第57話
打ち合わせが終了しユリウスがフィールドの入り口へ立つ。トライアルのフラグが承認されフィールドへ吸い込まれて行く。
「よし、我々も行こうか」
ジュピターがそう言って金属鎧を鳴らしフィールドへ突入する。それに続きユニークスターズとジュエルボックスのメンバーも次々にフィールドへ。
「通路、っつても結構広いんだな」
「ね、闘技場の半分くらいはありそうだよ」
初めての光景にルビーとサファイアが呆れた様に呟く。
「さ、今のうちに強化しちゃいましょ」
サファイアに話し掛けたのはオートマタ族で神子のアイリスだ。メインヒーラーを担当するが1人ではとても回し切れないのでサブヒーラーにサファイアが充てられた。
とは言ってもサファイアが唱えられるハイプロテクションよりもアイリスのエクスプロテクションの方が効果が高く、スキルの違いばかりはどうにもならない。実質ハイヒールを配るだけの立場に甘んじるしかない。
「炎の海より生まれし王よ、我が声に応え今その姿を現し世に!」
ペリドットがイフリートを呼び出しコーポレーション全員へ業火の鎧フレイムスパイクを付与する。パールもシェルと魚鱗を範囲化して全員へ掛ける。
食事はお馴染みのユキヒョウのシチューとドラゴンリザードの照り焼きだ。ウォークサボテンの回避はあまり高くないと言う事で命中率が上がる魚料理ではなく攻撃力の上がる肉料理になったのだ。
仲間の強化が終わりジュピターを先頭にサファイア達は通路を進む。程なくして円形の広場へ到着する。
「あれがウォークサボテン?」
「サボテンって言うより埴輪みたいだな」
「ああ見えてもレアモンスターだから強さは侮れないからね、気を付けて」
ジュピターに言われサファイアとルビーは気を引き締める。他のメンバーは既に抜刀し準備万端だ。
「それじゃ行くよっ」
その声を合図にコーポレーションは広場へ雪崩れ込む。
「僕から目を逸らすなんてイケナイね」
開幕でジュズマルがウォークサボテンを挑発する。すかさずジュピターがウォークサボテンを挟み込む様に背後へ回り込む。更にその背後からルビーが不意打ちと騙し打ちを乗せた強烈な一撃をウォークサボテンに見舞う。
「お前の相手は私だ!」
ここでジュピターはウォークサボテンを挑発する。それに続けて閃光を唱えた。苛烈な光に視界を奪われたウォークサボテンはジュピターへの憎しみヘイトを募らせる。
「>♯Дゐ:+ヴ〒‡∞∩ЛЕ!」
どこから発しているのか判らない奇声を上げながらウォークサボテンはジュピターばかりを攻撃する。お陰でアタッカーは全力で攻撃出来るというもの。
「侵食・深淵」
侵食系最高位の深淵がウォークサボテンを侵す。ほぼ全身を爛れさせながらも未だにジュピターを狙い続けている。
シャチョウが気にしていた太陽の位置は頭の真上、つまり今は正午…タイミングとしては1番良くないタイミングだ。
「ダンナ、あまり遊んどるヒマ無さそうやで」
ガリウムが忠告する。
「ああ、そのようだ。皆、そろそろ針万本に備えてくれ」
その言葉にコーポレーションへ緊張が走る。後衛はモンスターへにじり寄り、中衛は改めて自分の立ち位置を確認する。
「来るよ!」
短く発したのはジュズマルだ。ウォークサボテンの作った溜めを見逃さず周囲へ知らせると共にシールドバッシュで動きを止めに入る。しかしスキルは実行されてしまい………、ウォークサボテンを柔らかな陽光が包む。日光浴をするウォークサボテンはなんという長閑な光景か。思わず皆がほっこりしてしまう。
が、それだけでは終わらなかった。続けて針万本の溜めを作ったのだ。気が抜けていたメンバーはスタン系の技を放つも間に合わずモロに合計10,000のダメージを受けてしまった。
「ハイヒーリング!」
「エクスヒーリング!」
慌てたのはメディック系ヒーラーの2人だ。針万本を連発されない限りは崩れはしない構成だが何が起こるか解らないのがレアモンスター戦だ。迅速に範囲回復魔法を詠唱しメンバーのHPを回復させる。
「お返しにゃ! 乱れ雪月花!」
侍のSPWS、乱れ雪月花。流れる様な切っ先は時に雪、時に月、時に花を彷彿させる、にゃ。
「うおおお、ハヤブサ斬り!」
狂戦士化のスキルを乗せ瞬速の一撃を見舞うユリウス。
「コイツで…マジックボーナス分解、ですヨ」
アメジストがマイルドファイアを撃ち込み風と雷のマジックボーナスを付与する。
「ショックペイン・穿!」
「エリアルバースト!」
「雷光!」
