第62話
翌日、7の刻半頃、サファイア達は中級職にジョブチェンジしてバリショーイゴラに居た。
「さ~て、やるよ~」
「待てよサファイア、先走るな」
「ルビーが言うと重い言葉ですヨ」
「あん? そりゃどういう意味だ」
「言葉通りですヨ」
「はいはい、あまり険悪な雰囲気にならないの」
今にも噛み付き引っ掻き合いの喧嘩を始めそうな2人にパールはショックペインを見舞う。
「ぎゃっ」
「ピギッ」
蛙が潰れた様な声を出しルビーとアメジストは動けなくなる。
「良い? 念のため確認しておくけれど…。今回はトライアルのウェポンスキルを500回撃つのが目的よ」
サファイアは珍しく真面目な表情でパールの説明を聞いている。一方、ルビーとアメジストはまだ痺れていてそれ所では無い。
「迅速に倒さないと逆にこちらがやられてしまうから気を付けて」
「でも私達までトライアル武器で良かったのですか?」
「2連携や3連携よりも6連携した方がポイントが稼げるから効率は良いのよ」
「じゃが早ぉ倒さんとこっちが危ない、と」
「そう言う事だね」
ようやくルビーとアメジストが痺れから回復したので早速1匹目を釣る。
「サファイアさん、侵食・深は入れないで」
「ほへ? 柔らかくならないけど良いの?」
「無しでやってみて行けそうならそのままやりましょ。キツいなら侵食・深をお願いするわ」
「ん、りょ~かい」
ふんす、と鼻息荒く金鎚を手にモンスターへ向かって行く。アメジストとペリドットの中後衛組もそれに続いた。
「サファイア、回復は忘れるなよ?」
ルビーが言う。それに対し無言で盾役へハイヒールを掛ける。可愛いモノとダメージ値が絡まなければ普段は有能なサファイアだ。
◇◆◇◆◇
「いっくよ~、天罰降臨!」
マジックボーナス光が発生しサファイア、パール、ペリドットの魔法がモンスターへ着弾する。モンスターが次の6連携に耐えられそうに無い場合は魔法を撃ち込み早々に決着させ、かれこれ数十回繰り返しているがまだまだ500ポイントには及ばない。
「ま~だ~?」
気だるそうにサファイアが不満を漏らす。
「何言ってるの、まだ半分も行ってないわよ」
ピシャリと言い返すパール。
「でも集中力が切れてきたみたいだし、少し休憩しましょうか」
「賛成、走り疲れたから助かるよ」
ひたすら同じ作業の繰り返しはまさに試練だ。いつもの様にパールがコーヒーを淹れ、シトリンのスイーツで気分転換する。
「今何回くらいですか?」
「72回ですヨ」
「やったね、もうすぐ半分じゃん」
「90回までやったらリースリビョーナクへ行って休みましょうか」
「ミツキには会いたくないなぁ…」
「ルビー、それフラグじゃけぇ」
軽口を叩きながら和気あいあいと休憩時間を過ごし、トライアルを再開する。とりあえずの終点がハッキリした事で気力も回復し、一気にこの日の目標回数をクリアした。
◇◆◇◆◇
「やっぱりリースリビョーナクは海産物が美味しいね~」
サファイアは自分の顔ほどもある丼飯を平らげる。色々小さな体の何処に入ってるのやら。しかし普段は少食気味のペリドットまで完食したのでトライアルがどれだけハードだったのか伺い知れる。
「なぁ、パール。ペリドットとシトリンのSPWSってどんなのだ?」
全員のお腹が満たされた所でルビーが問いかける。
「詳しい性能は知らないけれど、有罪判決と稲妻蹴りよ」
「有罪判決…物々しいですね」
「稲妻蹴りはカッコ良くて強そうだよねっ」
「でぇれぇ強そうじゃ」
サファイアとシトリンは稲妻蹴りを気に入った様だ。
「まったく、田舎冒険者はSPWSの性能も知らないですの?」
パールの背後からミツキが割って入る。
「げっ、出た」
「あら、何が出ましたの?」
「いや、なんでもないよ。それより何しに来たんだよ」
「わたくしがギルド内に居る事の何が不服ですの?」
ふん、と鼻を鳴らしルビーを一瞥するとパールとペリドットへ向き直り、
「よろしくて、有罪判決の威力は決して高くありませんの。ですが数%の確率で相手を即死させますわ」
「有罪が決まった瞬間に死刑執行なんてホントに物騒ね」
「修得するのが恐くなりました」
トンデモ性能にパールとペリドットは呆れる。
「そして稲妻蹴りは垂直に飛び上がり頂点に達した所で1回転、その後相手へ向かって落下速度に自重を乗せた蹴りを放つ技ですわ。ちなみに攻撃力の500%のダメージを与えますの」
「こっちもめちゃくちゃな性能だな」
「ぼっけえ痛そうじゃ」
やっぱりルビーとシトリンも呆れる。
「それでは、田舎冒険者は大都会リースリビョーナクの夜を満喫して下さいまし。おーほほほ…」
