第54話
運が絡むクエストと言うのは面白いもので熟練の猛者が集まってもクリア出来なかったり、初挑戦であっさりクリアしたりと中々多様な展開を見せる。
さて、今回のジュエルボックスは1度クエストを中断し競売所で大枚をはたきエーテルを幾つか落札した。実際は自分達で作るのが1番安上がりなのだが、緊急時故に購入する事にした。
「本当に残りは私が使っても良いの?」
話し合いの結果、パールとペリドットが2個ずつ、残りはサファイアが持つ事になった。
「サファイアさんが回復の要ですから」
「そうよ、サファイアさんのMPが尽きればパーティは瓦解、クエストは失敗に終わるもの」
「分かった、大事に使わせて貰うね」
「がぶ飲みしろとは言わないが、あまり大事にし過ぎて肝心な時にMP切れとか止めてくれよ?」
ルビーがちゃちゃを入れる。アメジストも何か言いたそうにしていたがグッと堪え突入を提案する。
強化は最初から全掛けでハイプロテクション、シェル(範囲化)、魚鱗(範囲化)、水流の癒しを掛けて突入した。
「さ~今度こそやっつけてやる!」
と意気込んでるのはルビーだ。他のメンバーはこの1戦でどれだけエーテルを消費するかを測りたい気持ちが見え隠れしている。
フィールドへ突入後、いきなりルビーがジャイアントアリジゴクを引き当てる。
「ぃよっしゃあ、幸先良いぜ」
「ルビーさん慌てないでウェポンスキルを撃つのは侵食・深が入ってからよ」
「解ってる、そう何度も同じ轍は踏まないさ」
ジャイアントアリジゴクに侵食・深が入ったのを確認し蛇咬双牙を繰り出す。スリップ性の毒に蝕まれ少しずつジャイアントアリジゴクのHPが削られていく。
「鈍い痛み!」
ペリドットの杖の最も硬く太い場所でモンスターの外殻が薄い場所を痛打するえげつない技だ。さらにスタン、窒息、ペイン、脳震盪等のデバフをランダムで付与出来る。
「ラスト任せるですヨ! 燃えるゴミの日に空き缶出した罪により銃殺刑!」
アメジストが放った銃弾は大気中の火の精霊の力を集め一気に赤熱化してモンスターの外殻を穿つ。体内へ吸い込まれた弾丸は一瞬の間をおいて一気に燃え上がる。
「マジックボーナス灼熱! 光と炎ですヨ」
「イフリート、召喚! ターゲットジャイアントアリジゴク、全力攻撃!」
いきなりペリドットは炎の王を召喚し、周囲のド肝を抜いた。燃え盛るマッチョはフレイムパンチやフレイムキックといった魔法を次々とジャイアントアリジゴクに見舞う。
「なら私もっ、フレイムブレス!」
なんとエルフ族の端正で見目麗しい顔…口から超高熱の火炎が吐き出されたではないか。流石にこれには隣に居たルビーも吃驚だ。
「いっくよ~、聖光!」
ビショップの数少ない攻撃魔法。モンスターへ向けてかざした手のひらの先に描かれた魔方陣から放たれた光がモンスターを貫く。
「よっし、3割終わりっ」
弱体から息の合った技連携、そしてマジックボーナスでオーバーキル気味にジャイアントアリジゴクを撤退へ追い込む。
「次、さっさと探すですヨ」
「サファイアさん、シトリンさん、開幕で技連携いくわよ」
パールがまだウェポンスキルを撃っていない2人に声を掛ける。
「わかったよ」
「了解」
2人は短く返しジャイアントアリジゴクの捜索を続ける。
「@ですヨ」
アメジストが短く発する。引き当てた時に周囲へ知らせるサインだ。ちなみにルビーは忘れていた模様。即座にサファイア、パール、シトリンがジャイアントアリジゴクを取り囲む。
「登竜拳!」
全身をフルに使ったアッパーカットを回転しながら3連続でモンスターに見舞う。
「ペンタスラッシュ!」
パールはシトリンの気へ自分の気を重ねる。
「いっくよー! 天罰降臨!」
シューティングスターがオーラを纏い巨大な鎚に変化するとそのままモンスターを叩き潰す。
「マジックボーナス重力、土と闇属性ですヨ」
「暗黒の視線」
カッと見開かれたパールの瞳が黒く光り目からビームが放たれた! その様を見たルビーは「魔技師って恐ぇえ…」と漏らしている。
「重力波」
ジャイアントアリジゴクを中心に超重力の力場が発生する。強固な外殻にバキバキと音を立ててヒビが入る。
「どっちも無いよ~」
土属性も闇属性も無いサファイアは取り敢えずシューティングスターでどつく。それが効いたのかジャイアントアリジゴクは再び地中へ逃げた。
「これで半分よ。時間には余裕はあるけれどまだ終わりじゃないからね」
「分かってるよ、ここからが本番、だろ?」
注意を促すパールにルビーが応える。
「次、探す」
シトリンが駆け出しそれにルビーとパールが続く。3人が通らなかった場所をサファイア、アメジスト、ペリドットが通り隙間を開けずに隈無く探す。
「@」
次に引き当てたのはサファイアだ。地中から襲い来る大顎に体の大小は関係無く見事に挟まれた。
「むきー、はーなーせーーー!」
短い手足をバタバタさせ何とか逃れる。お返しとばかりに侵食・深を見舞う。光の粒子が収束しジャイアントアリジゴクの外殻を爛れさせる。そこへアメジストの放ったアダマンブレットが命中する。
