第108話
「パールちゃん、明日はレベリングするの?」
夕食を食べ入浴を済ませたサファイア達は冒険者ギルドに併設されているパブへ来ていた。アンダーウェア姿だが、他にも同じ姿で寛ぐ女性冒険者は多い。就寝前なので皆コーヒーは飲まず紅茶やホットミルク等を注文した。リズだけはエールを頼みほろ酔い気分を味わっている。
「その前に装備を整えないとダメでしょ。武器はクラフトマウンテンのダンジョンで手に入れたけど防具は40台のままなんだから」
「あ、そっか。じゃあ久しぶりにお買い物だね」
「それなら私も一緒して良いかな?」
机に手をつき身を乗り出してレシルが食い付く。たゆん…と揺れるレシルの豊満なバスト。サファイアとブリーズは圧倒的敗北感を味わう。
「レシルさんの鎧はオーダーメイド品よね? 新しくするとなったらかなりの額になるわよ?」
「大丈夫、お姉ちゃんに資金はたんまり貰って来てるから」
あのつんけんしているリザも妹の事になると激甘の様だ。
「ほなウチらも一緒させてもろうてええやろか~?」
「もちろん! 断る理由なんて無いよ」
ルナの申し出にサファイアは即答する。
「アタイは用事があるから遠慮させてもらうよ」
「ほへ? そうなんだ…」
明らかにガッカリするサファイア。
「野暮用だからね。用事が済んだら合流するよ」
そう続けたリズにサファイアの表情は明るくなる。翌日の予定の調整が終わりに差し掛かる頃にはシトリンがペリドットにもたれ寝息を立てていた。
「じゃあまた明日」
サファイア達はレンタルハウスまで戻りリズ達と別れ部屋へ入る。ちなみにレシルは部屋数を節約するためリズ達と6人部屋で寝る事になった。
◇◆◇◆◇
「まずはペリドットさんとレシルさんの防具から回りましょうか」
「わ、私は後からで構いませんよ?」
「そうだよ、皆を優先してよ」
パールの言葉にペリドットとレシルは驚く。
「2人はオーダーメイドなのだから私達以上に時間が掛かるのよ? 少しでも時短したいじゃない」
「あ、そっか。採寸とかあるもんね」
サファイアは納得したがまだ2人はグズっている。
「それじゃ別行動にするか? 10人で押し掛けても店側が困りそうだ」
「ウチもぼちぼち特注品が欲しいわ~。お2人についてってええ?」
「ルビーちゃんもそろそろオーダーメイドだよね?」
「なっ、何で知ってんだよっ!」
サファイアの言葉にルビーは両腕で胸を隠す。
◇◆◇◆◇
結局、2つのパーティに別けられ片方は既製品、もう片方はオーダーメイド品のお店に行く事になった。
既製品のメンツはアメジスト、シトリン、エール、ブリーズでオーダーメイド組はサファイア、ルビー、パール、ペリドット、ルナ、レシルになった。リズはもう野暮用で出掛けてここには居ない。
「ほな、また後でな~」
オーダーメイド組のルナが呑気に手を振る。一方の既製品組のエールはもう青ざめた顔をしている。こちらはアメジスト、シトリン、ブリーズと問題児が揃ってしまった。しかしオーダーメイド組にも癌は居る訳で、サファイアとパールだ。この2人を押さえ込む事が今日の買い物の成否に関わる。
◇◆◇◆◇
「皆は好みの色とかあるの?」
エールは防具屋へ到着するまで場を和ませようと話題を振る。
「ミーは拘らないですヨ」
「別に」
「あの…私は着れれば何でも」
当然このメンツでは盛り上がらない。
「そ、それじゃデザインはどうかな? 可愛い系とかカッコイイ系とかさ」
「ミーは拘らないですヨ」
「別に」
「あの…私は着れれば何でも」
エールは早くも心が折れそうになる。
「大丈夫、お店に着けば皆色々話してくれるはず」
一縷の望みを支えにして気力を振り絞る。何とか防具屋へ到着し皆でショッピングを楽しもう、そう思っていたが全員のジョブが見事にバラバラな為、3人は自分の防具が並んでいるエリアへ散ってしまった。
ポツンと残されたエールは涙を堪え軽鎧…チェストプレートが並んでいるエリアへ向かった。
「さすがヴァイトインゼル、同じレベル帯の装備でもデザインがたくさんあるな~」
中堅の冒険者が好む落ち着いた色合いのチェストプレートを眺めながら自分好みの装飾が施された物を探すエール。中でも目を惹いたのはいぶし銀のプレートに紫紺の革鎧の組み合わせだ。なぜそれに惹かれたのかは解らない、敢えて言うなら出会いだ。そう思いながらそれを手に取り会計を済ませた。
アメジストは軽装束のエリアに来ていた。モンスターから距離を取り銃で狙撃するジョブの特性は防御力よりも命中率アップやカモフラージュ能力が重要視される。
「なかなかの品揃えですヨ」
