第68話
「まずはクリアサウンドから回りましょうか」
「行った事があるからキューニィ任せでも行けるよな?」
「そうだね、1度でも行った事があるなら任せて大丈夫だよ。クリアサウンドまではアタイが先行しても良いかい?」
突然の申し出にパールは驚くがリズには考えがあっての事だろうと思いこれを飲んだ。
「それじゃ行こうか」
こうしてヒルマウンテンのキューニィ用門から10羽のキューニィが勢い良く飛び出して行った。
◇◆◇◆◇
「なあパール、どうしてリズの先行を許したんだ?」
殿のパールにルビーは疑問をぶつける。
「リザがああやって強引な手を取る時は何か考えがあるからよ。大方今回はニチナマへ行く体力を私達のキューニィに温存させておくつもりでしょうね」
「先の先まで考えての行動って訳だ」
「今日はレアモンスターの連戦だから体力温存出来るのはこっちに取って有難い事でしょ」
「そりゃそうだ」
それだけ言うとルビーは列へ戻って行った。
程無くして一行はクリアサウンドへ到着する。川辺の広場でバトルフィールドへの入口を確認すると作戦を練る為に車座になる。
「陸魚の注意点はデスロールのみ。他は恐いスキル何てないからさっさと片付けてしまおう」
「それじゃサファイアさんかシトリンさん、バトルフィールドへの入口を開けて貰えるかしら?」
ざっくりとしたリズの説明に拍子抜けするもサファイアがフィールドの入り口へ立つと、トライアルのフラグが承認されフィールドへ吸い込まれて行く。
「よし、行こうじゃないか」
漆黒の鎧に身を包んだリズがそれに続く。仲間達も同じようにフィールドへ吸い込まれて行った。
◇◆◇◆◇
「中は太陽の広場と変わらないんだね~」
全員が揃ったのを確認してからサファイアはハイプロテクションを掛ける。しかしリズはエクスプロテクトを自身へ掛け更に防御力をアップさせた。
「私が教皇だったら全員にエクスプロテクションが掛けられるのに~」
少し拗ね気味にそう言うが本気では無い。サファイアもまたリズの行動に信頼を置きそれに従っている。
「教皇じゃまだシューティングスターは使えないんだろ? だったらビショップで暴れてくれよ」
「っ! うん、判ったよ今日は目一杯殴り倒すね!」
サファイアの変なスイッチを入れてしまったかも知れないな、そう思いながら仲間から掛けられた強化を確認すると大盾を手にフィールド中心部へ歩き始める。陰陽師、踊り子、ビショップ、サマナーの手厚い強化で負ける気はしなかった。これは油断でも驕りでもなくこれ迄の経験がそう告げていた。
「さぁ行くよっ!」
そう言うとリズは駆け出し陸魚を挑発する。フィールドの中央で両者がぶつかり合い戦闘が始まった。
「エクス…じゃないや、侵食・深!」
「サモン、雷の精霊。サンダーショック!」
防御力ダウンと麻痺の弱体が陸魚に掛かる。
「ウチのステップについて来れますか~。幻惑の舞」
ルナがリズの背後で踊る。時には動きをシンクロさせ、時には対称に動き陸魚を撹乱する。
「天孫降臨!」
ブリーズが人形の紙を念を込めリズ目掛け投げる。音も無く張り付くや否や青白い光りを放ちリズのステータスをアップさせる。
「ほへ~、踊り子も陰陽師もすごいんだね!」
トライアルの時は全力を出していなかった様で、本気を出した2人の動きにサファイアは感心しきりだ。
「サファイア、見とれるのも良いがこっちもそろそろいくぞ」
そう言ってルビーは陸魚の背後に居るパールの背後へ回り込む。ややこしい。
「パール、背中借りるよ。蛇咬双牙!」
これを起点にジュエルボックスによる技連携が始まる。しかしこの時は少し様子が違った。
「ゴミ箱のビン・カンをビ・ン・カ・ン♡に書き換えた罪により銃殺刑!」
いったいいくつ罪状があるのやら…。そうではない、アメジストがマイルドファイアを撃った直後にソレは起こった。陸魚が技連携の最中にデスロールの溜めを作ったのだ。パールは円陣剣をキャンセルしてショックペインでデスロールを止めるか一瞬迷う。
「パール、構わず続けろ!」
「っ! 円陣剣!」
リズの声に体が反応した。そしてサファイアの天罰降臨と陸魚のデスロールが同時に発動する。
陸魚は溜めていた力を解放しリズへ噛みつく、そのまま体を回転させ肉を喰い千切ろうとする。サファイアは大上段からオーラを纏わせたシューティングスターを振り下ろしマジックボーナス光を発動させる。
「聖光!」
「フレイムブレス!」
「エアリアルバースト!」
光のエフェクトが消え、そこには陸魚がまだ元気な姿を見せていた。しかし問題はそれじゃない、問題なのはデスロールをモロに受けたリズだ。
………が、こちらも陸魚と同じように平然と立っていた。
「あ、あれ?」
「モロに受けてたよな?」
「いつの間に回復したのでしょうか?」
「耐えた?」
サファイア達が頭の上に「?」マークを浮かべている間にも戦闘は継続される。
