極めて低い。
「今まで使って無かったよね、どうして?」
サファイアは疑問を口にする。
「試しに競売所で落札してみたのだけど、あまりにも威力が低すぎて封印してた弾丸よ」
「そうなんだ? 散弾で倒せたら良いね」
パールの説明にサファイアはにっこりと笑顔を返す。こうしてアメジストはスラッグ弾を試す事となった。
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