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蒼と紅  作者: 久村悠輝
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第46話

 明けて翌日、ペリドットとシトリンは仕立て屋に来ていた。ルイーダから借りた防具を調整する為だ。


 「ほへ~、仕立て屋さんってこんな感じなんだ~」


 そして何故かサファイアまで付いて来ている。新品の鎧やローブは防具屋が取り扱っているため、仕立て屋は主に冒険者の防具を修繕する事がメインだ。そう言う事から中古品も扱っていて、実物を見て買えるので競売所よりもこちらを選択する冒険者は多い。


「あの、どうしてサファイアさんがこっちに居るんです?」

「え? だってどんな風に調整されるか気になるじゃん」

「ダメだから」


 シトリンはペリドットの腕に抱き付きサファイアが触れる事を許さないらしい。意外と独占欲が強いようだ。


「おはようございます、防具の仕立て直しでしょうか?」


 熟年の女性店員がペリドットに話し掛けてきた。


「あ…、はい。このローブを着れるようにして欲しくて…」

「はい、承知致しました。ではこちらへどうぞ」


 そう言って店員の女性はペリドットを奥のフィッティングルームへ案内する。


「どうして」

「あのお姉さんが何でペリドットちゃんの仕立て直しって分かったのか?」

「ん」

「だって私達はアジャスト機能で問題無いじゃん? 他にもペリドットちゃんと同じ目的で来る人が多いんじゃないかな?」

「納得した」


 程なくして顔を上気させたペリドットが戻って来た。


「すごい上手だった…」


 蕩けた表情でそう呟いたペリドットに、何が? とはサファイアもシトリンも聞けなかった。いや、聞くのが怖かった。


「あ、四半刻程で出来るそうよ」


 ハッと我に返るペリドット。


「それじゃお店の中を見て時間潰そうよ」


 そう言うとサファイアは2人の返事も聞かずローブ(後衛職)のコーナーへ駆ける様に向かった。


「サファイア、危ない」

「走ると転ぶわよ」


 2人ともサファイアを子供扱いである。仕方なく後を追い、時間いっぱいサファイアのウインドウショッピングに付き合った。

 仕立て直しが出来たので再びフィッティングルームへ入るペリドット。防具を装着してカーテンを開けるとサファイアとシトリンが思わず「おお」と感嘆の声をあげた。

 ペリドットはくるりと1回転したり軽くジャンプして問題無いかを確認した。何故かサファイアとシトリンは涙を流しペリドットへ向け親指を立てていた。


「問題無さそうだからこのまま支払いしてくるわ」


 ペリドットは少しもじもじしながら2人にそう告げてレジへ向かった。本当に何があったのか。

 一方競売組は…。


「アルミラージの指輪が丁度在庫切れですヨ」

「防御力が上がるだけでも一定の需要はあるから。でもあまり吹っ掛けるのは危ないからこれは程々にしましょ」

「なんで危ないんだ?」

「落札の日時を見て、間があるのに値段が一定でしょ?」


 パールが落札記録簿を指差しルビーに説明する。落札日は2週間から1ヶ月程度開いて落札されている。

「…ひょっとして吹っ掛けても誰も落札しないから結局前と同じくらいの額で出品するしか無いのか?」


 少し考えてからルビーは答える。


「正解、だからこのアルミラージの指輪は下手に吹っ掛け無いのがベターよ」

「ワイバーン関連は落札額が上がってきてるですヨ」

「本当ね、でももう少し待ちましょうか。まだ上がるはずよ」

「今でも十分高いんだからこそまでする必要あるのか?」

「ミー達はパールのテクニックのお陰で常に潤ってるですヨ?」

「まぁ、それを言われたら何も言い返せないよ」

「気にしないで、私が好きでやってる事だから」


 あっけらかんと言うパールにルビーは頭をカシカシと掻くしかなかった。


「アメちゃんが欲しがってる指輪、まだ落札されて無いわね」

「ホントだ。出品数も2個に増えてるぞ?」

「パール、これはチャンスですヨ」


 パールの目の輝きが変わった。


「もちろん落札しに行くわよ」


 最終落札額の半分からじわじわと落札額を上げていく。2つ出品されていると言う事は後から出品した方は安くで出品してる可能性が高いからだ。結果、指輪は平均よりも安く手に入った。それも2つとも。


     ◇◆◇◆◇


 半刻後、キューニィ厩舎へ先に来ていたのはサファイア達だ。それぞれの自分たちのキューニィに鞍を載せたりして出発準備を整えていた。程なくしてパール達が合流し準備が整うと一行は虹の高原へ向かい出発した。

 全体の2/3を過ぎた辺りでキューニィ達を休ませる為に水辺で小休止する。まだイザヨイとクレナイは他のキューニィよりも体力がないので休憩を挟まないと虹の高原まで持たないからだ。


