君しか出来ない
連載開始から無事2ヶ月です。今回もサファイアの冒険(?)にお付き合いください。
「なるほどね、レベルが足りてないとこうなる訳だ」
ルビーは装備せずにしげしげと指輪を観察している。リングの内側に“Lv22”と彫ってある、どうやらレベル制限が設けられているようだ。
「ぐぎぎぎ…ルビーちゃん、どうして装備してないのさ!」
「この性悪人形がデメリットの無い装備を渡す訳が無いだろ」
「誰が性悪人形ですヨ、アンドロイドだっつってんですヨ。この根性のひん曲がったアカメアマガエルが」
「ンだと?!」
「お、ヤるかですヨ?」
この2人、相性悪いのか一触即発のムードになる。ちなみにサファイアはまだorzしている。
「ショックペイン・ネット!」
「「ぴぎゃ~~!!」」
突然無慈悲な横槍が入った。ショックペインって範囲魔法にもなるんだね、ビックリだよ。あ…、2人の骨格が透けて見えるよ。
「朝ごはん、出来てるわよ?」
いつの間にかパールが3人を迎えに来ていた。笑顔だけど圧が凄いよ。とてもとても怒ってる。でも美人。
「サファイアさんも早く指輪外してね。考えるだけでいいから簡単よ」
「え、えっと…。指輪よ、外れろ!」
「詠唱は必要ないからね? ほらアメちゃんも早く服を着る」
ショックペインから立ち直ったばかりのアメジストのお尻へ容赦なく平手打ちを見舞う。サファイアは外れた指輪を太陽にかざしたりして観察している。
「ぴぎゃっ。ヒドイですヨ、どうしてミーだけなんですヨ」
「顔を洗うはずが水浴びしてたのは誰かしら?」
「それはやむにやまれない事情がありましてですヨ」
「へぇ…?」
「読者サービスは重要ですヨ!」
ドン! と効果音付きで仁王立ちになりイケメンにキメる。もちろん大事な場所には書き文字か謎の光が入ってるはずから大丈夫。
「マジックドレイン!」
今度はマジックパワーを吸い取られたようだね。装備を外していて最大MPが下がってるからかなり辛そう。でもヨタヨタしながら装備を装着したら程々元気になったね。
「ねーねー、パールちゃん。朝ごはんって何になったの?」
「それはキャンプに戻ってからのお楽しみよ」
ニコリとサファイアへ微笑む。こうやって普通に笑ったら清楚なエルフ族の美人なのに勿体ない。
やがてキャンプ地が見えてくると甘い香りが周囲に漂っていた。これはお腹が鳴る。匂いの元は高さが10cm以上もあるハニートーストだった。生クリームたっぷりでこれでもかと蜂蜜が格子状に掛けられている。
蜂蜜はパールが巣の欠片を調理スキルを用い加工して作ったそうだ。朝からコレは胸焼けがしそうだ。しかしそこは女子4人(…3人と1体?)だ、あっという間に食べ尽くした。ちなみに食事効果は“MP+5%、知性+7、精神+7、効果時間30分”だ。
お腹がこなれるまでに街へ着いてからする事を教えられた。
まず冒険者ギルドへ向かい冒険者の登録をする。冒険者カードを発行して貰えれば身分証になって街での生活にとてもとても役立つとの事。
そしてレンタルハウスが空いてるかを聞く。空いていれすぐに使わせて貰う。レンタルハウスが空いて無ければ一般の宿屋に泊まるしかない。その場合は冒険者ギルドが宿泊費の1部を肩代わりしてくれる。
初級のクエストをこなしつつレベルを上げて脱・ノービスを目指すのが当面の目的だ。幸いヒルマウンテンでもキューニィの免許は取得出来るからね。
「それじゃ遅くなったけれど、ヒルマウンテンの街へ行きましょうか」
そう言ってアメジストはテントを、パールは焚き木セットをポーチへしまう。
街道はキューニィや馬車、荷車の往来も多く早朝から人に溢れていた。冒険者の姿も多数確認出来、可愛らしい装備をしている人にはサファイアが片っ端から装備レベルはいくつからなのか、どこで手に入るのかなどを聞いて回る為、想定よりも時間が掛かってしまった。
そして昼過ぎにようやくヒルマウンテンの大きな門が見えて来た。
「冒険者ギルドに美味しい料理が食べられるパブがあるからそこでお昼にしましょうか。もう少し我慢してね」
先ほどからお腹空いたと繰り返すサファイアをパールがなだめる。
程なくしてヒルマウンテンへ到着した4人。高さが7メートル、幅が5メートルもありそうな門の開口部をサファイアとルビーはお上りさん丸出しで見上げ大きな口を開けたまま通過しようとした時、門の左右に立っていた衛兵に呼び止められギルドカードの提示を求めてきた。当然サファイアとルビーは持ってる訳が無いので出せるはずも無く、パールが事情を説明しようとした瞬間―
「えっへん、サファイアちゃんをその辺りの冒険者と同じにしないでよ。私は草原からスタートした選ばれし冒険者なんだから!」
何て言うもんだから衛兵の不審を買いアメジストの火に油を注ぐ発言も加わりパールの説得虚しく…。
「カビ臭~い、お腹空いた~」
鉄格子を両手で掴み、金属の短冊が編み込んまれた魚鱗鎧を着た衛兵にぼやいている。かなりイライラしてきてるからそろそろ止めた方が良さそうなのに、一向に気にせずぼやきか止まらない。
「いい加減にしろ! 今お前達の処分が話し合われているんだ、静かにしないと罪が重くなるぞ!」
ガンッと持っていた槍で鉄格子を殴られ少し怯むサファイア。だが頬を膨らませーー
「私が餓死したら呪ってやる」
「貴様っ、いい加減に…」
衛兵の堪忍袋の緒がキレそうになったその時―
「まぁまぁ、その辺りで槍を収めてくれませんか?」
連載が10話を超えましたので1話あたりのボリュームが出せたらと思いまして今回から少し長めになります。