「後は任せなっ」
駆け付けたルビーがジャイアントアリジゴクの背後から不意打ちする。高威力の攻撃で後衛に向いたターゲットを奪う。
「魔法増幅、キャノンファイア!」
パールがスキルで威力を上げた魔法を放つ。こうなるとジャイアントアリジゴクは高ダメージを与えたルビーかパールを狙い、中後衛は安全にサポートに専念出来る。
「チョロチョロと動き回って鬱陶しいですヨ!」
装弾数が単発式のスナイドル銃は高火力だが装弾数が1発しかない訳で連射が効かない。
技連携とマジックボーナスを駆使して残り3割まで削る。
ここで魔法を使うサファイア、パール、ペリドットは1個目のエーテルを飲む。マナドリンクと違い瞬時にMPが回復するので休憩の時間が短縮出来る。理想的なタイミングでの補給だ。
「みんな、聞いて欲しいのだけど…」
そう前置きしてからパールは続ける。
「次は残り1割になるまでウェポンスキルは撃たないで欲しいの」
「おいおい、ここからキツくなるのに攻撃の手を緩めるのか? それじゃ勝てるものも勝てなくなるぜ?」
「ルビーの言う事は最もですヨ、パールは諦めるですカ?」
「最後まで聞いて。残り1割を切った時が1番攻撃がキツいし事故の確率も高いの。だから最後は一気に勝負を仕掛けたいの」
「最大火力で押し切る?」
「確かに残り1割の第5形態でラッシュを掛ければ行けそうです。でも失敗に終わった時は…多分全滅しますよ?」
「でもやってみる価値はあるじゃん、面白そうだからやってみようよ」
慎重なペリドットと乗り気なサファイア。対照的な2人の意見だが、第4形態は耐えて押し切る作戦が取られた。
「相変わらず硬ってぇな!」
再び当たりを引いたルビーは真っ先に攻撃へ移る。手数で勝負するシーフは1撃が軽い、数回に1、2回は相手の外殻に弾かれてダメージを与えられない事がある。同じ轍は踏まないんじゃ無かったのか?
「ルビーちゃん、侵食・深を入れるまで待ってってば!」
「毎度毎度学習しないですネ」
「わかったからさっさと入れてくれ」
「も~せっかちさんなんだから…侵食・深!」
「それではこちらも。イフリート、炎の咆哮!」
イフリートが閧の声を上げ味方を鼓舞する。
「なんか体の中が熱い…これなら行けるっ」
閧の声にはSTR上昇の効果がありルビーでも確実にダメージを与えられる様になった。
「射撃に対してはさしたる効果が無いですヨ」
弾丸を再装填しながらアメジストは愚痴る。
「しかしこれならどうですカ? 狙い撃ち、プラス乱れ撃ち!」
狙い撃ちのスキルはその名の通り命中率を大幅に上げる。そして乱れ撃ちは目にも止まらぬ速さで5連射を行うスキルだ。アダマンブレットを5発も撃ち込まれジャイアントアリジゴクはアメジストへターゲットを変更しくるりと方向を変えた。
「させない、ショックペイン!」
すかさずパールがスタンさせ行動を阻害する。
「パール、ヘイト乗せるぞ」
ルビーがパールの背後から騙し打ちをジャイアントアリジゴクへ入れる。パールの背後…モンスターにとっては死角からの一撃に、あたかもパールからの攻撃と錯覚したモンスターはヘイトを募らせる。
「へへ、成功成功♪」
何とか防御力の低いスナイパーからターゲットをパールへ戻しさらに大ダメージを与える事に成功した。
「1割まであと少しだからもうちょっとヘイト稼いでー」
サファイアからの声に前衛が弾かれた様に行動を起こした。
「不意打ち!」
モンスターの背後から強烈な一撃を与えるシーフ最大のスキルだ。
「ピット・アンブッシュ!」
パールの声と共に地面に空いた穴から昆虫の様な大顎が飛び出してモンスターへ齧り付く。アリジゴク系モンスターが使うスキルをお返しとばかりに放つ。
「キエェーッ!」
裂帛の気合と共にシトリンの正拳突きがモンスターのアゴへクリーンヒットする。脳を揺さぶられたモンスターはくらくらとよろめき膝をつく。
「チャーンス! サファイアちゃんのっ…1撃ーっ!」
この時を待っていたかの様にブンブンとシューティングスターを振り回し、モンスターの脳天目掛けて振り下ろすとメキョッ…と痛そうな音が響いた。仲間がスキルで援護してくれたから成せた技だ。モンスターはたまった物ではなくそそくさと地中へ逃げ込む。
「残り時間もあるし良い具合だな」
「そうね、ここまでは恐い位に予定通り事が進んでいるわ」
「だったら最後は6連携とマジックボーナス光を狙ってみるのはどうですカ?」
「6連携とか出来るのか?」
「後半に行く程タイミングはシビアになるけれど可能よ」
「マジックボーナス光って光属性だけなの?」
「違うですヨ。エフェクトが光で属性は光火風雷の4属性になるですヨ」
「マジックボーナスの受け付け時間が長いから詠唱の短い魔法なら2回撃てるわ」
「すごいよ、これは何が何でもやらないと、だね!」
食い気味のサファイア。特に反対意見も出なかったので打ち合わせへと進んだ。
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