第51話
プチーツァブラーチ国の街の人々はエルフ族とリリパット族が大半を占めている。生活に不便は無いのだろうか? しかし冒険者ギルドはヒルマウンテン同様に多種族で運営されている。マスターがヒト族なのもそれを如実に表している。
「いらっしゃいませ~、リ~スリビョ~ナク冒険者ギルドへようこそ~」
コボルト族の受付嬢がほんわかとした空気で出迎えてくれる。名前をツムギと名乗った。
「あ~、ジュエルボックスの~皆さんですね~。はて~、マスタ~がお迎えに~行ってたはずですが~…。ああ~、なるほど~いつもの~発作ですね~」
このツムギ、めちゃくちゃ喋るのが遅い…。思わずセレクトボタンを押したくなる。サファイア達を見て何かを察したのか、ギルドマスターが不在の意味を理解した様だ。
「厩舎で暴れてたよ?」
サファイアがさらりと言う。
「マスタ~は~、お乳の~大きな人を~見ると~憤死しそうに~なるんです~。自分が~乏し…慎ましいから~、コンプレックスの~表れかと~思います~」
乏しいと言い掛けて訂正したね。
「ルビーとパールとペリドットは顔を合わせない方が良さそうですヨ」
「でもでもツムギちゃんも大きいよ?」
「そうなんですよ~、いつも私に対して~傲慢で~高飛車な~態度で~命令するんですよ~」
間違いなく個人的逆怨みで立派なパワハラ案件である。
「傲慢で高飛車って、誰に対してもじゃ無いのか?」
「この中で条件に当てはまらないのはサファイアくらいですヨ」
「どうせ私はぺたんこですよーっ」
ふん! とむくれるサファイア。
「でも~マスタ~は~、格下相手には~高圧的な~態度になります~」
「性格終わってるじゃない」
「大変ですね」
少々の事では動じないパールやペリドットも唖然とする。なぜそんな人格破綻者がギルドマスターを務めているのやら…。
「あんなのでも~一応は~優しいですから~。それでは~レンタルハウスへ~案内しますね~」
あんなのとか言われている。ミツキは部下に恵まれないタイプなのか? しかし何の前触れも無く執務へ戻るツムギ。めちゃくちゃマイペースだ。
「あ…お、お願いするわね」
パールもそう言うのがやっとだ。ヒルマウンテンでもした様に扉の中央へ手をかざし意識を集中させる。程なくしてロックが外れる音がすると移動完了である。
「それでは~私は~ここで失礼して~ギルドへ~戻りますので~」
ペコリと一礼してギルドへ戻るツムギ。サファイア達は長距離移動の疲れを癒す為に大浴場へと向かった。
ヒルマウンテンよりも街の規模は小さいものの、さすがの温泉町、大浴場はヒルマウンテンにひけを取らなかった。
「なんだかヌルヌルしてる?」
「塩化物泉だからよ。成分としては海水に近いから飲むとしょっぱいわよ」
「へぇ~、パールちゃん物知りだね」
「魔技師のレベリングで滞在してたから、このくらいの知識はあるわ」
「因みに美肌効果もあるですヨ」
「オートマタ族にも効果あるのか?」
「人工皮膚が補修されるのでお肌っゃっゃですヨ」
どや顔で胸を張りながら自慢気に話すアメジスト。無駄に凄い機能だ。
充分に温まれば次はお腹が減ってくる。サファイア達は冒険者ギルドに併設されているパブで夕食を摂る事にした。ヒルマウンテンとはメニューが大きく違いこちらは海産物を扱った料理が多く、パールの奨めで全員が海鮮丼を注文した。
「すごいよ、魚が丼からはみ出してる!」
「ボリューム感がハンパ無いな」
「そうでしょう? コスパは最高よ」
運ばれて来た海鮮丼は地元で獲れた魚を中心に海老やウニ、タコやイカ等がこれでもかと盛られていた。
「漁港がすぐ近くにあるからこそのお料理ですね」
「美味美味」
全員が海の幸に舌鼓を打ち、満足した所でレンタルハウスへ戻った。翌日の予定と狩りの手順を確認して全員が早々に眠りに落ちていった。
翌朝、早く目が覚めたサファイアは独りキューニィ厩舎へ来ていた。
「イザヨイー」
名前を呼ぶと青いキューニィがサファイアの下へ駆けて来る。環境が変わりストレスを感じてないか不安だったが杞憂に終わった。
「その子が貴女のキューニィ?」
ケットシー族の女性がサファイアに話し掛けて来た。
「全身青色なんて珍しいね、私がエサを与えようとしても全然食べてくれなくて困ってたんだ」
「イザヨイ、またエサ食べてないの? しっかり食べないとダメだよ」
「いや、他人から与えられたエサを食べないのは飼い主との絆が深い証拠なんだよ」
「ほへ? そうなんだ?」
「イザヨイって良い名前だね」
厩舎の職員はユイと名乗った。通常、焦げ茶色の羽毛がほとんどのキューニィだが、前日に青、赤、白、紫、緑、黄といった派手な一行が到着し厩舎内はちょっとした騒動になっていた。
