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蒼と紅  作者: 久村悠輝
103/110

第103話

「すごいよこのカツ、こんなに分厚いのに柔らかくてジューシー♡」

「カレーのルゥもコクが深いな」

「隠し味に何入れてるのかしら…味噌? ううん、コーヒーかも」

「この味を再現するのは難しそうですよ?」


 サファイアもルビーも夢中になってカレーを食べている。パールは舌先にルゥを乗せ素材を解析していた。そんなパールにペリドットは心配そうに声を掛ける。定番メニューなのか、はたまた験を担ぎたい者が多いのか、パブはカレーの匂いで充満していた。

 カレーでお腹が満たされるとサファイア達は湖の畔へ。湖を撫でる様に吹く風が食熱で火照った体を冷ます。等間隔で立てられた街灯が水面を照らし、その下を泳ぐ鯉の鱗に反射する。


「明日、皆が戦うNPC…クリスさんなんだけど」

「なんだか可愛らしい名前だね」

「そのクリスさん、巷では限界姐さんなんて呼ばれてて、何でも全てのジョブがレベル100らしいよ」

「全ジョブ…」

「レベル100…ですカ」


 レシルの言葉ににわかには信じられない顔をするルビーとアメジスト。


「そうだよねー、私もまだ信じられてないもん」


 苦笑を2人に向けるレシル。


「でも強さは本物だよ。隙を見せたら一気にたたまれるから気を付けて」


 一転真剣な表情で6人を見る。風が波を立て水面に映っていた鯉城を歪ませた。


「明日になればそれが解るんだよね? 楽しみだな」


 両手を握り締め目を輝かせるサファイア。言葉にはしないがルビー、シトリンも口角を上げクリスとの戦いを楽しみにしている様だ。アメジストはブツブツと小声で初手の罪状を考えている。普段はたおやかな笑みを浮かべる温厚なペリドットも口を真一文字にし闘志を露にしている。


「さ、冷えてきたしお風呂に入って明日に備えましょ」


 マイペースなのはパールだ。彼女の頭の中では何をどうするかは既に決まっているのかもしれない。


     ◇◆◇◆◇


 翌朝、7人はクリスの元を訪ねていた。


「こんにちは、貴女…相当腕が立つ様ね。でもそろそろ壁にぶつかってるんじゃないかしら?」


 そう告げるクリス。


「貴女の限界、私が見定めてあげますわ」


 クリスがアイテムの所持を確認すると辺りはバトルフィールドへと変化した。


「さぁ本気を見せて頂戴!」


     ◇◆◇◆◇


~限界突破:サファイアの場合~


「えっと、何だっけ…。とにかく殴る?」


 円形に敷き詰められた石畳。その中央に立つクリスを見、戦術を思い出そうとするが叶わずメテオストライクを構え突貫した。


「来ましたね、わたくしをガッカリさせないで下さいね?」


 クリスもロッドを構えサファイアを迎え撃つ。


 ぽひょぉん!


 その瞬間サファイアはやってしまった、と後悔した。まずはプロテクトで防御力を上げ侵食(イロウジョン)を入れる。それを思い出したのだ。しかしこれでへこたれないのがサファイアの強みだ。何事も無かったかの様にひたすら殴り続ける。


「あらあら、こんなに叩かれてはわたくし倒れてしまいそうですわ」


 カラカラと笑いながら自身にエクスヒールを掛けるクリス。それだけでサファイアがやっとの思いで削ったHP(ヒットポイント)が全快した。


「そんなのずるい!」


 不満を口にしながらサファイアもエクスヒールを掛ける。しかし回復量は雲泥の差、全快とまでは行かない。

 メテオストライクで与えるダメージよりも、クリスのロッドで受けるダメージの方が上回っているのだ。じり貧の戦いが続く。どれだけダメージを与えてもエクスヒールを唱えられると一瞬で無に帰す。天罰(ゴールデン)降臨(クラッシャー)六連砕撃(ヘキサバスター)も決定打にはならず焦りだけがサファイアを支配していく。

 クリスは依然として飄々と立ち回り、膝をつくどころか表情すら変えない。


「貴女の実力とはこの程度ですか?」


 煽られても今のサファイアに打つ手は無い。ひたすら耐えて回復するしか出来ない。持ち込んだハイエーテルも残り1つとなりいよいよ後が無くなった。


「もうそろそろ終わりにしましょうか」


 クリスの構えから何かヤバいのが来る、そう直感したサファイアはエクスプロテクトを掛けHPを全快させる。直後、クリスの八連砕撃(オクタバスター)が放たれた。サファイアのHPはギリギリまで削られてしまう。ハイエーテルを使いMP(マジックパワー)が無くなるのも構わずHPを回復させるサファイア。