「皆、呆けてないで次の連携に備えて」
パールの声で我に返ると慌てて自分の仕事へ戻る。その後、大きな崩れも無く余裕をもって陸魚の討伐は終わった。
「さて、次はニチナマだけど1度ヒルマウンテンへ戻って昼を食べてからにしようか」
「そうね、携帯食よりもお店で食べたいわね」
「ね、ね、それじゃ久しぶりにおよぶが良いな」
「お、良いな。今日は少し暑いし冷たいのが食べたかったんだ」
サファイアの提案にルビーも賛成する。反対意見も無く一行はヒルマウンテンへ戻って行った。
◇◆◇◆◇
「あーっ、何なんだよあのモンスターはっ」
ダンダンと地面を蹴り全身で怒りを露わにするルビー。これでローズオイスター戦3連敗である。
「防御力が高過ぎて生半可な攻撃は通用しないし、防御力アップのスキル使われるとほぼアウトね」
「小さなローズオイスターもバカに出来ないですよね」
「せっかくパールが寝かしてもすぐ起きてくるのも厄介ですヨ」
つまりこういう事だ。ローズオイスターのHPが50%を切ると防御力アップのスキルを使う。これは溜めが短い為、スタン技等での阻止が出来ない。同時に小さなローズオイスターを5匹召喚する。パールの範囲睡眠魔法で寝かす事は出来るが、起きるまでの時間は短くパールは小さなローズオイスター…面倒なのでこれからは子オイスターと呼ぼう…を寝かす事で手一杯になってしまいアタッカーが減ってしまうのだ。スキルを使ったローズオイスターの防御力は半端無く、シトリンやエールですらダメージが2桁に留まる。
「ヒルマウンテンへ戻って対策を立て直すのはどうでしょうか?」
「有効な手立てがあらへんからそれも致し方無しやな~」
「パール、どうする? アタイはまだまだ行けるがアタッカー編成を考えた方が良いのかも知れないよ」
「ここで一時退却は業腹だけど仕方ないわね」
何度チャレンジしても有効な対策が無い以上、悪戯に時間を浪費するのは避けたい。パールの決断は理にかなった事だ。
◇◆◇◆◇
「なんだいこのバカ騒ぎは」
再びヒルマウンテンへ戻った一行を迎えたのはお祭り騒ぎといった街の様子だった。怪訝な表情のリズを先頭に冒険者ギルドへ入るとその理由が明らかになった。
「お帰りなさい、ローズオイスターは討伐出来ましたか?」
ルイーダの言葉に誰も返す言葉を持っていなかった。
「それよりもルイーダさん、この騒ぎは一体…」
パールが機転を利かせお祭り騒ぎの理由を問うてみた。
「グリーンドラゴンが無事に討伐されました」
その言葉にギルド内はワッと沸く。皆、思い思いの酒を片手に飲んで食って大騒ぎだ。
「もうすぐ討伐隊が戻って来ますよ」
ルイーダはニコニコ顔で給仕の仕事をしている。
「私、討伐隊見てみたい!」
「ローズオイスター攻略のヒントを得られるかも知れませんね」
「この調子じゃ情報どころじゃないからしばらく様子を見ようかね」
ペリドットもリズもサファイアの意見に賛成し空いてる椅子へ腰を下ろした。
「あっれ~、サファイアちゃんだ」
「あ! アルミナちゃん! それにアイリスちゃんも」
「お久しぶりですね、ユリウス君のSPWS以来でしょうか」
隣の席に居たのはユニークスターズの面々だった。しかしギルドマスターであるジュピターの姿が見当たらない。
「ジュピターさんはもうすぐ戻って来ますよ」
キョロキョロと周囲を見るサファイアの視線を察し、アイリスが先に答えを用意する。
「ジュピターさん、どこか行ってるの?」
その声と同時にギルド内が大きく沸き立つ。ドラゴン討伐隊の凱旋である。
「ほらほら、あそこあそこ!」
アルミナは興奮気味に指差す。その先にジュピターが居た。しかしいつもと雰囲気が違っていた。
「さっきまで領主様へ報告してたんです」
「それでなんかゲッソリしてるんだね」
遠目から見ても討伐隊の面々は明らかに疲弊していて痛々しい。しかし大きな事を成し遂げた達成感からか、瞳には力強い光りが宿って居る。
「けどユニークスターズゆうたら、ヒルマウンテンでトップクラスのギルドやんか~。サファイアさんらってそないな所と交流あったん?」
「ほへ? アルミナちゃん達ってそんなにすごいの?」
「別に隠してた訳じゃないよ?」
「自分たちから言うモノでもありませんし…」
ルナが言うにはユニークスターズはヒルマウンテンでも指折りの実力者が揃っているらしい。ちなみに商隊はジュピターの趣味だそうな。そんなユニークスターズの全容は誰も知らず総数が30人とも40人とも言われている。
「へぇ、デカいギルドって思ってたけどそんなにとは想定外だよ」
さすがのルビーもこれには驚きを隠せない。等と話しているウチにジュピターは解放され仲間の下へやって来た。
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