第44話
「炎の矢!」
アメジストの火炎魔法を受けモンスターが火だるまになる。
「水刃!」
続いて地面から噴き出した超高圧の水がモンスターの首を切り落とす。
打ち合わせ通りルビーが釣ってきたモンスターをアメジストとペリドットの魔法で倒すといった手順だが、低レベルとは言え中級職の魔法は易々とモンスターを亡骸へ変えていった。6ダースものマナドリンクにより簡単には減らないMPはルビーに足を止める事を許さなかった。
「そろそろ移動しましょうか」
「やっとか…走り続けてクタクタだよ」
Lvも10になり上位の装備にする必要が出来たのと、モンスターから得られる経験値が減少し狩場を移動する為、1度狩りは中断された。
「思ったよりマナドリンクを消費したわね…、これからはアメちゃんとペリドットさん交互で魔法を撃ってもらえるかしら?」
「物理攻撃中心に切り替えるですカ?」
「ええ、せっかくシトリンさんが足軽になったのに殆んど活躍出来てないし…」
パールはそこで区切りちらりとサファイアを見る。攻撃狂として覚醒しても武器がトゥインクルロッドでは与えるダメージは雀の涙ほど。これでは心が満たされない。そんな訳でずっといじけている。
「おい、サファイア。ヒーラーとして出番だからちゃんと準備しろよ」
「ぶ~、わかってるよ~」
ふてくされながらもチュニックに着替え気分を盛り上げる。
「よし、元気100倍! サファイアちゃん! どんなに即死しても癒しちゃうよ~」
いや、即死は無理だろ。
ともあれ元気を取り戻したサファイアはトゥインクルロッドを手に肩をぐるぐる回しながら次の狩場へ移動していった。本当にヒーラーの仕事を理解しているのだろうか?
「おい、紫色の角ウサギが居るぞ」
「レアモンスターのアルミラージよ。知性の上がる指輪をドロップするけれど、今のレベルじゃ倒せないから手を出さないようにしてね」
滅多に遭遇出来ないモンスターを前に手も足も出せない状態に歯痒い思いをしながらルビーは釣りを始める。
「それじゃみんな、手筈通りお願いね」
パールの声に全員がそれぞれの仕事を始める。ルビーが釣ってきたモンスターをパールが挑発して引き付ける。即座にサファイアが侵食、アメジストがパラライズとブラインドをモンスターへ掛けて弱体化させる。そこからシトリンが斬りかかりダメージを与えて瀕死になった頃にルビーは次のモンスターを釣りに、ペリドットは弱ったモンスターへトドメを刺す事になっている。
◇◆◇◆◇
「少し早いけれど今日はここまでにしましょうか」
レベルアップにより殲滅速度が上がりモンスターのポップが追い付かなくなって間が出来たタイミングでパールが切り出した。
「レベルも17まで上がったし上々だな」
ルビーも機嫌良く成果に満足している様だ。
「それよりもアルミラージがまだ居るですヨ」
「珍しいですね、レアモンスターは大抵誰が張り込んでポップ即討伐なのに」
「やる」
なぜかやる気満々のシトリンは既に抜刀している。
「アメちゃんの装備が手に入るんだよね? 勝てるならやってみようよ」
「手に入るかどうかは分からないけれどやってみましょうか」
パールも賛成し急遽アルミラージの討伐が始まった。通常の角ウサギよりも一回り大きな体だが性格は大人しく一心不乱に草を食んでいる。
「ターゲットを釣るよ。全員戦闘準備!」
ルビーの釣りマクロが発動しパーティにバトル開始のチャットが流れる。短弓を構え標的へ矢を放つ。
「私が相手をしてあげるのよ、光栄に思いなさい!」
ルビーへ突進するアルミラージをパールが挑発で自分へヘイトを移す。すかさず侵食とパラライズ、ブラインドの弱体がアルミラージを侵す。
「技連携、いくよ!」
技連携とはウェポンスキルをタイミング良く繋げる事によりダメージ値にボーナスを得るシステムだ(今更感が拭えない設定だな)。
「疵瑕付与!」
