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蒼と紅  作者: 久村悠輝
32/94

第32話

 一方、金策へ向かったパール達はジャイアントビーが巣を作る洞窟へ来ていた。その様子は蜜蜂の巨大な巣箱と言った体だ。見上げても洞窟の天井が見えないほど高い。その天井から吊り下がっているのだろう、ハニカム構造の巣が幾重にも重なっている。

 パールとアメジストはメインジョブ、すなわち魔技師とスナイパーになっている。狩りの効率を上げる為だ。


「ペリドットさん、精霊の加護を貰えるかしら?」


 パールはペリドットに防御強化(バフ)を要求する。自前のシェル(防御強化)があり、いかにレベル差があるとは言え多量のジャイアントビーが一斉に襲ってくるのだ、小さなダメージでも積もりに積もればバカに出来ないダメージとなる。


「皆、私から離れないでね。まずアメちゃんが射撃スキルで巣に穴を開ける」

「了解ですヨ」

「わたしが刃風で倒すから、ルビーさんとシトリンさんには打ち漏らした蜂を処理して欲しいの。お願い出来るかしら?」


 パールの問い掛けに短く“了解”とだけ返してシトリンは戦闘の構えを取った。ルビーも短剣を抜き腰を落とし身構える。


「それじゃいくですヨ。ウィンカー出さずに車線変更した罪により銃殺刑!」


 銃口から放たれた弾丸(ブレット)は巣へ吸い込まれ炸裂した。棲みかを破壊され怒り狂ったジャイアントビー達がアメジストへ殺到する。


「させない、刃風!」


 アメジストの前立ちはだかったパールが風の刃でジャイアントビーを次々に切り刻み落としていく。


「出番…」


 ジャイアントビーの嵐が過ぎ去ってシトリンがポソリと呟く。パールが刃風で一掃してしまったので出番が無かったのだ。


「ま、次だ次」


 ルビーは既に気持ちを切り替えて次の獲物を待っている。


「アメちゃんお願い」

「妹を叩いた罪により銃殺刑!」

「罪、重いな!」


 思わずツッコミを入れるルビー。アメジストの放った弾丸はまたも巨大な巣を撃ち落とし大量のジャイアントビーが襲って来た。


「少しタイミングをずらして…刃風!」


 前回より早いタイミングで刃風を放ち群れの後方をわざと残して風の刃はおさまった。


「来た来た。シトリン、いくよっ」

「ん」


 右から3匹、左から2匹。シトリンが踏み込み左側をワン・ツーパンチで叩き落とす。ルビーは右へ軽くステップすると素早く2匹の翅を切り落とし、すり抜けて行った最後の1匹を後ろ回し蹴りで仕留めた。


「良い感じだな、じゃんじゃんいこうぜ」

「あまり奥へ行き過ぎると囲まれるから気を付けて」

「シトリンも迷子になるから離れちゃダメだからね?」

「大丈夫」

「とか言ってそっちじゃないですヨ」


 シトリン、なんて恐ろしい子。狩りを始めて数分で迷子になりかけるとか尋常では無い。


「でも本当に良いのですか?」

「何が、かしら」

「分け前です。アメジストさんやパールさんが殆んど倒しているのに、半分というのは貰いすぎな気がします」

「こっちのサファイアが無免許だから迷惑掛けてるんだし逆にもっと受け取って欲しいくらいだよ」


 ペリドット側が譲歩せず結局五等分で決着した。昼まででかなりの素材が集まり1度街へ戻る事になった。サファイアと合流する前にパールは競売所へ立ち寄りローヤルゼリーの在庫を確認すると…。


「32個…、思ったより出品されてるわね。狩場に誰も居なかったからもしかしたらと思ったけど…」


 パールがローヤルゼリーの値段を吊り上げたため金になると他の冒険者達がこぞってジャイアントビーを狩り、大量に出品され値崩れをおこしていた。他に数点取引額と在庫をチェックしてパールは仲間の元へ戻った。


