⑧卑賤の青鬼
(なんだ、これは……)
無慈悲な鉄柵の牢獄に、数十人もの青鬼が捕らえられている。
首にはさびついた太い鎖がかけられ、その風体は家畜のように汚らしい。
牢の外側では、三人の赤鬼が金棒を片手にうろついていた。
仲間割れか――と思ったが、どうにも様子がおかしい。
そもそも、赤鬼も青鬼もどちらも鬼であることには違いないが、その容貌は似ても似つかない。生物の種からしてまるっきり別物といっても過言ではないほどに、両者の姿は異なっていた。
筋骨隆々な赤鬼に対し、青鬼の四肢は柳のように細く、肌は雪のように青白い。髪は透きとおるような淡い銀糸で、瞳は深い青紫である。額から伸びる一本角も、赤鬼の二本角に比べ、ずいぶんと頼りない。
もともと細い体躯なのだろうが、ひどくやつれた風貌もあいまって、今にもぽきりと折れてしまいそうな印象を受ける。
彼らはあきらかに弱者であった。
事情などなにも知らなくとも、彼らが虐げられる側の存在であり、赤鬼の支配下に置かれていることは明白である。
東雲は、腹の奥底がすーっと冷めていくのを感じた。
(なんだこれは……)
服装も露骨である。ズタ袋のような薄い衣しかまとっていない青鬼と、上等な皮や金具を幾重にも身につけた赤鬼。覆しようのない格差が、厳然としてそこにあった。
青鬼たちは一様に下をむき、身動きすることすら恐れるように、震えながら肩をよせあっている。中には泣いている幼い子供もいたが、奇妙なことに声をあげることなく、わずかな嗚咽すらもらさない。――物音をたてれば暴力をふるわれると知っている、奴隷の泣き方である。
東雲は鼻白んだ。目に映るすべてを遮断するかのように、無言で扉を閉じきびすを返す。
――不快であった。浮かれていた心に冷や水をかけられたような気分だ。
忍として生きてきた東雲は、お世辞にも慈悲深い男とはいえない。虐げられる者を見て、我が事のように悲しむなどという純真さは、とうの昔にささくれてしまっている。
ゆえに、この感情の揺れは、青鬼を哀れに思ったからではない。
ただ、無性に気に食わなかったのだ……。
先ほど見た光景は、忌々しい伊賀の里で日常的におこなわれていた蛮行と、あまりに似ていた。似すぎていた。
人が人を虐げるのが当たり前だった現世と同じように、鬼もまた鬼を虐げるのだ。その事実に、東雲は自分でも驚くほどがっかりしていた。
(――いけ好かねェ……)
自分を縛り、あまつさえ死においやった理不尽が、ここでもまかり通っている。
あの光景を目の当たりにした瞬間、地獄の恐ろしい化け物という認識だった赤鬼が、憎き伊賀の上忍と重なって見えたのだ。
それが感傷からくる錯覚だとわかっていても、湧きあがるイラだちを正すことすら億劫に思われた。
すっかり興をそがれた面持ちで、暗い廊下を引き返す。
(しょせん、此岸も彼岸も変わんねーな)
死後の世界で目覚め、歓喜に震えた気分は見るも無残にしぼんでいた。
こんなところ、とっとと出て行ってしまおう。
先ほどとは似て非なる心持ちで、東雲は足を速めた。