明日はどれになる
あまり百合百合しい展開になってない事に気付きました。少しずつ軌道修正していきますのでもう少々お付き合いください。
まだ日没前なのにパブのあちらこちらでは既に“出来上がった”冒険者が居る。いったいいつから飲んでるのやら。
「私お腹ペコペコだよ~」
机に突っ伏すサファイア。元々体力の低いリリパット族がキューニィを全力で追い回したのだからこうなるのは当然だろう。仮眠をしても体力の回復は微々たるものだった。
「他のキューニィでも良かっただろうに、何でアイツに拘るんだ?」
話題は自然とキューニィの事になる。サファイアがあの個体に拘る理由が3人にはまだ解らない。
「ん~、乙女の勘? 何だか寂しそうな感じがしたんだよね」
「寂しそう? そんな感じはしなかったですヨ」
「アタシもそんなのは感じ無かったな」
「サファイアさんを突き放すような行動はしてましたが寂しいかと言われると…」
「あ、ううん。良いの。何かそんな感じがしただけだし、勘違いかもだしね」
机から上体を起こし手のひらをヒラヒラと振る。仲間に無用の心配を掛けたく無いのかもしれない。そうこうしているうちに料理が運ばれて来てこの話はうやむやになった。
「明日、下級職取得のクエストが終わったらレベル上げだけど、サファイアさんはどのジョブにするかもう決めてるの?」
「私? メディックにするよ」
「何だか不安しか無いですヨ」
「奇遇だな、アタシもだよ」
「2人ともひどい、可愛い服を着た私に癒されるんだよ?」
「装備が目的って時点で動機としては不純だろ」
「でも秘宝を装備したいからと言う理由で始めた人がそのジョブと最高の相性だったケースもあるわよ」
やって見なければ判らない、と助け船を出すパール。
「それでルビーさんは何にするの?」
「前に出るのは性に合ってないしスカウターかな。“釣り”も面白そうだし」
「スカウターは上級職がアサシンよ?」
「げっ、あの即死ジョブかよ」
ひどい認識である。
「中級職のシーフから忍者にも分岐するからどうするかは後で考えても良いんじゃないかしら」
「アイエエエ!? ニンジャ!? ニンジャナンデ!?」
「話がややこしくなるから黙ってろ!」
謎の叫び声をあげたサファイアにルビーのハリセンが炸裂する。
「しかしパーティを組むのに見事に火力不足ですヨ。仕方ないのでミーが魔法使いいをやるですヨ」
「そうなったらバランスを考えて私はナイトかしら」
話が一区切りつき、パブが混んできたので今日の疲れを癒す為に大浴場へ。朝とは違い様々な種族でごった返していた。さながら修学旅行の様だ。
疲労と満腹でサファイアは大人しく、何度か浴槽で意識を飛ばし溺れかけた。「長い瞬きをしただけで寝てないから」と言い張るが寝落ちしたのは誰の目にも明らかだった。
レンタルハウスへ戻りすぐにサファイアは眠ってしまった。残りの3人はガールズトークで盛り上が……らず、ルビーも早々に寝てしまった。パールとアメジストも慣れない案内役で気を張っていたせいかこの日ばかりはあっという間に夢の世界へ落ちて行った。
◇◆◇◆◇
「やっぱり「ジョブチェンジしたいならお前の力を見せてみろ」だよねっ」
大通りを歩きながらサファイアは興奮気味に話す。先ほど冒険者ギルドのギルドマスターであるルイーダから下級職へのジョブチェンジ出来るクエストを受けたばかりだ。
「王道と言えば王道なんだけどさ、捻りが無いって言うか…」
「あら、解りやすくて良いじゃない」
「ひょっ子への試練ですヨ」
「早く行こうよ、ブルドッグだからきっと可愛いんだよ。それに牙を取って来るだけだから簡単簡単♪」
「ブルドッグじゃなくてバードックな。マンドレイクを倒したら20%でレアポップするモンスターか…これってハマったらマンドレイクを延々倒し続けるやつだな」
「あ」
「ルビーさん」
「それは」
「「「フラグだよ」よ」ですヨ」
「え? そんな事……無い、はず」
立ててしまったフラグはいつ回収されるのやら…。
◇◆◇◆◇
さてさて、フラグかどうかはさて置き4人は“星降る丘”の鉛筆岩へとやって来た。
「あれがマンドレイクなんだ」
「けったいな外見だな。鍋に入れたら旨そうだ」
「他のクエストの討伐対象になってるから誰も居ないうちに終らせましょ」
「それじゃ1匹目、やるですヨ」
クエスト用のモンスターは周囲より強く設定されている上に再ポップする間隔が長い。手早く討伐しないとあっという間に時間だけが過ぎて行く。
――そして4時間が経過した。
「ルビーちゃんのバカー。全然ポップしないじゃない!」
角ウサギの野焼きでお腹は減らないものの、40匹ほど倒しても20%を引き当てられずにいた。4人の気力は限界近く、日を改めるという空気が流れ出した頃。
「ちょっとストップ、誰か来るわ」
最初に気付いたのはパールだった。
「クエストでマンドレイクを倒しに来たみたいですヨ」
「ふぅ、少し休めそうだな」
マンドレイク狩りの人が来たら譲る。と決めていたので4人は1度その場を離れる。
「1人みたいだけど大丈夫かな?」
遠くからヒト族の少年を眺めながらサファイアが呟く。
「あの装備じゃ無理でしょうね」
「負ける、って事か?」
「これも勉強ですヨ」
少年はマンドレイクの様子を伺っていたが見付かってしまいそのまま遭遇戦になった。どんどんHPを削られ距離を取ろうと動き回る少年。やがてその場からかなり離れた場所で力尽きた。
程なくしてキューニィに乗った2人組が現れ、倒れたままの少年を起こすと街へ戻って行った。
「知り合いだったのかな」
「それならもっと早く来てそうだぞ?」
「そっか、じゃああの子も始めたばかりなんだね。私達と同期だ」
「その同期に負けないように狩りを再開するですヨ」
「あと1時間続けてもポップしなかったら今日は諦めしょ」
「大丈夫、次でポップするから!」
ポップしました。
スラリと細長い胴体に鞭を思わせるしなやかな腕。自重を支えられるのか不安になる細い脚。全身は焦げ茶色に染まっている。
その姿…
まごう事なき…
ゴボウだった。
今回も読んで下さってありがとうございます。コメントや評価を貰えるとモチベーションが向上する…かもしれないので気が向いたらお願いします。