第109話
「おいニーナ、採寸頼む」
ドワーフ族の店主が店の奥へ声を掛ける。程無くして姿を現したのはコボルト族の女性だ。
「はいは~い、お待たせしました。それではおひとりずつこちらへお入り下さい」
ニーナと呼ばれた女性は隣室の扉を開け恭しく頭を下げる。誰から行く? そんな空気が流れたのは一瞬でルビーが扉へ入って行った。いつもモンスターへファーストタッチを行うルビーだ、通常であれば様子を伺ってしまう状況でも臆する事無く前に出る度胸が育っているのだろう。
4人の採寸が終わるまで時間が掛かりそうなのでサファイアとパールは少数だが店内に置いてある既製品を見ている事にした。店オリジナルの防具も陳列されているが、どれも既製品に比べ2割増しの値段だ。
「ね、ね、パールちゃん、私これ着てみたいんだけど…」
値段を見てしまい簡単に欲しいと言える商品では無いがどうしても気になる防具を見付けてしまいダメ元でパールに相談した。
「ええ、良いわよ。私も欲しいのを見付けてしまったしね」
2人はそれぞれの防具を持ち試着室へ入る。着替え終わった2人はと言うと、サファイアは派手な装飾も無くオーソドックスなデザインだが魔力で編まれた布を使っているらしく襟や袖が淡い虹色の光を放っている。一方パールは体のラインがくっきり浮かぶデザインだが、要所でワイバーンの皮が使われ見た目以上に防御力が高い革鎧だ。
そこへ採寸を終えたニーナがやって来て、
「今でしたらお値段を1割上乗せでお好きなパラメーター3つを付与できますよ」
とニッコリ微笑えんだ。既製品よりも高く付くがサファイアとパールはパーティの攻守の要である為に迷わず購入する事になった。
後でアメジストとシトリンに散々嫌味を言われたのはまた別の話。
採寸を終えたルビー、ペリドット、レシル、ルナの4人はデザインを決めなければならない。とは言っても既に決まっている型から選ぶだけだが。
ルビーは黒を基調とし、鎖帷子の上に軽装束、それに加え鉢金が付いた覆面。もちろんパラメーターの強化付きだ。
ペリドットは霊獣達とより深く繋がれる様に魔法石の耳飾りが、ローブには魔力を通しやすい糸が使われているとの事。
レシルはこれまでと同じで紺色を基調とした全身鎧で不死鳥が羽ばたく彫金が施される。
ルナはビキニアーマーを踏襲しつつも彫金を増やし高級感を高めた。全身を覆う透けた布は虹色に光を反射させ見る者を幻惑させる。
オーダー表と前金で半額を渡しお店を後にする。かなり高い買い物になったが全員の顔は晴れやかで、納得のいく商品を発注出来たのだろう。
「それじゃレンタルハウスへ戻りましょうか」
「そうだね、思ったより時間掛かったから皆首を長くして待ってるよ」
「ほな急ぎましょか~」
パールの言葉にレシル、ルナが続く。サファイア達がレンタルハウスへ戻った時には既にリズも戻って来ていた。
だがリズは全員を連れてパブへ向かった。昼食にしては早すぎる時間、サファイア達に理由は一切話してない。どうして?
◇◆◇◆◇
「ねぇリズちゃん、どうしてパブに来たの? まだお腹減って無いよ?」
サファイアは疑問を直にぶつける。それに対してリズは、
「皆に紹介したいヤツが居るんだ。もう来るはずさ」
ちらりとパブの扉を見、リズはそう告げる。
「ウチらでも知らん人なん? 恋人ですか~?」
ルナが茶々を入れる。それが合図かの様にパブの扉が開いた。そこに立っていたのはブロンドヘアに黄金の鎧を着たヒト族の女性だ。
「おい、あれって」
「オステンブルクで見掛けた…」
「金獅子の君だよっ」
ルビーとパールが息を飲むが、なぜかサファイアは嬉しそうだ。歴戦の冒険者が纏っているオーラは違った。金獅子の君は真っ直ぐにサファイア達が居るテーブルへ歩いて来て、
「君達がジュエルボックスとリズのパーティメンバーだね?」
凛とした声でそう告げた。目力は鋭く、しかし優しく。女性にしては低いその声はサファイア達の背筋を伸びさせた。
「私はレオ、リズとは旧知の仲だ」
金色のガントレットを外しパールに握手を求める。直ぐに立ち上がりそれに応えるパール。手を握られた瞬間全身が粟立ち汗がドッと吹き出る。明らかに住んでいる世界が違うのを思い知らされる。
「そして君はリズの弟君のギルドメンバーだね?」
そう言ってレシルに向かい右手を差し出す。握手を返したレシルもパールと同じ衝撃を受けている。
「それでどうして金獅子の君が私達に?」
「なに私がリズに頼んで引き合わせて貰ったのさ。まだ公にされてないが近々奇襲戦が発生する。それの手伝いを君達に頼みたい」
サファイアが臆する事無く疑問をぶつける。すると返ってきたのは予想外の言葉だった。奇襲戦? 発生が知らされている?
