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転生忍者、地獄で鬼相手に無双する  作者: 天川藍
第三章 烏合の戦場
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⑱霧海の彼方へ


東雲(しののめ)はレイラを船縁(ふなべり)に横たえると、その手から海図(かいず)を抜き取った。


「なんなんだ、貴様らは……!」


腕の痛みにうめきながら、()じり(もの)の男が激昂(げっこう)した。

彼には理解できなかった。計画は万全だったはずだ。

なのになぜ、自分は今、血を流し(たお)()しているのか……。


「なぜいたずらにあらがう!」


たった一隻の小さな貿易船(ぼうえきせん)に、なぜ国家公認の観測艦隊(かんそくかんたい)翻弄(ほんろう)されなければならないのだ。


なぜ、脆弱(ぜいじゃく)青鬼(ユニル)が、主人である赤鬼(オグル)に噛みつき、あまつさえ対等に接戦(せっせん)を演じることができるのだ。


なぜ、こいつらは叩き(つぶ)しても叩き潰しても、その(ひとみ)の光を失わない……。


「貴様らの抵抗など、無駄なことだとわからんのか! たとえその海図が手に入らなくとも、すでに西大陸(ユーラヘイム)には本国(ほんごく)の息のかかった者が何人も入り込んでいる。侵攻(しんこう)は時間の問題だ!」


男は立ち上がり、無事な方の腕で東雲(しののめ)を指さした。


「貴様が(ぞく)(とりで)を|荒らしたことも、いずれは上へ報告がいくぞ!」


男の(にご)った双眸(そうぼう)()を描いた。

さあ絶望しろ、とそう言うのだ。


しかし、東雲(しののめ)にとってはその程度の状況など、どこ吹く風である。


敵国に間者(かんじゃ)を送り込むなど、戦国の世では当たり前のことであるし、仮に赤鬼からお(たず)ね者として追い回されたとて、それがなんだというのだ。


「まぁそん時は、そん時だ」


「な、に……?」


ダネルは唖然(あぜん)東雲(しののめ)凝視(ぎょうし)した。

信じられない異物(いぶつ)を見るような眼であった。


しかしてその瞳が(またた)きを思い出すより先に、東雲(しののめ)は転がっていた片刃刀(かたばとう)()り上げ、駆け抜けるように男の動脈(どうみゃく)を斬り裂いた。


「仕上げといこうか」


ふいに、一陣(いちじん)の風が船のまわりを取り巻いた。

巨大な白壁(しらかべ)のごとき雲海(うんかい)がすぐそこにそびえたっている。


迷路海流(めいろかいりゅう)の入り口が、小さな船を(さそ)うように、暗い門を開けて潮風(しおかぜ)を吸いこんでいた。

静寂(せいじゃく)にたゆたっていた海も次第(しだい)にうねりを増し、()が音をたててひるがえった。


ここにきて赤鬼(オグル)たちは焦りをみせた。

もはや処断(しょだん)うんぬんと遊んでいる場合ではない。


(さや)()りが連鎖(れんさ)した。

青鬼たちの血で赤黒く光る刀身(とうしん)が、走りくる黒衣(こくい)の男へ(ねら)いをさだめる。


「海図を(わた)せッ!」


焦燥(しょうそう)浮足(うきあし)だった彼らは、一斉(いっせい)東雲(しののめ)へと襲い掛かった。

(こう)を急ぐあまり、血走(ちばし)った金の瞳が色褪(いろあ)せた紙の束へ釘づけとなっている。


「そんなに欲しけりゃくれてやる」


東雲(しののめ)は腕を大きく振りかぶって、分厚い書巻(しょかん)を天高く放り投げた。


瞬間、すべての視線が驚きとともに上空を(あお)いだ。

おろそかになった足もとを、黒い残像(ざんぞう)がすり抜け、直後に新たな鮮血(せんけつ)が甲板を()らした。

足の(けん)を斬られたのである。


ぐらり、と巨躯(きょく)(かたむ)いたのと同時に、雷光(らいこう)のごとき大音声(だいおんじょう)(とどろ)いた。


「海へ突き落せ!」


古兵(ふるつわもの)の航海士の一声に、修羅場(しゅらば)を戦い抜いた青鬼たちは破竹(はちく)の勢いで飛び出した。

負傷者とは思われぬ気勢(きせい)で赤鬼にしがみつき、手の平へ歯をたて剣を奪い、数人掛かりで押し倒す。


激戦(げきせん)によってあちこち欠損(けっそん)した船もまた、(あるじ)たちの最後の抵抗に加勢した。

波にあおられて船体(せんたい)が揺れ、足の(けん)を傷つけられた赤鬼たちは(たま)らず転倒した。


いかに剛腕(ごうわん)(ほこ)る肉体であっても、下半身の支えがなければ、ただデカイだけの木偶(でく)である。


さらなる血潮(ちしお)が風に舞い、大きな水しぶきがいくつもあがった。


こうして、雲海(うんかい)の謎を記した叡智(えいち)の書は、またしても濃厚な灰白(かいはく)(きり)のむこうへと、その姿を消したのである。




―――――――――――

間者(かんじゃ)=敵を密かに探る者。スパイ


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