「お待たせ、ローヤルゼリーは今売らない方が良いわ」

「あれだけ狩り放題だから既に金策にはならなかったですカ」

「おいおい、それじゃアタシ達は何の為に狩ったんだよ」

「ルビーさん慌てないで、ここからが本番よ」


 しかしその前にサファイアと合流して昼食を摂るのが先決だ。約束の時間通りパブへ着いたのだが…。


「みんな遅いよ~、先に食べてるからね」


 待ちきれなかったサファイアは既に注文を済ませ食べ始めていた。チャー牛のサイコロステーキはパブのメニューでもトップクラスの値段を誇る。


「えげつないのを食べてやがるですヨ」

「はわわわ…今日の狩った分が丸々飛びそうなのを…っ」

「お腹空いたんだもん!」


 置いてけぼりを喰ったサファイアは半分妬けで食べ続ける。


「おいサファイア、ローヤルゼリーは値崩れしててそんなの食ったら払えないかもしれないぞ?」

「蓄えがあるし、別にローヤルゼリーに頼らない方法もあるから大丈夫よ。それより私達も食べましょ」


 後から来た5人の中で1人落ち着いていたパールはサファイアと同じチャー牛のサイコロステーキを注文し、残りのメンバーを震え上がらせた。


「パールが大丈夫と言うなら大丈夫ですヨ」


 続いてアメジストも同じ物を注文すると全員がチャー牛のサイコロステーキを注文した。鉄板で焼ける肉の良い匂いがパブを包み、その匂いを嗅いだ他の冒険者達の財布の紐を緩ませ、この日は昼の売上げで記録的な額になったとか。


「やっぱり良いお肉を食べると心が満たされるわね」


 6人分の昼食は無事に支払えたが、狩りで得た素材だけでは完全に赤字の額だった。合成の為に一行はジュエルボックスのレンタルハウスへ場所を移している。


「そんなに狩れなかったの?」


 サファイアが疑問を投げ掛ける。


「肝心のローヤルゼリーが値崩れしてるんだよ」

「それじゃ大変だよね!?」

「値崩れしたのはローヤルゼリーだけよ。他のは逆に値上がりしていたわ」

「ん? んん~?」


 サファイアは頭に?マークを浮かべて首をひねる。今回はルビーとペリドット、シトリンも同様にひねっている。


「最初に言ったと思うけれど、蜂蜜や蜜蝋も金策に含まれてるわよ?」

「それでも大した額にはならないよな?」

「そう、だから更に合成を進めるの。マナドリンクの上位、エーテルまで作れば大幅な黒字よ」


 確かにパールの言う通りエーテルまで作れるなら儲けは大きい。しかし…。


「私は合成のスキル低いから蜜蝋ぐらいしか作れないよ?」

「ええ、だからサファイアさんとルビーさんには蜂の巣から蜂蜜を作って欲しいの」

「その間にミー達が聖水を作るですヨ」

「なるほど、作る作業を分担するって事か」

「ペリドットさんとシトリンさんはどこまで作れるかしら?」

「私は……まだ蜜蝋が精一杯です」

「それじゃサファイアさん達と一緒にお願い」


 こくりとペリドットがうなずく。そしてシトリンは―


「ハイエーテル」


 場が凍り付いた。エーテルだけでもかなりのスキルを要求されるのに、シトリンはその数倍手間が掛かるハイエーテルが作れると言うのだ。つまり、材料さえ揃えば霊薬(エリクサー)が作れる可能性があるという事だ。


「さすがにハイエーテルを作って貰うのは申し訳ないから聖水を作った後にマナドリンクの製作を協力して貰えるかしら?」

「わかった」


 こうして蜂蜜組と聖水組に分かれて合成が始まった。蜂の巣の欠片から蜂蜜を合成しスキルを上げる。蜂蜜で合成スキルが上がらなくなったら次は聖水だ。

 聖水は蒸留水を回復系魔法で圧縮すると完成する。何だか詐欺の様な仕様だが仕方ない。聖水でスキルが上がりきったらドワーフドリンクになる。輝くマスカットを合成で発酵させると出来上がる。

 ドワーフドリンクは微量だがMPを回復する効果を持っている。これにローヤルゼリーと聖水、蜂蜜を加える事によりマナドリンクが完成する。


「なぁ、このドワーフドリンクってワインじゃないのか?」

「ワインじゃ無いわ。れっきとしたブドウのジュースよ?」


 ドワーフ族に伝わるジュース、らしい。ワイン程度のアルコール度数ではドワーフにとってジュース同然と言ったところか。

 こうして夕方まで合成は続き20ダースのマナドリンクが完成した。

 今回も読んで下さってありがとうございます。コメントや評価を貰えるとモチベーションが向上する…かもしれないので気が向いたらお願いします。

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