第96話
「これで預かったハイエーテルは最後です」
そう言ってアイリスはMPを回復させる。アイリスの神鳴りもサファイアの極光並みにMPを消費する。短期決戦では無類の威力を発揮するが、今回の様な持久戦には不向きだ。
―ワイバーンはドレッドシュリークを実行―
「また!? 魔法範囲化、キュア!」
何度目かも分からなくなった攻防にサファイアはうんざりする。
―ワイバーンはディスペルウィングを実行―
「しつこーーい! エクスプロテクション!」
「ええ加減くたばれや。スピードブースト!」
サファイアとセリアのの強化。これも幾度となく繰り返された攻防だ。だがそれが油断を招いた。
―ワイバーンはドレッドシュリークを実行―
「うそっ!」
「サファイア、セリア逃げろ!」
ルビーが叫ぶが間に合わない。モロに麻痺を受けたサファイア達、回復しようにも自身の麻痺すら治せない状況だ。
ドレッドシュリークの麻痺は易々とスキルや魔法の発動を許さない。しかし耐性があれば話は別。
「フラワーフィールド!」
「麻痺が治った!? 魔法範囲化、キュア!」
サファイアの麻痺を治したのはパールのスキルだった。自身を中心に発動するスキルだが範囲が狭い為、コーポレーション全体には行き届かない。だがサファイアさえ復活すれば範囲化したキュアで全員を治せる。
「どうしてパールちゃん、麻痺してなかったの?」
サファイアは安全圏に下がりながらパールに問う。
「運良く麻痺を吸収出来たのよ。だからレジスト出来たの。でも2度目は無いと思ってちょうだい」
「うん、分かった。ありがとっ」
「それではこちらからもっ! サモン、雷の精霊。サンダーショック!」
ペリドットがワイバーンを麻痺させる。
「コイツ、麻痺技使うクセに自身も麻痺しやがるですヨ」
「盲点だったわね。強烈な麻痺スキルを使って来るから、麻痺しないと思い込んでいたわ」
「ともかくチャンスだよっ、技連携で一気に決めちゃお!」
レシルの言葉にサファイア、ペリドット、リザはすぐさまハイエーテルを使いマジックボーナスに備える。しかしアイリスは振り分けられたハイエーテルを使い切ってしまっている。
しかしこのままでは神鳴りを欠いたマジックボーナスをしなければならない。パールはこの状態を読めなかった事に歯噛みする。
―アイリスは霊薬を使った―
「へ?」
「え?」
「何で?」
「どうしてですカ?」
「霊薬は私とサファイアさんが…」
「謎」
「ほらほら、ぼーっとしてないで技連携するよっ!」
呆気にとられるジュエルボックスに対してレシル…いや、ユニークスターズは驚いた様子も無い。
ともかくMPは回復したのだ。ワイバーンが麻痺している今を逃す手は無い。
「ともかく全力で行くぜ、蛇咬双牙!」
ワイバーンに侵食・深淵が掛かったのを見てルビーは騙し討ちを乗せた蛇咬双牙を放つ!
「三段飛燕脚!」
シトリンの下段、中段、上段へ高速の蹴りが打ち込まれる!
「「「地獄の痛み!」」」
ペリドット、アルミナ、リザが息を合わせそれぞれの武器をワイバーンへ叩き付ける!
「公約を守らなかった罪により銃殺刑!」
うん、それは重罪だね。
「「円陣剣!」」
前後からレシルとパールが鋭く回転しワイバーンの鱗を切り裂く!
「これで止めだよー!「天罰降臨!」」
一気に間合いを詰めたサファイアとアイリスがワイバーンの頭部を砕く!