このエリアはドラグーンばかりではなく、ステルスのパッシブスキルを有する忍者やアサシンも見掛ける。どのジョブも敵に見付かる事を良しとしない。アメジストは岩場や雪原で効果を発揮する白と深い灰色の組み合わせを選んだ。
シトリンは道着を探し店内をうろついていた。
「全然見当たらんのぅ…」
店舗の半分は前衛職のエリアだがそこをいくら探しても見当たらず途方に暮れている。店員に聞く、そんな事が出来れば苦労しないシトリンの性格。
「あれは…」
シトリンが見付けたのは2人組の冒険者だ。片方はローブを纏っていて後衛職だというのがすぐに判った。もう片方は道着を着ていてシトリンと同じ系列のジョブだ。気配を殺し2人の後を尾行する。しかしかなりの手練れだろう、道着を着た冒険者にはすぐに気取られてしまった。が、街中でいざこざを起こす気も無いのだろう。それどころかそのままスルーしシトリンを道着が置いてあるエリアまで導いてくれた。だがそこは後衛職のエリアだった。道着は金属を使わない為、後衛職と混ぜられていたのだろうか? どちらにせよ不親切な店である。
心の中で礼を言いながらシトリンは道着を物色する。柔術士は足の動きを読まれないようにくるぶしの下まで裾があるダボついたズボンを好む。逆に上着は袖を掴まれないようにするため半袖だ。この基本を守りつつ色やデザイン、付与してあるパラメーターで選んでいく。
「STRやDEXは必須として…あとはVITかのぉ」
納得のいくパラメーターの道着はすぐに見付かったが、デザインだけで上下5種類ずつ、更に色が12色もあった。もう適当に選んで買ってしまいたい気持ちに駆られる。しかしこの先長い付き合いになる防具だ。迂闊に選んでしまっては後悔すると気を取り直しまずは色から選ぶ。こちらも軽鎧と同じで渋めの色が主流だ。1通り見て1番目を惹いたえんじ色に決めた。こうなれば色に合わせてデザインを選ぶだけだ。シトリンは迷わず上着の背中に鳳凰が刺繍されているのを取る、そしてズボンはこちらも両サイドに登り龍が刺繍されていた。人見知りする割にはこういう所ではしっかりアピールする性格らしい。
ブリーズは後衛職、それも和のエリアへ装備が固められていた。
「えぅ…、やっぱり烏帽子は良いパラメーターが付与されてますね…長くて邪魔なんですけどしかた無いです」
邪魔って言っちゃったよ…それもハッキリと。確かに男性が被る場合は髷を収納する場所が必要な為に嵩張るデザインだ。しかしコボルト族のブリーズには結わえる程の毛量は無く頑張って集めても雀の尻尾程度しか集まらない。これでは無駄になる空間が多くなるのも致し方がない。
一方、服装はと言うと、中級職の巫覡それに端を成す神子と陰陽師だ。身に付ける防具は同系列でどれも和装の白装束しか無い。ほぼ迷う事無く決定したが、もう少し悩みたかったな…ブリーズは心の中でそう思った。
◇◆◇◆◇
オーダーメイド品を扱う店は中央の大通りから1本離れた路地にひっそりと建っていた。
サファイア達が店内に入ると見事に剃り上げた禿頭にモノクルといったいかにも職人気質といったドワーフ族の店主がカウンターの奥に収まっていた。手元ではシンガードに彫金細工を施している。
「ん? 妙な組み合わせじゃな。冷やかしなら帰っておくれ」
6人をちらりと見、そう告げると視線を下げ作業の続きを始めた。
「私達はオーダーメイドをしに参りました」
「ほう? そっちの4人はわからんでも無いが、お前さんとちっこいのは既製品で十分じゃろ」
再び顔を上げてジロリとパールを見ながら言う店主。
「お気を悪くされたんなら謝ります~。けれどウチらの装備、作って貰う事は叶いまへんやろか?」
ルナが優雅な仕草で1歩前へ出て軽く会釈する。そして豊満なバストも頭に合わせて上下した。
「1週間」
「へ?」
店主の言葉にルナは頭を傾げる。
「4人分で1週間じゃ。先約があるでの、これが最速じゃて」
「それじゃ作ってくれはるんですか?」
「時間と金さえもらえればどんな装備も作る。それが儂のモットーじゃ」
「そ、それは総オリハルコン仕立てのフルプレートアーマーもって事!?」
凄い勢いでレシルが食い付く。店主はニヤリと笑うと、
「もちろん、今までに何件かオーダーされたしの。じゃが、金額はこれくらいになるぞ?」
店主が示した額は究極霊薬が買える程だった。もちろんレベル50になりたての冒険者が払える額では無い。
「あぅ…」
提示された額にレシルはガックリと項垂れる。心なしか長い耳まで萎れている様だ。
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