表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生忍者、地獄で鬼相手に無双する  作者: 天川藍
第三章 烏合の戦場
59/59

㉑いざ西大陸へ


「ありがとうなぁ」


「……え?」


重々しい静寂(せいじゃく)に、航海士のしわがれた声が染み渡った。

老人は実の孫を(たた)えるようなぬくもりで、レイラの緋色(ひいろ)の髪をぽん、となでた。


(じょう)ちゃんのお(かげ)で、島の宝を(まも)ることができた。島民(おれたち)だけじゃねえ、西と東に生きるすべての同胞(どうほう)の未来と希望が、失われずにすんだんだ。百回礼を言ったって足りやしねぇよ」


「それは、でも、貴方(あなた)たちだって……」


居心地(いごこち)(わる)そうにレイラは口籠(くちごも)った。

謙遜(けんそん)というよりは、こんなふうに穏やかに感謝されるなどはじめてのことで、どうしてよいかわからない様子だった。


緊張したように(ひざ)の上でぎゅっと握られた細い手に、さらに小さな前足(まえあし)がちょこんと乗せられる。


「ならば、我らは今日この時より、戦友(せんゆう)ということになりますな!」


「!」


鬱々(うつうつ)とした迷いなど一瞬で吹き飛ばすようなほがらかな笑みが、少女の胸の真ん中を温かく照らした。

そのあまりの(まぶ)しさに、レイラは青紫の瞳を細めた。


幼い頃から()がれてやまないぬくもりが、すぐそばにある。


「ええ」


レイラはようやく心から、不格好(ぶかっこう)な笑みを浮かべた。




「それで、おめぇはまたなァにをしてやがるんだ」


(あき)れたように、老人は振り返った。

つられて、いくつもの視線が甲板をせわしなく行き来する男へむけられる。


東雲(しののめ)は、彼らの物言(ものい)いたげな様子を気にもとめず、せっせと食料やら毛布やらを倉庫から運び出していた。

当然、少女の過去の話など、これっぽっちも聞いちゃいない。


「決まってるだろう、(たび)仕度(じたく)だ」


「……は?」


愚問(ぐもん)だ、と東雲(しののめ)は荷物を(から)めた。


「この船は島へ戻るんだろう? だが俺は戻りたくねぇ。時は金なりだ、このまま西大陸へ行く」


「行く、っておめぇ……」


突っ込みどころが多すぎて、なにから指摘すればいいのかわからない。


彼の言うとおり、船の進路は島へむかって逆走している。

当然だ、からくも海図を守ることはできたが、赤鬼の観測艦隊(かんそくかんたい)はまだ生きているのだから。

一刻(いっこく)もはやく今回の顛末(てんまつ)島長(しまおさ)へ報告しなければならなかった。


この男がいくら駄々(だだ)をこねようと、これは(くつがえ)しようのない決定事項である。


東雲(しののめ)もそのあたりの事情にケチをつけるつもりはないらしく、しかし()を曲げる気もないので、一方的な折衷案(せっちゅうあん)を提示した。


「なぁ(じい)さん、その女も頑張ったが、俺もすこぶる健闘(けんとう)したと思わんか?」


「あ? あァ、そうだな。ありが――」


「いや、礼はいらん。その代わりこの荷運(にはこ)び用の小船をくれ」


「……は?」


要は自分だけ小船で西を目指すというのだ。


くれ、と頼みこんではいるが、彼の中ではすでに自分の物と決まったようで、意気(いき)揚々(ようよう)とひとまとめにした荷物を放りこんでいる。

その荷物もすべて貿易船の備品なのだが……。もはや言及(げんきゅう)する気にすらなれず、老人は眉間(みけん)に寄った(シワ)をもみほぐした。


若造(わかぞう)の身勝手に振りまわされるのは(しゃく)ではあるが、彼の功績をかんがみれば、小船の一隻や二隻あたえたって構わない。

どうせ島へ戻ればかわりはいくらでもあるのだ。


しかし、老人はこの船の航海士として、彼の離船(りせん)承諾(しょうだく)するわけにはいかなかった。


「おめぇは馬鹿か。たった今、ワシらがなんのために(あらそ)っていたと思ってやがる。この迷路海流(めいろかいりゅう)を知識なくして抜けるなど――」


「海図なら覚えたぞ」


あっけらかんと、東雲(しののめ)は古びた紙の束を老人へ投げて返した。

ぞんざいにあつかうな、と(しか)り飛ばしかけて、航海士は数瞬口をつぐんだ。


覚えた……?