「イザヨイはいつになったらノンストップで行けるのかなぁ」


 勢い良く水を飲むイザヨイを眺めながらサファイアは呟く。


「まだ街の外に出て数日なんだからそんな簡単にはいかないわよ」


 パールがサファイアを慰める。実際その通りなのだ。イザヨイとクレナイは街から出て走るのは10日も経って居ない。厩舎の放牧地で走り回ってはいるものの、十分に体力を付けるには不足していると言わざるを得ない。


「それでもさ~、やっぱりノンストップで走りたいじゃん?」


 サファイアの言う事も最もなのでパールはそれ以上何も言わなくなった。その代わり1つの指輪を差し出した。


「えっ!? 何? サファイアちゃんプロポーズされてる?」

「バカな事言わないの。MNDが上がる指輪よ。保険と思って着けてなさい」

「ありがとうパールちゃん」

「お礼は要らないわ。サファイアさんのステータスアップはパーティ全体の安定に繋がるもの」


 素っ気なく言うパールにサファイアはニッコリ笑い。


「えへへ~、指輪♪ 指輪♪」


 早速指輪を嵌め太陽に手をかざして嬉しそうにしている。それに気付いたかイザヨイが寄って来て指輪をスンスンと嗅ぎ始めた。


「イザヨイ良いでしょ。私の指輪だよ」


 しかし興味が尽きたのかすぐにクレナイの元へ行ってしまった。


「ち、ちょっと、もう少しリアクションしても良いじゃん!」


 鳥類に無理な話である。


「クレナイ達も回復したみたいだしそろそろ行こうぜ」


 ルビーが立ち上がりお尻に付いた草を手で払いながら言う。ぶつぶつ言うながら不満げな顔で続いて立ち上がるサファイア。しかしイザヨイに乗る時にはもう笑顔だ。なんだかんだで本当に仲が良い。


     ◇◆◇◆◇


 雷鳴谷を抜け虹の高原に到着するがあいにくの雨模様だった。雨と言っても霧雨で、サーベルタイガーの革をオイルで(なめ)して作った外套を羽織っていればそうそう濡れる事は無い。


「今日はずっとこんな天気みたいだから手際よく終わらせて早く帰りましょ」


 パールの意見に賛成のルビーは早速サーチのスキルを使いモンスターを探し当てる。


「それじゃ始めるぞー」

「ほ~い」

「どうぞ」

「いつでもですヨ」

「お願いします」

「うぃ」


 全員の返事を確認すると短弓で標的マーカーに狙いを付け矢を放つ。霧雨を切り裂き矢は狙い違わずモンスターへヒットした。


「私が相手をしてあげるのよ、光栄に思いなさい!」


 すかさずパールがモンスターを挑発し注意(ターゲット)を引き付ける。いつもの流れで経験値を稼いでいく。


「ん? 何だろコレ」


 途中、サファイアが地面に落ちている宝石めいた石を拾う…と、チョウチンアンコウとトノサマガエルを足して2で割った様なモンスターが地中から這い出して来た。


「ドーモ、サファイア=サン、モンスターです」

「ドーモ、モンスター=サン、サファイアです」


 両者アイサツを済ませるとそのまま戦闘へ突入した。しかしあっという間にサファイアはモンスターに丸呑みにされてしまう。


「サファイア、何勝手にモンスターに喰われてんだよ!」


 慌てて今戦っているモンスターを切り伏せターゲットを変更する。


「シールドバッシュ!」


 パールがモンスターの土手っ腹にシールドを叩き付ける。蛙が潰れたような鳴き声を発してモンスターはサファイアを吐き出した。


「もう少しなんだから要らん事すんなっ!」


 ルビーも慌てているせいか語気が荒くなる。


「ひどいよルビーちゃん、私だって遊んでる訳じゃ無いんだよ?」


 ぬちょぬちょの唾液にまみれたサファイアは抗議するが説得力は無い。モンスターは倒したが狩りは一時中断しサファイアを洗浄乾燥する事になった。

 岩の隙間にある洞穴で焚き火をし体を温めながらちょっとしたティータイムだ。ハプニングはあったものの狩り自体は順調でサファイアがウカツにも倒れる事も無かった。


「この雨、何とかならないかのか? 足下が滑ってやりにくいったら…」

「そうは言ってもエリア予報じゃ1日霧雨ってなってるし難しいわね」

「レベルも25になったですが今更狩場を変えるのも面倒ですヨ」


 どうしたものかとルビーは音を立ててコーヒーを啜る。


「今日中にレベル30まで上げたかったけれどこのペースじゃ難しそうね…」

「ここで切り上げるのはダメなんですか?」


 パールの呟きにペリドットが反応する。


「それでも良いのだけれど、そうなると明日は中途半端な狩りになってしまうの」

「でもこのまま狩り続けても難しいならそうした方が良くない?」


 サファイアの提案をパールが飲み今日の狩りはここで終了となった。

 今回も読んで下さってありがとうございます。コメントや評価を貰えるとモチベーションが向上する…かもしれないので気が向いたらお願いします。

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