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蒼と紅  作者: 久村悠輝
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第34話

「ルビーちゃんはルビーが和名で紅玉だからクレナイだけど、パールちゃんはどうしてモンメだしアメちゃんはウニなの?」


 それぞれ瞳と同じ色の名前で、キューニィの名前もそれに準じている。しかしパールのキューニィはモンメだ。おそらく漢字で書くと“匁”だろう。


「匁は真珠の重さの単位で世界中で使われているの。だから私のキューニィにはそこから名前を取ってモンメにしたのよ」

「ほへ~、勉強になった! サファイアちゃん1mgくらい賢くなったよ!」


 ミリグラムかよ。脳の重さが増えたってのか? なんにせよ微々たる量である。


「ウニ、美味しそうですヨ」

「なるほど、ムラサキウニか。…そう言うサファイアはどうしてイザヨイなんだ?」

「へ? 可愛いから?」

「おそらくだけど、サファイアは9月の誕生石でしょ、だから秋の季語・十六夜から取ったんじゃないかしら」

「あちゃ~、やっぱりパールちゃんにはバレたか」

「となるとペリドットとシトリンのキューニィがどんな名前か楽しみですヨ」


 あの、アメジストさんハードル上げるの止めてもらえませんか?


「可愛い名前だよ、きっと」


 だから止めてサファイア…。


「まさか考えてないとかないわよね」


 パールもそれ以上言わないで。


「この話が公開される頃には決まってるさ」


 ルビーまでメタな事ばかり言って無いでパールの淹れたコーヒーを飲め。


「今朝は深煎りローストの豆を使ったのだけどどうかしら?」

「苦い~」

「アタシはこれくらいが好きだな」

「ミーはパールの淹れるコーヒーなら全部好きですヨ」

「あら、ありがとうアメちゃん」


 苦さに堪えられずミルクと砂糖を追加するサファイア。すると扉が2回ノックされた。ルビーは慌てて身なりを整える。それを確認したパールは扉を少し開く。


「朝早くからごめんなさい、皆さんの耳に入れておきたい事がありまして」


 そこに居たのはペリドットだった。奥にシトリンも控えているのだろう。


「分かったわ、ともかく入ってちょうだい」


 パールがペリドット達を室内へ入れると一気に狭くなった気がする。コーヒーをカップへ注ぎペリドットとシトリンへ奨める。2人はコーヒーを口へ運び一息つくと話を切り出した。


「実はエーテル4ダースが全て売れたのです」

「在庫無かった」


 つまり2人の話はこうだ。競売所の在庫が無くパールの入れ知恵により多少吹っ掛けた額で出品した所、予想外の金額で落札されたらしい。 しかも1ダースずつ出品したのでその利益は平均的な額の3倍以上になる。

 そしてペリドットは売上額の4割を納めたいと言い出した。もちろんパール達はこの申し出を必死に断る事になった。


「それじゃぁさ、ペリドットちゃんとシトリンちゃんがジュエルボックス(ウチのギルド)に入るのはどうかな?」

「確かに近いレベルのジョブがあってお互いに利益はあるけれど」

「いえいえ、私達の方が利益が高過ぎます」


 サファイアの提案にパールが乗っかるとペリドットは慌てて異を唱える。


「私達としてはペリドットさんの精霊召喚は魅力的だし、これからは必要だと思うの。それにシトリンさんのハイエーテルを合成出来るスキルは正直喉から手が出る程欲しいわ」


 パールは包み隠さず事実を述べる。


「でも私達はすぐ迷子になりますし貧乏冒険者だし……」

「それは私達と組めば解消されるわよね?」

「お互いにとってWin-Winなら良いじゃねえか」

「さっさと諦めろですヨ。こうなったらパールはテコでも動かないですかラ」

「それじゃ決まりだね。ペリドットちゃん、シトリンちゃん、これからよろしく」


 にぱっと笑みを浮かべペリドットに握手を求めるサファイア。一方ペリドットはまだ何か言いたい事がある雰囲気だが場の空気に流されその手を取った。

 そうなると今の4人部屋では手狭な為、6人部屋へ移る必要が出てきた。冒険者ギルドへの報告もあるので6人はコーヒーを飲むとすぐに行動へ移った。


     ◇◆◇◆◇


「そうですか、ついにフルパーティになったのですね。それではパールさん、ギルド加入の儀式をお願い致しますわ」

「はい、分かりました」


 ルイーダが未登録の真っ白なブレスレットを2つ用意する。それをテーブルの中央へ置きパールが手をかざす。パールのブレスレットが魔力を放出しパールの手のひらを通じて真っ白なブレスレットを染め上げていく。