 これ以上は耐えられない。目を瞑り負けを意識したその瞬間。


「お見事ですわ」

「へ?」


 クリスの言葉にサファイアは目が点になる。


「貴女の教皇としての力、しかと見届けました」


 そう、サファイアは忘れていた。教皇は倒すのでは無くHPを一定量回復させればクリアになる事を。


     ◇◆◇◆◇


~限界突破:ルビーの場合~


「さてと…初手は不意討ちをしたいが上手くいくかな?」


 ここへ来る前にカツカレーを食べ、(LUK)を上げ盗むのスキルの成功率を僅かに上げたルビー、不意討ちのスキルを発動させクリスの背後へ回り込む。


「さぁ、始めましょうか」


 オートアタックが可能になった距離でクリスが振り向く。


「くそ、やっぱりか!」


 ルビーよりも早く抜刀したクリスが袈裟懸けに短刀をふるう。何も出来ないままルビーは手痛いダメージを受けた。…はずだった。


「これは…」


 肩口から脇腹へ斜めに斬られたルビーの体が陽炎の様に揺らいで消える。


「残念だったな。本命はこっちなんだよ」


 空蝉の術。斬られた瞬間、相手の背後へ回り込む忍者のスキルだ。そして不意討ちの乗った攻撃がクリスを捉える。しかしこれもフェイント、ルビーの手がクリスの懐へ伸びる。しかしあと一歩及ばずクリスにバックステップで逃げられてしまった。


「あらあら、惜しかったですね。次はちゃんと盗って下さいね」


 ルビーの連撃を短刀で受け流しつつにこやかに言い放つ。


「ちぃっ、その余裕ぶった顔ムカつくんだよっ!」


 印を切り火遁円舞を放つルビー。ゴウと音を立てて灼熱の炎がクリスを襲う。炎に包まれたクリスは悶え苦しみながら倒れた。刹那、クリスの体が陽炎の様に消えた。


「まさか!」

「そのまさか、ですよ」


 ルビーは背後から斬られる。クリスの使った空蝉の術だ。


「そうだよな、同じ忍者(ジョブ)なんだからスキルも同じだよな」


 ギリ…、と歯ぎしりしながらクリスわ睨み付けるルビー。


「だからこんな事も出来ちゃいます」


 ゴウ、と炎がルビーを包む。火遁円舞だ。慌てて地面を転がり炎を消すルビー。手のひらで踊らされている感じが否めない。


「あんた、良い性格してるって言われないか?」

「あら、解っちゃいます? そうなんですよ、皆さんわたくしを褒めてくださって照れちゃいます」


 煽っているのか、素で言ってるのか…、判断が付きかねるがへこたれてる場合じゃ無い。ハイポーションでHPを回復させながらクリスの出方を伺う。


「あらあら、すっかり警戒されてしまいましたわね…。それならこれはどうかしら」


 次の瞬間、クリスの体が左右へブレる。


「何だ!?」


 慌てて距離を取るルビー。


「「分身の術、ですよ」」


 2人のクリスが言う。どっちが本物だ…、ルビーの頬を汗が流れる。


「「両方、本物です♪」」


 2つの渦になった炎がゴウ、とルビーを襲う。しかし冷静にバックステップで躱す。


「ウソ吐け、こっちが偽者だろ!」


 左側に居るクリスに肉薄し逆袈裟斬りにする。斬られたクリスは血を流す事も無く紙切れが舞うかの如く宙にその体を散らした。


「あらあら残念。騙されてくれなかったのですね」

「火遁円舞を唱えたのがミスなんだよ。片方は全然熱く無かったぜ」


 鍔競り合いを仕掛けながらクリスを睨むルビー。飄々とした態度でのらりくらりと躱すクリス。

 ルビーはドッとクリスの腹を蹴り距離を取る。火遁円舞を牽制に使いつつ何とか逆転の一手を考える。しかしそんな時間をクリスが与える訳も無く、簡単に肉薄されてしまう。何度も分身の術で襲い掛かってくるクリスも、火遁円舞で対応出来ると判ればそれは怖く無くなった。


「全く、趣味の悪いおばさんだぜ。若者を痛め付けて何が楽しいんだ?」


 その瞬間、空気が凍った。


「わたくしはお姉さんですよ? はい、リピートアフターミー、お・ね・え・さ・ん」


 凍った空気とは真逆、クリスは怒りの炎に包まれている。


「はいはい、お姉さん、そろそろ決着を着けようじゃないか」

「あら、負ける覚悟が決まりましたか?」

「ほざけっ!」


 今日1番の突進でクリスに急接近するルビー。


「策のない特攻、見苦しいですわよ!」


 横一文字にルビーを真っ二つにするクリス。しかし、ルビーの体は陽炎の様に消えた。


「これは…、空蝉の術!?」


 クリスの背後に回ったルビーが懐へ手を伸ばす。


「何度も同じ手を!」


 懐刀をルビーの手に突き立て盗みを阻止する。


「掛かったな」


 ニヤリとするルビー。手を斬られたルビーは紙切れが舞う様に消え、その中から現れたルビーがクリスの体を背後から優しく抱き締め…。


「これでアタシの勝ちだな」


 懐からエーテルを抜き盗っていた。

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