「極光!」
「火遁の術!」
「プリズムコンバージ!」
パールの手のひらから虹色の光が拡散し、空気中で幾度も屈折を繰り返しワイバーンの一点に集束するとビームの様に貫く。
「イフリート召喚、インフェルノバーン!」
「破魔降光!」
「マックスボルテージ!」
リザが手にする杖の先に魔方陣が現れ、そこから幾条もの雷光が宙を駆け抜けワイバーンを襲う。神鳴りにも匹敵する轟音が辺りを支配する。
「まだいけるよっ、手を緩めないで!」
レシルは味方を鼓舞しながらハードシェルなど高ヘイトのスキルを使いワイバーンの注意を牽く。
それぞれが最大火力でワイバーンを一気呵成に攻め立て追い詰めていく。アイリスの神鳴りが着弾しマジックボーナス光のエフェクトが消えるとそこにはワイバーンが横たわっていた。
「勝ったの?」
「これで終わりじゃなかったら打つ手無しですヨ」
「詰む」
「大丈夫っぽいね~」
レシルが近付き剣の先でワイバーンをつついてみる。ピクリともしないのを確認して剣を収める。
「きつかったー」
アルミナが大の字で床に転がる。ルビーは警戒を解かず周囲を見渡すが倒れていたワイバーンの体が消え、そこに宝箱が現れると、ふぅ…と大きなため息を吐いた。
「中身なんだろね?」
「これだけ苦労したんだもん、可愛い装備に違いないよ!」
レシルが興味津々に宝箱へ近付く。サファイアもそれに続き宝箱に手を伸ばす。が、ビクリと震えその手を引っ込める。
「サファイアさん、まだ罠が無いと決まった訳じゃ無いからね?」
笑顔だがパールの圧が凄い。ルビーが罠の有無を確認し安全と解ればサファイアは嬉々として宝箱を開けた。
「金ぴかだよ」
「金になりそうだな」
「呪われて無いでしょうね?」
「装備してみれば判るですヨ」
「ただの装飾品の可能性もありますね」
「使えそう」
「呪いなら私かアルミナさんで解けます」
「そそ、だから安心して呪われてよ」
「物騒にゃ事言ってるにゃ」
「ともかく売るか装備するか決めてよね」
「とりあえず調べてみようよ」
「呪いの専門家はアルミナさんじゃねぇ」
宝箱の中身は黄金に輝く手甲だった。3本の爪が伸びている事から武器だと推測出来る。が、問題は呪いが掛けられているか否かだ。
地下1階で起きた入手したらモンスターの大群に襲われる。そのパターンも考慮し部屋の出口を調べ閉じ込められる可能性が無い事を確認した。
ナックル系の武器を装備出来るのはシトリンだけなので全員が周囲を警戒する中、シトリンはそれを手にした。
「………、何とも無い」
「残念、呪いは無かったですカ」
「どうして残念がるのよ」
「アメジストの事だから「呪われた方が面白い」とか言うんだろ」
「当然ですヨ」
「アメちゃん、他人事だからって不幸を願うのは良くないわよ?」
パールの圧から逃げるアメジスト。
「なんか既視感」
「いつもの事だろ。それよりアイリスさんはどうして霊薬を持ってたんだ?」
ルビーがアイリスに疑問をぶつける。
「ジュピターさんがもしもの時の為にと私、アルミナさん、リザさんに持たしてくれていたのです」
「さすがユニークスターズね、財力が違うわ」
アイリスの言葉にパールは呆れる。実際、霊薬を言い値で買おうとするブルジョワだ。パールが呆れるのも無理は無い。
「ボスラッシュも終わりだよね、次の階段あると良いんだけどな~」
「次の階よりも休みたいよ」
「そうだな、ダンジョンの構造からして次はセーフティエリアのはずだ」
ウキウキと先の階を目指そうとするレシル。サファイアは疲労困憊だ。ルビーもサファイアの意見に乗って今は休憩を望んだ。
「ともかくこのままここへ留まってまたリポップしたモンスターに襲われるのだけは避けましょ」
アイリスの建設的な意見で皆が協力し広い室内を捜索した。結果から言うと階段もセーフティエリアもあった。言い換えよう、下り階段の途中にセーフティエリアがあったのだ。しかしセーフティエリアの中からはあるものが消えていた。
「パールちゃん、大変だよ。帰還用の魔方陣が無いよ」
「サファイアさん落ち着いて。とりあえず今はHPとMPを回復させましょ」
パールの言葉にサファイアは大人しくMPの回復に移る。
「しかしなんで帰還用の魔方陣が無いんだ?」
ルビーは休憩時間を利用して火遁の術の触媒を作りながら誰となく問う。
「この先がこのダンジョンの終着点の可能性が大きいですが…」
「それだとわざわざセーフティエリアを設ける意味が解らないのよね」
歯切れの悪いアイリスの言葉にパールが続く。アゴや頬に手を当てながら悩む2人。
「そんな危険は無いって事だろ。余裕じゃねぇか」
「ルビーちゃんがそう言う時ってほとんどフラグなんだよね~」
「立派に立てやがったですヨ」
「おいまて、そりゃどういう意味だよ」
「そのまんまじゃん?」
「ですヨ」
不満気なルビーにさらりと返すサファイアとアメジスト。
「それよりもこの先に進むかどうかを決める必要があるわ」
「そうですね、今は大体8の刻くらいでしょうか」
「地下6階を偵察してから決めるのはダメかな?」
「それだと退路を塞がれた場合、夜通し戦う可能性が出てきます」
パールとアイリスの会話にレシルが加わる、しかしペリドットの一言で議論は暗礁に乗り上げた。
「別に急いで攻略する必要も無いからもう一泊すれば良いじゃん」
サファイアの提案に否は無く、セーフティエリアで夜を明かす事になった。
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