ミツキは高笑いを残して去って行く。
「なあ、ひょっとしてSPWSの性能を教えに来てくれたのか?」
「どう考えてもそうとしか考えられないでしょ」
「実は良い人?」
「胸が関わらなければそうなのかも、ですね」
本人に聞こえない様にテーブルへ身を乗り出してひそひそ話をする。
「トライアルのレアモンスター戦、状況次第では別ギルドか野良パーティに声を掛ける必要が出てくるですヨ」
これまで話の輪に入って来なかったアメジストが問い掛ける。
「それですよね、ユニークスターズの皆さんに協力を仰ぎたい所ですが、今皆さんが何処へいらっしゃるか分からないですし難しいでしょうね」
「その件についてはヒルマウンテンに戻ってからにしましょ。まだ500ポイント貯めて無いのに時期尚早だわ」
その時、4人組の冒険者が慌てた様子でギルドへ雪崩れ込んで来た。
「火急の知らせが有るんだ、ギルドマスターは何処だい?」
リーダーらしいヒト族の女性がミツキを探す。深淵を思わせる真っ黒な全身鎧を着込んでいる、おそらくランパートかフォートだろう。顔は褐色に日焼けして熟練の冒険者の風格を漂わせている。しかし突然の闖入者にギルド内はざわめく。
「わたくしが冒険者ギルドマスターのミツキですわ。貴女達、無礼を働いておいて覚悟は出来てますの?」
腕を組み、無い胸を張りながらヒト族の女性を威圧するミツキ。
「それについては謝罪するよ。けどそれ所じゃないんだ。ニューサイト周辺でドラゴンの目撃情報が多数上がっているんだ。今ニューサイトの街は特別警戒が発令されて誰も入れなくなった」
「何ですって!?」
ミツキの驚き声と共にギルド全体は騒然となる。
「ニューサイトの街はドラゴンに懸賞金を掛けたよ」
「ですがドラゴンだなんてそう易々と倒せる相手ではありません事よ? 最低でも上級職のレベル60以上のフルコーポレーションが2組以上で対処しなければ…」
ミツキは青ざめながら現状を整理していく。
「安心して下さい、ヒルマウンテンは既に4組のパーティをドラゴン討伐へ向かわせています」
「しかしそれでも冒険者の数が足りませんわ。犬死にさせるつもりですの?」
「今、ヒルマウンテンの領主様がグルックベルクのギルドへ冒険者の派遣を打診しています」
しかしそれでも冒険者が集まるかどうかは微妙だという。うつむきブツブツと何か呟いていたミツキはキッと顔を上げ叫ぶ。
「リースリビョーナクの勇敢な冒険者達、よくお聞きなさい! 聞いての通りヒルマウンテン領のニューサイトの街が窮地に陥っていますわ。我こそはと思わん者は立ち上がりなさい、特別報償金を用意致しますわ!」
凛としたギルドハウス全体へ響く声で協力者を募る。やがて数名の屈強な男達が立ち上がる。その一団をミツキはカウンターへ連れて行った。
「なあ、ヒルマウンテンの問題なんだろ? アタシ達も行かなくて良いのか?」
「私達が行った所で足手まといにしかならないわよ。今は彼らを信じましょ」
「なんだかもどかしいな。強ければ討伐部隊に参加出来るのに」
ルビーの意見はもっともだ。しかしレベルが足りない以上、討伐へ向かっても足を引っ張るのは火を見るよりも明らかだ。
緊迫した空気が流れる中、パールは4人組に向かい小さく手を振っている。それに気付いたヒト族の女性はこちらへやってきて、
「パールにアメジストじゃないか、久しぶりだね、元気してたか?」
どうやらパール達と顔見知りの様だ。
「こんな所で会えるなんて思っても見なかったわよ。2人とも元気そうだね」
「リズ達も、ね」
「ねぇパールちゃん、この人達は?」
「おっと、これは失礼したね。アタイはリズ、以前パールやアメジストと一緒に冒険してたモンだよ」
ヒト族の女性はそう言ってガントレットを外しサファイアに握手を求める。
「へぇ、ビショップなのにずいぶん武器を振り回してるみたいだね」
「ほへっ?!」
「リズは百戦錬磨の冒険者よ。サファイアの手に出来たらマメを見ればすぐにバレるわよ」
「ははは、百戦錬磨は言い過ぎだよ。お嬢ちゃんはサファイアって言うのか、以後よろしくな」
ぐしゃぐしゃと乱暴にサファイアの頭を撫でる。子供扱いされたサファイアは頬を膨らませる。
「私は子供じゃないもん! それにビショップじゃなくて教皇だよ!」
「リズはこう見えて50歳越えてるのだから、実際子供みたいなものよ」
「「「「ええーー!」」」」
サファイア達の驚き声がギルドハウスへ木霊した。
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