「神鳴り!」
リザの雷光が雷球でウォークサボテンを包み込ち、アイリスの神鳴りは天空より極大の雷をウォークサボテンへ落とす。
「すげ…姐さん詠唱のクソ長い神鳴りをドンピシャのタイミングで決めたで…」
「先読みしてないと絶対に無理だよね」
まだバチバチと放電しているウォークサボテンを見ながらガリウムとジュズマルは息を飲む。しかし当の本人は涼しい顔をして味方の傷を癒している。
「ほなワイらも負けてられへんな」
「決める…」
アイコンタクトでガリウムとシトリンが息を合わせる。
「「登竜拳!」」
ウォークサボテンは左右から計6回のアッパーカットを受けて宙に浮く。
「いっくよー、鋼鉄粉砕!」
サファイアが渾身の力でウォークサボテンを地面へ叩き付ける。
「魔力の一撃!」
リザが杖にMPマジックパワーを乗せフルスイングでウォークサボテンを打ち据える。
「円陣剣!」
剣ごとパールが横に1回転し周囲の砂を巻き上げる。
「ファイナルレター!」
シャチョウが細身の刀身を活かしてしなりを作り、Z字に切り裂く。ハヤブサ斬りに次ぐ剣速のスキルだ。
「「ペンタスラッシュ!」」
ウォークサボテンの前後から片手剣のSPWSが撃ち込まれ魔力の力場フィールドが発生する。
「マジックボーナス闇ですヨ!」
MBマジックボーナス闇は闇、土、水、氷の属性を持つ。
「暗黒の視線」
「重力波」
パールの瞳からビームが撃たれ、ペリドットの重力波がモンスターを押し潰す。だが今回はこれだけじゃない。
「大地騒乱!」
「金環食!」
「暴風雪!」
アルミナの大地騒乱は足元へ地割れを作りその中から幾数もの石柱がモンスターを打ち上げる。アイリスの金環食は太陽を隠し闇色の光線でモンスターを焼く。そしてリザの暴風雪は植物系モンスターの弱点を突いた氷系魔法だ。
しかし驚いたのはユニークスターズの練度の高さだ。シトリン&ガリウムで始まった技連携、本来なら3連携で止める所をパールのアドリブに対して6連携に仕上げ、きっちりマジックボーナスまで決めてきた事だ。
「よっしゃ大ダメージだぜ」
ルビーが声を上げる。しかし大ダメージは別の側面も持ち合わせている。それはヘイトのふらつきだ。連携倍率の高い止めを盾役の2人が務めたが、連携後半に参加しマジックボーナスでもダメージを与えたパールに対してウォークサボテンは針千本を撃った。きっちり1,000ダメージを受け瀕死のパールにウォークサボテンは止めの針万本を撃とうとしている。
パールだけでは無い、他のメンバーも受ければかなり危険な状態になってしまうだろう。
「サファイアさん、癒しの鉄槌をお願い!」
「分かった、いっくよー」
サファイアは慌ててシューティングスターを掲げ癒しの鉄槌を実行する。ロッドの先端から緑色の光が溢れ仲間を癒していく。
「ショックペイン!」
「「シールドバッシュ!」」
「「猫騙し!」」
重複しても意味の無いスタン系の技を一斉に撃ったお陰で針万本は止められた。
「「ハイヒーリング」」
「癒しの風」
サファイアとアイリスの範囲回復魔法で体勢を調える。それでも回復しきらないメンバーへペリドットの癒しの風が吹いた。
ウォークサボテンのHPは残り1割弱、アイコンタクトで全員がマジックボーナ狙うので一致した。侵食・深淵が再び掛けられウォークサボテンの表皮を爛れさせる。
「ジュピターさん、背中借りるよっ」
既に言わずとも伝わっているがタイミングの問題で知らせる事に成っている。それを聞いたジュズマルはウォークサボテンを挑発しヘイトを引き付ける。
「いくよっ、不意騙の…蛇咬双牙っ」
「三段回し…」
「ダメだっ、針万本来る!」
シャチョウが叫んだ。技連携とマジックボーナスに備えていたコーポレーションは針万本を受け窮地に追い込まれる。しかし今回は運悪く針万本の溜めがもう一度実行された。
「サファイアさん逃げてっ」
悲鳴の様にアイリスが叫ぶ。2発目を受ける余裕HPは後衛には無い。幾人かはスタン系のスキルで止めに入るが最悪の事態に陥る。
ルビー、ユリウス、ガリウム、シャチョウ、ローラが倒れ、残ったパール、ペリドット、シトリン、アルミナ、ジュピター、ジュズマルも満身創痍だ。ギリギリで針万本の範囲外に逃げたサファイア、アメジスト、アイリス、リザも瀕死と言って良い。恐れていた最悪の事態に陥ってしまった。
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