 やがて虹色に輝くブレスレットが2つ完成した。それらをペリドットとシトリンが右手首に嵌める。そして魔力のリンク終わりペリドット達の手首にぴったりのブレスレットとなった。


「ペリドットさんにシトリンさん、これからよろしくね」


 パールが2人に微笑みかける。


「はいっ、こちらこそよろしくお願い致します」

「よろしく」


 ペリドットは自分の膝へ頭突きをするのではないかと心配するほど体を折り曲げ、シトリンはいつものように淡々と返事した。それから全員で朝食を摂りレンタルハウスの移動をする事になった。

 ペリドットとシトリンはもちろん、パールとアメジストもレンタルハウスの移動は初めてでルイーダから説明を受ける事となった。サファイアとルビーは言わずもがなである。


「まずはパールさん達のハウスから移動致しますわ」


 全員が扉の前に揃うとさすがに廊下は狭い。しかしルイーダは気にせず説明を続ける。


「それではギルドマスターのパールさん、扉中央に触れて下さいませ」

「こう、ですか?」


 言われた通りパールは扉の中央にある紋章へ触れる。すると紋章とパールの手の甲に浮かんだ紋様が共鳴するかの様に光り出した。


「今、室内の情報を登録しておりますのでそのまま光が収まるまでお待ち下さい」

「これって右手じゃないとダメなの?」


 サファイアが素朴な疑問をルイーダへ問い掛ける。


「いいえ、飽くまで精神を集中し易いならば左手でも額でも問題はありませんわ」

「額? おでこなんて使わなくても手で十分じゃないのかな?」

「冒険で両腕を失う可能性があるですヨ」

「あっ、そうか~」

「冒険者の生体パターンと魔力パターンを登録しておりますので間違える事も不正をする事も出来ませんわ」


 そうこうしているとパールの光が収まった。すると扉がロックされる音がした。


「お疲れ様です。それでは6人部屋へ移動致しますね」

「ちょっと待ってくれ。アタシらの荷物がまだ中に残ったままだよ」


 慌ててルビーがルイーダへ告げる。


「ご安心下さい、既に荷物の移動は済んでおります」


 ルイーダが扉へ手をかざし、ロックを解除すると室内は備え付けのベッドやテーブル以外何もかも無くなっていた。


「どういう事だ…」

「皆さんのポーチと同じ空間へ一時的に移動しております。新しい部屋にて解放する事でこれまで通りの生活が出来ますわ。もちろんこのまま他国へ行ってそちらで生活する事も可能です」


 同階に6人用の空き部屋が無かったので1つ上の階へ移動した。大所帯が利用する階だけあって扉同士の間隔が広い。廊下の左右に扉があり、それぞれ5部屋ずつ計10部屋のようだ。

 パール達の部屋は東西両側にある階段から最も離れた中央南側の部屋になった。


「パールさん、先ほどと同じように扉へ手をかざして下さいませ」

「了解しました、こうですね」


 再びパールは扉の前から動けなくなる。程なくして光は消え扉の鍵が開く音がした。


「それでは皆さん、どうぞお入り下さい」


 ルイーダが扉を開き6人を中へと(いざな)う。真っ先に飛び込んだのはサファイアだ。


「すごいよ、荷物がそのまま来てる!」


 キョロキョロと室内を見渡し歓喜の声を上げる。


「あれ? ルビーちゃんの布団がたたまれてる…」


 「どうせ夜にまた使うから」と言う理由でいつもたたまれないルビーの布団まで綺麗にたたまれてるのだ。


「サファイア、余計な事は言うなっ」


 慌ててサファイアの口を塞ぐが後の祭りである。


「冒険者様の中には「掃除が面倒だから」と、定期的に部屋の移動を希望する方がいらっしゃいまして…」


 なるほど、便利な機能も使いようだ。ともあれサファイア達の引っ越しは無事済んだ。

 今回も読んで下さってありがとうございます。コメントや評価を貰えるとモチベーションが向上する…かもしれないので気が向いたらお願いします。

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