この膨大(ぼうだい)な記録を、彼は今、覚えたと言ったのか?


「ただ文字の意味がわからねぇ。翻訳(ほんやく)してくれる人材がひとり欲しいところだな」


そう言って、東雲(しののめ)はぱちくりと瞳をしばたたかせている毛玉に目配せをした。

トトはいまだ事態をよく把握(はあく)していなかったが、命の恩人がそう言うならばと、忠犬のごとく満面の笑みを浮かべて片手をあげた。


「もちろん、御伴(おとも)いたしますぞ!」


「よし、採用(さいよう)


「……もう好きにしやがれ」


やれやれ、と老人は疲れたように肩をすくめた。

若者の無茶な暴走についていくのは老骨(ろうこつ)にはこたえる。ありていに言えば(さじ)を投げたのだ。


そもそも彼らは鬼のしがらみとは一切関係のない部外者である。

ここから先は、島の住民だけで解決すべき問題であった。


「あと、そうだな、旅へ出るには財布もいるな」


にやり、とふくみのある笑みをたたえて、東雲(しののめ)はレイラを見やった。


(ゼニ)六割、忘れたとは言わせねぇぞ」


「……え」


まさか自分も誘われるとは思っていなかった様子で、レイラは呆然(ぼうぜん)と固まった。


すると、戸惑(とまど)う彼女の背中を、老人が優しく押し出した。

他の青鬼たちも、彼女の旅立ちを見守るように、温かなまなざしをむけている。


彼らにはわかっていた。

はみだし者の彼女には、赤鬼でも青鬼でもない、あの二人のような仲間が必要なのだと。


レイラはしばし迷うように足踏(あしぶ)みしていたが、やがて吹っ切れたような笑顔をみせると、荷袋から銀色の小瓶(こびん)を取り出して、力一杯海の彼方(かなた)へと放り投げた。


彼女なりの決意表明のつもりだった。


「何度も言わせないで、四割よ!」


わざと小生意気(こなまいき)な態度をとりながら小船へと乗りこむ。

東雲(しののめ)は、その姿を面白そうに(なが)めやり、負けじと言い返した。


「いいや、さっき俺の大事な戦利品(せんりひん)を食わしてやったろう。その分を上乗せして、六割じゃ」


「はぁ!?」


レイラはパッと口もとを押さえた。

まさかあの種が有料とは思わないではないか。


「言っただろう、タダで善意が売れるか」

「……ほんっと、アンタってサイテー」


そんなやりとりをどう勘違いしたのか、トトがころころと楽しげに笑った。


「おふたりは仲がよろしゅうございますなぁ」


「……ないわ」

「ねェな」


小さな帆が(ひるがえ)り、ちぐはぐな三人組を乗せた船は、霧の海を再び進む。


目指すは一路(いちろ)風光(ふうこう)明媚(めいび)な自由の大地、西大陸(ユーラヘイム)へ――。




【第一幕・了】


ここまで読んでくださって、ありがとうございました!


凸凹三人組の冒険譚はひとまずこれで終幕です。

初めて連日投稿でしたが、こんなにたくさんの人に読んでもらえるとは思っていなかったので、本当に幸せな2ヵ月でした。


彼らの旅はまだまだ続きます。

またいつか西大陸編も書けたらいいな。


2024/04/01からは、新しい連載が始まります。

今作とはまったく雰囲気が違いますが、こちらもお付き合いいただければ幸いです。



◆追記:次作のお知らせ◆


①「大樹(たいじゅ)冒険(ぼうけん)

4/1投稿スタート。毎夜20時更新予定。大樹に住むちいさな双子の物語です。はじめて児童文学に挑戦しました。コミティア本の再掲です。のんびりとした童話の世界をどうぞお楽しみください。



②「異世界(いせかい)博物館(ミュージアム) -経営に必要なのは金と権力とイケメンの俺です-」

こちらは完全新作! 4月下旬~5月中に投稿開始予定です。本格的な異世界転生×博物館モノです。ただ今準備中ですので、また詳細は後日告知します。がんばるぞー!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