君にふれて
完全に見切り発進の暴走系(?)百合ファンタジーです。不定期投稿になると思いますが、楽しんでいただければ幸いです。
展開が見通せないので『R-15』を付けさせて頂きました
どこまでも高く青い空、見渡す限り緑色の絨毯。とてもとても広い草原を撫でる様にそよぐ風は遥か遠くに実る果実の香りを乗せて微かに甘く感じる。
「いーーせーーーかーーーーいーーーーー!!」
のどかな草原に大声が響く。それに驚いた野うさぎ達は慌てて巣穴へ逃げ込む。虫達は…気にする様子もなく花の蜜をせっせと集めている。
「すごい! 本当に異世界だ! サファイアちゃんもついにやっちゃったか~噂の異世界転生!」
やたらとハイテンションな少女ことサファイアはこの後辺りをうろちょろしながら小一時間初めての異世界を堪能した。
「凄いよ凄い~、異世界最高~! ……、でもなんだろ、やっぱりなんか変」
ようやく落ち着いたサファイアは自分の体の違和感に気付く。
「な、なんじゃこりゃぁぁ!」
冒頭の叫び声をはるかに上回る絶叫がエリアを震わせる。
「無い! 無くなってる……わたしのおっぱいーーー!」
再び絶叫が…、ってそれを叫ぶのはどうかと…。サファイアは慌てて自分の体をまさぐるが自称D(ホントはC)カップは次元の狭間に消えたようだ。…と言うより外見は幼稚園児そのもの。見た目は子供、頭脳は大人みたいなアレっぽい。
「これはアレですか、おっぱいが犠牲になってチート能力を得たんだね!」
前向きだったよ。目尻に浮かんだ涙は見なかった事にしよう。
「つ・ま・りぃ~転生モノで出来るアレがサファイアにも可能なんだね! いっくぞ~~!」
サファイアは目を閉じて手を自分の胸に当て大きく息を吸い込み…
カッと瞳を開き限界まで肺に充填された空気は気道を駆け抜け声帯を震わせ力強い言霊となり大気を共振させる!
「ステータス・オープン!!」
………
……
…
しかしなにもおこらなかった
「ちょっとぉ! ここはヴン! とかピコーン! って効果音が鳴ってこの辺にステータスが表示される流れでしょ!」
目の前の虚空に両手の人差し指で四角を描きながら抗議している。
「なるほどなるほど、そういう事か…」
何に納得したのか…。
「つまりチュートリアルが終わってないから何も出来ないんだね、ふっふっふっ……この世界の仕組みが解ってきたよ~」
ホントかよ…。
「だからさ、早くイベントバトルしようよ! わたしのスキル教えて!」
…痛い姿がだんだん可哀想になってきたので―
「無視しないでよ、さっきから声は聞こえてるんだから!」
天の声に話し掛けないでよ。そういうのは反則だからね?
「可哀想だとか痛いだとか貧乳だとか宇宙一可愛い美少女☆(キラーン)だとか好き勝手言って!」
最後にさらりとウソを混ぜないの。
「ひどっ! こんなに可愛い少女なんてそうそう居ないでしょ? ムラムラしちゃう?」
見た目5歳児にムラムラしたら□リコンでしょ。社会的にアウトだから。
どう見ても幼女のサファイア。癇癪起こしてダンダンと地面を踏みつける様が絵になるほどにそれはもう。
「名誉毀損で訴えられたくなかったら早くスキル教えて♡」
物騒な事を言い出したのでさっさとストーリーを進めようか。天の声の権限でサファイアを南へ200メートル程移動させるね。
「あっ、コラ、らめぇぇ♡」
変な声出すな。それよりも何か見えるでしょ。
「うん、私が目を覚ました場所だね。…て、人? …ひぃ! し、死んでるーー!」
死んでないって。もうちょっと近付いて。
「ヤだ、そんな事言ってわたしを殺人犯にするつもりでしょ」
しないからさっさとする!
「あっ、コラ、らめぇぇ♡」
ループすんな。
「だって、やっておかないとダメかなって」
しなくて良い。お願いだから話を進めさせて?
「もー、仕方ないなぁ。それで、この超絶美少女主人公のサファイアちゃんはこの人をどうすれば…ネコ耳!? すごい、この人ネコ耳が付いてる!」
うんケットシー族だからね。
「蹴っ飛ばし族?」
(ニッコリ)
「あ、ヤだ。真面目にするから不穏な空気を醸し出さないで」
最初から素直にそうしてよ。
「それでわたしはこのケットシー族の………すっごい巨乳!!」
また脱線した。
「ずるいよ、ネコ耳が付いてて可愛さ安心保証なのに仰向けでも形が崩れないおっぱいなんてずるい! さらに尻尾まで付いてるし!」
こら、意識の無い人の胸を揉むな揉むな。
「ほわぁぁぁ、至福じゃぁ♡」
ゴゴゴゴゴゴ……
「オーケーオーケー、話を聞こうじゃないかベイビー?」
ひとまずその子を起こしてくれるかな?
「キスをすれば良いんだね?」
まてまて、女の子同士でキスするの?
「異世界ってお堅いのね、地球じゃ当たり前よ?」
何を言ってるかわからないけどその子の額に手を当ててよ。
「ん~と、こう?」
「ありがとう、やっと動けた~」
ケットシー族の少女は上体を起こすと腕を天へ向け大きく伸びをした。
「あれ? あれれ? ひょっとしてルビーちゃん?」
「サファイアって異世界に夢中で足元のアタシに気付かずどっか行くから余計に時間食ったよ…」
「待って、最初から居た?」
「うん」
「足元に?」
「うん」
「変な声が聞こえてたけど…」
「それアタシ。サファイアがあまりにもフリーダムだったから実況してたら聞こえたみたいだね」
「それじゃルビーちゃんがわたしにスキルを教えてくれるの??」
「それは無理、アタシもサファイアと一緒にこっちに来たからね」
「えぇ…」
あからさまにガッカリした表情を隠そうともしないサファイアに苦笑しながら立ち上がると軽くはたきながら体に付いた土や草を落として。
「ルビーちゃんてば背が伸びた? ってレベルじゃないし! 高身長にネコ耳に巨乳ってどんだけハイスペックなの?」
「サファイア、アンタ小さくて可愛いからとか言ってリリパット族にしたのを忘れてるでしょ」
「………………ぁ、てへ☆」
ペロッと舌を出して自分の頭を小突くがルビーはジト目を投げつける。
サファイアの暴走が止まらずストーリーが進みません。