短剣のウェポンスキル・疵瑕付与。相手のステータスにマイナスポイントを与え抵抗値に対して優位性を取る技だ。
「ハヤブサ斬り!」
片手剣のウェポンスキル・ハヤブサ斬り。大きく振りかぶった剣を目にも止まらぬ速さで袈裟斬りにする技。
「真っ向唐竹割り!」
両手刀のウェポンスキル・真っ向唐竹割り。大上段から刀を振り下ろす。とてもとても痛い技。
「マジックボーナス水属性ですヨ」
技連携に使用するウェポンスキルに依って与えられるマジックボーナスが異なる。今回の場合は水(氷)属性だ。
「水神の牙!」
「暴風雪!」
「ばよえ~ん!」
「サファイア、何だその魔法!」
思わずルビーが突っ込む。謎魔法を放ったサファイアは放置するとして、アメジストとペリドットの魔法はアルミラージのHPをごっそり奪った。
しかしアルミラージもただやられる訳では無い。角を微弱振動させ耳が痛くなる程の高音を発する嫌な音。特にダメージを受けるだのデバフを付与されるだのそう言った類いの技ではないがとにかくうるさい。アルミラージなだけに兎に角、だ。
「だぁぁ、何とかなんないのか!」
キィィィィと黒板を引っ掻く様な音は思わず耳を塞ぎたくなる。
「ああもう、イライラするっ!」
珍しく感情を露わにしたパールは盾で殴りつけた。ガァンと派手な音を鳴らし頭部を打ち据えられたアルミラージはクラクラと脳震盪を起こす。
「好機! 一刀両断!」
チャンスを逃さずシトリンが上段からの一閃を見舞いそれが決定打となり戦いは終了した。
「まだ耳の奥で音が鳴ってるみたいだよ~」
ぶるぶると首を振りながら不満を漏らすサファイア。全員が同じ様に首を振っている。
「ドロップアイテムはどうなりました?」
ペリドットが消えていくアルミラージを覗き込む。
「角、肉、毛皮に……指輪!」
「アメちゃんやったね、これで装備が揃ったよ」
「いや待てサファイア、この指輪…」
「ええ、ハズレの指輪ね。防御力+1しか無いわ」
「とは言っても競売所でそこそこの値段ですヨ」
「え~そう簡単にはいかないって事か~」
「今日は予定のレベルを上回って良しとしましょ」
パールがサファイアを元気付ける。
「明日は虹の高原だから早く帰って疲れを落とそうぜ」
「賛成~、お風呂の前にイザヨイ成分補給したい~」
「マナドリンクの補充はどうするですカ?」
「そうねぇ…今日倒したジャイアントビーのドロップだけじゃ足りないから、ヒルマウンテンまでの道中で見かけたジャイアントビーは狩って帰りましょうか」
さらりと乱獲宣言をするパール。道中にレベリングしている人が居たらその獲物を狩り尽くす事になるので気を付けなければならない。
運良くレベリングしている冒険者に遭遇する事もなく全員揃ってヒルマウンテンの門をくぐる。サファイアの強い希望でそのままキューニィ厩舎へ直行だ。放牧地にてサファイアの姿をイザヨイが見つける。しかしそんな事は我関せず、イザヨイは気ままに走り回るのを止めない。
「こらー、私が来たんだからこっち来なさいよーー!」
しかしそんな言葉もどこ吹く風。イザヨイは一向にサファイアへ近付かない。
「ぬぬぬぬぬ…」
怒りに満ちたサファイアは柵を潜り抜けイザヨイを追いかけ始めた。まあ追い付けないのは証明済みで5分後には諦めて戻って来た。
「満足したか、サファイア」
「満足してないけどもう良い! イザヨイなんて嫌いだもん!」
完全に不貞腐れた。だがこれも仕方ないのかもしれない。今日1日イザヨイはどこに出掛ける事も無くずっと放牧地の中だったのだ。多少の意地悪もしたくなると言うものだろう。
「そろそろ行こうか、風呂場が混雑しちまう」
「そうね、早く夕食も食べたいし行きましょうか」
ルビーとパールの言葉に一行は従う事となった。
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