奇襲戦は偶発的に起こる物だと思っていたサファイア達に混乱を与えた。
「お言葉ですけど、金獅子の君程のお人やったら声を掛ければいくらでも人は集まるんちゃいますか~?」
「そ、そうだよ。どうしてレベル50になったばかりのエール達に頼むのさ」
リズよりも高レベルのレオ。金獅子の君の2つ名を持つ彼女が一声掛ければ集まる冒険者はゴマンと居るだろう。だからだ、どうして自分達なのかが理解出来ない。
「1つは知人と深い関係を持つメンバー。もう1つは次発生する奇襲戦のレベル制限が50って事だ」
「レベル…」
「50…」
サファイアもルビーも息を飲む。ヒルマウンテンより遠く離れたヴァイトインゼルで発生する奇襲戦に自分達が参加出来る。しかもあの金獅子の君に乞われての参加だ。
「しかしレオさん、今回の奇襲戦はレベル50制限ですが、レオさんは何のジョブで参加なさるのですか?」
緊張した面持ちでパールはレオに尋ねる。
「私は今回隠者で参加しようと考えている」
「隠者? どんなジョブなの?」
初めて聞くジョブにサファイアは疑問をパールに投げ掛ける。
「私も魔法アタッカーというくらいしかしらないわよ」
「マイナーなジョブだからね。相手を弱体させる事を得意としているよ。もちろんメイジの派生ジョブだから攻撃魔法も得意だよ」
レオはニコリと微笑みながらサファイアへ説明する。
「とりあえず場所を移そうか。あまり他人に聞かれるとまずい内容だからね」
そう言うとレオは立ち上がり冒険者ギルドのカウンターの列へ並ぶ。
「少し待ってな。レオがミーティング用の部屋を借りる手続きをするから」
何をするのかと疑問に思っていたサファイア達にリズが説明する。やがて手続きを終わらせたレオが戻って来ると一行は冒険者ギルドの隣に建っている建物へ向かった。
「レンタルハウスで話しても良かったんだけど10人部屋が最大だからね。入れない事は無いけどかなり窮屈になるからこっちにさせて貰ったよ」
レオは鍵に付いた札に書かれている番号の部屋へ向かった。鍵を扉の鍵穴へ挿し込み魔力を注入する。カチャリとロックが外れる音がしレオは扉を開けて中へ入る。
室内は南向きの面に大きな嵌め殺し窓が備え付けられており魔力による空調が設置されている。そして何故か部屋の広さに対して吊り下げられているランプの数が多い。窓を背にして向かいの壁は専用の筆で文字や図形を描ける細工がされていた。さらに指でなぞるだけで消す事も可能な万能ぶりだ。
その壁がどの席からも見えるようにテーブルと椅子が配置されている。
「自由に座ってくれ。お茶はリズが出してくれるね?」
先手を打たれNOとは言えなくなったリズはやむを得ず備え付けのミニキッチンでお湯を沸かし始める。雑談がてらにレオはパールやレシルに盾役としての動きや心得を説いていた。お茶が入り全員が席に着くとレオがカーテンを引きランプ全てに灯りを灯す。遮光性の高いカーテンは夜中の様な闇が室内を支配したのも束の間、ランプによって昼間の様な明るさが室内に戻る。
「それじゃ始める前に1つ、この奇襲戦はギルドから発表されるまで口外無用、勿論競売所で必要な薬品を過剰に買い占めるのもアウトだ」
「もしそれを破ったら?」
サファイアの質問に対してレオは親指を立て、それを自分の首へ垂直にし左から右へ掻っ斬る仕草を見せる。つまり何らかのペナルティがあるらしい。次の奇襲戦の予想は2週間後、これだけ有れば準備は問題なく進められるだろう。
ここでサファイア達のジョブを整理しておこう。
【サファイア】
種 族:リリパット族
ジョブ:教皇
レベル:50
【ルビー】
種 族:ケットシー族
ジョブ:忍者
レベル:50
【パール】
種 族:エルフ族
ジョブ:魔人
レベル:50
【アメジスト】
種 族:オートマタ族
ジョブ:ドラグーン
レベル:50
【ペリドット】
種 族:ヒト族
ジョブ:召喚士
レベル:50
【シトリン】
種 族:コボルト族
ジョブ:柔術家
レベル:50
【レシル】
種 族:エルフ族
ジョブ:フォート
レベル:50
【リズ】
種 族:ヒト族
ジョブ:アサシン
レベル:51
【エール】
種 族:ドワーフ族
ジョブ:ソードマスター
レベル:50
【ブリーズ】
種 族:コボルト族
ジョブ:陰陽師
レベル:50
【ルナ】
種 族:ヒト族
ジョブ:踊り子
レベル:50
【レオ】
種 族:ヒト族
ジョブ:隠者
レベル:48
リズのジョブは50を超えているが、奇襲戦になればステータスは強制的にレベル50へ変更されるので問題は無い。
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