「ふぅん、この子とそんな事があったんだ」
ユイはイザヨイにエサを与えるサファイアから馴れ初めを聞いていた。
「もう人に危害を加える事も無くなったし今はとても良い子だよ」
自慢気に話すサファイアをユイは眩しそうに見詰めていた。そしてイザヨイの自慢話はサファイアのお腹が鳴るまで続いた。
◇◆◇◆◇
朝食を摂り競売所で必要なアイテムを買うと一行は再びバリショーイゴラへ向かった。ヂェーニポーリェ川を南下し途中から裾野を駆け上がり3合目を目指す。前日キャンプを張った場所には先客が居たので新たな候補地を探し4合目まで登った。
「この辺りなら大丈夫そうだ」
そう言ってルビーはクレナイから降りる。残るメンバーもキューニィかれ降りて思い思いに体を解す。
「ルビーさんとシトリンさんはドラゴンリザードの照り焼きを食べて下さいね。私は引き続きユキヒョウのシチューにするわ」
【ドラゴンリザードの照り焼き】
HP+20
STR+17%
DEX+11%
攻撃力+15%
「私も照り焼き食べたい!」
「お前は後衛だろっ!」
いつもの様にサファイアの後頭部をハリセンが打ち据える。後衛職の食事についてはまた後日。
「さて、やるぞ」
そう言い残してルビーは1匹目を釣りに出た。
「今日は頑張ってレベル37か38まで上げたいですヨ」
「そんなに上げられるの?」
「後半稼ぎが良くなるからいけると思うの。そろそろ来るわよ、構えて」
こっちへ向かって走って来るルビーとその後ろに続くジャイアントアリジゴクを見てパールは剣を抜く。挑発しモンスターのターゲットをルビーから引き剥がし自身へ向けさせると盾の“面”で殴り付けた。
モンスターのヘイトをパールが充分に稼いだのを確認してサファイアは侵食・深を、アメジストはブラインドⅡとパラライズⅡを掛ける。ペリドットが前衛に水流の癒しを掛けサファイアの負担を減らす。
「新しいメシは良いな、ガシガシ削れるよ」
「気持ち良い」
ドラゴンリザードの照り焼きを食べた2人から称賛の声が上がる。
「あまり削り過ぎるとヘイトが行っちゃうから気を付けてね」
再びモンスターを挑発しながらパールが注意を促す。順調にモンスターのHPを減らして残り2割程になった時だ。ジャイアントアリジゴクは突如地中へと潜って行った。
「しまったですヨ」
「何だ、何がおきたんだ?」
突然の出来事にルビーは狼狽える。
「逃げられたわ。近くに潜伏してるけれどサーチにはしばらく引っ掛からないの」
「逃げだすなんて金属の嵩雷矛みたいだね」
「じゃあ殴り損って訳か?」
「近くを通るとHPが減った状態で再び襲って来るけどこればかりは運ね」
やれやれと言った風に肩をすくめるパール。
「ところでサファイア、強化を忘れて無いですカ?」
「あ…てへ☆ すぐ掛けるね」
サファイアがハイプロテクションを掛けようとパーティの中心へ移動すると、地中からジャイアントアリジゴクが飛び出しサファイアに噛み付いた。
「逃がさないっ!」
すかさずパールがシールドバッシュ・角…カイトシールド(ホームベース型をしている盾の下端、つまり1番鋭利な部分)でモンスターを殴り付ける。大ダメージを与えつつスタンに陥れるスキルだ、これは痛い。
「私も痛いよっ」
サファイアがモンスターに襲われるのはいつもの事だから諦めろ。
「ぶー、覚えてなさいよ。ハイプロテクション!」
文句を言いながら自分の役割を果たすサファイア。防御の光が仲間を包む。
「また逃げます!」
気配を察知したペリドットが地獄の痛みで動きを止める。
「往生際が悪いんだよ!蛇咬双牙」
素早くモンスターを短剣で2度突き刺し、その際に練った気を流し込み毒の様に相手を蝕むスキルだ。
「三段飛燕脚!」
ローキックからミドルへの後ろ回し蹴りへ繋げて着地と共にハイキックを見舞う格闘家最大の奥義をシトリンが放つ。
「ペンタスラッシュ」
刃に紫電を纏わせて超高速で五芒星を描く様に相手を切り裂く。最速の剣技は相手に斬られた事を感知させない。
「炎ですヨ!」
アメジストがマジックボーナスの属性を叫ぶ。前衛は巻き添えを避ける為にバックステップでその場から退く。
「バーニングレイン!」
針の様な灼熱の炎が広範囲に降り注ぎ逃げ場を与えない。モンスターの外殻を貫き内部から焼き尽くす。
「火焔竜!」
モンスターは足元から巻き起こる炎の竜巻に丸呑みされ巨大な火柱と化す。
「いっくよー! 地獄の鉄槌!」
炎が収まるや否や走り込んだサファイアがトドメの1撃を放つ。炎に焼かれグズグズになった外殻はいとも簡単に砕けモンスターは絶命した。
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